JOURNAL #1092024.05.31更新日:2024.05.31

実践を想定した訓練が命を助ける!ロスターとともに有事に備える「災害派遣トレーニング」を開催

広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部

5月25日~26日の2日間、空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”は、本部のある広島県神石高原町にて「災害派遣トレーニング」を実施しました。災害支援の現場で活動するスタッフのなかには、ロスター(登録隊員)と呼ばれる、普段は別の機関に勤務しているメンバーも集結します。今回で6回目を迎える災害派遣トレーニングは、実現場で最大の支援を行うために、こうしたロスターとともに訓練を行い、体制を強化することが主な目的です。この記事では、災害派遣トレーニングにおいてどのような訓練が行われているのか、また訓練は実現場でどのように活かされているのかをご紹介します。

【①体制】より早く、必要とされる支援を届けるために複合的、横断的なチームに!

ロスターには、医師、看護師、薬剤師など医療従事者だけでなく、レスキュー、ロジスティシャン、事務職員など、あらゆる分野で活躍しているメンバーが登録しています。

それぞれに専門的な知識と技術を備えていますが、災害現場で求められる知識や技術もあります。また、言葉一つでも職種が異なれば異なる概念を持っていることもしばしば。

こうした職業的背景が異なるメンバーが、一刻を争うことも多い災害現場で速やかに活動を行うためには、「共通の言葉」「共通の知識」と「チームワーク」が必要になってきます。

災害派遣トレーニングでは、この3つの要素を養うために、リーダーの号令に従う教練や、機材を使いこなす訓練、言葉や概念に対して共通理解を深めるなど、基本知識や技術を共有しました。これらの体験を通して、縦割りではなく、横断的なチーム体制が構築され、災害現場ではより幅広い支援が可能になります。

【②医療支援】出向く医療は規模も多様

南海トラフ巨大地震などの大規模災害では、病院も壊滅状態に陥ることが予測されます。そのため、災害現場では「フィールドホスピタル(野営病院)」を素早く設置し、医療体制を構築することが求められます。

トレーニングでは、実際の災害地を想定し、フィールドホスピタルの全体レイアウトを設計するワークショップを実施。患者さんの受付から診察、検査、お薬の受け渡しなどスムーズな導線や、セキュリティ面での安全性など、多角的な視点から実践的かつ機能的なフィールドホスピタルの形を議論しました。

上の写真は、実際に被災地で開設された避難所の一角を利用した診察スペースで診察を行っている様子です。避難所の一角をお借りすることもあれば、持参したテントや車両などを活用して診察を行うこともあります。

現場ごとに医師や看護師が何人必要なのか?持参する医薬品は何か?地域性や被災状況に応じた想定訓練を重ねることで、より迅速で適切な医療支援にあたることが可能になります。

【③物資配布・避難所】必要なものは医療だけではない

ワークショップでは、避難所の設営をするためにはどの機関との調整が必要か?何を意識して設置するべきか?必要な物は何か?また、被災者の方々と接するにあたり、何に気を配るべきなのかを学びました。

チームごとにまとめた案などを共有し、新たに出たアイディアなどを深堀りしていきます。一見、関係のないことと思われる知識にも触れながら、それぞれの専門分野と重ねて考え、感染対策の面や栄養面などさまざまな視点からみた避難所の形を検討し、課題を見つけていきました。

この写真は、看護師が実際の被災地で避難所に届ける支援物資の振り分け作業を行っている様子です。被災地では、それぞれの専門知識だけでなく、さまざまな知識をも兼ね備えておくことが、他機関ともスムーズに連携し、現場で必要とされる支援を迅速に届けることにつながります。

また、単に避難所を設置するのではなく、災害関連死の防止や衛生面などを鑑みながら、避難所のレイアウトの作成から設営、物資調達・搬入、環境整備まで、避難所の立ち上げを全面的にサポートしました。

