JOURNAL #3822024.12.20更新日:2024.12.20

災害ケースマネジメントとは?“個人に寄り添う”新たな視点からの支援について解説

災害が発生したときに受けられる支援には、災害対策基本法や災害救助法など、法律や行政の取り決めに基づいているイメージがあります。しかし、被災者の自立を支えるためには、より個人の状況に注目した支援が求められます。この必要性に対し、『災害ケースマネジメント』の概念が生まれ、具体的に実施されるようにもなりました。今回の記事では、災害ケースマネジメントの概要と実施までの流れ、事例について解説します。

災害ケースマネジメントとは

災害ケースマネジメントとは、災害による被災者の生活に焦点を当てた、支援のための取り組みです。災害時、被災者への支援は国や行政からもおこなわれますが、災害ケースマネジメントには

  • 被災者一人ひとりに寄り添い、生活全体における状況を適切に把握する
  • ケースごとの課題に合わせ、情報提供や人的支援を組み合わせる
  • 一人ひとりの状況に応じた支援計画を策定する
  • 被災者の主体的な自立と生活再建のプロセスを支援する

という特徴があります。このように災害ケースマネジメントとは、災害時の食料や住宅、医療における支援や補償というよりは、通常時の生活に戻るための再建支援といえるでしょう。

災害ケースマネジメントの効果

被災者一人ひとりに寄り添った災害ケースマネジメントは

  • 災害関連死の防止
  • 避難所以外への避難者への対応
  • 支援漏れの防止
  • 被災者の自立・生活再建の早期実現、地域社会の活力維持への貢献

など、被災後の自立と復興に多くの効果をもたらすと考えられています。

災害関連死とは、地震や家屋倒壊などによる直接的な被害ではなく、発生後の避難所生活による体調不良や過労など間接的な原因で死亡することを意味します。東日本大震災や熊本地震でも災害関連死が認められ、死者全体の過半数を占めたと報告されました。

そこで災害ケースマネジメントを適用することにより、高齢者や障がい者(児)、生活困窮者の把握が進められ、災害関連死のリスクが高い被災者の支援ができるようになります。

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また、災害時は必要に応じて地域が用意する避難所で生活することとなっているものの、2020年以降は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、在宅や親戚、友人の家、ホテルなど、避難所以外への避難も選択肢となりました。

しかし、こうした在宅避難や2次避難など新たな避難所の選択肢は、難病や障害を理由に避難所での生活が難しい被災者にも役立つ一方、避難所のように情報収集や物資の受け取りがスムーズにおこなわれないというデメリットもあります。

災害ケースマネジメントでは、避難所以外で生活する被災者の生活も調査し、必要な情報や物資を提供する支援をおこなっていきます。これにより、避難所以外での避難者への対応がスムーズに進められます。

さらに災害ケースマネジメントは、一人ひとりの生活を調査することで、支援制度の申請手続きが困難な被災者にも必要な支援を提案できます。これらの効果により、被災者の自立・生活再建が早期に実現され、地域社会の活力維持にも役立てられるため、災害ケースマネジメントは今後災害時の復興を早めるために欠かせない取り組みとなるといわれています。

日本における災害ケースマネジメント

災害ケースマネジメント自体は、アメリカを発祥とする取り組みです。2005 年のハリケーン・カトリーナによる甚大な被害を受け、被災者支援のために初めて実施されたと報告されています。

災害ケースマネジメントが日本で重要視されたのは、2011年3月の東日本大震災です。宮城県仙台市では、5万世帯以上が大規模な損壊の被害を受け、被災者は応急仮設住宅での生活を余儀なくされました。

当初、仙台市は被災世帯の課題を把握するため、入居者を対象に書面アンケート調査を実施しましたが、書面調査のみでは入居者の生活実態や悩みを把握することができませんでした。そこで同市は各世帯を個別に訪問し、問題の明確化と機関との連携を進め、早期の生活再建に貢献しました。

この経験は、2016年の熊本地震や鳥取県中部地震にも活かされ、熊本地震では地域支え合いセンターの設置、鳥取県中部地震では災害ケースマネジメントの体制構築など、被災者支援がより強固な形に変わっています。

内閣府でも地方公共団体におけるこれらの取り組みの拡充を支援しており、2021年5月には防災基本計画において、被災者が自らに適した支援制度を活用できる環境を整える旨を記載しました。災害ケースマネジメントへの理解と認識は地方から国まで広がり、今後も整備や発展が進むとみられます。

災害ケースマネジメントの流れ

災害ケースマネジメントを実施するには、災害発生後、以下の流れで進められます。

① 既存情報の整理、訪問調査の実施
② ケース会議の開催
③ 支援計画の作成
④ 支援の実施

しかし、実施に至るまでには平時からの確認と準備が必要です。特に実施体制を明確にし、業務分担や活用する予算事業等の確認、整理、アウトリーチの実施方法・体制の整備、災害発生後の部局連携手段の確認、アセスメントシートや支援記録の様式の作成など、事前に入念な準備をおこないます。災害発生時は状況によって、特定の専門業者や機関が多忙となるため、その場合の連携体制の確認も欠かせません。

①既存情報の管理、訪問調査の実施

アウトリーチとも呼ばれる段階です。災害発生時に支援窓口に行くことを困難とする被災者が多いことを考慮し、専門機関や業者が訪問や見守りをします。訪問の際には被災者の状況を聞き、生活を再建するために専門業者からの支援が必要かを把握します。これにより、支援が必要な被災者や一人ひとりの課題を確認することができます。

