
JOURNAL #5192026.02.10更新日:2026.02.10
国内外の災害現場で活動する空飛ぶ捜索医療団‘’ARROWS”には、チームを支える縁の下の力持ちである「ロジスティシャン」の存在が必要不可欠です。今回は、2024年の能登半島地震や2025年の大船渡市山林火災、台湾 花蓮の洪水被害支援など、数々の現場で活動してきたロジスティシャン・二宮真弓に、その知られざる役割と想いを聞きました。
ー災害支援に関心をもったきっかけは?
2018年の西日本豪雨です。当時私が住んでいた岡山県は、大きな災害が比較的発生しにくい地域でした。ただ、実際に豪雨が発生し、真備町や当時勤めていた住宅メーカーのお客様のお家の状態を見たとき、「業務以外でも何かしたい、泥出しボランティアに行きたい」と思ったんです。

その時は家庭の事情でボランティアに行くことは叶いませんでしたが、心の片隅にずっと引っかかっていました。それで、何かできないかと始めたのが災害支援に対する寄付でした。元々ピースワンコ(ピースウィンズの保護犬事業)への寄付もしていましたが、西日本豪雨以降は毎年発生する災害の被災地に対してふるさと納税を通じた寄付を行っていました。
最初はそれだけで十分だと感じていましたが、やっぱりふと西日本豪雨のことを思い出した時に「寄付だけではなく自らが動いて困っている人の役に立ちたい」という想いがこみあがってきたんです。
数ある団体の中でピースウィンズを選んだのは、元々支援していた保護犬事業や海外支援への共感もありましたが、一番は空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”の存在でした。キャッチフレーズである「一秒でも早く、一人でも多く。」という言葉が、分野は違えど前職で抱えていた課題や悩みに対する、一つの答えになるフレーズだと感じたんです。「この理念を掲げているチームで働きたい」と心から思い、何の躊躇もなくこの道を選びました。

ー前職は住宅・不動産業界で働かれていたとのことですが、別の業界で働いていた経験が活きているなと思う出来事はありますか?
一つは、入職してすぐに任せていただいた倉庫購入の仕事です。最初の大きなミッションが新しい倉庫の購入でした。私は住宅の仕事以外に不動産の業務も行っていたため、土地や建物に関する知識や経験値はありました。入職したてではありましたが、色々な意見を提案させてもらって、結果現在の豊松倉庫の賃借に至りました。

もう一つは、能登半島地震の際に珠洲市で活動したときのことです。そこでは、大きな活動拠点となるベースキャンプを立て、その周りに隊員宿泊用のコンテナなどを設置し、長期間のテント生活を送りました。

珠洲ベースキャンプは活動のミーティングを行う場でもあり、現地滞在のための隊員の生活拠点でもありました。テントを立てて終わりではなく、電気や水道、食料、燃料といったインフラを整え、維持し続けなければなりません。医療支援を行う隊員や物資支援を担う隊員が日中活動に向かっている中、ロジを担当する私は、隊員たちが活動後安心して過ごせる生活拠点のベースを整えていきました。
ロジスティシャンは、災害医療の業界内では「業務調整員」として理解されることが多い職種です。しかし、実際に現場に入って活動する時、他のスタッフの生活面もきちんとカバーすることが非常に重要です。どのスタッフも目の前の活動に一生懸命で、自分の生活は後回しにしてしまいがちです。隊員が医療活動や物資支援などで外に出ている間、誰かが裏で生活環境をきちんと整えなければなりません。「裏側でみんなを支える」ということはロジスティシャンの仕事として、とても大事な役割であると強く実感しました。


