JOURNAL #2392023.07.21更新日:2024.01.16

自然災害と都市の脆弱性を考えた災害DXを推進する

インタビューライター:大橋 博之

空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”では、今後の災害支援にDXの活用は必要不可欠と考えており、災害時のレスキュー活動や支援活動にドローンなど、さまざまなITを駆使しています。
同様に、無人航空機やさまざまなテクノロジーを用いて先進的な災害DXに取り組んでいるのが、株式会社テラ・ラボです。日本はガラスの上に家が建っているような状態。そのような環境で我々は生きているということを意識しないといけないと語る、テラ・ラボ代表・松浦孝英氏に、日本における災害DXの必要性や課題についてお話しを伺いました。

短時間で災害情報を収集し、伝達する

テラ・ラボさんが設立された経緯を教えてください。

松浦:まず、私自身のことをお話してよろしいでしょうか。私は26年前からNPO法人を立ち上げ、災害だけでなく福祉や教育、環境などに対し、可能な限り現場に近いところで支援をする活動を行っていました。しかし、NPO活動を続けるには資金確保が問題となります。そのため、NPO法人を会社化し財源を作りながら福祉や教育、環境活動を行うことを考えました。その取組みのひとつとして派生したのが、「テラ・ラボ」でした。

テラ・ラボ代表・松浦孝英氏の画像です。
テラ・ラボ代表・松浦孝英氏

松浦:ただし、テラ・ラボは幅広く活動するのではなく、何かの領域に特化させることにしました。
2021年に愛知県がアジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区として指定され、また、アメリカ空軍のRQ-4 グローバルホークが日本上空を飛行し、情報収集を行っていました。そこで、愛知県を中心に、上空からの情報収集という領域をNPOとも軍とも違う民間企業でできないかと考え、災害対策における情報収集にフォーカスした研究をスタートさせました。そして、テラ・ラボのミッションを長距離、高高度を飛行できる無人飛行機の開発と災害情報支援としたというのが経緯です。
今は、災害現場に直接入るというより、災害の現場がどのような問題を抱えているのかをリサーチする活動に重きを置いています。未曽有の大災害が発生したとき、どのような体制を整えておくべきか、内閣府や自衛隊との連携構築にも取組んでいるところです。

テラ・ラボさんでは、どのような事業を展開されているのですか?

松浦:テラ・ラボは中部大学の国際GISセンターの許で立ち上がった大学発のディープテック(大規模研究開発型)ベンチャーです。本社を愛知県名古屋市に、拠点を福島県南相馬市に置いています。我々は、地理空間情報を災害対策に活かすことを行っており、いかに短い時間で、意思決定において重要な役割を果たす情報を効率的に収集し、伝達することで災害被害の軽減を目指しています。

南相馬市の共通状況図です。
南相馬市の共通状況図

近年、災害が大規模化しています。保険の支払総額も相当な額になります。国としても激甚化する風水害、南海トラフ地震などの巨大地震に備えたインフラ対策やデジタル化の推進が急務になっています。我々はデジタルツインの分野を探求することを追い求めており、「テラ・ドルフィン」を活用して災害情報の収集を行い、そのデータをGIS(地理情報システム)上でリアルタイムに三次元化して、「テラ・クラウド」で情報を統合し、デジタル化した災害情報をURLだけで共有しようとしています。

テラ・ドルフィンとはどのようなものなのですか?

松浦:テラ・ドルフィンは無人の航空機です。直近で開発した機体は、垂直離発着できるというもの。滑走路が不要で、垂直に上がってそのまま飛行することが可能です。航続距離は約300キロ。また、2023年に入ってから設計を始めた機体は、1000キロから2000キロほど飛ぶことができるというものです。1000キロ飛べれば、国内に3拠点3機体あれば日本全土をカバーできます。また、排他的経済水域をカバーすることも想定しています。

テラ・ドルフィンとドローンはどう違うのですか?

松浦:ドローンと呼ばれているマルチコプターの飛行時間は、バッテリー式が2~30分くらい、エンジン式で1時間くらい。時速も10~30キロ。それに対して今あるテラ・ドルフィンでも1時間で100キロ飛行できます。広範囲でデータ収集ができるところがマルチコプターとの大きな違いです。

テラ・ドルフィンの画像です。
テラ・ドルフィン

災害が発生したとき、各関係部署との連携が必要となる

近年の災害をいかがお考えでしょうか?

松浦:一般論になってしまいますが、地震と風水害は別物として扱わなければならないと考えています。地震は発生したときに対する備えが大切です。同じノウハウで風水害にも備えておく必要があります。
風水害は毎年やって来ます。風水害が起こりやすくなっている背景には気象変動があるのだと思います。ただ、私が問題視しているのは雨が多いことではなく、多くの人が住む都市が変化している自然環境に対応できるだけのキャパシティを持っていないことです。街の作り方や建物の建て方を改めなければなりません。
例えば、2021年に熱海市伊豆山土石流災害が発生しました。自然災害は大型化している。どこに住んでいようと日本はガラスの上に家が建っているような状態。そのような環境で我々は生きているということを意識しないといけない。自然災害と都市の脆弱性を考えなければならないと思います。

毎年のように洪水が発生し、ゲリラ豪雨が日常化しています。「今まで大丈夫だったから」ではなく、認識を変えないといけないわけですね。

松浦:そうです。最近では線状降水帯が話題となっています。私はこの線状降水帯のメカニズムに関心があって研究していますが、線状降水帯が発生したことを見つける術はありません。大量の水分を含んだ雨雲が来たとき、初めてレーダーで分かるという状態です。雨が降っている様子しか捉えられていません。観察方法や前段階の予測のあり方を根本的に見直すことが災害DX化に向けて重要だと考えています。

