JOURNAL #2162023.04.28更新日:2024.02.06

医師 稲葉基高のパラオ絶海の孤島検診の旅! ~TokTan Inaba KENSING記~

広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部

空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”を運営するピースウィンズは、2021年3月より、パラオ共和国において、離島への巡回検診・診療と非感染性疾患(生活習慣病)の予防体制の強化を目的とした事業を実施しています。
同国では保健医療分野において、慢性的な保健医療サービス従事者不足のため、十分な医療サービスが行き渡っておらず、人材育成を含めた保健医療水準の向上、および生活習慣病予防が急務となっています。

今回は、空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”稲葉基高医師が、南洋、南西諸島の離島にて、検診及び診療ミッションをおこなった際の活動記録を紹介します。

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今回は南洋の島国パラオ共和国の中でも「パラオ人でもめったに行ったことがない!」という南西諸島への検診+診療ミッションの報告をしたい。
南西諸島は日本でいうと本土から見た沖縄のような距離感で、数十人の住民が住む島が点在している。もちろん空港はなく今回も船で片道35時間、5泊6日の旅路が計画されていた。首都マルキョクから約360km、船で片道35時間かかる離島、いや孤島だ。トビ島、プル・アナ島、ソンソロル島という3つの島を5泊6日をかけてまわった。

パラオ南西諸島の孤島への移動中の様子

 

大きな船は島の周りのリーフに近づくことができないので、島に近づいたら先方の小さなボートで迎えに来てもらう、という手はずだ。もうこの時点で、冒険感が半端ないが、ネットも電話も通じないのでいざという時には衛星携帯で助けを求めるしかないという緊張感もある。空路の交通手段がない島々なので、もちろん医療へのアクセスは非常に悪いはずだ。

船で島に到着した際の様子

 

今回のミッションを一言でいうと、「有人秘境への旅」という感じだった。
5日間まったくネットも電話も使えない場所に行くというのは、最近本当に経験しなくなったことだ。しかし、結論から言うとミッション中はほとんど通信ができないことを気にしなかった。船の中でしか電気も使えないため、毎日早く起きて準備をして島に検診にでかけ、終了したら戻るための潮を待つ。「潮を待つ」というのは、島に桟橋もないため潮が満ちなければリーフの中まで小さなボートすら入ってこられないため、荷物が運べないのだ。

ネットも電話もない島で住民が作ってくれた島のごちそうをいただきながらお話をしてひたすら待つ。こういう経験は最近トンとすることがなくなった。少しでも空き時間があればメールチェックをしたり、SNSにアクセスしたりしていたのだと思う。
ここでは誰もスマホの画面に目を落としていない。自分が子供のころには当たり前だったことがずいぶん新鮮に感じた。

島で荷物を運ぶ稲葉医師

全ての島において事業対象者(15歳以上)に検診をおこない、トビ島18名、ブル・アナ島8名、ソンソロル島20名に検診ができた。検診対象者に加えて、子供を含めた島民全員に啓発活動を実施できたと言える。
ちなみに「Tok Tan」というのはパラオ語で「ドクター」という意味で、こちらでは「トクタン、トクタン」と話しかけられる。

検診の旅は総じて順調に終わった。大きな嵐に遭うこともなく、船酔いの薬は何度も飲んだものの、吐くほどには至らなかった。

血液検査・尿検査のマシンの電力消費は思った以上に少なく、持って行ったバッテリーや島のソーラーパネルで十分に賄うことができた。検診という概念がないため参加者が少ないのではと懸念もしていたが、全くの杞憂で、ほとんどすべての島民が参加してくれた。むしろ彼らにとっては一大行事として迎えられ、会場としてお借りした学校の片付けや食事の準備に前日は追われたようだった。
感謝と申し訳なさを感じながら、とにかく非常にまれな機会である「医師が島に来る」という期待に応えられるよう全力を尽くした。

パラオでの診察時の様子

本来”KENSING”で薬の処方などはしないことにしているが、ここでは本当に医療へのアクセスがないためそんなことは言っていられない。
必要な人には薬を処方
するのだが、糖尿病や高血圧などNCDs(生活習慣病)への処方はむしろ継続が問題になる。たとえ1か月分の処方を出したとしても1か月後に薬を届けられる保証がどこにもないのだ。生活習慣の改善のポイントを丁寧に説明しつつ、どうしても薬が必要なレベルの人についてはパラオ唯一の病院であるNational Hospitalへの紹介状を書いて1か月分の薬を渡した。
糖尿病のボーダーラインに立っている人もたくさんいたのだが、今回の検診で状態を認識をしていただき少しでも将来起こりうる神経障害や腎不全などの合併症を予防することで長く島で生活していただく一助となっていれば、と願う。

パラオでの検診中の様子

KENSINGプロジェクトのマスコットキャラクターである「Tok Tan KENSING」にも3回入って愛嬌を振りまいたのだが、島によって子どもたちの反応が全く違うのは興味深かった。Tobi島とPul Ana島ではたくさんの子どもたちに囲まれていっぱいハグを求められたのだが、Sonsorol島では「気持ち悪い~」と誰も近寄ろうとしなかった。とにかく汗だくになるので南の島で着ぐるみに入るのはお勧めできない。

Tok Tan KENSINGと子供達の画像

今回は国内業務の多忙さから、できれば南西諸島に行かずに済む方法はないかと考えていたが、今は参加できてよかったと思っている。「医療のないところに予防を届ける」というこの事業の根幹の部分を体感し、そしてネットのない中でのコミュニケーションに新鮮な温かみを感じた。

パラオでの記念撮影の様子

 

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空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”を運営するピースウィンズでは、引き続き、パラオでの検診離島への巡回検診・診療と非感染性疾患(生活習慣病)の予防体制の強化を目的とした事業を継続していきます。

皆様のあたたかいご支援をよろしくお願いいたします。

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