JOURNAL #4582025.08.01更新日:2025.08.01

「熱波災害」とは?記録的な猛暑が続く熱波の原因と影響

広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部

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近年、世界各地で記録的な熱波災害が相次いでおり、気候変動の深刻な影響が明らかになっています。熱波は単なる猛暑ではありません。命を脅かす災害として認識され、農業や経済、社会生活にも大きな打撃を与えています。

この記事では、熱波の原因となる気候変動のメカニズムや、熱波災害の実態、そして国や個人が取るべき備えと対策について詳しく解説します。持続可能な未来のために、ぜひ最後までご一読ください。

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世界を襲う熱波とは|2024年は記録的な猛暑の年

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引用:気象庁|世界の年ごとの異常気象

「熱波」とは明確な国際的定義があるわけではありませんが、一般に異常な高温が数日間以上続く現象を指し、近年は人命に関わる災害として注目されています。特に2024年は、こうした熱波が地球規模で多発し、各地で「夏の暑さ」の域を超えた深刻な影響を及ぼしました。

東アジアでは日本・韓国・中国で月平均気温が過去最高を記録し、東南アジア、中東、欧州、米国西部、南米、オーストラリア沿岸部に至るまで、広範囲で異常高温が報告されました。特にサウジアラビアでは6月の熱波により1,300人以上が死亡するなど、深刻な健康被害も発生しています(*1)。

こうした傾向は2025年も続いています。欧州12都市では7月初旬までの10日間で約2,300人が高温に関連して死亡するなど、重大な被害が出ています。スペインでは46℃を記録、フランスでは1,900校が休校となり、パリのエッフェル塔も閉鎖されました。熱波はもはや単なる気象現象ではなく、命に関わる「災害」として国際的に認識されつつあります(*2)。

*1)気象庁|世界の年ごとの異常気象
*2)ロイター|欧州熱波で2300人死亡、気候変動が深刻化の要因=英研究、BBC|欧州で熱波続く、スペインは46度を記録 ロンドンも連日30度超え

熱波の原因とは?気候変動との関係

記録的な熱波はなぜ発生しているのでしょうか。その背景には、地球温暖化をはじめとする気候変動との深い関係が見えてきます。

地球温暖化が大気を熱する

熱波の根本的な原因として大きいのが地球温暖化です。人間活動によって排出された二酸化炭素(CO₂)やメタンなどの温室効果ガスが大気中に増えることで、地球は熱を逃がしにくくなり、どんどん蓄積されていきます。この蓄積された熱が大気を暖め、気温全体が高くなる土台を作っているのです。

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引用:WMO(世界気象期間)|WMO confirms 2024 as warmest year on record at about 1.55°C above pre-industrial level

WMO(世界気象機関)によると、2024年の世界平均気温は産業革命前と比べて1.55℃上昇し、観測史上最も暑い年となりました。温暖化によって気温のベースラインが上がることで、熱波の発生回数や規模が年々拡大しています。もはや、かつては「例外的」だった猛暑が、日常になりつつあるのです(*3)。

*3)WMO(世界気象期間)|WMO confirms 2024 as warmest year on record at about 1.55°C above pre-industrial level

海洋と大気の流れが乱れる

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地球温暖化によって海の表面温度が上がると、大気の流れや天気のバランスが崩れやすくなります。特に注目されているのが、上空を西から東へ吹く偏西風の「蛇行」です。偏西風が大きく波打つように曲がると、南の暖かい空気が北へ流れ込み、日本を含む地域で猛暑が長引く要因となります。これは本来自然に起こりうる現象ですが、地球温暖化によってその頻度が増していると考えられています。

さらに、海の水温が過去の平均と比べて数日以上著しく高くなる「海洋熱波」も無視できない問題です。海洋熱波が発生すると、低い位置にできる下層雲が減少し、強い日差しが地表に届きやすくなります。また、温かい海が大気を直接加熱することで水蒸気が増え、温室効果が強まり、気温の上昇をさらに促進します。

