JOURNAL #3002024.01.16更新日:2024.02.26
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
災害救助犬は、一人でも多くの被災者を見つけるための重要な仕事を担います。この記事では、我々空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”の事例を交えながら、災害救助犬の活動についてご紹介しています。災害発生時にどのような活動をしてくれているのか、どのような訓練を積んでいるのか、ぜひ知っていただければ幸いです。
災害救助犬はその名の通り、災害発生時に被災地に赴き、瓦礫などに埋もれた生存者・ご遺体を見つけるために活動する犬のことです。ハンドラーと一緒に被災地を歩き、瓦礫の下などに人の気配があれば知らせる役割を持ちます。レスキュードッグ、サーチドッグとも言われます。
前述している通り、災害救助犬の主な仕事は災害発生時の行方不明者の捜索です。
地震や土砂災害の発生後は、崩れた家屋や土砂に挟まれ身動きが取れなくなってしまう方々が続出します。発生から72時間を超えると生存率が著しく低下すると言われているため、迅速に生存者を見つけることが求められます。
災害救助犬は、人間よりも数千倍以上も優れた嗅覚を使って被災者を探します。微かに残る人間の息や体臭を元に捜索を行うことで、人が目で探すよりも迅速・正確な捜索活動が可能になります。行方不明者本人だけでなく、行方不明者の身につけていた衣服や靴などの物品を見つけることで、行方不明者の発見に向けた大きなヒントを得られることもあります。
また、一刻も早く救助し命を救うことが重要なのは言うまでもありませんが、発見時に息を引き取られている場合も、ご遺体をご遺族のもとへお届けできることが十分な価値になります。
あまり知られていませんが、災害発生時以外でも行方不明者の捜索活動を行っています。例えば、認知症の高齢者の方が一人で出歩いてしまい行方が分からなくなった場合や、ハイキング・登山中に積雪や吹雪に遭い埋もれてしまった場合などが対象です。
災害救助犬になる犬種や血統に決まりはありません。一般的には体格や能力から、ジャーマン・シェパードやラブラドール・レトリバー、ゴールデン・レトリバーなどの大型犬が多く活躍しています。
ただ、我々空飛ぶ捜索医療団では元野犬であった雑種も活躍しているほか、人間や大型犬では入りづらい瓦礫の隙間がある場合には、ウェルシュ・コーギーやジャックラッセルなどの小型犬が活動にあたっているケースもあります。
災害救助犬の活動では、ハンドラーの指示を受けて行方不明者の捜索し、人間のにおいや気配を感じたらハンドラーに知らせる、というアクションが必要になります。したがってどんな犬でもすぐに災害救助犬になれるわけではなく、訓練を通して多くのスキルを身につける必要があります。
以下は救助犬に必要なスキルのごく一部ですが、災害救助犬がとても優秀であることがご理解いただけるかと思います。
前提として、パートナーとなるハンドラーや被災地で出会う人々、他の犬達と問題なく接することができる必要があります。フレンドリーさや愛嬌は必要ありませんが、人の多い場所で活動した際に気が動転したりその拍子で噛みついたりしないこと、他の災害救助犬とも一緒に活動ができることなどが求められます。
災害救助犬は、被災者が発する呼気や体臭から取り残された人を探し出します。また、特定の行方不明者を探したい場合は、始めに覚えたにおいと同じにおいを探し出すスキルが必要です。様々なにおいが混ざり合い埃や砂が舞う被災地で、微かなにおいを見つけるための嗅覚や集中力が必要です。
災害救助犬の活動の場は様々です。瓦礫や土砂にまみれた足場の悪い場所、いつもと風土や香りの異なる土地、被災者やレスキュー隊員など人が多く集まる場所など、どんな状況であっても落ち着いて訓練通りに対応できる冷静さ、メンタルの安定性が求められます。
当然、救助犬の様子を見ながら休憩は挟みますが、災害発生直後は捜索活動を長時間続けることになります。足場の悪い道を歩き続けたり、集中しながらにおいを嗅ぎ続けたりしても問題のない程度の体力、忍耐力が必要です。
