JOURNAL #4242025.04.11更新日:2025.04.14
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”には、医師、看護師、ロジスティシャンのほかに、レスキュー部隊として救助犬の隊員もいます。ハルクと夢之丞が2014年8月の「広島土砂災害」をはじめ、2015年4月の「ネパール地震」、2016年4月の「熊本地震」など国内外の災害時に出動。現在は、ロジャーが先代救助犬の後を継ぎ、2024年1月1日に能登半島を襲った「令和6年能登半島地震」には隊員として被災地に駆け付け、ハンドラーとともに行方不明者の捜索活動に奔走しました。
その後もロジャーは空飛ぶ捜索医療団のミッションでもある「一人でも多くの命を救う」ためにさらなるスキルアップを目指し、日々訓練を重ねています。救助犬はどのような能力を持ち訓練を行っているのか、そしてロジャーのこの1年間の挑戦について、ハンドラーの大西純子に話を聞きました。
―― 災害救助犬は、どのように育成されているのでしょうか?
今、日本にいる災害救助犬の多くがNPOなどの民間の団体や個人が救助犬の育成や現場出動などの活動を行っています。そのほとんどはボランティアによる活動ですが、そのなかでもピースウィンズが運営する空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”と日本レスキュー協会の2団体は専任業務として救助犬の育成と捜索活動にあたっています。またここ数年は、警察や自衛隊などでも通常の警備犬や警察犬の訓練とは別に、災害現場での行方不明者を探すトレーニングも行うようになり、実働する救助犬の数は増えてきています。
―― 災害現場では、どのような指揮系統で救助犬による捜索は行われるのでしょうか?
民間の救助犬団体の場合は、防災協定などを締結している自治体からの要請を受けて出動したり、消防や警察などと連携協定を結んでいるところに帯同したりする流れが一般的です。空飛ぶ捜索医療団は早いタイミングで現地に入ることが多いため、直接、災害対策本部や、捜索救助の指揮本部に入ってその指揮下のもと、割り振られたエリアの捜索活動を行うことが多いですね。
昨年の能登半島地震でも、1月2日には現地に入っていたのでまずは奥能登圏消防本部に行き、住民からの救助要請の電話が鳴りやまないなか、消防の人たちに帯同して捜索にあたりました。その後、3日に石川県と協定を結んでいる日本レスキュー協会が指揮本部に入って救助犬による捜索のリエゾン(調整)の役割を担ってくれて、その後、集まってきた各団体と連携しながら捜索が進められました。
災害地における捜索では、一秒でも早い発見と救助が求められると同時に、漏れがないように広域を捜索していかなければなりません。そのためには、個々の団体がそれぞれに立ち回るのではなく、連携して動くことが必要です。
欧米に比べて日本はまだ災害救助犬の制度や仕組みづくりが十分に確立されていません。各団体や個人の判断で出動しているのが現状ですが、それでも大きな災害があるごとに救助犬が出動し、ひとつずつ成果を積み重ねてきた結果、その存在と能力は着実に求められるようになり、捜索現場での活動においても官民を含めた各団体の連携はかなりスムーズに行われるようになってきました。
今回の能登半島地震においてもロジャーを含めた救助犬で数名の行方不明者を発見しました。残念ながらご遺体で発見された方もいますが、ご家族のもとに帰すことができたのは災害救助において重要な役割を果たせたのかなと思っています。
―― 救助犬に求められる能力には、どのようなものがあるのでしょうか?
救助犬の捜索には、大きくふたつあります。ひとつは「特定の人」の捜索。もうひとつは、「特定の場所で姿が見えない不特定の人」を捜索する活動です。
前者は、警察犬なども得意としてる捜索ですが、たとえば、犯人や行方不明者など、証拠物品があってそのにおいを嗅がせて、それと同じにおいの人を探したり、なかには麻薬探知犬や爆薬探知犬など特殊なもののにおいに反応するように訓練された警察犬もいます。
空飛ぶ捜索医療団で時折要請があるのが、特定の人のにおいを追っていく「トレーリング(Trailing:臭跡を辿る)」という捜索です。たとえば、地域の認知症などにより特定の場所からいなくなった人を探します。その人のにおいついたものを借りて犬に嗅がせ、その人が通った道に残ったにおいをたどっていきます。
―― 一方の「姿が見えない不特定多数の人」を探すのが災害救助犬の仕事ですね。
はい、地震などで倒壊した家屋のなかに閉じ込められた人や、土砂災害などで生き埋めになった人などを探すのが災害救助犬です。
たとえば、人の声かけに反応できない、人が入れないような瓦礫のなかに「誰かはわからないけれども人のにおいがここからするよ」と私たちに知らせてくれることで、行方不明者の発見と救助につなげるのが救助犬の役割になります。
―― においを嗅いだことのない人を探す、ということですが、その場合、災害救助犬はなにをもとにそこに行方不明者がいると判断するのでしょうか?