ー被災地で1番辛かったことを教えてください
能登半島地震で、避難所となった飯田高校でのトイレ清掃です。私が能登に入って、拠点の外で行った初めての活動でした。当時、そこには市内最大規模となる800人近くの方々が避難されていましたが、発災直後からの断水でトイレの水が一切流せない状況でした。校内のトイレには排泄物が積み重なり、写真ではお見せできないほど過酷な衛生環境になっていました。
私たちは校内のトイレを端から端まですべて清掃するミッションにあたりましたが、清掃作業中にも避難者の方々が次々と「トイレを使ってもいいですか」と声をかけてこられました。その中には、小さなお子さんやお年寄り、女性の方もいらっしゃいました。目の前の悲惨な状況のトイレを、この方々に使わせてしまうのか。そう思った瞬間、本当に胸が締め付けられました。このような環境で用を足さざるを得ないことは、人間としてどれほど屈辱的で、辛いことか。作業の過酷さよりも、避難者の方々の置かれた状況を想像することが、何より心に刺さりました。
発災直後はどうしても現場が混乱し、衛生環境が二の次になってしまうのは、ある程度仕方のないことかもしれません。しかし、それを一刻も早く改善し、日常生活に近い清潔さを取り戻すこと。そして、排泄物が適切に処理される衛生的な状態を整えることは、絶対に必要です。こうした環境整備は、心身ともに疲弊している被災者の方々が、自分たちだけで行うには限界があります。
だからこそ、私たちのような外部の支援者がマンパワーとして入り、客観的な視点で環境を整える。それが、場面によっては不可欠な役割であると強く実感しました。
ー大船渡の山林火災では、ロジスティシャンとしてどのような活動をしましたか?
大船渡の時は山火事という特性上、いつ鎮圧して避難解除になるか分からず、「明日にはこの避難所から誰もいなくなるかもしれない」という世界でした。そのため、避難所に入った直後は環境を見て「もっとこうしたい」と思うことはたくさんありましたが、「これは今やるべきなのか」と判断に悩む場面が多くありました。動き出した翌日に避難所が閉鎖になってしまっては、支援が無駄足になってしまうかもしれない。葛藤しながら、どこまでやるべきなのかをチーム内でずっと話し合っていました。そんな時、プロジェクトリーダーの稲葉に相談して返ってきたのが、「緊急性があるかないか、そこで判断してくれればいい」という言葉でした。そこで、一つの明確な判断軸が見えたんです。
その基準で行ったのが、避難所への手すりや洗濯機の支援でした。これらは、仮に数日後に避難所が無くなるとしても、不便な避難生活の早急に対応すべき問題であり、行政が簡単に対応できない「私たちが今やるべき支援だ」と確信できたからこそ、迷わず動くことができました。

ーロジスティシャンの仕事を一言で表すとしたら何ですか?
「何でも屋」ですかね。入職して色々ゼロから見させていただきましたが、他のロジスティシャンの隊員たちが「本当にこんなところまでやるのか」ということまで自分たちで仕事を見つけてくる姿を何度も目にしました。
例えば、能登の豪雨支援のときのことです。私たちが設置した給水装置のホースが、流れてきた土砂の中に埋まってしまったことがありました。その時、業者を待つのではなく、隊員3人がスコップを持って一日かけて自分たちの手で掘り出したんです。まさか自分たちで掘り出してしまうなんてと思いましたが、それこそが「私たちらしい」ですよね。現地で必要だと思った支援は、人やリソース、そして資金が許すのであれば、私たちの仕事でできないことは何一つないと正直思っています。
ー仕事のやりがいを教えてください。
一番は「ロジスティシャンの仕事に決まったものはない」ということです。私たちロジスティシャンは「医療者でなくてもできることは基本何でもやる」というスタンスで働いています。
もちろん、資格が必要な専門職の仕事は、その道の方が担当しなければなりません。でも、それ以外のことは私のように経験や知識が何もない状態からスタートした人間でもできることがたくさんあるので、分野にかかわらずとにかくやってみています。このように守備範囲が広く、仕事に制限がない環境は、私にはすごく合っていました。「自分の仕事の範囲を、自分自身で決めなくていい。とにかくやってみることができる。」というのは、空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”の仕事全体に共通することかもしれません。
企業であれば、利益や時間、効率などをビジネスとしてシビアに考えるものですが、ARROWSには「いま、やらなきゃいけない。」と思ったことを積極的にやる姿勢を応援してくれる風土があります。ロジスティシャンとして、現場でやれることはとにかく何でもやる。その姿勢こそが、多くの被災者の支えになり、私の大きなやりがいになっています。

ーロジスティシャンの仕事で最も大切なことはなんだと思いますか?
自分で自分の限界を決めない姿勢、「これは自分の仕事じゃない」、「これは自分がやりたいことではない」などと自分の中でストップをかけないことだと思います。
もちろん、専門的な知識や資格が必要なことに関しては仕方がありませんが、「これをこうすればできるんじゃないか」、「これをやるためにいろんな人の手を借りよう」という発想も大切です。
ニーズがあることや、支援が必要だと思うことに関しては、とにかく考えてみるようにしています。できるかどうかはやってみないと分かりませんが、「できるのではないか」と信じて考えたり、実際に動いたりすることは、ロジスティシャンとしてすごく大切であると感じています。

二宮 真弓 プロフィール
大学卒業後、住宅メーカーで新築戸建・マンション事業に従事。営業を主に、設計・現場対応・資金提案・事業管理などを担当。西日本豪雨翌年の2019年より寄付を通じてピースウィンズとの関わりをもち、2023年6月に空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”のロジスティシャンとして入職。
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