JOURNAL #3742024.11.06更新日:2024.11.08
災害が発生すると、多くの人々が甚大な被害を受け、必要な支援を受けるための重要な手続きが求められます。その中でも欠かせないのが「罹災証明書」です。この証明書は、被害を受けたことを公式に証明するものであり、さまざまな支援を受けるための第一歩となります。
この記事では、罹災証明書の定義から取得方法、具体的なメリットに至るまで詳しく解説します。災害時に慌てないためにも事前に情報を確認し、迅速な対応につなげるための準備を整えましょう。
はじめに、罹災証明書の定義や役割、被災証明書との違いについてみていきましょう。
罹災証明書は、災害によって「住居に生じた被害」を証明するために、各自治体が発行する公的な書類です。この証明書は、被災者が支援を受ける際に必要とされ、特に被害の程度に基づいて適用される支援内容が決まることが一般的です。
証明書の発行には、自治体の認定調査を経て被害の度合いを判断されます。発行までには時間がかかることもありますが、急を要する場合には、罹災証明書の代わりに即日発行される「罹災届出証明書」を利用することが可能です。
「罹災証明書」と似たもので、「被災証明書」というものがあります。どちらも災害時に発行される書類ですが、役割や適用範囲が異なります。罹災証明書が住家の被害を証明するのに対し、被災証明書は車や家財など、住家以外の被害を証明するために発行されます。
また、罹災証明書は支援や税の減免申請などで必要となる一方で、地震保険などの民間保険においては必須ではありません。いずれにしても罹災証明書や被災証明書などを併用することで、さまざまな支援策を活用しやすくなります。申請に際してはお住まいの自治体に問い合わせるとよいでしょう。
罹災証明書を発行してもらうためには、自治体が災害後に実施する「被害認定調査」を受けることが不可欠です。ここでは、罹災証明発行に必要な調査と認定基準について詳しく解説します。
被害認定調査は、災害後に自治体が実施する調査であり、罹災証明書を発行するために欠かせない手続きです。この調査は、被災した市区町村が主体となり、研修を受けた職員が実施します。
最初に1次調査が行われ、主に目視により住家の外観損傷状況や傾斜などが確認・評価されるのが一般的です。判定に疑問や不服がある場合には、2次調査を申請することで内部の損傷や詳細な被害確認が行われます。
被害程度は「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」「準半壊」「準半壊に至らない(一部損壊)」に分類され、損害基準判定は以下のとおりです。
損壊が甚だしく、補修により再使用することが困難なもの
半壊し、柱等の補修を含む大規模な補修を行わなければ当該住宅に居住することが困難なもの
損壊が甚だしいが、補修すれば元通りに再使用できる程度のもの
■災害に係る住家の被害認定
被害の程度 | 全壊 | 大規模半壊 | 中規模半壊 | 半壊 | 準半壊 | 準半壊に至らない(一部損傷) |
損害基準判定 | 50%以上 | 40%以上50%未満 | 30%以上40%未満 | 20%以上30%未満 | 10%以上20%未満 | 10%未満 |
調査では、住家の主要な構成要素の被害割合も考慮されており、正確な記録が求められます。場合によっては、被害状況を証明するための写真提出も必要です。
被害の判定結果に基づいて受けられる支援内容が異なり、自治体や状況によって異なるケースもあるため、各市町村が提供する情報をチェックすることが肝要です。
参照:内閣府 防災情報のページ|被害認定に関するQ&A
災害後に行われる調査には「被害認定調査」のほかに「応急危険度判定」「被災度区分判定」「被災宅地危険度判定」などが挙げられます。各調査は、それぞれ固有の目的と調査主体をもち、被災者支援や地域の安全確保、迅速な復旧支援に向けて重要な役割を担っています。以下に、これらの調査の違いを分かりやすくまとめてみました。
種類 | 目的 | 調査主体 | 内容 | 得られメリット |
---|---|---|---|---|