人間は生きている限り、呼吸をします。訓練された災害救助犬は、その呼気のにおいや体臭など、本当にあらゆるにおいを分析して、周りにいる人たちとは異なる人のにおいをかぎ分けることができます。犬の嗅覚がすごいと言われるのは、かすかなにおいを拾えるだけでなく、さまざまなにおいを分子レベルまで区別ができるからです。
人間にも嗅覚はあり、食べ物や香水、芳香剤などのにおいはわかりますよね。犬はそれぞれのにおいをさらに酸素や二酸化炭素、アンモニア、窒素、水素など分子単位で区別ができ、あらゆるにおいがある中で、特定のにおいに執着させることができます。
救助犬訓練では、“ヘルパー”と呼ばれる擬似遭難者役の人が瓦礫のなかに隠れて、救助犬に探してもらいます。瓦礫のなかで目には見えないけれど、瓦礫の隙間から出てくる体臭や人が吐き出す二酸化炭素のにおいを探知すると吠えるなどのサインをだして私たちに知らせてくれるように訓練していきます。
―― たとえば、残念ながら息を引き取ってしまった方、心肺が停止して呼吸していない行方不明者も見つけることはできるのでしょうか。
災害地での行方不明者の捜索には、「生存者(生体)」だけでなく、「ご遺体」を探し発見することも重要な任務になります。ただ救助犬にとって両方を探すには、それぞれの訓練を行う必要があり、ご遺体を捜索する場合は「HRD(遺体臭気捜索訓練)」という、また特殊なトレーニングを行なう犬もいます。
また、生体とご遺体の臭気は異なり、両方の捜索ができたとしても、実際の現場では救助犬が混乱しないように、そのためハンドラーのコマンド(指示)やハーネスをつけるなどで今は「生体臭気を探して」と対象を区別し、次の捜索では「遺体臭気を探して」とモードを切り替えてあげるなど、どちらかに集中させることが重要になってきます。
―― 救助犬の能力だけでなく、ハンドラーの観察力によっても捜索の精度は変わってしまう
はい。救助犬は、人間が入れない瓦礫や土砂崩れで生き埋めになった、見えない人を探すことが求められます。そうした救助犬がかすかなにおいをかぎ分けていく能力とともに、ハンドラーは犬のボディランゲージを読み取る力を身につけていなければなりません。
だから救助犬の試験などでは救助犬の能力だけでなく、ハンドラーとの関係性なども重要な評価項目になっています。ある資格にその犬が合格してもハンドラーが変わればその資格はまた1から受ける必要があるほどです。
―― なるほど、ハンドラーとの信頼関係がなければ、捜索は成り立たないのですね。救助犬の資格には、どのようなものがあるのでしょうか?
日本では公的な資格はなく、民間が主催しているものや、それぞれの団体で認定しているものがいくつかあります。そのなかでも広く知られているのが、一般社団法人ジャパンケネルクラブ(JKC)が主催する認定試験と、特定非営利活動法人 救助犬訓練士協会(RDTA)が日本支部となるIRO国際救助犬試験です。
海外の場合、災害現場の支援体制はより制度化されており、救助犬などの出動にも基準が設けられ厳格化されています。ある一定レベルのスキルを持った救助犬とハンドラーペアが活動します。そのなかでヨーロッパ・アジアに広く認知されているのが国際救助犬連盟(IRO)が認定する救助犬資格です。
このIROの認定救助犬になるためには、3段階の救助犬試験を合格し、さらに「ミッション・レジネスト・テスト(MRT)実働想定試験」と呼ばれる国内では36時間5現場捜索という実災害さながらの厳しい試験があります。昨年の11月に日本では初となるIRO公認のMRTが長野県富士見町にあるRDTA八ヶ岳救助犬訓練センターで開催されました。
試験に合格することは、まちがいなく災害救助犬としてのスキルが向上したことの証であり、資格を得れば活動の幅も確実に広がります。ロジャーと私は、1年前からこの資格をとることをひとつの大きな目標にかかげ、日々のトレーニングを積み重ねてきました。
(後編に続く)
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