JOURNAL #2492023.09.07更新日:2024.03.21
獣医師:安家 望美
災害が発生した時、避難生活を送るうえで命綱となるのが備蓄。おうちでペットを飼っている方は、ペットの備蓄は用意していますか? 自分たち家族の分は用意してあっても、ペットの分はいつかやろうと思っていて後回しになっている方も多いのではないでしょうか?
過去の災害では「人の支援物資は届いても、ペットの支援物資はなかなか届かなかった」という報告もあり、行政などの支援に頼るのではなく自分でペットの備蓄を用意しておくことが大切です。
この記事では、
をご紹介します。災害時には自分とペットの身は自分で守るという「自助」が大事です。今からできる防災対策を始めていきましょう。
また、ペットと一緒に車内避難を行う場合のポイントについて記載している記事もありますので参考にしてください。
ペットの備蓄は、ペットフード(治療食含む)と薬は可能であれば1か月程度用意しておくと安心です。災害時、ペットフードやペット用品などのペットに対する支援はどうしても遅れがちです。そして、動物病院などで処方されている特定食(治療食)などは、支援物資では届かないと考えてよいでしょう。
また、薬も災害時には手に入れにくくなる可能性があります。薬の消費期限はその種類にもよりますが、錠剤は年単位、散剤は2~3か月といわれています。かかりつけの動物病院で獣医師と相談して普段から多めに処方してもらいましょう。薬の種類や容量はかかりつけの動物病院がやっていないときでも他の病院や巡回診療で処方してもらえるように、記録に残しておきましょう。
優先度の高いものから順番に、備蓄品を用意していきましょう。また、実際に避難をする際にも、優先度の高いものから持っていくよう意識してください。
普段あまり目に触れる機会のない倉庫などにストックを置いておくと、つい備蓄があることを忘れがちになります。知らないうちに賞味期限が切れていていざという時に使えないということにもなりかねません。フードや薬を用意する際の注意点について解説します。
災害時の食料品や薬の備蓄方法として、ローリングストックが知られています。ローリングストックとは、食料品や薬を多めに手元に置いておき、日常生活の中でそれらを消費しながら減った分を買い足していく方法です。
ペット用品に関しても、ペットの負担や日頃の管理の負担を減らすため、ローリングストックを導入することがおすすめです。ローリングストックについて解説している記事もありますので参考にしてください。
長期保存が可能なフードも市販されていますが、動物は急なフードの変更でおなかの調子を崩すことがあり、災害時はすぐに病院にかかれるとも限りません。また、新しいフードは味が気に入らなかったり、警戒したりして食べない可能性もあります。そのようなトラブルを防ぐためにも、フードの備蓄は普段食べているものを用意しておきましょう。長期保存水については問題ありません。
過去の災害では、救援物資にペットフードが入っていたもののペットが食べなくて困ったという被災者の声もありました。普段から1つのフードだけに偏らず、いくつかの種類のフードを食べさせて好き嫌いをなくしておきましょう。
フードには、ドライフードとウエットタイプのフードがあります。備蓄として便利なのは、ドライフードです。ドライフードは賞味期限が長く、一旦開封しても封をしっかりとしておけば保存も楽です。
ウエットタイプのフードは、噛む力が弱い幼いペットや高齢のペットでも飲み込みやすく、水分も一緒に摂取できるというメリットがあります。災害時のストレスで食欲が落ちているときにも食べやすい形態です。しかし、このタイプのフードは一度開封すると完食するか冷蔵庫で保管しなくてはなりません。ウエットタイプのフードを選ぶときはペットの大きさや状況に応じて購入しましょう。
フードや薬の保管には、直射日光の当たらない、温度変化の少ない冷暗所が適しています。車のトランクに備蓄を入れている方もいるかもしれませんが、車内は夏には高温になるため食料品の備蓄には適しません。
ペット用品の備蓄は、人が使うものと上手に共用しながら1週間程度用意しておきましょう。備蓄品はただ揃えておけばよいというものではありません。備蓄品の中には、購入するときや使い方に注意が必要なものもあります。注意するポイントやおすすめの使い方をまとめました。
それぞれ下で解説します。
ペットのみの写真と、飼い主とペットが一緒に移っている写真の2種類を撮影しておきましょう。最近はあまり写真を印刷する習慣はないかもしれませんが、写真は迷子ポスターとして掲示に使えるので、何枚か印刷して備蓄に入れておきましょう。飼い主とペットが一緒に写っている写真は、自分がこの子の所有者であることを証明するのに役立ちます。
リードは避難するときや避難所での係留に欠かせません。複数本用意しましょう。噛みちぎって逃げられることを防ぐため、ある程度の太さのあるものや、チェーン、ワイヤーの入ったリードも用意しておくとよいです。
普段首輪をつける習慣がないネコも、災害時は首輪+迷子札をつけましょう。ネコの首輪には、一定の強い力が加わると自動的に外れるタイプのものがあります。首輪が何かに引っかかってしまったとき締まるのを防ぐための機能ですが、そのタイプの首輪は非常時用の首輪にはあまり向きません。
