JOURNAL #4502025.07.09更新日:2025.08.01
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
大規模災害時の迅速な緊急支援を可能にするため生まれたチーム、空飛ぶ捜索医療団"ARROWS"。しかし、空飛ぶ捜索医療団 看護師として活動する新谷絢子は、いくつもの現場を経験するなかで災害支援の限界を感じていました。
もっと多くの人を救いたい――その思いから地域医療に携わることを選んだ新谷に、災害緊急支援を経験したからこそ分かった、命を救うために「本当に必要なこと」について聞きました。
私たち空飛ぶ捜索医療団"ARROWS"の「一秒でも早く、一人でも多く」の人々を救う。というモットー。この実現のために、空飛ぶ捜索医療団は被災地にいち早く駆けつけ、救助・救命活動を行うための体制を整えています。
確かに、発災直後の超急性期、急性期の支援は非常に重要です。一方で、その時期だけ関わっていては多くの人は救えないとも感じてきました。なぜなら、超急性期と急性期と呼ばれるフェーズは1週間程度。その後の期間の方が圧倒的に長いからです。急性期に助かった尊い命が、その後に亡くなったというケースも沢山見てきました。
医療は重要ですが、多くの人を助けるには、医療だけでは救えない、急性期だけでは救えない。
これが私がこれまでの災害現場で見たリアルでした。
医療に留まらず様々な分野で、中長期的に地域を支える。
それができて初めて多くの人を救えると感じています。しかし同じ人、同じチームが長期にわたって1つの地域に関わり続けるのは容易なことではありません。ですが、たとえ短い期間しか携われなかったとしても、たとえ全てを支援はできなくても、適切なタイミングで、適切な人・場所にハンドオーバーして、命のバトンを繋いでいくことで人の命を救うことに貢献できると思います。
災害は、地域で起こります。
災害発生後の復興の過程で地域のことを知らなければ、ときに支援者本位の押しつけになってしまったり、支援のしすぎが地域の力を弱めて復興の足かせになったり、被災された方々の負担になるということを現場で沢山感じてきました。
大切なことは、一日も早く被災地が日常生活を取り戻すこと。
支援する側は、そのために今必要なことはなにか、自分たちの活動が本当に地域にとって有益なのかを問い続けることが重要です。発災直後から、被災地のレジリエンス強化を見据えて地域と関わることが何より大切だと思っています。そう考えたとき、やはり地域の仕組みや社会制度などを知らなければ、本当の意味で現地で必要とされている支援を見出すことはできません。
ただ災害は、突然起こります。
災害が起きて初めて地域を学ぶのでは遅いですし、発災時にその余裕はありません。
ではどうしたらいいか。
答えは、平時から地域のことを知っておくことに尽きると思います。
これが、地域の普段の姿や課題を知ることのできる「地域医療」に私が取り組む理由です。
地域医療とは、自分が住んでいる地域で、必要なときに医療や健康の支援を受けられる仕組みのことです。そのためには、医療体制の改善だけでなく、保健・福祉・介護・生活支援なども含めた『地域包括ケア』の考え方が大切となります。特に、医療へのアクセスに課題を抱えているケースが多いへき地や離島で注目されています。
こうした背景を踏まえ、空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”が地域医療に携わることの意義を6つ挙げてみます。
これまで様々な地域に携わってきましたが、日本は、自治体によって状況は違えど社会や地域の仕組み、社会保障制度についての根本的な考え方は全国的に同じだと感じています。このため、地域医療に直接携わっていない地域での災害支援においても、普段から地域に根差して活動している経験値は生きると考えています。
災害は、地域に潜んでいる問題、課題を顕在化させます。
平時は誰からも気づいてもらえず、ひっそりとなんとか暮らしてきていた人達が、災害で行き場をなくし、避難所や在宅で発見されたり、全戸訪問などをきっかけに発見されるといった場面も多く見てきました。
平時に地域で困難を抱える人は、災害の時にも要支援者となりうる方々が多いです。だからこそ、普段から地域で困難さを抱える人々はどんな人なのか、それを支える人や場所、制度はなにかを知っておくことで、そうした人々に迅速にアクセスができ適切な支援が提供できます。
災害時は特に、人は目に見える分かりやすいものに支援をしやすくなります。具体的には、病院や避難所に行ける人ばかりに支援が集中しがちです。
しかし本当に困っているのは、病院にも避難所にも行くことができない、SOSを発することすらできない人達です。こうした人々が地域には多くいるのです。私は訪問看護を通して、住民の方々の生活や実態のリアルを知ることができました。
しかし、平時から困難さを抱える人が地域にいるということを認知していなければ、有事にそのような人々に目を向けることは、ましてや支援を届けるのは難しいと感じています。そういう意味で、災害と平時の地域支援は密接に関わっています。
私たちの支援の目的は、他の団体、他の誰かがやっていることを同じように行うことではありません。「一人でも多くの人を救う」ためには、誰もがやらない・目を向けない、でも本当に支援を必要としている人――そうした目に見えない人達に手を差し伸べることにこそ、大きな社会的価値があるのではないかと思います。
今後も、空飛ぶ捜索医療団では日頃から地域の医療を支え、そして災害時にもその地に住む人々の命を助けられるよう、活動を続けていきます。
【関連記事ピックアップ】新谷看護師 地域医療 災害支援ナース
・聞こえない、聞こえにくい人と災害~届かなかった防災無線、避難所アナウンス~
・ブラジルで開催されたデフリンピックの活動報告
・災害医療×地域医療への貢献。目の前の命と心のケアのために。
・YouTube動画でもご覧いただけます▼
看護師 新谷 絢子(しんがい あやこ)
看護学校卒業後、日本医科大学千葉北総病院に勤務。退職同時期に東日本大震災発生。以来、数年災害支援に携わる。病院、看護学校、熊本地震での災害支援、訪問看護での経験を経て2021年9月から現職。
出動実績:新型コロナウイルス緊急支援、デフリンピック支援、ウクライナ避難民医療支援、トルコ・シリア地震、令和5年5月能登半島地震、岩手県大船渡山火事 等
WRITER
広報:
空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
空飛ぶ捜索医療団"ARROWS"ジャーナル編集部です。災害に関する最新情報と、災害支援・防災に関わるお役立ち情報をお伝えしています。
SUPPORT
ご支援のお願い
支援が必要な人々のために
できること
私たちの活動は、全国のみなさまのご支援・ご寄付によって支えられています。
一秒でも早く、一人でも多くの被災者を助けるために、空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”へのご寄付をお願いいたします。