JOURNAL #4852025.10.17更新日:2025.10.16

災害支援ナースとは?被災地を支える医療・感染症対応の仕組み

広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部

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「災害支援ナース」をご存じでしょうか。災害支援ナースは、被災地の医療現場で被災者の命と健康を守りつつ医療従事者を支える看護職です。2024年1月の能登半島地震では、約3,000名が避難所等で活動しました。

この記事では、災害支援ナースについて、その概要や活動内容、派遣の流れ、期待される役割をわかりやすく紹介します。

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災害支援ナースとは?

災害支援ナースは、大規模な地震や豪雨、新興感染症の発生時に、被災地の医療機関、避難所で看護支援活動を行う専門職です。被災者の命や健康を守るとともに、現地の看護師の負担を軽減する役割も担います。

以前はボランティアとして活動していましたが、2024年度からは国の制度として位置づけられ、派遣費用や安全が公的に保障されるようになりました。厚生労働省の研修を受けて登録された看護師が、都道府県や医療機関との協定に基づき派遣されるため、安心して活動できる仕組みです。

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DMATやDPATとの違い

災害医療には、災害直後から長期的支援まで対応する複数の専門チームがあります。

「DMAT(Disaster Medical Assistance Team、災害派遣医療チーム)」は、医師・看護師・業務調整員で構成され、発災直後の48時間以内に短期集中で緊急医療を行います。一方、「DPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team、災害派遣精神医療チーム)」は、心のケアに特化した精神医療チームで、主に被災者や関係者の心理支援を担います。

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「災害支援ナース」は、厚生労働省医政局に登録された看護師の総称で、発災後数日から最大1ヵ月程度の期間で派遣され、被災者や現地医療従事者の心身支援を中心に行う急性期から亜急性期における支援が特徴です。1回の派遣は原則3泊4日で行われますが、交代制で活動するため、短期間でも継続的な支援が届けられます。

DMATやDPATの初期対応後に活動し、被災者や現地医療従事者の生活と健康を守る役割を担います。

チーム構成活動時期・期間活動内容
DMAT(ディーマット):災害派遣医療チーム Disaster Medical Assistance Team医師・看護師・業務調整員(医師・看護師以外の医療職及び事務職員)
発災直後~おおむね48時間以内
緊急医療・トリアージ
DPAT(ディーパット):災害派遣精神医療チーム Disaster Psychiatric Assistance Team精神科医・看護師・心理士発災直後~1週間
心理的ケア・精神支援
災害支援ナース看護職員発災3日後~1ヵ月中期的看護支援・現地支援者支援

災害支援ナースは、日常とは異なる環境でも即戦力として活動し、DMATやDPATの初期対応後の「持続的な支援」を行います。この仕組みによって、被災者に継続的な安心と看護支援を届けることが可能です。

空飛ぶ捜索医療団の看護師は?

上記の「災害支援ナース」の認定の有無にかかわらず、これまで各々が培ってきた災害時派遣の経験や、専門性(例:助産師、感染管理など)を活かして、被災地の方々の命を守っています。

出動期間は災害の規模により異なりますが、シフトなどを組み数回に分けて滞在する場合もあります。また、活動内容は発災直後から中長期的な支援まで幅広いため、経験や専門資格などを加味して出動します。

災害派遣のないときには地域医療や国際協力など、得意分野を活かして活動をしています。

災害支援ナースの役割と活動状況

大規模な地震や豪雨、あるいは新興感染症の流行などにより、多くの人々への迅速な医療・看護支援が求められる場面があります。そのようなときに全国から駆けつけ、看護の力で現地を支えるのが「災害支援ナース」です。以下に、その活動内容や登録数、事例について紹介します。

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主な活動内容

災害支援ナースは、大規模災害や新興感染症発生時に、被災地や避難所で不足しがちな看護活動を補い、住民が安心して過ごせる環境を支えます。限られた環境でも柔軟に対応し、医療や生活を支える重要な役割を担います。

◆被災した医療機関での看護業務

患者ケアや医療チームのサポートを行い、医療ニーズが急増する中でも安心して医療が提供できるよう協力します。

◆避難所での環境整備や心身のケア

清潔な環境を維持し、体調不良者への治療や痛みの緩和を行うほか、感染症拡大を防ぐ体制を整えます。

◆新興感染症への対応

宿泊療養者の支援や健康観察、生活支援、症状の変化に応じた医療機関との調整、必要に応じた病院搬送、医療チームへの橋渡し役などを担います。

こうした活動を通して、災害支援ナースは被災者が落ち着いて生活できる環境を支え、地域医療の基盤を支える大切な人材となります。

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登録者数

令和3年3月の時点で、1万人以上が登録しています。

  • 看護師:9,767人
  • 保健師:138人
  • 助産師:242人
  • 准看護師:116人

幅広い資格を持つ人が参加しており、災害時に多角的な支援ができる体制になっています。

主な派遣事例

災害支援ナースは、これまでにも多くの災害で活動してきました。

  • 能登半島地震(2024年):延べ2,982人派遣
  • 東日本大震災(2011年):延べ3,770人派遣
  • 熊本地震(2016年):延べ1,688人派遣
  • 平成30年豪雨(2018年):延べ336人派遣
  • 北海道胆振東部地震(2018年):延べ248人派遣

なお、災害支援ナースは、派遣前に災害医療・感染症対応・心理ケアなどの養成研修を受けています。修了者は日本看護協会に登録され、都道府県からの要請で全国どこへでも派遣可能です。

