
JOURNAL #4972025.12.03更新日:2025.12.03
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部

近年、豪雨や台風による災害が増え、「どのタイミングで避難すべきか」の判断がわかりにくくなっています。こうした課題を受け、政府は防災気象情報の体系を全面的に見直し、警戒レベルに対応した新たな「危険警報」を導入した新たな防災気象情報を作成しました(※2026年の梅雨時期から運用開始予定) 。
この記事では、今回の改正で何が変わるのかを整理し、警戒レベルごとの適切な行動、日頃の備え方、避難判断のポイントをわかりやすく解説します。災害時に迷わず行動するための参考として、ぜひお役立てください。
防災気象情報と避難情報はいずれも、災害時に住民が安全に行動するために欠かせない情報です。発信元や役割は異なりますが、それぞれの特性を理解し、適切に活用することが迅速かつ安全な避難につながります。

防災気象情報とは、気象庁が発表する注意報・警報・特別警報など、自然現象の危険度を知らせる総称です。大雨・洪水・高潮・暴風・土砂災害などのリスクの大きさを示し、住民が状況を把握し、避難の検討を進めるための重要な指標となります。
ただし、これらの情報は「避難のタイミング」を直接示すものではありません。危険の高まりを事前に察知するための基礎情報として、自治体の避難情報や住民自身の判断を支える役割を果たします。言い換えれば、防災気象情報は「危険を早めに察知し、行動・準備に移るための情報」として活用されるものです。
「避難情報」は、市町村(自治体)が発表する「住民の行動を直接促す情報」です。避難指示などを通じて、いつ・どこへ避難すべきかを具体的に示します。一方「防災気象情報」は、気象庁が自然現象の危険度を伝えるもので、発信元も役割も異なります。
しかし、近年の大雨災害では、気象庁が示す警戒レベル相当情報と、市町村の避難情報のタイミングが揃わず、住民が「どの情報を優先すべきか」迷う事例が発生するほか、警報の名称が災害種別ごとに異なる点も判断を難しくしていました。
こうした課題を受け、防災気象情報と避難情報の関係を整理し、住民が迷わず避難行動を取れる仕組みが求められるようになったのです。

住民に提供する気象情報の見直しが求められている背景には、災害の激甚化と避難判断の難しさがあります。ここでは、その具体的な理由を詳しく解説します。
日本では近年、極端な大雨の発生頻度と強度が顕著に増加しています。1時間降水量50 mm以上の年間発生回数は、1976~1985年の約226回から2015~2024年には約334回と約1.5倍に増加しました。80 mm以上は約1.7倍、100 mm以上は約1.8倍に上昇しています。日降水量300 mm以上の日数も約28日から約55日へ約1.9倍に増え、年最大日降水量も全国平均で増加傾向です。

この背景には、地球温暖化の影響も指摘されており、従来の警報体系では急激な水害への対応が十分とは言えません。そのため、住民が適切に避難行動を取れるよう、防災気象情報の体系を整理する必要が生まれました。
参考:気象庁「日本の気候変動2025 —大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書—」5.降水 5-1. [観測結果] 日本国内の極端な大雨の発生頻度が増加している
住民の避難判断が遅れがちになる背景には、危険度への理解不足や情報の受け取り方のズレがあります。内閣府の令和元年台風19号のアンケートでは、自治体の避難情報を正しく理解していた人はわずか17.7%でした。
また、気象庁の防災気象情報に関する住民アンケートでは、約半数が「情報の種類が多すぎて分かりにくい」と回答。さらに、洪水・土砂災害・高潮などで警報や注意報、危険情報、特別警報と表現が統一されず、警戒レベルとの対応も分かりにくい点も指摘されていました。
■現在の警戒レベルと防災気象情報

加えて、「自分は大丈夫」という正常性バイアスや知識不足による過小評価も、避難の遅れに影響します。こうした背景から、住民が危険を直感的に理解し、迷わず行動できるよう情報の整理と伝達方法の改善が図られました。
新しい「防災気象情報」は、年内に国会で改正案が可決される見通しです。予定では、2026年の出水期(水害が発生しやすい時期)から運用が開始されます。運用開始前の今のうちから、情報の確認方法や避難の手順を家族で話し合い、日常的に意識しておくことが大切です。
従来の5段階警戒レベルのうち、「警報」と「特別警報」の間には行動の目安が明確でない部分がありました。今回新設される、レベル4「危険警報」に相当する情報は、住民が避難を完了する目安として位置づけられ、避難のタイミングがわかりやすくなっています。
新しい5段階の警戒レベルと住民の行動目安は以下のとおりです。
■新しい警戒レベルと防災気象情報(2026年取水期より運用開始予定)

行動基準の整理により、避難の遅れを防ぎ、被害の軽減につながることが期待されています。
ここでは、新しい体系に基づき、気象情報の読み方と避難行動のポイントを整理します。今回の改正は、従来の避難情報がまったく変わるわけではなく、防災気象情報の整理によって理解しやすくなった点が特徴です。
前述したように、レベル4では大雨・洪水・高潮などの警報名称がすべて「危険警報」と統一され、危険な場所から全員避難という判断が直感的に行えるようになっています。こうした整理を踏まえ、適切なタイミングで安全に行動するための基準を確認しましょう。
レベル1は、警報級の気象現象のおそれが5日先までに見込まれる段階です。この時点で避難は不要ですが、最新の気象情報を継続的に確認し、備蓄品や避難経路を見直しましょう。早い段階から意識を高めておくことで、後の警戒レベルが引き上がった際に迷わず行動に移す準備が整います。

