JOURNAL #3572024.07.16更新日:2024.07.26
地震や津波、台風、大型豪雨や土砂崩れなど、日本は常に自然災害と隣り合わせの状態にあります。そんななか、実際に災害が起きたとき、どのような法律や決まりの元で救助や支援が行われ、通常時はどのように防災が行われるか、ご存じでしょうか。
災害発生時、通常は『災害対策基本法』を遵守する形で物事が進められます。今回の記事では、災害対策基本法の概要や災害に向けた備え、基本法を構成する6つの要素、改正の歴史について解説します。「あの対策はどのような流れで進められているのか?」「避難指示はどのような方針で発令されているのか?」など、災害発生時の事前知識としてお役立てください。
『災害対策基本法』とは、災害時に国土や国民の命と体や財産を保護できるように制定された法律です。社会の秩序を維持し、公共の福祉確保につながることを目的に、災害発生時や防災について細やかな行動指針を示しています。
災害対策基本法は、「史上最悪の台風」として語り継がれる、1959年の伊勢湾台風をきっかけに制定されました。紀伊半島先端に上陸した伊勢湾台風による被害は、三重県や愛知県に及び、名古屋市や弥富町にまで暴風雨や高潮による浸水をもたらしました。結果、全体として5,000人を超える死者・行方不明者を出したことでも広く知られています。
伊勢湾台風の被害を受け、例え大規模な災害が起きても少しでも被害が少なくなるよう、「総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図るため」に、政府は1961年に災害対策基本法を制定。その後、災害が起きるたびに改定され、より迅速で適切な対応を促せるように変化を続けています。
災害対策基本法は、国や地域、自治体や財政にまで範囲が及ぶことから、防災基本計画や地域防災計画と深く関係しています。
例えば、災害が起こるとき、国家としても、地域や自治体としても、計画に基づいた行動を選ぶ必要があります。緻密かつ慎重に組み込まれた計画のもとで避難行動をすることで、避難はもちろん、人命救助や防災にまで役立てられるためです。そのような場合で指針となるものが、災害対策基本法です。
その理由から、防災基本計画や地域防災計画は、災害対策基本法に基づいて作成されます。実際の災害発生時も、起きる前から起きた後まで適切かつ細かな対応方法が記されていることから、災害対策基本法は各計画のガイドラインとしても活用されています。
災害対策基本法と似たような法律に、『災害救助法』があります。2つの違いを明確にするなら、災害救助法は「災害が起きたときに応急救助を行い、被災者を保護し社会の秩序を守り維持するために作成された法律」である点です。災害対策基本法が防災から災害発生時までの対応を記しているのに対し、災害救助法は発生後の状況に基づく対応と補償のための法律であることが特徴です。
災害が起きると、住宅や建物、人の命に甚大な被害があらわれます。応急対応に向けては相応の費用が必要となり、発生した地域だけで財政的な補償をすることはほとんど不可能です。このような場合には、国の財源から補償がされることとなります。
そのためには、
・住宅に被害が出ているか
・住民の生命や身体に危険が生じているか
を基準に、国からの補償の範囲を決めます。被害の状況に応じ、避難所や応急仮設住宅、食料品・飲料水、生活必需品、医療費、埋葬関連費用などの補助が受けられる仕組みになっています。
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災害対策基本法は、以下の6つの要素から成り立っています。
それぞれ詳しくみていきましょう。
災害対策基本法では、国や都道府県、市町村、公共機関、住民と規模や単位に合わせて分類し、それぞれの責務を災害対策基本法にて以下のように定めています。
・第三条 国の責務:
国は、前条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのつとり、国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護する使命を有することに鑑み、組織及び機能の全てを挙げて防災に関し万全の措置を講ずる責務を有する。
・第四条 都道府県の責務:
都道府県は、基本理念にのつとり、当該都道府県の地域並びに当該都道府県の住民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、関係機関及び他の地方公共団体の協力を得て、当該都道府県の地域に係る防災に関する計画を作成し、及び法令に基づきこれを実施するとともに、その区域内の市町村及び指定地方公共機関が処理する防災に関する事務又は業務の実施を助け、かつ、その総合調整を行う責務を有する。
・第五条 市町村の責務:
市町村は、基本理念にのつとり、基礎的な地方公共団体として、当該市町村の地域並びに当該市町村の住民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、関係機関及び他の地方公共団体の協力を得て、当該市町村の地域に係る防災に関する計画を作成し、及び法令に基づきこれを実施する責務を有する。
・第六条 指定公共機関及び指定地方公共機関の責務:
指定公共機関及び指定地方公共機関は、基本理念にのつとり、その業務に係る防災に関する計画を作成し、及び法令に基づきこれを実施するとともに、この法律の規定による国、都道府県及び市町村の防災計画の作成及び実施が円滑に行われるように、その業務について、当該都道府県又は市町村に対し、協力する責務を有する。
・第七条 住民等の責務:
地方公共団体の区域内の公共的団体、防災上重要な施設の管理者その他法令の規定による防災に関する責務を有する者は、基本理念にのつとり、法令又は地域防災計画の定めるところにより、誠実にその責務を果たさなければならない。
引用:総務省|e-Gov|災害対策基本法
前提として、これらの防災責務は、国からトップダウンする形で行われます。まず国が災害応急対策及び災害復旧の基本となるべく計画を作成し、また法令に基づいたうえで実施。それを都道府県や市町村、公共機関が防災に関する事務や業務を実施する際にも、総合的な調整や推進を図る仕組みです。
都道府県や市町村、公共機関や住民に対しても、規模に合わせた行動指針が定められ、それらを基に防災や災害時の避難が指示されるようになっています。
また相互協力についても、例えば国と都道府県、市町村や公共機関など、単独ではなく協力体制で防災や災害に取り組むことが求められています。
住民等の責務も、災害対策基本法の重要なポイントです。個人レベルでも生活必需品の備蓄や自発的な防災活動の参加など、自らの身を守る行動が推奨されています。
災害発生時には、被害状況に合わせた対応や復旧までの計画が必要不可欠です。そこで災害対策基本法において、国が中央防災会議や特定・非常緊急の災害対策本部を設置します。都道府県や市町村においては、地方防災会議や災害対策本部を設置し、災害発生後の行動指針を明らかにします。
災害による被害を可能な限り軽減するには、通常時からの計画的な防災が欠かせないことから、国や都道府県、市町村、公共機関において計画が策定されています。
計画の内容はそれぞれ異なり、以下のように決定づけられています。
災害が起こると、予算の確保や技術の開発、二次被害の予防や応急対策、復旧など、段階ごとに合わせた対策が必要です。そしてそれらの対策はそれぞれの実施責任主体のもとで行われ、役割や権限も規定されています。災害発生時には、ほとんどすべての対策が規定通りに進められる仕組みにもなっています。
地方自治体に関しては、ケースが異なります。避難指示が一義的に市町村長によって実施される大規模災害時においては、都道府県・指定行政機関が応急措置を代行するとも規定されています。
災害は、財政や金融にも多大なダメージをもたらすことから、これらの措置も災害対策基本法に記載されています。「法律に規定された対策の実施については実施責任者が負担する」と記されている通り、資金の供給や財政支援が行われます。
ただし、都道府県や自治体で対応可能な範囲内を超える災害が発生した場合は例外です。財政上の措置は国が主体となり、支援の役割を担う形となっています。
災害時の緊急事態においては、生活必需物資の配給の制限、金銭債務の支払い猶予、海外からの支援受け入れに関する緊急政令の制定、特定非常災害法の自動発動など、通常時とは異なる対応をしなければなりません。
このような対応も、災害対策基本法が指針となります。災害発生時には政府の閣議決定により基本方針が決められ、また災害緊急事態も布告され、法に基づいた対応が進められます。