【④レスキュー】要救助者を発見したら何をするべきか

被災地では、さまざまな救出場面が想定されます。たとえば、狭い空間で要救助者を発見し助け出すためには特殊な知識と技術が必要なため、クラッシュシンドロームへの配慮など予め留意事項なども知っておくことが重要です。そして、救出したあと複数の患者さんがいる場合は、傷病の緊急度や重症度に応じて治療優先度(トリアージ)を決めなければなりません。

今回のトレーニングでは、実際に現場で起き得るシチュエーションを設定し、救出からトリアージ、そしてレスキューチームと連携して搬送するまで、一連の流れを通した訓練を実施しました。

また、チーム内の連携以外にも、現場で初めて協働する各機関の関係者と連携しなくてはならない場面があります。こうした「初めて」の状況も日ごろの訓練から想定することが大切です。今回の能登半島地震においても、他機関との連携を想定した訓練を行ってきたことが、消防と警察、医療が連携して124時間、倒壊家屋のなかに埋もれていた女性の救出につながりました。

【⑤機動力】それぞれの持ち味を活かす

能登半島地震の支援では、陸路・空路・海路のルートを確保し、幅広い支援を実現しました。空飛ぶ捜索医療団では、車両、ヘリコプター、船のそれぞれの持ち味を生かしながら互いにデメリットとなる部分を補い合うことで、機動力を最大限に発揮できる体制を整えています。

今回の災害派遣トレーニングでは、機動力の実例として、ヘリコプターの基本的な飛行可能時間や最大重量、乗り込む際の注意点などが共有されました。こうした知識を、ヘリチームだけでなく、医師や看護師、ロジなどの隊員も知っていることで、よりスムーズな搬送が可能になるからです。

上の写真は、能登半島地震で被災した患者さんをヘリコプターで搬送している実際の様子です。能登半島地震の緊急支援では、孤立集落や病院などから一日何十回もの搬送が多機関と協力し合い、行われました。

【そんなことも?】被災地では普段気にならないことが重要なことに

災害現場では、指揮本部チームと現場活動チームとの連絡手段として、主に携帯無線が使用されます。情報の迅速かつ正確な伝達も、災害支援においてとても重要なスキルになります。今回のトレーニングでも、携帯無線を使用し、目的地までの道路情報や患者の状況、必要な応援要請などさまざまな情報を的確に相手に伝えるワークショップを実施しました。

また、実際に支援を届けるための拠点や、緊急支援チームが寝泊まりする場所が建物内とは限りません。そのため、参加者には自分たちの力でテントを建ててもらい、実際にテントに宿泊してもらいました。

また、被災地で危機にさらされる人々の命を助け出すのは、映画のようなスーパーヒーローではなく、ひとりの人間です。現地では、訓練をしたスタッフでも悲惨な場面を目の当たりにして精神的ショックを受けたり、ストレス反応が現れたりすることもあります。メンバーは被災地で考えられるストレスについても理解し、互いに支え合えるよう「ストレスケア」についても学び合いました。

メンバーの絆を深め、より強い災害支援チームを目指して

一秒でも早く、一人でも多くの人を救うために、ロスターの存在は欠かせません。空飛ぶ捜索医療団のロスターに登録するためには、まずはこの災害派遣トレーニングに参加し、さらに研修や訓練に積み重ねて鍛錬していきます。

今回の災害派遣トレーニングには、トルコ・シリア地震やウクライナ危機を受けた隣国モルドバでの医療支援、そして能登半島地震の緊急支援活動の際にも活躍していたロスターメンバーも講師やファシリテーターとして参加しました。普段は別の場所で勤務していても、空飛ぶ捜索医療団の大切な一員として、平時の活動からチームの体制強化などに大きく貢献してくれています。

空飛ぶ捜索医療団では、これからもいつ起きるかもしれない有事に備え、「一秒でも早く、一人でも多く」の被災者を助けたいという共通の想いを胸に、さまざまな訓練をとおしてチームの絆を深めながらより強い災害支援チームを目指していきます。

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