活動の具体的な事例があれば教えてください。

松浦:2021年の熱海市伊豆山土石流災害では、災害が起きた直後に我々も現地に入り、このときは被害の範囲が狭かったことからヘリコプター2機と、ドローン3機を用いて写真を数百枚撮影し、デジタル化して、どこの家が流されたのかなどの可視化を行いました。
特に熱海市伊豆山土石流災害で我々が強く発信したのは、共通状況図(Common Operational Picture/COP)という、被害情報をリアルタイムに見える化することでした。そのデータ化を活動開始から2~3時間で処理しました。現在は、そのタイムラインをどうすれば短縮できるかの研究を続けています。
あと、名古屋市では危機対策室の皆さんが2016年から南海トラフ地震に向けた情報収集支援の在り方を模索しているのですが、危機対策室にある災害対策本部ダッシュボードは私と担当者で作り上げたもので、我々が収集したデータは危機対策室に提供する仕組みになっています。

管制室の画像です。

また、こうした取組では、広域のデータを集めることも重要ですが、集めた情報を1か所に集約しなければならないと考えています。南海トラフ地震が起きたとき、死亡者や行方不明者、要救助者の集計カウントをどうするべきか、そしてどう周知させるべきか? 東日本大震災のときは警察と県庁が出した数字が大きく違っており、現場に混乱が起きていました。
死亡者、行方不明者、要救助者や、道路や鉄道、電気、水道、ガスといったインフラの状況を可視化するにはどこと情報を連携しなければいけないのかという検証を進めています。

テラ・ドルフィンで情報を収集し、どのエリアで大規模なインフラが破壊されている、ということが分かれば、その情報とGISのシステムと連動させることで、例えば、浸水害があったエリアを可視化することもできます。

 

災害が起こったとき、どのようなところと連携しないといけないのでしょうか?

松浦:災害対策基本法と災害規模にもよりますが、災害対策基本法に則って話をすると、最初に連携しなければいけないのは市町村の危機対策を担っている災害対策本部です。ただし、災害対策本部は市長や部長などが集まった会議体なので、事務局を担っている危機対策室のようなところと連携をし、そこを経由して災害対策本部に情報を上げてもらうことになると思います。危機対策室と連携できれば、おのずと警察や消防、自衛隊、報道などの機関と連携することが可能となります。

テラ・ドルフィンと移動型地上支援システム「テラ・モバイル」の画像です。
テラ・ドルフィンと移動型地上支援システム「テラ・モバイル」

我々が名古屋市と提携しているのは、名古屋市と愛知県が連携することで、周りの市町村との連携もできるからです。今、名古屋市にきちんと対応することが、愛知県、ひいては東海4県と情報の共有化を図るのに、最も有効だと考えています。

個人間で災害DXは既に始まっている

各地方自治体の災害DXの取組みはいかがでしょうか?

松浦:市町村ごとの災害DXは進んでいると思います。問題は市町村ごとにシステムが違うことです。そのためデータを統合することが難しくなっています。
例えば、救急車は市町村ごとに仕様が違っています。隣の市町村の救急車を借りても使い方が分からないということが起こっています。多組織で同一情報を同一共有する仕組みを考えなければなりません。

繰り返しになるかもしれませんが、災害DXの重要性をどうお考えですか?

松浦:災害DXは、大規模災害が起きたとき、組織的に国や行政、警察、消防、報道などの各機関と情報共有ができ、相互利用できる、風通しの良い環境を作ることだと考えています。各機関のプライドではなく、本来あるべき姿からバックキャストしてどうすべきかを考え、モデルを作っておくことが大切だと考えています。

民間のNGOに期待することはありますか?

松浦:とても重要だと思っています。私自身、NPOの立場で活動してきた人間です。
NGOやNPO団体が互いに助け合おうとしていることは大事な機運だと思っています。そして行政より速い動きや信頼ある活動ができると、現場にとって大きな影響力になります。現場では行政の障壁が必ず出てくる場面があります。例えば危険区域に入れないとか、情報をくれないとか。そのような行政の障壁を取り払うモデルを作って展開して行くことが大事だと感じます。
旧来の国や行政の組織は簡単には変えられない。だったら民間が主導して作ってしまえばいい。その民間の範囲は企業や団体はもちろん、NGOやNPO、個人も含まれます。例えば、SNSで災害の状況を知ることもあります。これは昔では考えられないことです。

たしかに、地震があるとテレビよりSNSを見て情報収集しますね。

松浦:スマホで雨雲レーダーがリアルタイムに見られる時代ですからね。我々が災害DXを作るなんておこがましくて、個人間で既に災害DXは始まっていると言えます。

最後に、個人での災害対策に対するメッセージをいただければと思います。

松浦:情報化社会の現代では、ひとり一人が精度の高い情報を得られるようになっています。自分の身は自分で守るということができれば被害は軽減できます。災害に対する日常的な意識の啓蒙や、自分達に災害が降りかかってきたとき、何ができるかを想定することが大事だと私は感じています。

災害時のシミュレーションを行っている画像です。
災害時のシミュレーションを行う松浦氏

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インタビューライター:
大橋 博之

インタビュー専門のライター。 ビジネスやテクノロジー、事例関係、採用関係を中心に、年間約200件の取材を行い、執筆しています。

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