JOURNAL #4442025.06.06更新日:2025.06.09
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
災害支援では、被災した方々の避難生活を医療・物資の両面から支え、その後も長い期間をかけて復興に向けた生活再建を支援していきます。ピースウィンズは、被災者を支える立場ですが、こうした支援活動を通して実は被災地のなりわいが私たちの生活につながっていたり、時に多くを学んだりすることがあります。今回は、岩手県大船渡市の山林火災での支援を通して出会った、被災地とのつながりをレポートします。
2月26日、岩手県大船渡市で発生した山火事は、乾燥した空気や強風などの気象状況も影響し、延焼を続けました。市は、1896世帯4596人に避難指示を発令。1週間以上、燃え続けた山火事は、森林や住家だけでなく、地元の人びとの生活を支える仕事場や、大切な資材なども焼失。その被害は、山から港にまで広がっていきます。
大船渡周辺の三陸の海で育つワカメは、地元の経済を支える重要な一次産業であり、全国の家庭の食卓にも届けられる名産品です。その収穫から出荷までの作業は、3月から4月にかけたおよそひと月の間に集中し、この時期を逃してしまうとワカメの質はどんどん下がってしまい、商品として出荷ができなくなるといいます。
山林火災が発生したのは、まさにこの1年でもっとも大切な収穫期をこれから迎えようとする時期。避難指示を受け、その影響でワカメ漁もはじめることができずにいました。
その後、3月5日におよそ1ヵ月ぶりの雨が被災地に降り注ぐと山火事はようやく延焼から鎮火へと向かいはじめ、10日には全域で避難指示解除が発表されました。
すでに例年に比べるとスタートが大きく出遅れていたワカメ漁を一刻も早くはじめなければならない――
しかし、一部の漁師は資材や作業場となる倉庫を失い、さらに刈り取り開始が遅れたぶん、人手不足も懸念されるなど課題は山積み。ワカメ漁をなりわいとする漁業関係者にとって収穫がままならないと生計の大部分を得る機会を失い、生活再建は1年以上遅れてしまいかねない状況でした。
こうした事態を受け、空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”は関係各所と話し合い、急遽、ワカメ漁の“なりわいを止めない”ための支援を行なうことを決定しました。
具体的な支援は、大きくふたつ。ひとつは、火災でワカメ漁の作業を行なう倉庫や漁具を焼失した綾里漁協に対して、収穫に必要な資材を補填する支援。もうひとつは、収穫作業を助けるボランティアを集める活動を、現地の方と連携してサポートする支援です。
そして現地でこのなりわい支援を調整していたところ、ピースウィンズ・スタッフのひとりがボランティアとして、ワカメ漁に参加することになりました。
まだかすかに冬の寒さが残る3月28日朝4時、この日ワカメの刈り取りを行なうという漁師、大平さんの船に同乗させてもらいます。
郷里港を出港し、波をかき分けながら船は進むと、間もなくしてワカメ漁のポイントに到着。エンジンを停止し停泊しても船はゆらゆらと揺れ続けます。この船上で行なわれる作業には、“船酔いしない体質”が必要だと教えられました。
ロープを巻き取るクレーンが動き出すと、隙間なくびっしりと並ぶワカメが海上に姿を表し、ワカメが船の縁を超えるところまで引き上げられると、大平さんをはじめ、この日ボランティアで手伝いに来たという青年が、慣れた手つきで次々とワカメを刈り取っていきます。
その後、ロープに残されたメカブも刈り取られていき、別のかごへと集められていきます。このワカメ(葉)の根元の部分にあたるメカブも、貴重な食材として収穫していくのです。
ひとつ分のロープの刈り取り作業を終えると少し船をずらし、またびっしりとワカメがぶら下がっている別のロープが引き上げられ、刈り取りを開始。気温3℃くらいの船上でこの作業が休む間もなく、2時間ほど繰り返されていきます。
ワカメは、胞子状の種をロープに巻き付けて育つといいます。その作業を昔は10月にしていたそうですが、近年は水温の変化に伴いおよそ11月頃に行なうそうです。種が落ちたりしてしまわない限り、やがてロープから生えるようにワカメは育っていき、1月になると、詰まりすぎないように少し間引いていく剪定作業が行なわれます。
“早採りワカメ”と呼ばれる小さなワカメを刈って密集度を調整することで栄養のバランスが全体に行き届くようになり、より元気なワカメが育つのです。そのため、厳冬期の1月のこの作業がワカメ漁ではとても重要な作業であることを教えてくれました。
予定されていた分の刈り取りを終え船は漁港へと向かうと、港のあちこちでゆらゆらとのぼる湯気が見られます。
水揚げされたワカメとメカブは、一度ボイル(茹でる)され、ある程度、熱湯に浸けられたワカメは今度は冷水がたまるボックスへと流れていき、最後に袋に詰め込まれていきます。
その後、“塩蔵”と呼ばれる飽和海水塩に漬け込み、ワカメに塩をからめていく作業が行なわれます。塩蔵を行なうことで、ワカメはおよそ1年間以上日持ちする保存食になるのだそうです。
このほかにも“選別”や葉と茎の部分を切り分けていく“芯抜き”、“メカブ削ぎ”と呼ばれる作業などが並行して行なわれます。洋上での刈り取りと港での各処理作業は、経験と力も必要になってくるため、ボランティアの多くは“芯抜き”や“メカブ削ぎ”を手伝うことが多いそうです。
ワカメ漁の多くは、家族単位で行なわれています。秋の種付けから冬の剪定、そして春の収穫・加工処理にいたるまでの作業量は膨大で、期間も集中していることから、ひとつの家族だけでまかなうことはできません。そのため毎年、地元の方々だけでなく近県からも多くの人がワカメ漁を手伝いにやってきます。
“メカブ削ぎ”には、春休みを利用して地元の小学生が、“茹でる→冷やす→袋に詰める”一連の力仕事には、毎年地元の建設会社の強者が本業を休業にして手伝いにやってくるそうです。
ふらっと来て手伝っていく人もいれば、「この後用事あるから」と先に帰る人もいます。ワカメ漁は、地元の人びとの生活を支える大切ななりわいであると同時に、大船渡の春の風物詩であり、地域全体で取り組む大切な営みでもあるのです。
ワカメは、好物のひとつで、日常的によく食べます。お味噌汁も、ラーメンも、わかめさえあれば完成する。それにもかかわらず、こんなにもわかめのことを知らなかったことに、少しショックのようなものを感じました。それくらいすべての体験が新鮮で個人的にはとても良い経験になりましたが、でも実は世の中にはこうした知らないことであふれていることに、あらためて気づかされたようにも思います。
今回のなりわい支援は、被災された方々の生活再建の一環として行なったものですが、私たちも被災地のことを知る良い機会となりました。地道で大変な作業ですが、そこに人が集まり、自然と会話や笑顔があふれる現場を見て、ワカメ漁は大船渡になくてはならない、地元に根づく文化であることを学びました。今回の支援は、被災した方々の生計を支えるだけでなく、その大切な文化を紡ぐ一助になれたという点でも、大きな意義があったのではないかと感じています。
個人的にも、ワカメがどこで育ち、どのような工程を経て食卓に届けられているのか、それを知れたことでワカメがよりおいしく感じられるようになった気がします。私たち支援する側にとっても多くのことを学び、新しい発見と喜びをも与えてくれた支援となりました。
ピースウィンズ・ジャパン
小林葉月
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