災害救助犬は1匹で活動することはなく、基本的にリードを持つハンドラーとペアを組んで活動します。ハンドラーの指示に従って捜索活動を行うこと、ハンドラーと並んで歩き、何かを発見した際に吠えるなどして報告することが必要になります。救助犬にも個性があり、サインの分かりやすさなどに差があるため、ハンドラーが汲み取って活動を行うなど、救助犬とハンドラーが常に理解し合うことが重要です。
公式に災害救助犬として活動するためには、救助犬の資格試験を実施している協会で認定を受ける必要があります。災害発生時に現地で活動している救助犬たちは基本的に資格を保有しており、それまでにたくさんの訓練を積んできています。また、試験に合格したあとも、実働に向けて日々訓練を重ねていく必要があります。
例えば以下は、災害救助犬の行う訓練の一部です。
救助犬の育成にあたっては様々な訓練が必要ですが、今回は空飛ぶ捜索医療団で実際に行った訓練の一つである「トレーリング」をご紹介します。
トレーリング(Trailing)は英語で”跡を辿る”といった意味で、残った物品などから目標物を追っていく訓練です。以下のような流れで実施します。
1. スタッフが自分のにおいがついた衣類を残し、山道を歩いていく
2. においが薄れるまで少し時間を置く(最大で半日程度)
3. 救助犬がスタッフの残した衣類のにおいを嗅ぐ
4. 同じにおいを追って山道を進み、スタッフのことを探し出す
スタッフが歩いてから時間が経つほどにおいは薄れていきます。慣れてきたら間隔を長くあけるなど、救助犬の練度によって、捜索をスタートする時間を調整します。また、風向きや風の強さなどによっても匂いの残り方が異なるため、様々な状況で日常的に訓練を行い、捜索の精度を上げていきます。
このほかに、積雪の中や水中での訓練を行うケースもあります。災害救助犬たちはこのようにして、災害発生時に一人でも多くの命を救うために、日々鍛錬を積んでいます。
災害救助犬は8歳から10歳あたりで引退することが一般的で、体力や判断力をもとに判断されます。引退した災害救助犬は、里親さんにもらわれるなどして、家庭犬として過ごします。
災害救助犬と共に活動を行っているNPOやNGOでは、時期によって里親の募集をしていることもありますので、ご興味のある方は探してみてください。
空飛ぶ捜索医療団でも、複数の災害救助犬が活躍しています。
空飛ぶ捜索医療団の運営母体であるピースウィンズ・ジャパンの代表・大西は、犬猫の殺処分問題の解決に取り組み始めたころ、保護犬を災害救助犬に育成することを想起し、殺処分寸前であった子犬「夢之丞」を保護。夢之丞は訓練を受けた後、正式に災害救助犬となりました。
2014年の広島土砂災害で行方不明者1名を発見したことを皮切りに、国内外を問わず被災地に赴いて活動。表彰を受けたり、新聞にも夢之丞の活躍ぶりが掲載されたりと、災害救助犬としての活動が高く評価されました。既に救助犬を引退し、現在は殺処分ゼロを目指すピースワンコのプロジェクトにてアンバサダーとして活動しています。
また、令和6年能登半島地震の際には、牧羊犬として育てられていた災害救助犬「ロジャー」が活動しました。ハンドラーとともに倒壊家屋に入り被災者を捜索、女性1名のご遺体を発見しました。
災害救助犬ロジャーの活動を含む、空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”の活動はYoutubeでも発信しています。ぜひ詳細をご確認ください。
いざというときに人々を助けてくれる大切な存在、災害救助犬についてご理解いただけましたでしょうか。我々空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”は、災害救助犬とともに引き続き災害医療支援活動を実施して参ります。引き続き、皆様のあたたかいご支援をどうぞよろしくお願いいたします!
WRITER
広報:
空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
空飛ぶ捜索医療団"ARROWS"ジャーナル編集部です。災害に関する最新情報と、災害支援・防災に関わるお役立ち情報をお伝えしています。
SUPPORT
ご支援のお願い
私たちの活動は、全国のみなさまのご支援・ご寄付によって支えられています。
一秒でも早く、一人でも多くの被災者を助けるために、
空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”へのご寄付をお願いいたします。