JOURNAL #3172024.03.08更新日:2024.03.08
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
災害発生時、現在いる場所では身の危険がある場合には迅速な避難行動が必要です。避難する場所は「避難所」と「避難場所」があり、それぞれに種類があります。自分や家族の命を守るために覚えておきたい、避難所と避難場所の違いとともに、避難所と避難場所の種類別の特徴を解説します。
避難所と避難場所それぞれの概要を解説します。
避難所とは、災害による被害を受けた人または被害を受ける可能性がある人が、一定の期間避難生活をする場所のことです。たとえば、地震によって自宅を失った人が仮設住宅へ入るまで、または台風や豪雨により自宅では命の危険のある可能性のある人が自宅に戻れるまで過ごす場所は、避難所にあたります。
避難所は、避難のための一定の広さと、被災後の生活再建の拠点となるための建物を持ち合わせた施設が事前に地域防災計画の中で指定されています。一般的には、公民館などの集会施設や学校などの公共施設が指定されている場合が多いです。内閣府が全国の自治体を対象に行った調査でも、全体の95.4%の自治体が小・中学校、78.6%の自治体が公民館を避難所として指定していることが分かりました。
一方で避難場所とは、災害によって身の危険が迫っているときに一時的に避難する場所のことです。正式には「指定緊急避難場所」と呼ばれています。避難所が一定期間避難生活を送る場所であるのに対して、避難場所は津波や洪水などの危険が切迫した状態において、生命の安全確保を目的に緊急に避難する場所、と位置づけられています。
公園やグラウンド、河川敷などの一定の広さがある場所のほか、高層ビルや高台、高速道路上などで避難場所として指定されているところもあります。
東日本大震災時、避難所と避難場所が明確に区分されていなかったことが被害拡大の一因となりました。これを受けて内閣府は2023年6月に災害対策基本法を改正し、市町村長への避難所と避難場所の区分および指定、住民への周知(公示)が義務化しています。
避難所には大きく分けて、指定避難所と福祉避難所があります。さらに、地域住民以外を受け入れる一時滞在施設なども避難所に含まれます。避難所の種類別の特徴を解説します。
指定避難所とは、災害対策基本法施行令第20条の6にて、以下の1~4号をすべて満たしている施設、かつ市町村が指定避難所として指定した場所を指します。
1.避難のための立退きを行つた居住者等又は被災者(次号及び次条において「被災者等」という。)を滞在させるために必要かつ適切な規模のものであること
2. 速やかに、被災者等を受け入れ、又は生活関連物資を被災者等に配布することが可能な構造又は設備を有するものであること
3. 想定される災害による影響が比較的少ない場所にあるものであること
4. 車両その他の運搬手段による輸送が比較的容易な場所にあるものであること
2013年6月の災害対策基本法改正により、全国の市町村長は一定の基準に適合する施設を指定避難所として指定することが義務付けられました。内閣府発表の令和5年版防災白書によると、令和4年12月1日現在で全国の指定避難所の数は82,184ヶ所です。また、指定避難所として指定されていない施設でも、必要に応じて協定を締結するなどすれば災害発生時に避難所として開設することができます。
ただし、指定避難所として指定されている施設でも、災害の種類によっては指定避難所として開設されない点に注意が必要です。たとえば指定避難所として指定されている中学校の校舎や体育館が土砂災害警戒区域内にある場合、大雨などの土砂災害が発生する災害発生時は、指定避難所としては利用できません。
福祉避難所とは、高齢者、障害者、乳幼児、妊産婦、傷病者、難病患者などの災害時要配慮者(以下要配慮者)へ対応するための避難所のことです。要配慮者は、避難行動や避難所生活においてさまざまな課題が発生しやすく、一般の避難所での生活が困難となる場合があるため、要配慮者のための施設として福祉避難所が指定されています。
福祉避難所は、災害対策基本法施行令第20条の6の指定避難所の要件に加えて、以下の5号の要件を満たした施設が指定されます。
主として高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(以下この号において「要配慮者」という。)を滞在させることが想定されるものにあっては、要配慮者の円滑な利用の確保、要配慮者が相談し、又は助言その他の支援を受けることができる体制の整備その他の要配慮者の良好な生活環境の確保に資する事項について内閣府令で定める基準に適合するものであること
ただし、福祉避難所として指定されていない施設でも、災害の規模や状況に応じて、必要な場合には協定を締結するなどの対応の上で指定避難所を開設することも可能です。
要配慮者の暮らしのため、福祉避難所には以下のような設備や体制が求められます。
要配慮者への対応の種類 | 具体的な設備・体制 |
---|---|
バリアフリー化 | 段差の解消・スロープ・手すり・誘導装置・障害者用トイレ |
環境整備 | 通風の確保・換気の確保・冷暖房設備 |
医療的ケア | 非常用電源等の電源確保・医療的ケア(痰吸引、経管栄養、酸素吸入など)の設備 |
支援体制 | 要配慮者および家族が相談できる体制・要配慮者や家族が支援を受けられる体制 |
また、要配慮者のタイプによって必要な設備も異なります。以下のように、それぞれに必要な設備や体制が整った施設が福祉避難所として指定されます。
福祉避難所の種類 | 具体的な施設 |
