JOURNAL #2132023.03.24更新日:2023.03.24
空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”の緊急支援チームは、トルコ・タニシュマ村の診療所で医療支援を続けています。
今回、登録派遣隊員(ロスター隊員)としてトルコに入った山田医師は、チームが拠点にしているイスケンデルンの町で、ある患者さんのご家族から相談を受けました。
「先が長くないことは理解しています。できるだけのケアはしましたが、そのケアが正しいかわからず……日本から来た医師だと聞いて相談しました」
ご家族に案内されたのは、ひとつのテントでした。
横たわる患者さんは肺がんを患っており、余命数ヵ月。最近は体が弱り、動けなくなっていたのだそうです。ここ数日は意識障害も出現して、食べ物も流動食のようなものしか口にできなくなっていました。
ご家族は以前、別の人のところに来た救急車の隊員に相談したそうですが、「病院には入る場所がない」と言われ、搬送を断られたのだそうです。
山田医師は、血圧や心拍数などを調べ、患者さんを診ます。
「救急車を呼んで、救急搬送をした方がいいと思う」
テントの中で、ご本人・ご家族・医療スタッフの話し合いが行われました。
普段、日本では山田医師のような救急医は、臨床の現場で多職種(看護師や他科の医師、ケアマネジャーなど)とカンファレンスを行って、「医学的適応」「患者の意向」「QOL(クオリティーオブライフ)「周囲の状況」という観点で患者さんの現状を見える化し、しっかりと話し合ってその患者さんの終末期をどう迎えるかを決定していきます。
日本国内でも、終末期の対応は、病状や残された時間、医療従事者によって医学的適応に相違があり、また家族との関係や経済状態、宗教などでも違ってきます。
そのような繊細な対応が求められる「終末期」。
山田医師は「日本でも、トルコでも、本人、家族、医療従事者がしっかりと話し合って、どういう終末期を迎えるかを決定するということが重要なんです」と言います。
最期をどこで迎えたいのか、どんな風に過ごしたいのか。
医療スタッフは、医療の知識でご家族やご本人に「選択肢」を提示してあげることができます。
話し合いの後、救急車を呼び、患者さんを病院へ搬送することになりました。
「来てくれてうれしい。神様の祝福を願っています」
苦しそうな呼吸の中で、患者さんは私たちスタッフにそう伝えてくださいました。
今回お会いした患者さんは、平時であれば医療機関としっかり相談しながら、終末期の迎え方を決めていったのだと思います。しかし、今は「災害時」です。
医療機関に十分な助けを求められず、ご家族は相談するところがなく、さらにテント生活という劣悪な環境で、医療機関に入院しても家族も生きていくので精一杯で付き添いができない……平時なら可能な終末期の迎え方を協議するためのプロセスも踏めない状況になってしまっていました。
今回、そういった状況の中でも、私たちピースウィンズの医療チームが介入し、災害時であっても平時のように「医学的適応」という観点からも患者さんの現状をしっかりと評価して、終末期の迎え方を話し合うプロセスを提供できたのではないかと思います。ただ、被災地には、このような患者さんはまだまだたくさんいらっしゃるでしょう。
その後、医療機関を受診した患者さんとご家族は、やはり自宅(テント)での看取りを選択し、最期までできるだけ家族のそばで過ごす、という判断をされました。
「大規模災害時、日本とは文化も異なるトルコの地で、トルコの死生観や終末期医療について考えさせられました。今後、医療チームとして支援に臨む際は、災害時であっても異国であっても、終末期医療の在り方についても考え続けなければならないのだと思います」
山田医師は、次の医療支援へと繋がる想いを語りました。
空飛ぶ捜索医療団は、引き続き現地での支援を行っていきます。
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