災害時はペットもストレスがかかっています。パニックになって飼い主を噛むこともあるかもしれません。また、痛みを伴う治療を行う際には口輪があると便利です。ない場合は、救急セットの包帯でマズルをまく方法もあります。口輪はつけっぱなしにはせず、ペットが落ち着いたら外してあげましょう。
家の中や避難所への道を歩かせる場合、散乱したガラスやがれきで足をケガする可能性があります。キャリーバックに入れて運べない中型犬以上のサイズの犬には靴を用意しましょう。普段から時々履かせて慣らしておきましょう。
ネコを飼っている方は、備蓄の中にぜひ洗濯ネットを加えてください。意外かもしれませんが、洗濯ネットは、動物病院での治療の際の便利アイテムです。暴れるネコには爪切りや注射などちょっとした処置は洗濯ネットに入れたまま行うことができます。また、ネコは狭い所が落ち着くので、洗濯ネットのなかに入るのを好む子もいます。ただし、ケージのように長く入れておくためのものではありません。
ペットシーツは、非常時に様々な使い方ができるアイテムなので、多めにストックしておきましょう。例えば、マーキング癖のあるオスのおなかにぐるりと巻いてガムテープで止めれば即席のマナーベルトになります。ペット用としてだけではなく、人用の簡易トイレや生理用ナプキン、止血帯として使うこともできます。
迷子対策は災害対策としてだけでなく、普段から必ず行いましょう。ペットに鑑札や迷子札がついていると、保護されたときに無事に飼い主の元に戻ってくる確率がとても高くなります。東日本大震災で保護された犬のうち、鑑札や迷子札の付いていた85頭は無事に飼い主が判明しました。しかし、身分表示のできるものがなかった犬614頭のうち、飼い主がわかった犬はたった3頭でした。
身分表示に有効なグッズには以下のようなものがあります。
鑑札と狂犬病予防接種済票は、狂犬病予防法により犬に装着することが義務付けられています。マイクロチップは、1995年の阪神淡路大震災で、多くのイヌやネコが飼い主とはぐれてしまったことから導入が検討されるようになりました。鑑札や迷子札と違って、イヌやネコの体内に挿入するため、外れたり擦れて番号が読めなくなるという心配がありません。
令和4年6月1日からブリーダーやペットショップで販売するイヌやネコにはマイクロチップの装着が義務付けられています。
マイクロチップは直径2㎜、長さ1cmほどの円筒形の電子器具で、装着するときは獣医師が犬や猫の首から肩甲骨のあたりに注射器で挿入します。マイクロチップに専用の読み取り機を近づけると、15桁の識別番号が表示されます。
知人に譲ってもらったイヌやネコについてはマイクロチップの装着は義務ではありませんが、装着する場合は動物病院で獣医師に装着してもらいます。
マイクロチップが装着されているイヌやネコを飼ったら、飼い主の氏名や住所、電話番号といった連絡先の登録が必要です。氏名や連絡先が変わったとき、ペットが死亡したときも届け出が必要です。
普段から環境の変化でストレスを感じやすいペット向けに、不安を和らげるサプリメントやフェロモン製剤のスプレーが販売されています。ネコは普段自分の体から、マーキングや愛情表現、自己の鎮静のためのフェロモンを色々と出しています。そのうちの、ネコの気持ちを落ち着かせるフェロモンを使ったスプレーです。
動物病院でも、ネコが入院するときケージに噴霧したり、問題行動の改善のために使うことがあります。災害時のストレス対策に、備蓄に入れておくのもおすすめです。動物病院で取り扱っているので、獣医師に相談してみてください。
まず、住んでいる市町村の防災計画を確認し、同行避難が可能か確認してください。自治体によっては一緒に避難できるのはイヌ、ネコまでしか想定していない場合もあれば、小動物までと書かれている場合もあります。
ウサギやハムスターなど小動物は、普段のケージ自体をキャリーバッグや避難所での飼育ケースとして使うこともできます。ペレット、チモシー、床材は普段からローリングストックしておきましょう。
爬虫類は同行避難が可能な自治体もありますが、避難先で照明やヒーターなどの電源は使えないと考えてください。どうしても必要な場合は、自宅に家庭用発電機を用意したり、電池式や充電式のものを備蓄したりしておきましょう。寒さ対策には使い捨てカイロやお湯を入れたペットボトルでも対応できます。
また、避難所には爬虫類が苦手な方もいるかもしれません。ケージをカバーや布で覆うなど、中の動物が見えない工夫をしましょう。
ペットの備蓄は、フード(治療食含む)や常備薬など命をまもるためのアイテムは可能であれば1か月、それ以外のペット用品は1週間程度の用意が必要です。
ペットは環境の変化に弱く、攻撃的になったり逆に落ち込んでしまったりと、普段と違う性格が見られることもあるので、フードやペット用品はできるだけ普段使っているものをそのまま使えるようにしましょう。
マイクロチップや鑑札、狂犬病予防接種済票は飼い主に届け出や装着の義務があります。災害時にペットの命を守れるよう、普段から備蓄を用意しておきましょう。
WRITER
獣医師:
安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。
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