---|---|
指定避難所となっている施設 | 小中学校・公民館などの集会場 など |
老人福祉施設 | デイサービスセンター・小規模多機能施設・老人福祉センター など |
障害者支援施設 | 公共の障害者支援施設・民間の障害者支援施設 |
児童福祉施設 | 保育所 など |
その他の公共施設 | 保健センター・特別支援学校 など |
宿泊施設 | 公共の宿泊施設・民間の宿泊施設 |
宮城県仙台市が独自で設けている避難所です。要配慮者の内、指定避難所での生活が困難な出産間近な妊婦、産後間もない産婦、新生児を受け入れるための避難所を指します。仙台市内の大学、短期大学、看護専門学校が周産期福祉避難所として指定されています。
施設の指定はされているものの、周産期福祉避難所は災害時に必要に応じて開設(最短で発災後3日目以降)される二次的避難所です。そのため、指定の施設を災害発生当初から避難所として利用することはできません。
まず指定避難所へ避難後、指定避難所で相談を受けた保健師などが周産期福祉避難所への入所が必要と思われる方を選定し、入所対象者を決定します。周産期福祉避難所の受入体制が整ったあとに、入所対象者が指定避難所から周産期福祉避難所へ移送されます。
避難場所は災害の種類、または規模に応じてさまざまな種類があります。おもな避難場所の種類を解説します。
一時避難場所(いっときひなんばしょ)とは、津波や洪水、延焼火災など命に危険のある災害から、一時的に身を守るために避難する場所のことです。災害時の地域住民の集合場所としての役割も果たします。具体的には小学校のグラウンド、公園、神社といった小さめの公共スペースが一時避難場所に指定されることが多いです。
広域避難場所とは、災害の規模が大きく一時避難場所や地域全体が危険になったときに避難する場所です。火災の輻射熱(ふくしゃねつ、熱や火の周りで発生する目に見えない熱で、燃えやすいものの方へ移動する性質がある)から身を守るために、広域避難場所にはおよそ10ha(ヘクタール)以上の広さが求められています。具体的な広域避難場所として、大規模な公園、団地、大学などが指定されています。
発生する災害の種類別に避難場所が指定されている場合もあります。たとえば津波発生時の避難場所として、津波避難タワーやビル、高台に位置する学校や企業の工場、高速道路の階段などが指定されています。
避難所・避難場所のほかにも、市区町村によって様々な施設の指定がなされています。以下はその一例になります。設置有無は地域によっても異なりますので、お住まいの市区町村やオフィスのある地域の避難情報を調べてみてください。
災害発生時に仕事などで外出していた帰宅困難者が、一時的な居場所として利用できるスペースです。設置は行政によって義務付けられているものではなく、「災害時における帰宅困難者支援に関する協定」を締結している企業と行政によって任意で設置・運営されます。命を守る上で特に重要となる水とトイレを利用可能なほか、避難に関する情報をテレビやラジオから得ることができます。東京都の防災ホームページでは、協定を結んでいる企業の一覧を確認できます。
避難所や避難場所に移動する前に、避難するためにその場の人々が集合するための場所です。大規模火災が長引いている場合や、余震が続いている場合などに、一旦様子を見るためにも使われます。集合した人々の安全を確保するため、一定のスペースがある公園や学校のグラウンドなどが指定されています。
買い物客や行楽客、通勤者などの地域住民以外の帰宅困難者を受け入れる施設に「一時滞在施設」があります。避難所で地域住民以外も受け入れをしてしまうと、生活再建拠点の必要な地域住民を受け入れられない、避難所が足りないといった問題が発生してしまいます。そのため、避難所の利用対象は地域住民に限定し、地域住民以外を対象として一時滞在施設が設けられています。
地震や土砂災害、台風や豪雨といった災害によって住宅への被害が拡大すると、時間経過にともない避難所へ避難する避難者の数が増加する傾向にあります。熊本地震における熊本市の避難所、避難者数の推移によると、4月15日の災害発生時避難所の避難者数は約2万2,000人、発生後しばらく経つと数千人まで減少するものの、翌日4月16日には避難所の避難者数は11万750人まで増加しています。自宅の倒壊などにより生活が困難になった避難者が、生活拠点として避難所へ避難するケースが増加したと考えられるでしょう。他の震災でも、避難所の避難者数のピークは阪神大震災では神戸市の人口の約16%、新潟中越地震では小千谷市の人口の約62%にも及びました。
内閣府では、指定避難所および避難場所のピクトグラムによる災害種別図記号の標準化と一般住民への周知を行うように各自治体に通知しています。指定避難所や避難場所は自治体のホームページやハザードマップ上で確認できますので、住まいのある地域の避難所や避難場所を認識し、災害時の適切な避難につなげましょう。
WRITER
広報:
空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
空飛ぶ捜索医療団"ARROWS"ジャーナル編集部です。災害に関する最新情報と、災害支援・防災に関わるお役立ち情報をお伝えしています。
SUPPORT
ご支援のお願い
支援が必要な人々のために
できること
私たちの活動は、全国のみなさまのご支援・ご寄付によって支えられています。
一秒でも早く、一人でも多くの被災者を助けるために、空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”へのご寄付をお願いいたします。