加えて、高温の海は二酸化炭素を吸収しにくくなるため、温暖化がさらに加速する悪循環も生まれます。

このように、海と大気の相互作用のバランスが崩れることで、異常気象や熱波の発生がより起こりやすくなっているのです。

都市化や森林破壊で熱がこもる

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熱波の影響をさらに強めているのが都市化や森林破壊です。都市ではビルやアスファルトが太陽の熱を吸収し、夜になっても放熱されず気温が下がりにくくなります。これは「ヒートアイランド現象」と呼ばれ、都市部では特に熱波が厳しく感じられる要因となります。

また、森林を伐採して農地や住宅地に変えると二酸化炭素の吸収源が減り、大気中の温室効果ガスが増加してしまうのも大きな課題です。森林は気温や湿度の調整も担っているため、破壊されると温暖化の進行が加速しやすくなります。

こうした環境の変化に地球温暖化が重なることで、熱波による被害はますます深刻化しているのです。

こちらの記事では、熱波をはじめ自然災害と気候変動の関係についても詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。

【関連記事】気候変動が引き起こす自然災害|地球環境と私たちの生活を守るためにできること

熱波がもたらす災害の現実|命や暮らしへの影響

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熱波は単なる暑さ以上の影響を及ぼし、人命や健康だけでなく、農業や水資源、電力供給と経済活動にも重大な打撃を与えています。ここでは、熱波がもたらす現実的な被害とその影響について詳しく見ていきましょう。

健康リスク|熱中症による死者が増える

熱波被害の一つが、熱中症をはじめとする健康リスクの増大です。特に高齢者や心臓病、糖尿病、呼吸器疾患などの基礎疾患を持つ人々が影響を強く受け、熱中症による死亡者数は近年急激に増加しています。

2023年の欧州では、熱波による死者数が過去の数倍に跳ね上がり、わずか10日間で約2300人が命を落としたと推計されています。こうした死者の約65%は地球温暖化による気温上昇が要因とされており、猛暑はすべての年齢層に深刻な健康リスクをもたらしています(*4)。

*4)CNN|極度の暑さが命を奪う、最近の熱波でますます高まる身の危険 新研究

農業や水資源への打撃

熱波は農業にも大きな影響を与えています。高温が作物の生育を妨げるだけでなく、土壌の乾燥や水不足を招き、収穫量や品質の低下を引き起こします。

例えば、地中海地域では柑橘類の落花が増え、スペイン南部やイタリア北部で収穫量が大幅に減少。米国南西部では干ばつで貯水池の水位が低下し、メキシコはエルニーニョ現象と異常気象が重なって果実生産が大きく損なわれました(公財中央果実協会「北半球の熱波と農業への影響」)。

さらに2023年の欧州熱波により、アルプスでは「ゼロ度線(気温が0℃になる高度)」が過去最高の5,298メートルに達し、氷河の急速な融解が進行。水資源への影響が悪化しています。こうした温暖化に伴う熱波は、農業や水供給にとって長期的かつ重大な脅威となっています(*5)。

*5)SWI|熱波に見舞われるスイス「ゼロ度線」上昇で氷河に黄信号

電力需要の増加と経済損失

近年の猛暑の頻発により冷房使用が急増し、世界各地で電力需要が急騰しています。観測史上最も暑かった2024年、米国では前年夏に比べて電力需要が37%、中国で31%、インドで19%増加するなど、各国で大幅な電力需要の上昇が記録されました。さらに2025年7月には、中国の電力需要が過去最高の15億キロワットを超え、同月内で3度目の記録更新となりました(*6)。

また、世界経済フォーラムの報告では、極端な暑さによる労働生産性の低下によって、2030年までに年間2.4兆ドル相当の経済損失が発生すると予測されています。猛暑はエネルギーや経済にも大きな影響を及ぼしているのです(*7)。

(*6)World Economic Forum|極端な暑さがもたらす、暮らしの変化
(*7)World Economic Forum|Insuring Against Extreme Heat:Navigating Risks in a Warming World

