JOURNAL #2372023.07.13更新日:2024.06.21
Webライター:岩田 夏月
災害医療支援には、大きく分けて「公的な災害医療支援」と「民間の災害医療支援」があります。本記事では、公的な災害医療支援と民間の災害医療支援の違いや、その役割などを紹介します。災害時に活躍できる当事者になる方法も解説しているので、災害医療に興味がある人は、ぜひ参考にしてください。
災害医療を「災害時に人を助けるもの」と曖昧なイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。まずは、災害医療の意味や目的、混同されがちな救急医療との違いをご紹介します。
災害医療の詳細についてご説明している記事もありますので、より詳しく知りたい方は参考にしてみてください。
災害医療の前に、まずは災害の定義から確認します。内閣府防災情報では、以下のように定義しています。
「暴風、豪雨、 豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害をいう。」
災害と言うと、地震や津波を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。例えば、日本ではあまり馴染みのないサイクロンや竜巻、テロなども、上記の定義の中では災害として扱われます。
災害医療とは、災害によって内因的・外因的な傷病を抱えた患者が多数発生したときに行われる、災害時の初期医療のことです。目的は「救えたはずの命を救うこと」で、非常時に、医者や薬剤師、看護師などの医療関係者や、医療機器、薬などの医療能力を駆使して、すべての患者に対応しなければなりません。災害医療はいつ必要になるのかわからないため、日々備えておくことが大切です。
災害医療と類似する概念として「救急医療」があります。
いずれも急を要する医療であるということは共通点として言えます。また、災害医療に関わる医師と救急医療に関わる医師は同じであることが多いです。
しかし、災害医療と救急医療は以下の点で明確に異なります。
災害医療では、ガーゼやギブス、包帯、輸液セットなどの医療資機材が不足していることが多いです。これは、被災地で病院自体が機能していなかったり、患者が通常時に対応可能な数以上に発生してしまうためです。
また、患者の人数が多いため、十分な医療スタッフを提供することができません。一人の医療スタッフに対して患者数が数十人から数百人いることをイメージしてください。
救急医療では、出来うる最大限の治療を行うことを重視されているため、潤沢な物資の供給があることがほとんどです。また、1人の患者に対して豊富な医療資機材を使用し、医療スタッフも患者一人に対して数人〜数十人動員されます。
このように、救急医療と災害医療には大きな差があることを覚えておきましょう。
日本における災害支援は、実施する主体によって大きく以下のふたつに分けられます。
1.「国や自治体が主導」の災害医療支援
2.「民間の団体や企業」による災害医療支援
2つの違いは「規模の大きさ」と「法律上の制約があるかどうか」にあります。
具体的に、2023年2月6日に発生したトルコ共和国の地震を例に上げてご紹介します。
まず1つ目は、公的な災害医療支援の代表といえる「国際緊急援助隊」の動きです。医療チームは災害発生4日後のの2月10日から一次隊が出発し、二次隊や三次隊へと活動を引き継ぎながら支援を実施しました。「国際緊急援助隊」は、国際緊急援助隊の派遣に関する法律という法律の下で活動を行い、トルコ地震の災害医療支援では、約180人のプロフェッショナルが派遣されました。
一方、民間の災害医療支援「特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン」は、トルコ地震が起こった2月6日当日に出動。医師・看護師・レスキュー隊員・調整員の5人のチームが現地へ向かい、即座に支援を開始しました。また、活動内容への指定はないため、被災地の住人へのヒアリングをしてから必要物資を届けるなど、柔軟に対応しました。
このように、公的災害医療支援は大人数で出動できる一方、法律上の制約があるため初動が遅くなりがちです。その一方、民間災害医療支援はどうしても少人数になりますが、現地の状況に合わせて柔軟に対応することができます。それぞれメリット・デメリットがあるため、両方をバランスよく取り入れることが重要です。
災害医療支援には公的なものと民間のものがありますが、まずは日本の公的な災害医療支援を行う団体・システムについてご紹介します。
災害派遣医療チームは、DMATとして聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。DMATとはDisaster Medical Assistance Teamの略称で、以下のように定義づけられています。
「災害の急性期(48 時間以内)に活動できる機動性を持った、トレーニングを受けた、医療チームである」
引用:厚生科学特別研究「日本における災害時派遣医療チーム(DMAT)の標準化に関する研究」
