JOURNAL #4452025.06.09更新日:2025.06.10
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
わたしたちは国内外への緊急支援というかたちに留まらず、他国の医療に対して技術的な向上を目指した教育や、持続可能な医療体制の構築に向けた支援に取り組んでいます。
現在、パラオ共和国の医療の質を向上させるために、パラオ国内で唯一の総合病院であるベラウ国立病院(Belau National Hospital:BNH)へ、看護師1名が外科病棟に、診療放射線技師1名が放射線画像診断部門で活動を行っています。
今回は現地に常駐している診療放射線技師の濵野から、放射線画像診断部門での課題と支援活動についてお伝えします。
放射線部門には7名の診療放射線技師(technician)が在籍しています。
日勤帯には、休暇をとるスタッフもいますので概ね4名程度が配置されています。夜間は交代でオンコール体制をとっており、夜間担当者は17:00から翌7:00までの勤務で日勤はしません。
院内の撮影モダリティは、X-ray(レントゲン)、CT、MRI、US(エコー)、ポータブルX線撮影装置、Cアーム(術中透視撮影装置)が他国の支援で導入されています。
撮影件数は、X-rayが一日10~15件程度、CTは5~10件、MRIは一日1・2件、USは日によってのばらつきが大きく、1・2件の日が多いですが20件近く撮る日もあります。
撮影件数に対してのスタッフの数が多いように見えますが、日によっては関連施設へマンモグラフィーの検査に出るスタッフもおり、体調不良なスタッフが出たりするとたちまち人員体制が厳しい配置となる日もあります。
X線を使うためには安全管理が大事になってきますが、先進国には当たり前の様にある、医療用放射線の安全管理に関する法律がこの国にはありません。
被ばくに関しての意識が根付いていないことは大きな課題で、X線撮影において適切な線量、撮影方法で撮影されるよう、わたしたちが支援にはいることでルールなども整備し、改善に向けて取り組んでいます。
線量不足が原因で不鮮明な画像となっているX線写真(2枚目)と、適切な方法で撮影したX線写真(2枚目)
医師は左の画像で診断していたたため、右のように鮮明に撮影できるよう具体的な方法をレクチャーし、徐々に改善に向かっています。
BNHには、日本をはじめアメリカや台湾などからの様々な支援を受けています。
その中でも一番高額といえるのが、MRIです。
日本の支援により、2023年7月からMRIの稼働が始まりました。
装置自体は日本政府の支援で整備され操作研修もありましたが、実際のところ現地医療スタッフは十分に使いこなせていないのが現状です。
たとえば、血管の様子を写す「MRA」という検査では、本来なら不要な部分を画像から取り除くなどの処理を行いますが、スタッフはその方法を知らず現場ではその処理がされていませんでした。おそらく、最初のトレーニングで説明はあったはずですが、短期間の講習では身につけきれなかったのだと思います。
そのため日本からの機材支援に加え、私たちが実際に使うスタッフたちの技術面のサポートにはいり、MRIの撮影技術の向上を目指して日々レクチャーにあたっています。
また、MRIが有効とされる疾患でも現地ではCT検査が優先されていて、MRIの利用は月に数件程度と非常に少ないのが現状です。原因は恐らく画像の見方がわからず、医師もMRIの活用に慎重になっている可能性がありました。
そのため2024年12月に、MRIが優先される疾患について、医師向けのMRI講座を開催しました。
MRAが非造影で実施可能なことなどを把握していなかったようで、まだまだMRIについての認識が少ないのがわかりましたが、この講座や現場でのレクチャーが成果を出し始め、少しづつですがMRI検査の数も増えてきています。
引き続き現場の医療従事者の声を聞きながら、改善を図っていきたいと思います。
CT検査についても、2年程前に装置が故障し、日本の支援を経て2024年11月より新たなCT装置が導入されました。
使用している医療スタッフは、CT装置の使用経験はあるので取り扱いは概ね可能ではあるものの、こちらも十分に活用できている状況とは言えません。撮影法がスタッフ間で統一されていないため、誰が撮っても同じく正確に処理ができるように、統一性を持った方法でレクチャーを行っています。
パラオの医療事情はまだ発展途上であり多くの課題を抱えていますが、様々な国際的な支援が現地の医療現場で着実に実を結びつつあります。
実際に、現地医療従事者のみなさんも真面目でひた向きで、私たちが行っている支援から様々な技能を学び、人々に貢献したいという熱にあふれたスタッフばかりです。
また、私たちから現在行っている現地での取り組みの内容を日本政府にも随時報告しています。それによって日本政府からの今後の国際支援がより一層現地の人々の生活に貢献できるものになれればと願っています。
パラオには画像診断を専門にする医師が不在なため、検査の適切な選択や依頼内容、撮影した画像に基づく診断にも課題を抱えています。
この課題を解決へと導くためには適切な画像診断ができる医師を育成する必要があると考え、今現在パラオ人医師がピースウインズのプロデュースで来日し、パラオ人として初めての放射線科医を目指して日本国内で研修に励んでいます。
日本での研修は5月で終了するため、帰国後にはそのパラオ医師とも協力しながら、今後もパラオの医療の質の向上をサポートしていきます。
その模様はまた次回のレポートでご報告します!
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