気候変動が加速する未来|WMOの警告と世界の対策

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世界気象機関(WMO)の報告によれば、2025〜2029年の間に、地球の平均気温が産業革命前より1.5℃を超える年が訪れる確率は86%に上ると指摘されています。こうした気温上昇は、異常気象の激化や海面上昇をもたらし、パリ協定の目標達成に黄色信号が灯っています。(*8)

パリ協定目標と温暖化リスク

パリ協定は、地球の平均気温上昇を「2℃未満」、可能であれば「1.5℃以内」に抑えるといった国際的な取り決めです。しかし、2024年にはすでに1.5℃を上回る気温が観測され、将来この水準を下回るのは非常に厳しい状況であることが示唆されています。

特に北極圏では、今後5年間の冬の平均気温が過去平均より2.4℃(世界平均の3.5倍)高くなっており、猶予はほとんどありません。そのため、氷床の融解や海面の上昇が進み、異常気象も一層激しさを増しています(*8)。

これらの影響は、私たちの生活や自然環境に大きなリスクをもたらしており、1.5℃目標の達成に向けた世界的な対策強化が不可欠です。

*8)国際農林水産業研究センター|今後5年間で世界平均気温が1.5℃の上限を超える可能性

適応策と緩和策の両立が急務

温暖化を食い止めるには、温室効果ガスの排出削減(緩和策)だけでなく、すでに進行している気候変動への対応(適応策)も同時に進める必要があります。都市の暑熱対策や農作物の品種改良、水資源管理、災害に強いインフラ整備といった社会全体のレジリエンス(回復力)向上が重要です。

国連のグテーレス事務総長も2024年の異常気象について言及し、各国に対し、より踏み込んだ気候行動計画(NDC)の策定を呼びかけました。「1.5℃目標」の実現は依然可能ですが、猶予は限られています。国や企業だけでなく、私たち一人ひとりも現状を正しく理解し、日常生活でできる緩和策や適応策に取り組むことが大切です。

日本における猛暑の実態

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アジアでは現在、世界平均のほぼ2倍の速度で温暖化が進行しており、1991年から2024年の気温上昇率は1961年から1990年のほぼ2倍に達しました(*9)。こうした気候変動の影響を背景に、日本でも異常気象が常態化し、猛暑が命に関わる深刻な問題となっています。以下に、日本に広がる猛暑の実態とその特徴的な傾向について紹介します。

*9)気象庁|「アジアの気候2024」について」

日本における記録的猛暑(2024年)

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細線(黒):各年の平均気温の基準値からの偏差、太線(青):偏差の5年移動平均値、直線(赤):長期変化傾向。基準値は1991〜2020年の30年平均値。
引用:気象庁|日本の年平均気温

2024年の日本では記録的な猛暑の影響で、熱中症による健康リスクが一段と高まりました。特に6月から9月にかけての搬送者数(全国)は過去最多の97,578人に達し、東京都では熱中症による死者が123人にのぼりました。

また、福岡県太宰府市では猛暑日が62日、連続40日を記録し、これまでにない長期的な高温が続いたのも特徴です。屋外活動はもちろん、屋内でも対策を怠ると命の危険がある状況にまで悪化しており、今後も同様の猛暑が続く可能性を見据えた対策が求められています(*10)。

*10)日本気象協会|「熱中症ゼロへ」プロジェクト 2024年の熱中症にまつわるニュース

都市化と高齢化がもたらすリスク

猛暑のリスクは、気温そのものだけでなく、都市化や高齢化といった社会的要因とも深く関係しています。ヒートアイランド現象が顕著な東京では、2023年夏に那覇より高い気温の日が続きました(東京海上ディーアール株式会社:レポート)。緑地の減少や高密度な都市構造が熱をためこみ、夜間も気温が下がらない状況が慢性化しています。

今後、東京・大阪・福岡などの都市部では、年間の猛暑日(35℃以上)が今後増加すると予測されています。特に体温調節機能や水分保持能力が低下しがちな高齢者にとって、健康被害のリスクは一層深刻です。都市化と高齢化という二つの要因が重なることで、社会全体の猛暑への備えや耐性は一層弱まっているのです。