1995年阪神・淡路大震災の発生時、本来であれば救出できたはずの命が500人以上存在したといわれており、その反省や後悔から災害医療の必要性が考えられDMATが発足しました。2011年に発生した東日本大震災では1856人ものDMAT隊員が活動し、災害時に混乱している病院の支援や患者の搬送、入院患者の避難など、様々なシーンで活躍しました。
DMATについて解説している記事もありますので、参考にしてください。
国際緊急援助隊(JDR)はJapan Disaster Relief Teamの略称で、海外で発生した災害の支援を目的とする団体です。欧米の国々が1970年のカンボジア内戦での難民への対応をする中、日本は海外支援の仕組みや知恵を持っておらず参加が難しかったことを受けて、発足しました。DMATが日本を対象としているのに対して、JDRは海外を対象としています。
参考:「第3章 国際緊急援助隊(JDR)の概要」
次に、日本の民間の災害医療支援を行っている団体・システムについてご紹介します。
「空飛ぶ捜索医療団 ARROWS」は、「一秒でも早く、一人でも多く」をモットーに活動する認定特定非営利活動法人で、ピースウィンズ・ジャパンが運営しています。
災害の急性期だけではなく、復興支援や避難所運営支援など幅広く災害支援を行っています。ヘリコプターや飛行機などを独自で持っているため機動力に優れており、災害発生時から現地への到着までが素早い点、医療以外の支援も柔軟に行うことができる点が特徴です。
詳細は、空飛ぶ捜索医療団 ARROWSの公式サイトをご確認ください。
災害人道医療支援会(Humanitarian Medical Assistance)は略称である「HuMA(ヒューマ)」として知られている特定非営利活動法人のひとつです。国内外を問わず、災害に苦しむ人を救援し、自立を支援することを目的として立ち上げられました。
詳細は、災害人道医療支援会 HuMAの公式サイトをご確認ください。
「災害時に活躍できる人間になりたい」と熱い想いを持っている人もいるのではないでしょうか。以下では、災害医療時に活躍できる当事者になる方法をご紹介します。
災害医療時に活躍できる当事者になる1つ目の方法は、先述した災害派遣医療チーム(DMAT)に参加することです。
DMATとして活動するためには、厚生労働省に認められた「DMAT登録者」になる必要があります。DMAT指定医療機関や災害拠点病院での勤務が必要になるので、自分が働いている病院が該当するのかチェックしましょう。また、DMATは事務員を除いて医療系の資格保有者の場合のみ参加可能です。
医療に関わる仕事をしていない方でも、空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”であれば活動できる可能性があります。“ARROWS”では医療関係者だけでなく、カメラマンやドローンオペレーター、ロジスティシャンなど、災害時に活躍できる幅広い職種を募集しています。災害支援に必要な何らかの技術を持っていれば基本的に職種の制限がないため、どなたでも応募しやすい点がポイントです。少しでもご興味をお持ちいただけた場合は、ARROWSの募集ページから詳細をご確認ください。
災害医療時に活躍できる当事者になる2つ目の方法は、日本災害医学会学生部会(DMAS)に参加することです。
日本災害医学会学生部会(DMAS)は、災害医療に関する専門的な知識や教養を、学生でも学ぶことができる団体です。セミナーや勉強会では、民間・公的な災害医療支援に携わった人の経験談を直接聞くこともできます。学生の方は、日本災害医学会学生部会の公式サイトを確認してみてください。
災害医療時に活躍できる当事者になる3つ目の方法は、災害医療について勉強することです。まずは、災害時にどのような動きをするべきか、何を備えるのか、自分自身が災害時に怪我や事故に合わないようにすることが大切です。その上で、災害医療支援で何ができるのか、自分のキャリアや将来を考えてみてはいかがでしょうか。
本記事では、災害医療の意味、公的な災害医療支援団体と、民間の災害医療支援団体との違いをご紹介しました。「災害医療に携わりたい」と思う方は、まずは、どのような側面で関わりたいのか・自分が何をしたいのかを考えてみることをおすすめします。また、災害医療は突発的に必要になるものであるため、日々の忙しさから勉強や対策をおろそかにしてしまう人も多いです。しかし、救えたはずの命を一人でも救うために、日頃から努力を欠かすことを意識することが重要です。本記事を参考に、災害医療支援について知り、自分が何ができるのか考えてみてはいかがでしょうか。
WRITER
Webライター:
岩田 夏月
大学受験が終わった2020年3月から「なにか人の役に立つことをしたい」とライターを開始。現在は、国公立薬学部で二足のわらじを履きながら、ライティングやWeb制作などマルチに活動中です。
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