被害認定調査 | 罹災証明書発行を通じ、被災者が補助金や支援を受けられるようにする | 研修を受けた市区町村の職員等 | 建築の損傷度合いを認定(全壊から一部損傷まで) | 補助金や支援の申請に必要な罹災証明書を取得できる |
応急危険度判定 | 地震直後の倒壊や部材落下による二次災害の防止 | 応急危険度判定士(行政職員または民間の建築士等) | 建築の安全性を判定し、安全・危険を判断する | 災害直後に危険な建物に入ることを避け、住民の安全を確保する |
被災度区分判定 | 建物の修復の必要性や程度を判定し、迅速な復旧を支援する | 被災建築物の所有者からの依頼で専門家(建築構造技術者等)が判定 | 損傷程度と修繕の可否を判断し、必要な復旧作業を検討する | 修繕の判断が早まり、復旧業務が効率的に進む |
被災宅地危険度判定 | 宅地の地盤被害や二次災害のリスクを評価 | 市区町村が、被災宅地危険度判定士(宅地判定士)を派遣 | 宅地の変状項目を判定して危険度を分類する | 安全確保のための指針となり、復旧計画の策定に役立つ |
なお、被災直後に実施される応急危険度判定では、調査後、「危険(赤)」「要注意(黄)」「調査済(緑)」のステッカーが建物に貼られます。
注意してほしいのは、『危険』と判定されても、被害認定調査で『全壊』と評価されない場合があることです。たとえば、隣家や山の斜面が崩れるリスクがあるために、赤ステッカーが貼られた場合でも、住宅そのものに被害がなければ、被害認定調査では「半壊に至らない」と判断されることもあり得ます。
このように、各調査には特有の目的があるため、評価や判定内容に応じた適切な対処法を考えることが大切です。質問や疑問がある場合は、調査の実施者や専門家に相談することをおすすめします。
ここでは、実際に罹災証明書の発行によって、その後受けられる支援についてみていきましょう。
罹災証明書は、支援金申請や税の減免など、災害後に受けられるさまざまな視点の際に必要となります。罹災証明書があることで受けられる9つの公的支援について以下の表にまとめました。
なお、こちらの情報は内閣府「被災者支援に関する各種制度の概要(令和6年6月1日現在)」をもとに作成しています。
支援制度(関連法など) | 窓口 | 支援内容 | 誰に・条件 | 補足 |
---|---|---|---|---|
①応急修理制度(災害救助法) | 自治体 | ・自宅修理費用の一部支援(最大70.6万円、準半壊世帯34.3万円) | 準半壊以上の罹災証明をもらった世帯 | 修理完了後派仮設住宅や公費解体の利用ができないため、業者に修理を依頼する前や支払い前に自治体に相談すること |
➁応急仮設住宅(災害救助法) | 自治体 | ・原則最長2年間(特定非常災害では延長の可能性あり) ・家賃は無料(光熱費は負担が必要) | 居住できる家がなく、自分の資力では住宅を確保できない人 | 半壊や二次災害の危険、ライフライン途絶などでも入居可能性があるため、自治体に相談すること |
③災害援護資金貸付(災害弔慰金法) | 自治体 | ・借入は最大350万円(全壊は250万、半壊は170万、家財1/3の損害150万) | 災害で負傷したり家財の損害、住宅の全半壊などがある人(所得条件あり) | 返済期間は10年だが、当初3年(例外5年)間は、返済措置で利子もかからない |
④基礎支援金(被災者生活再建支援法) | 自治体 | ・全壊世帯・解体世帯・長期避難世帯は100万円・大規模半壊世帯は50万円 | 左記各世帯※解体世帯は半壊以上や敷地被害で建物を解体した世帯のこと(単身は3/4の金額) | 所得条件なくお金の使い道にも制限がない |
⑤公費解体制度(環境省の補助制度) | 自治体 | ・建物を無償で解体・撤去 | 原則全壊建物が対象(ただし特定非常災害などでは半壊以上の建物への拡大もあり) | 所得条件がなく、自費での解体後に費用償還の運用もある自治体の発表情報を確認する) |