災害支援ナースがもたらす安心感

災害支援ナースは、災害時に医療現場や避難所で活動し、人々の暮らしと健康を守ります。看護の力で医療機関を支え、感染症を防ぎ、行政や市民に安心感を届けられる存在でもあります。

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医療機関の即応力向上

災害が起きると、病院や避難所では短期間に多くの人が医療や看護を必要とします。災害支援ナースは、発災3日後から1ヵ月ほどの急性期に被災地の医療現場に加わり、ケアを支えます。その結果、医療体制が崩れにくくなり、必要な人に医療が届きやすくなるのです。

また、現場の医師や看護師の負担を減らし、長期的な活動を続けやすくする効果もあります。災害支援ナースは被災者の命を守り、地域の医療を支える心強い存在です。

感染症拡大防止

令和6年度から、災害支援ナースは新たに新興感染症の発生・まん延時にも派遣されることが制度上明確化されました。派遣されたナースは、患者の観察や軽症者の宿泊療養、重症者の医療機関への橋渡しを行い、地域全体の感染拡大を防ぎます。活動期間は、およそ2週間です。

さらに、自然災害で避難した人々が滞在する避難所では、感染症が広がらないよう清潔な環境を整える役割も担います。災害支援ナースは、自然災害による被害だけでなく、感染症発生時や避難所での感染拡大にも柔軟に対応できる支援体制を特徴としています。

安心を支える公的な仕組み

災害支援ナースの派遣は、平時の準備から災害時の対応、活動後の報告まで、体系的に整備されています。現場の状況に合わせて、都道府県や国が連携し、必要な支援を迅速に届けられる仕組みです。

派遣の仕組みと活動の流れ

災害支援ナースの派遣は、平時の準備から災害時の対応、活動後の報告まで、体系的に整備されています。現場の状況に合わせて、都道府県や国が連携し、必要な支援を迅速に届けられる仕組みです。ここでは、その具体的な流れや体制を紹介します。

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平時の準備

災害支援ナースの派遣に備え、都道府県は所属施設や地域の実情に応じて協定を締結し、派遣可能な看護職員リストを整備します。ナースは厚生労働省指定の養成研修を修了して登録され、登録内容に変更があれば届け出が必要です。

登録有効期間中には、派遣時に迅速かつ安全に活動できるよう、研修への参加(1回以上)も求められます。また、厚生労働省や日本看護協会、都道府県間で情報共有と連携が行われ、平時から支援体制の強化が図られています。

災害・感染症発生時

災害や感染症が発生した際は、まず被災都道府県が派遣の必要性を判断し、協定施設に要請します。県内の人員だけで対応が難しい場合は、厚生労働省や日本看護協会が調整し、他県からの応援も可能です。なお、災害支援ナースは派遣元の医療機関等の職員として現地で活動します。

被災状況や支援ニーズは関係機関ですべて共有され、ナースを派遣した協定施設は広域災害救急医療情報システム(EMIS)に派遣や活動の情報を入力して、最新状況を整理します。

行政からの依頼方法など

災害支援ナースの派遣は、まず被災都道府県が必要性や人数、活動場所・期間などを決め、協定施設に要請して行われます。県内で対応が難しい場合は、他の都道府県への派遣依頼や厚生労働省への調整要請も可能です。

活動費用は原則公費で賄われ、災害時は災害救助法に基づき被災地や国が負担、感染症対応では都道府県が負担し、必要に応じて国が補助します。

災害支援ナースの活動を終了する時期は、当該都道府県が決定します。なお、これらの派遣要請や終了については、都道府県看護協会と協議して決めることが可能です。

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災害支援ナースに期待されるこれからの役割

日本は自然災害が多く、また新興感染症など新たな脅威も発生しています。今後も災害支援ナースの役割は広がっていくと考えられます。特に、次のような取り組みが期待されています。

  • 避難所や病院での情報共有や指揮の流れを整えること
  • スキルなどの違いを埋めるための研修やサポート体制づくり
  • 生活再建を視野に入れた心身ケアや継続的な自立支援
  • 他の専門職やボランティアとの連携強化

さらに災害支援ナースは、支援が落ち着いた後も残された被災者の心身ケアに関わります。被災者が落ち着いた生活を取り戻すまでの心身のケアにも関わります。現場では、医療者やボランティアなど多様な立場の人が協力しますが、状況に応じた柔軟な判断が求められるため、一人ひとりに適切な支援を届ける力が大切です。 

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こうした体制とスキルが整えば、災害支援ナースは被災地だけでなく、地域医療の底上げや防災体制の強化にも貢献できます。また、国内で培った経験は国際的な災害対応の知見として共有されることもあり、その活躍の場は広がります。困難な状況でも被災者に寄り添う災害支援ナースは、今後ますます重要な存在となるでしょう。

まとめ

災害支援ナースは、災害や感染症の影響を受けた人々の生活や健康を支える人材です。国や都道府県は、看護師の安全や派遣費用を保障し、安心して活動できる仕組みを整えています。活動の仕組みを知っておくことで、いざというときに心強さを感じられます。

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この記事を参考に、私たち空飛ぶ捜索医療団の看護師はもとより、いざという時に全国から被災地に駆けつけ活動している、看護師の皆さんにもご関心を寄せていただけたら嬉しく思います。

【参照】
厚生労働省|災害支援ナースについて
厚生労働省|災害支援ナース活動要領
日本看護協会|災害看護
日本看護協会|新たな災害支援ナースの活動に向け、国から活動要領などが発出
株式会社 日東システムテクノロジーズ|看護師になろう

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