レベル2で発表される「注意報」は、今後災害が起きる可能性が高まりつつある段階で、避難行動を確認するタイミングです。ハザードマップで自宅周辺の危険箇所や避難先・避難経路を必ずチェックしましょう。
高齢者や子どもなど避難に時間がかかる人は、この段階から準備を開始します。状況次第では自主避難も検討し、家族とも連絡方法を共有しておくことで、次のレベル3・4での行動が確実かつ安全になります。

レベル3「警報」は、自治体が「高齢者等避難」を発令する目安となる情報です。高齢者や障害のある方、子どもなど避難に時間がかかる人はこの段階で避難を始めなければなりません。対象外の住民も普段の行動を見合わせ、気象庁|キキクル(危険度分布)や国土交通省|川の防災情報などを確認しながら避難の最終準備を整えましょう。
ここで判断を迷うと、レベル4に上がった際に避難が間に合わないおそれがあります。状況によっては、自ら早めに避難を開始することも重要です。
レベル4は自治体が「避難指示」を発令する目安となる情報であり、危険な場所から住民全員が避難を完了すべき段階です。災害のおそれが非常に高く、これ以降の避難開始は命に関わる危険があります。自治体からの避難指示に注意するとともに、指示が出ていなくても、危険警報が発表された場合は、迷わず自ら避難を開始してください。早い判断が命を守る鍵となります。

レベル5「特別警報」は、すでに災害が発生しているか、極めて切迫した状況です。この段階で屋外へ避難を開始することは極めて危険となるため、建物の上層階などで身の安全を確保する「最終行動」が求められます。レベル5は「避難開始のタイミング」ではなく、「命が危険にさらされている状況」の知らせであることを理解しておく必要があります。

法改正により、洪水や高潮に関する警報・予報の仕組みが整えられ、これまでより迅速でわかりやすい情報提供が可能になりました。住民や自治体が危険度を的確に把握し、落ち着いて防災行動を判断できる基盤が強化されます。ここでは、改正のポイントを簡単にご紹介します。
水防法改正により、河川の氾濫が切迫した場合に気象庁が「氾濫特別警報」を発表できる仕組みが新設されました。この警報は、指定管理河川の水位情報や管理者からの通報をもとに判断されます。従来の洪水警報や指定河川洪水予報に加え、危険度の高い状況をより迅速かつ明確に伝えられるようになっています。
高潮については、国土交通大臣・気象庁長官・都道府県知事が協力し、波の高さなどを考慮した予報・警報を行う新制度が導入されました。これにより、沿岸部の地域ごとにより正確な警戒情報が提供され、避難判断や地域防災計画に役立てやすくなっています。
外国法人を含む気象予報事業者に対して、国内代表者の設置義務や、違反事業者の氏名公表、簡易手続きによる許可取り消しなど規制が強化されました。その結果、住民が受け取る気象情報の信頼性が高まり、災害時の避難判断に役立つ正確な情報の提供が期待できます。

令和8年の出水期から防災気象情報の体系が整理され、警戒レベルに応じた情報提供が開始されます。日常から情報を正しく受け取り、避難行動の準備を確認しておくことが、災害時の安全を守る基本です。以下に、情報受信のポイントや日常の備え、家族や地域での避難準備の進め方について具体的に解説します。
防災情報は自治体の防災メール、気象庁アプリ、テレビ・ラジオなど複数の手段で提供されます。改正により、洪水・土砂災害・高潮・大雨の情報が警戒レベルと連動して整理され、より分かりやすくなりました。特別警報が出る前でも、注意報や警報、キキクルなどを常に確認し、夜間や通信障害時にも情報を受け取れるよう設定を見直しておきましょう。複数の情報手段を確保しておくことが、災害時の安全確保の第一歩になります。
家族全員で避難のタイミングや避難先、持ち物を共有し、マイ・タイムラインを作成して役割や連絡方法を明確にしておきます。高齢者や子どもがいる家庭は、警戒レベル2の段階から早めに準備を始めることが重要です。
また平時から避難場所や経路、持ち物を確認し、警戒レベルに応じて行動できるよう備えておきましょう。こうした日頃の準備が、災害時の混乱を減らし、迅速な避難につながります。
マイ・タイムラインについてはこちらのコラムで詳しく解説しています。
【関連記事】「マイ・タイムライン」とは?災害時に迷わないための避難計画を作ろう

自宅や学校、職場がどの災害リスクにあるかを、自治体のハザードマップで定期的に確認しましょう。洪水、土砂災害、高潮などの危険箇所を把握し、避難ルートや避難先を具体的に決めておきます。
改正により防災気象情報は警戒レベルと整合され、危険度を段階的に理解できるようになっています。情報を活用し、日頃から実際の避難行動を確認・訓練しておくことが、命を守る重要なポイントです。
改正により、防災気象情報と避難情報は警戒レベルと連動し、危険度や避難の目安を直感的に理解できるようになりました。情報受信手段の確保や家族の避難計画、ハザードマップの確認など、日常からの備えがますます重要です。
改正内容は今後も見直される可能性があります。「知らなかった」と判断を誤らないよう、日頃からニュースや自治体の情報をチェックし、必要なときにすぐ行動できるようにしておきましょう。
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