⑥被災ローン減免制度(自然災害ガイドライン) | 弁護士会に相談 | ・預貯金500万円・家財保険金・各種支援金などを手元に残しローンの減額・免除の可能性がある・ブラックリストに載らない | 災害救助法が適用された災害の影響で住宅ローンなど債務の支払いが困難になった人 | 自己破産や返済交渉の前に弁護士やメインバンクに相談すること |
⑦加算支援金(被災者生活再建支援法) | 自治体 | ・建設・購入に200万円・修理に100万 ・民間貸借に50万円 ※中規模半壊は上の各半額がもらえる | 基礎支援金をもらった世帯、又は中規模半壊世帯が住宅再建するとき(単身は3/4の金額) | 一度転居したあとに再建・修理した場合も左記の金額まで支給される |
⑧災害復興住宅融資(高齢者返済特例も) | 住宅金融支援機構 | ・建設・購入の融資は半壊以上の世帯 ・修理(補修)の融資は一部損壊以上の世帯 | 住宅の修理費用や再建費用を借りたい人 | 借入時60歳以上なら不動産の担保んして利息のみを返済する高齢者返済特例もある |
⑨雑損控除(所得税・住民税減免) | 税務署に確定申告 | ・その年の所得の10%を超える部分の損害額が所得から控除される(医療費控除に似た制度) | 住宅・家財・車両・お墓などの損害や災害関連費の支出がある人 | 家財の損害は金額が不明でも推定規定があるためHPを確認する |
①~③は「災害直後」、④~⑥は「少しあと」、⑦~⑨は「その後」、といったように段階ごとに進めていくことで、手続きをよりスムーズに行えます。
支援内容については、被災者支援を専門とする永野海弁護士が作成した「被災者支援チェックリスト」が大変参考になります。困りごとの種類ごとに分類された情報がまとめられており、災害救助法や被災者生活再建支援法適用時のリストと災害救助法非適用時のリストがそれぞれ用意されています。各種資料はダウンロード可能ですので、必要な支援の確認に役立ててください。
罹災証明書は、民間での支援を受ける際にも役立ちます。以下に、代表的な支援内容を記載します。
罹災証明書があれば、無利息や低金利での融資を受けやすくなります。詳細は各金融機関に確認が必要です。
私立学校などで授業料の減免措置が適用される場合があります。
罹災証明書は地震保険の申請には不要ですが、一部の火災保険の申請に必要な場合があります。
上記の内容を活用し、罹災証明書の取得を通じて必要な支援を受けられるよう、手続き方法や要件に注意してください。
災害時には、罹災証明書の取得が支援を受けるための重要な第一歩です。被災者が支援制度について知らなかったため、「必要なサポートを受けられなかった」といったケースは避けなければなりません。避難先の自治体で罹災証明の申請手続きが可能な地域もありますので、ぜひ確認して活用してください。
ここでは、発行手続きの流れや必要書類についてみていきましょう。
まず、罹災証明書を申請する手続き、その流れをご紹介します。
市区町村の窓口(市税課や税務課課税係など)に罹災証明書の発行申請を行います。被災者本人が申請するのが基本ですが、都合がつかない場合は代理人が委任状を持参して申請できます。
市区町村の調査員が現地で行う調査を行います。内閣府が定める「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」に基づき、住宅の外観や構造の損傷を確認するものです。必要に応じて内部も調査されることがあります。
調査が完了し、被害の程度が認定されると、罹災証明書が発行されます。急ぎの場合には、即日発行可能な「罹災届出証明書」を利用することが可能です。
罹災証明書の申請期限は自治体によって異なり、多くの場合、災害発生から約3ヵ月とされています。早めの申請が推奨されますが、申請期限が1ヵ月以内のところや6ヵ月以上の猶予がある場合もあるため、お住いの自治体に確認が必要です。
罹災証明書の申請時に提出する必要がある書類は、自治体によって異なる場合があるため、事前に確認してください。一般的に必要な書類と準備すべきものは以下のとおりです。
各自治体ごとに書式が異なります。市町村役場の窓口やWEBサイトから入手して申請書に必要事項を記入のうえ、役所に提出します。
本人確認用の書類(マイナンバーカード、運転免許証、健康保険証など)が必要です。紛失した場合は市区町村に事前に相談します。
