JOURNAL #2832023.12.25更新日:2024.07.05
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
東日本大震災発生時、空飛ぶ捜索医療団を運営するピースウィンズは翌日に現地視察を開始。スタッフと企業や協力団体が一丸となって、物資支援から避難所支援まであらゆる支援を人々に届けた。しかし、当時は医療行為ができるスタッフがいなかったため、ケガをしている人や体調不良を訴える人々を目の前にしながらも手を差しのべることができなかった。
一方、当時救急外科医として病院に勤務していた稲葉は、DMAT(災害支援医療チーム)の隊員として現地に出動していた。「行けば何とかなる、行けば誰か助けられる」と思っていたが、現実では十分に力を発揮できなかったという。
できることがもっとたくさんあったはずだが、何もできずに被災地をあとにしなければいけなかったことに、情けなさと悔しさが残った。
この東日本大震災で抱えたピースウィンズの課題と稲葉の思いは、支援体制を見直す大きなきっかけとなった。
そして、4年前の2019年12月。
ピースウィンズと、救急外科医である稲葉の「被災地の人々を一人でも多く救いたい」という両者の思いは繋がり、稲葉をプロジェクトリーダーとした「空飛ぶ捜索医療団"ARROWS"」が結成される。
それから、医師、看護師、レスキュー隊、ロジスティクスなど、様々な分野で活動するスタッフが、磁石が吸い寄せ合うようにチームに加わった。
ただ、結成しただけでは災害現場で十分に力を発揮することはできない。それぞれのスキルを高め、チームとして協力しあい、「一秒でも早く、一人でも多く」命を救うためには、日々の訓練で力をつけることが必要不可欠である。
今回は、いつでも出動し最大限の支援ができるように、空飛ぶ捜索医療団が定期的に実施、参加している主な訓練の概要を紹介したい。
空飛ぶ捜索医療団が、チーム内で毎月行っている訓練。スタッフとともに現地で活動するロスター(登録隊員)が、登録する際にまず最初に参加する訓練でもある。
主に本部のある広島県神石高原町での野営訓練や、災害医療支援船を舞台とした洋上訓練が行われ、繰り返し基礎を叩き込みながら、あらゆる事象への対策を検証する。
専門分野が違えば、言葉の一つでも概念が異なる場合がある。
ときには「その道」のプロフェッショナルを講師に招き、チームはそれぞれ専門外のことも学び続ける。そうして個々の知識やスキルを高めるとともに、災害時にはあらゆる状況に対応し、チームとして最大限の支援が実現できるような体制を整えている。
今年度の政府が主催して行われる訓練(令和5年度大規模地震時医療活動訓練)では、県庁や他の自治体と連携し、大規模災害での支援活動を想定。四国4県の医療センターなどで一斉に行い、空飛ぶ捜索医療団の災害医療支援船やヘリコプターを用いて寸断された地域への医療者の派遣、そして要救助者の輸送などの訓練に取り組んだ。
空飛ぶ捜索医療団は、日本政府が運営する災害派遣医療チーム(以下「DMAT」)とも連携し災害支援にあたるため、DMATが主催する訓練にも参加する。他団体との連携を図った大規模災害時への訓練はもちろん、ひとつの地域を想定した台風などの自然災害への対策訓練も実施される。
11月に行われた「令和5年度中国地区DMAT連絡協議会実働訓練」では、岡山県内で大規模な風水害が発生した場合に、迅速かつ効果的な広域医療災害体制を確保し、緊密な連携強化を図ることを目的として中国地方5県のDMAT及びピースウィンズも含めた関係機関が集結、合同訓練が実施された。
災害救助犬も空飛ぶ捜索医療団の大切なチームの一員だ。定期的に行っている捜索訓練では、ハンドラーと災害救助犬が行方不明者を捜索する想定訓練を実施している。
また、災害救助犬候補生の育成にも取り組んでいる。ハンドラーと救助犬は訓練に励み、適正試験にチャレンジするほか、仕事以外の時間も共にしながら日々、絆を深めている。
全国の災害拠点病院は、被災してしまうと水没してしまい機能しなくなる危険性がある。そこで重要な役割を担うのが、フィールドホスピタル(野外病院)だ。このフィールドホスピタルを設営することで、病院で治療を受けられずに亡くなってしまう「未治療死」を一人でも多く防ぐことができる。
フィールドホスピタル(野外病院)は、被災地に近い土地にテントを設置し、様々な機関と連携して一つの病院としての機能を果たすのだ。
訓練では、設置するだけでなく、災害が発生した際に起こりうるリアルな事象を想定して実施。他団体や関係機関、多くのロスターも参加し、迅速かつスムーズに最大限の医療体制を構築するためにはどうするべきか、連携強化なども確認される。(詳細:JOURNAL #71 【災害時の未治療死を減らす取り組み】野外病院(フィールドホスピタル)の現状と課題 も併せてご覧ください。)
スタッフはそれぞれ訓練に取り組むなか、かつて稲葉が思い悩んだように、つねに「今の自分に何ができるだろう。」と自問自答しながら、理想と現実との間にある葛藤を抱えているスタッフも少なくない。
日々の取り組みから、それぞれ多くの課題が、一つまた一つと見えてくる。こうした多くの課題に一人で立ち向かうなら、時に散漫になり歩みは遅くなるだろう。あるいは止まってしまうかもしれない。
けれど、チームになり課題に立ち向かえば、乗り越えていけるはずと信じている。
稲葉は、フィールドホスピタル多機関合同訓練の冒頭、「訓練は本番のように、本番は訓練のように」とスタッフに伝えた。
訓練の姿など本来は災害医療やレスキューの分野などに関心がなければ、興味を示す人はほとんどいないだろう。たとえ誰が見ていなくても、「一秒でも早く、一人でも多く」の命を救うために、いつ起きるか分からない災害に備え、私たちが日ごろから取り組んでいるこうした活動にも、ぜひ注目していただきたい。
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空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
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