JOURNAL #4692025.09.01更新日:2025.09.01
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
能登半島地震の発災から今日で610日が経過。そして同年9月、追い打ちをかけるように被災地を襲った奥能登豪雨から、もう少しで1年が経過します。
地域の方々と共に歩むからこそ見えた、災害復興地域の課題や取り組みについて珠洲事務所常駐スタッフ、友重智美看護師に聞きました。
珠洲に赴任して以来、看護師として地域医療に携わっています。
具体的には、珠洲総合病院の薬剤師や、珠洲ささえ愛センター(珠洲市社会福祉協議会)の看護師、保健師などと一緒に、地域の集会所やコミュニティスペースを回って、健康相談会を兼ねたお茶会を開くなどの活動をしてきました。
こうした取り組みを実施しているのは、地震からの復興が進んで地元の病院が診療を再開しても、地域医療には震災の爪痕がまだ残っているからなんです。
災害が起こったあとに被災地で多くの人々の命を脅かす「災害関連死」への対策も必要ななか、これまで珠洲の総合病院に通っていたのに来なくなったという患者さんが多くいました。
そのような地域の現状があって、病院のスタッフの方と一緒に地域で患者さんと接する、この活動が始まりました。
しかしそのなかで、病院が再開していているのを知っていても、そもそも行かない・行けない方も多いということが見えてきたんです。
車や公共交通手段といった病院に行く足がなかったり、病院から離れた仮設住宅に入居することになってしまったり、一度受診が途切れたことで通院を再開しにくくなってしまったり。理由はさまざまです。また、通院はできているものの「いつか前の病院に戻るから」と避難先の病院で新たに検査を受けることなく、震災前と同じ薬をずっと飲み続けている人もいます。
それまで地域の健康を支えていた医療の枠組みが、震災をきっかけに崩れてしまっていました。
加えて、これまでは家の再建をどうするかなど生活の課題に必死で、自分の健康の問題まで向き合う余裕がない方もいました。今はようやくある程度の生活が整ってきて、やっと自分自身のことに意識が向き始めているのかなという印象はあります。
だからこそ、健康管理をきちっと自分でするためのアドバイスや指導、必要であれば医療機関に繋げていくためのフォローの手が、とても重要な時期だと感じています。
薬剤師健康相談会は集会所などのある仮設団地を中心に開催してきました。一通り地域を回り終え、7月から2巡目に入ったところです。相談会では「薬」について薬剤師さんに説明していただいたり、私たち看護師からアドバイスできることをお話したりしています。
去年はじめてからこれまでに市内35か所以上の場所で約90回開催し、延べ600人以上の方が参加しています。
健康相談会での印象的なケースでは、先ほど「受診における課題」にも上げた、”長期間受診していないことで再開しにくくなっている”方に、深刻な体調悪化があったことです。
震災で受診しなくなって以来、気兼ねして通院を再開できなかったそうですが、高血圧や不整脈、むくみなどの症状が出ていて、心臓や血圧に関わる重要な薬をたくさん飲んでいることも分かり、相談を切り上げてすぐに病院に行ってもらいました。
お薬手帳などを持っていませんでしたが、総合病院の薬剤師さんがその場にいたことで、過去のカルテの情報をある程度確認でき、迅速な受診につなげられました。
薬剤師さんと看護師の2人がかりで説得したことで、病院に行こうという気持ちになってくださったのも大きかったです。
ほかに症状としてよく聞かれるのは、震災後に高血圧になったという方や、食生活の変化や運動不足による便秘、不眠などです。
やはり血圧が非常に高かったり、不整脈がひどかったりと、バイタルチェックで問題が発見されることが多いので、他団体とも連携してその後の経過をフォローしています。
こうした成果がある一方で、現在課題として挙がっているのが自宅避難者の方へのフォローです。
仮設住宅の団地にある集会所などには自宅で暮らす方は足を運びにくいため、健康状態が見えにくいだけでなく、地域コミュニティ形成の面でも障壁になっています。
この対策として、在宅の方も来やすい公民館などで新たに相談会の開催を始めたところです。
実際に、そういった場所で開催すると普段は自宅で暮らしている方が多く来られている印象を受けます。
また、バスを活用して集会所などのない地域で移動型健康相談会を開催しよう、という取り組みも先日から始めました。
こうして、1人でも多くの方に参加いただけるよう試行錯誤してはいますが、実際にはまだまだ私たちがアプローチできていない住民の方がいらっしゃると感じています。
健康相談会のお知らせは、チラシや掲示などで広くご案内してはいますが、実際に出向いてくださる方はある程度固定されてしまうんです。
そういう場に出てこられない方、おうちにこもりがちになっているような方にも、健康問題を抱えているなどフォローの必要な方がたくさんいらっしゃるんじゃないかと思っています。判明したケースについては個別に訪問することもありますが、まだまだ私たちに見えていない方がいるんじゃないか、そんな心配を抱えています。
個別訪問についても、薬剤師さんにもご一緒いただけると幅が広がるのですが、もともと普段の病院のお仕事の合間を縫って参加しているので、個別ケースまでの対応は難しいのが現状です。以前は相談会に病院から看護師さんも参加していたのですが、病院の、特に看護師の人員不足が深刻になっていて、地域に出る人の確保が難しくなってしまいました。
さらに、人員不足なのは医療だけでなく、福祉サービスも人手不足のためにデイサービスやデイケアが十分に機能しておらず、必要な方にケアが行き届いていません。
介護サービスが必要な方が珠洲に戻ってきたいという意思があっても、その体制がなく受け入れられないのが現状です。地域医療・福祉にかかわる人が全面的に不足していて、そこを補うという意味でのお手伝いが必要だと感じています。
これは、もし国内でほかの地域が被災した時も大いに起こりえることです。
ギリギリの人数で回していて手一杯の医療・福祉の現場。いろんな理由で足を運べない住民の方たち。両者を私たちが橋渡しするような役割を担うことが、また地域が元気になるまでの、外部の私たちの大事な復興支援の役割といえます。
将来、交通機関などのインフラや住まいの再建が落ち着いて地域が再び元気を取り戻し、私たちの支援の手が不要になったときを見据えながら、引き続き、地域を支える病院・福祉の皆さんと連携して、健康を守りたいと思います。
私たち空飛ぶ捜索医療団は、現在も珠洲市に拠点をおき、被災地の復旧・復興を中長期的に支える支援活動をおこなっています。
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空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
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