北海道にも広がる異変

北海道の夏は涼しいといわれますが、近年では猛暑が日常化しつつあります。札幌管区気象台の報告によると、1898~1990年の100年間で気温は約0.93℃上昇した一方、1980~2024年では約5.30℃と約5.7倍の速さで急激に上昇しています。2023年夏は北海道で過去最高の暑さを記録し、札幌では8月23日に36.1℃を観測しました。

2025年7月22日には40℃に迫る気温を記録し、北海道の夏の気候はかつてのイメージとは大きく変化しています。

さらに、激しい雨の発生頻度も10年あたり6.9回増加しています。寒冷地である北海道でも気候変動による猛暑や豪雨といった災害リスクが着実に高まっており、今後の対策強化が不可欠です(*11)。

*11)気象庁 札幌管区気象台|北海道の気候変化と近年の夏の天候

猛暑をともなう熱波にどう備えるか

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気候変動はもはや遠い未来の問題ではなく、私たちの身近で進む現実です。国は「熱中症対策推進会議」を設置し、行動計画を改定しました。2030年までに年間の熱中症死亡者を1,000人以下に抑え、特に高温時の死亡者を減らすことを目標としています。

そのために、以下の対策が重視されています。

  • 高齢者など屋内での熱中症対策の強化
  • 地方公共団体と連携し、熱中症警戒アラートの活用や取組強化
  • 新型コロナウイルス感染症対策と熱中症対策の両立
  • 地域や産業界との連携強化および広報・情報発信の推進

一方、熱波災害に備えるためには、地域や家庭、個人レベルでの取り組みも重要です。具体的には以下の点が挙げられます。

  • 体温調節が難しい高リスクの人(高齢者や子ども、病弱者など)をコミュニティで見守る
  • 温湿度計で室内環境を管理し、冷房や遮熱カーテン、通気性の良い服装を活用する
  • 冷却や送風グッズなどで体感温度を下げ、こまめな水分・塩分補給を心がける
  • 暑熱順化(体を暑さに慣らす)を意識し、健康的な体づくりを行う
  • 省エネ・節電を心がけ、脱炭素にもつなげる

熱波災害への備えは、自らの命を守るだけでなく、持続可能な社会の実現にもつながる重要な取り組みです。日常生活に取り入れ、習慣化していきましょう。

こちらの記事では熱中症のメカニズムや対策、応急処置などについて詳しく解説していますので、ぜひご確認ください。

【関連記事】酷暑に備える「熱中症対策」のポイント|災害時にも役立つ基礎知識・予防法・応急処置を解説

まとめ

熱波災害は気候変動の進行とともに増加し、健康被害や農業、経済への影響が深刻化しています。温室効果ガス排出を抑える「緩和策」と、異常気象に対応する「適応策」の両立が不可欠です。

国や地域の取り組みに加え、個人でも体調管理や省エネ意識を高めることが求められます。熱波への備えは、自らの命を守るだけでなく、未来の災害リスク軽減にもつながる大切な行動です。最新の情報をもとに日々の生活に取り入れていきましょう。

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【参照】
気象庁|世界の年ごとの異常気象
WMO|State of the Global Climate 2024
環境省|熱中症対策の現状と課題について
日本気象協会|「熱中症ゼロへ」プロジェクト 2024年の熱中症にまつわるニュース~全国各地で猛暑日最多記録を更新 昨年と並ぶ「過去最も暑い夏」に~
国土交通省|国土交通省の気候変動への適応策
国際農林水産業研究センター|熱波の定義・インパクト・原因
CNN|極度の暑さが命を奪う、最近の熱波でますます高まる身の危険 新研究
環境省|世界の森林を守るために
気象庁|ヒートアイランド現象の「知識・解説」
NHK防災|“海の温暖化” 海洋熱波 いったい何が起きている?影響は?
エバーグリーン|熱波・猛暑の原因は?地球温暖化との関係や世界・日本の被害事例をわかりやすく解説
CNN|トップクラスの気象機関、向こう5年間で悲観的な予測 異常気象と命脅かす熱波
気象庁|世界気象機関(WMO)「アジアの気候 2024」について

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空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部

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