アウトリーチには、市町村の福祉部局や福祉関係機関などが管理する情報をもとに支援対象となる世帯を選定するなど、平時からの情報収集が不可欠です。

②ケース会議の開催

アウトリーチで得られた被災者の状況を整理し、継続的な支援が必要な個々の被災者に対し、課題に応じた支援方針や方策を検討します。

これは行政機関の管轄となりますが、防災部局や医療・保健・福祉部局、市民部局、税務担当部局、住宅担当部局、農林水産・商工担当部局、教育担当部局などの関係機関の参加も求められます。それに加え、地域包括支援センター、基幹相談支援センター、生活困窮者自立相談支援への外部委託や連携も必要です。

③支援計画の作成

ケース会議の結果から、支援計画を作成します。決定事項に基づいた支援がおこなわれる形となりますが、その前に専門機関のアドバイスや意見も踏まえ、適切な支援手段につなげていきます。 

支援をおこなうには、医療や土木、福祉などの専門業者との「つなぎ」が欠かせません。支援を計画する段階で「つなぎ」のための調整のほか、被災者との同行や意見交換などもおこなわれます。

④支援の実施、情報連携会議

実際に支援をおこないつつ、今後の反省点を見出すためのプロセスです。県・市町村の関係部局の職員、地域支え合いセンター等の支援拠点の職員、関係機関などが参加し、被災者の全体状況についての情報共有をおこないます。

災害ケースマネジメントの事例

このように、災害ケースマネジメントは緻密かつ入念なプロセスを持って実行されます。ここでは、日本での災害ケースマネジメントの事例をご紹介します。

東日本大震災(2011年3月11日)

災害発生に際し、盛岡市にて同年3月21 日にまちづくり団体のリーダーの集まりで『一般社団法人 SAVE IWATE』が発足し、被災者支援が開始されました。

その後、

  • 盛岡市内に避難所を開設、盛岡市外からの広域避難者の受入れ支援を開始
  • 避難所には保健師などの職員を派遣し、避難者の健康・心の相談などの健康管理を推進
  • 広域避難者を対象に復興支援センターを開所

などの支援がおこなわれました。

ここでの支援は、すでに盛岡市が避難者名簿(全国避難者情報システム)に記載された個人情報を共有し、その同意までなされた上でのことでした。また個別訪問や窓口相談、交流サロンなども順調に進められ、被災者の情報収集や手続きに役立ったとされています。

鳥取県中部地震(2016年10月21日)

鳥取県中部地震では、経済的または家庭内の事情を理由に、被災者の問題把握や生活再建が進んでいないという現状がありました。

その状況を受け、災害ケースマネジメントの手法が活用され、鳥取県災害福祉支援センターの設置や専門誌業団体との連携など、規定や制度化が図られました。

結果として

  • 2022年10月に県、市町村、県社協、専門士業団体など、「鳥取県災害ケースマネジメント協議会」を設立
  • 2023年3月に、同協議会で「鳥取県災害ケースマネジメントの手引き」を作成

など、災害ケースマネジメントへの先進的な取り組みが全国的に注目されることとなりました。

令和6年能登半島地震(2024年1月1日)

2024年1月に発生した能登半島地震では、被災者の状況に合わせた具体的な支援が実行されました。

  • 福祉:障害を持つ子どもを抱える高齢夫婦に対し、福祉課の渉外担当やNPOによる福祉避難所への入所支援や継続訪問、仮住宅の申請支援
  • 医療:身体に不調がある高齢者に対し、公立病院の医師や理学療法士による自宅訪問や健康相談
  • 住宅関係:自宅損壊の修繕費用に対し、建築家協会による個別相談、技術系NPOへの連携

石川県でも弁護士や行政書士、ファイナンシャルプランナーなどの専門職からなる専門職・アドバイザー事業や土木業者との関係性が深められ、県を挙げての支援が注目されました。

まとめ

災害が起こると、当面の居宅スペースや食料、医療資源などを提供するために行政による支援はもちろん必要不可欠ですが、通常の生活に戻るための支援も同じように大切です。そしてそれを実現するためには、被災者一人ひとりの生活の悩みに沿った支援が求められます。災害が起こるたびに課題や改善点が見つけられ、徐々に対応可能な範囲も広がっているため、一層の期待が高まるでしょう。

災害ケースマネジメントは、このような細かな支援をよりスムーズにおこなえるメリットがある一方で、自治体だけですべてをカバーするのは難しく、NPOなど外部支援団体との連携も重要なポイントです。空飛ぶ捜索医療団は、珠洲市と連携し、戸別訪問などを通して地域の健康を守り、家電支援で生活再建の支援をおこなっています。

災害ケースマネジメントの取り組みは、都道府県や地域で広がってきています。いざという時のために、ご自身の地域でどのような支援が受けられるのか、事前に調べておくとよいでしょう。

【参照】
内閣府 防災情報のページ|災害ケースマネジメント実施の手引き
鳥取県の危機管理|被災者の生活復興支援~災害ケースマネジメント~
内閣府 防災情報のページ|災害ケースマネジメントに関する取組事例集
高知県|【高知県】災害ケースマネジメントの実施体制に係る市町村向け手引き(Ver.1)
厚生労働省|内閣府における災害ケースマネジメント等の被災者支援の取組について

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9月に開催されたお茶会イベントの様子

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