損壊状況の写真は罹災証明書の申請に必須ではありませんが、後の手続きをスムーズに進めるために撮影が推奨されます。特に、「半壊に至らない」該当物件に適用される「自己判定方式」で申請する場合や、取り壊し後のトラブルを防ぐためには、外観や損傷箇所の写真が有効です。
水害の場合は、4方向(東西南北)や浸水の高さ、屋外設備(例:エアコン室外機)の損傷も記録しておくと役立ちます。しかし、危険な状況での撮影は避け、必ず安全な場所で行うことが重要です。
住宅地図の写しも必ずしも必要ではありませんが、調査員が現地を確認しやすくなるため、可能であれば住宅地図も準備しましょう。
なお、住家の火災による損壊については手続き先や書式が異なるケースがあるため、自治体の窓口やホームページで確認しましょう。
罹災証明書は、生活再建を円滑に進めるために必要な重要な書類です。被災後は大変な状況の中での手続きとなりますが、早めに必要書類を整え、自治体のサポートを活用することが大切です。
ここでは、罹災証明書に関する手続きや注意点を解説します。災害による支援を受けるために必要な情報を事前に把握し、適切な対応を行いましょう。
罹災証明書の取得が遅れると支援を受けられなくなる可能性があります。解体や修繕を早く進めたい場合は特に、その前に申請を行うことが肝要です。
罹災証明書の有効期限は、被災状況や自治体によって異なるため、必ず自治体のホームページで確認しましょう。申請期限は原則3ヵ月以内ですが、令和6年能登半島地震のように、災害規模や状況によって発行申請期間が延長される場合もあります。延長期間は決まり次第、周知されるので、最新情報を常に確認することが大切です。
罹災証明書は、地震保険の請求に原則必要ありません(一部火災保険には必要な場合あり)。そのため、地震保険については、罹災証明書の発行を待たずに申請が可能です。また、罹災証明書は被災ローン支払いの減免に使うことが可能ですが、提携している銀行機関によって異なるため、事前に確認が必要です。
なお、住家に火災保険をかけていても地震保険を付けていないケースも少なくありません。被災したのちに後悔しないよう、被災ローン支払いの減免に関する内容も含めて保険会社に確認しておくことが重要です。
被害認定調査の結果、「罹災なし」と判断されたり、予想した被害設定に判定されなかったりすることがあります。判定に疑問を感じた場合、再調査や二次調査を申請することができます。
また、認定されなくても、被災後の状況に応じた支援制度を探すことも重要です。たとえば、内閣府の「被災者支援に関する各種制度の概要」には、役立つ情報が多数掲載されています。被害状況や個々のニーズに応じた多様な支援策が紹介されているため、参考にしてください。
適切な手続きを進めることで、再建への道がより明確になります。分からないことがあれば、公的機関や専門家に相談することが重要です。
罹災証明書は、災害によって受けた住家の被害を公式に証明する重要な書類であり、支援を受けるための第一歩です。罹災証明書の意義や取得方法を理解し、適切な手続きを経て取得することで、被災者は住宅修復に必要な費用や貸付などの支援を受けることが可能となります。
万が一のときに備え、災害発生時に冷静に対応できるよう事前に必要な情報を把握しておくことが大切です。もしも被災した際に、必要な手続きをスムーズに進められるよう必要な情報を確認しておきましょう。
【参照】
内閣府|罹災証明書
内閣府|災害に係る住家の被害認定
内閣府|被害認定に関するQ&A
内閣府|応急危険度判定と住家の被害認定調査の関係について
被災宅地危険度判定連絡協議会|被災宅地危険度判定実施要綱
一般社団法人 日本建築業連合会|地震被災後の建築物の判定
日本建築士事務所協会連合会|震災復旧のための震災建築物の被災度区分判定基準および復旧技術指針講習会
YAHOO!JAPAN|防災手帳|生活再建罹災証明書と被災証明書
SBI新生銀行|住宅ローン返済中に自然災害に遭遇!返済はどうなる?
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