災害対策基本法においてもうひとつ重要な特徴は、災害が起きるたびに改正が行われる点です。
国や都道府県、自治体や公共機関、状況に相応する行動指針は示されていますが、災害発生時に以前と同じような対応が通じるとは限りません。自然災害の特徴上、災害が起きるたびに法の問題点が浮き彫りになります。実際に、災害が起こると救助対応や避難、被害が及んだ範囲が国に報告され、問題点や障害、今後への解決策が議論される流れとなっています。
そこで、より多くの住民や地域を救うためにも、災害対策基本法は常に改正が重ねられる法律であり、今でも議論が進められています。
2021年5月21日、これまでの災害時の対応についての課題から、以下の項目において改正が行われました。
参考:内閣府|防災情報のページ|災害対策基本法等の一部を改正する法律(令和3年法律第30号)
従来の災害対策基本法では、災害発生時に避難勧告のタイミングが分かりづらく、逃げ遅れる人が多いことは否めませんでした。住民アンケートで調査をしても、「避難勧告を受けたけれど、今逃げたらいいのか、どのような避難をすればいいのかが把握できず、避難が遅れてしまった」「避難勧告と避難指示の違いがわからず、混同した」との声が寄せられています。
これを受け、2021年改定の災害対策基本法では、避難勧告と避難指示を一本化すると決定しました。現在では、避難勧告の段階から避難指示も行われることになっており、場所や方法も明らかにされています。
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個別避難計画とは、高齢者や障がい者などの避難行動要支援者に、避難支援を行う人や避難先などの情報を記載した計画を意味します。
避難行動要支援名簿の作成は2013年に義務化されており、全国の市町村区の大部分で普及が進んでいたものの、避難の実効性においては問題点がありました。この事実を踏まえ、避難行動要支援者の円滑かつ迅速な避難を図るために、個別避難計画について市町村に作成の努力義務化が制定されました。
地震や津波、大型台風など災害発生のリスクが高い段階において、国の災害対策本部の設置が可能となったことも、大きな変更点です。これにより、広域避難において、被災した住民を安全なほかの市町村に避難させるため、必要とする市町村間の協議もなされるようになりました。
災害対策の実施体制により強い権限と実行力を持たせるため、
といった強化が行われました。「災害時にはより円滑かつ迅速な対応が求められる」との社会的要請に応えた形となります。
2023年5年には、緊急通行車両以外の道路における通行について、災害対策基本法の改正が行われました。
ここで言う緊急車両とは、災害発生時に応急対策や必要物資の緊急輸送に携わるための車両のことを指します。これらの車両が優先的に案内されることで迅速な救助や生活の支援ができます。
改正前は、災害発生時のみ、緊急車両以外の車両の道路通行を禁止または制限ができていたものの、改正後には災害対策基本法により、災害発生前により禁止や制限の確認ができるようになります。
参照:内閣府|防災情報のページ|災害対策基本法施行令等の一部を改正する政令(令和5年政令第180号)
以上のように、災害多委託基本法は国や都道府県、市町村、公共団体や住民など、あらゆるケースにおいて災害発生時の行動指針を定め、また防災計画にも深くかかわっています。災害対策基本法は、伊勢湾台風をきっかけに制定され、現在でも議論や改正が進められていることから、日本は自然災害が多いからこその法律だと言ってもいよいでしょう。
災害対策基本法の流れを知るには、災害発生時のニュースや話題から、国や都道府県、市町村、公共機関などの対応を注意深く見てみるとよいでしょう。避難勧告と避難指示の一体化、各地域から出される指示、各段階での動き、ほかの地域における被災者の受け入れなど、すべて災害対策基本法をもってして行われていることが分かるはずです。
同時に、「このような流れで対応が進められるから、いざという時にはこの部分を確認しておこう」と、災害発生時に向けた準備も整ってくるでしょう。普段から緊急時における物事の進み方を知っておくことが、いざという時の助けとなります。
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