JOURNAL #2812023.12.20更新日:2024.01.16
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
災害やテロ現場で活躍する医療チーム、DMAT。最近ではテレビやメディアで紹介され、一般的な認知も広まってきています。そこでDMATの活動や必要な項目、実際の活動事例などについても知識を深めておくと、「有事の現場ではどのような人たちに支えられているか」「有事の医療はどのような体制やルールで行われているか」とわかるようになり、いざという時の心の備えになるでしょう。
今回の記事では、DMATの活動と有事における医療体制、DMATの一員になるための条件、具体的な活動事例について解説します。
まずDMATとは、「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」のことです。地震や津波、台風、テロ事件などの大規模な災害や傷病者が発生した際、48時間以内の急性期から活動するため、専門的な訓練を受けています。災害派遣医療チーム“Disaster Medical Assistance Team”の頭文字をから略し、「DMAT(ディーマット)」と呼ばれています。
DMATを構成するチームは、
・医師
・看護師
・業務調整員(医師、看護師以外の医療職、または事務職員)
から成り立っており、基本的には医師1名と看護師2名、業務調査員1名と合計4名前後で活動するケースが多いです。
2021年3月の報告によると、DMATは全国に在籍しており、合計で1万5000人ほど、チームでは1700隊が構成されています。
また、災害医療支援チームには、我々「空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”」のような民間団体もありますが、日本のDMATは厚生労働省の管轄に置かれ、厚生労働省防災業務計画における災害医療体制の整備の項目で管理されている公営団体となります。
それでは、DMATの役割と重要性についてイメージをつかむため、日本で発足した背景を見てみましょう。
DMATの必要性が重視された背景は、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災です。マグニチュード7.2の大地震となり、約10万棟もの家屋が全壊、約51万以上もの家屋が被災し、死者・行方不明者が約6,400人、負傷者が約43,000人と、甚大な大損害をもたらしました。
この大震災で浮き彫りとなったものは、初期医療体制の遅れと災害医療への意識の低さです。当時のパニック状況や医療現場の状況から、平時の救急医療レベルでの医療が提供できずに救命が進まず、「避けられた災害死」が後を絶ちませんでした。
これを受け、「一人でも多くの命を助けよう」との名目で、厚生労働省は2005年4月に日本DMATを発足させました。独立行政法人国立病院機構災害医療センターにて研修も開始され、2006年9月からは西日本の拠点を置くべく、兵庫県災害医療センターでの研修も行われるようになっています。
DMATの一員として日本で活動するには、医師や看護師、業務調査員としての資格はもちろんのこと、以下が必須の条件となります。
DMAT隊員になるには日本DMATによる養成研修の受講と試験合格が必要ですが、それ以前にDMAT指定医療機関への勤務も条件となります。その際には、以下の医療機関に勤務します。
日本DMAT隊員養成研修は、通常4日間で行われます。研修内容は救急や消防についての地知識、自衛官による講義、実技指導や想定訓練など、災害時の医療に特化されています。研修後に行われる筆記試験の内容は、医師や看護師、業務調査員で同じです。しかし、実技試験はそれぞれの業務において異なるため、職種に応じた準備が欠かせません。
隊員養成研修を終え、筆記・実技試験に合格するといよいよ日本DMATとしての資格を得られますが、活動し続けるには資格の更新が必要です。資格は5年ごとの更新制となり、有効期限内に日本DMAT技能維持研修に2回以上の参加が義務づけられています。
DMATとして活動するには相応の訓練と資格、そして医療分野での勤務実績が問われると、イメージがついてきたでしょうか。ここからは、DMATが具体的にどのような活用をしているか、有事と有事以外(通常時)と分けてお話しします。
有事とは、地震や台風、豪雨、津波などの自然災害に合わせ、テロ事件、車の衝突事故や航空機の事故、列車の脱線事故など、通常とは異なる環境のことです。
そのような通常とは異なる状況になると、全国の医療機関で結成されているDMATは出動準備を行います。各都道府県から出場の要請を受け、現地に到着し、状況に応じての活動をスタートします。現地でのDMATの活動はケースによって異なりますが、大きく分けると以下の通りです。
どのケースにおいても現地のニーズ、自治体や組織からの要請によって状況が変わることから、状況に合わせたうえでの広範囲での活動が求められます。
DMATは有事の医療現場で広範囲な活動が問われますが、そのような緊迫した状態であるからこそ、
・優先すべき人を救う
・一人でも多くの人を救う
という2つの条件を満たさなければなりません。
特に自然災害やテロ事件、事故などの有事の現場においては、死者や治療や搬送を必要とする傷病者が多くなることに対し、人員や医療物資などが限られています。そのような状況下でも「救えたはずの命」を救うべく、冷静かつ効率的な判断に徹し、医療行為を行うことが期待されています。
有事の医療現場では、すぐに治療を必要とする患者や優先度が低い患者、あるいは既に死亡が確認されている患者など、さまざまな状態での患者に対応します。そのような状況下でも救える命を一人でも確保するには、的確な判断基準での患者の選別が必要です。ここでは、災害医療における患者選別の基準、Triage(トリアージ)について解説します。
Triageとはフランス語で「選別」という意味を持つ、「災害による傷病者を正しく選別する」ための第一ステップです。以下の色分けを判断基準とし、優先すべき対象を決定します。
このようにして色分けが明確にされていると、「緊急性が高く、治療によって救命が可能」な傷病者を適切に選べるようになります。その後、決められたプロセスに則り、緊急治療や災害拠点病院への搬送に移ります。
DMATとしての活動は、地震やテロ事件、事故のような有事の現場だけにとどまりません。通常時の医療でもDMATの隊員であることを意識する必要があり、通常時の医療行為に合わせ、常に災害時に備えた訓練や取り組みを行っています。
DMATの隊員は、通常時での医療業務に加え、所属施設や地域の合同訓練、消防や自衛隊との合同研修など、常に災害に備えた行動をしています。また、次に災害や事件が発生した時に備え、医療物資の確認や活動部品の確保・点検など、現場で不備や遅れが生じないように調整する必要もあります。
さらには、所属先の医療機関でのプログラムの検討、以前出動時の振り返りなど、過去の事例や今後の状況を見据えたうえでの活動も必要です。
このように考えると、DMATの隊員やチームは日ごろから災害や事件を想定したうえで行動することから、いざという時のためへの意識とトレーニング、精神力が問われることがわかります。
さて、DMATの概要や活動内容、具体的な活動方針についてお話しした後は、実際の具体的事例についてお伝えします。今回は、新潟中越沖地震、東日本大震災、熊本地震、ダイヤモンドプリンセス号など、DMATの活用事例を報告します。
2007年7月6日に発生した新潟中越沖地震は、マグニチュード6.8、最大深度6強、さらには原子力発電所の被災という甚大な被害をもたらしました。放射線被ばくによる患者はいなかったものの、環境にも住んでいる人にも大きなダメージがあったことには変わりません。
新潟中越沖地震において、DMATは発生から約3時間後に派遣要請を受け、現地での医療行為や支援などを行いました。日本DMATとして初めて組織として活動することとなり、活動そのものは高い評価を受けたものの出動要請などの遅れなどが指摘され、今後に向けた課題としても注目されています。
2011年3月11日に発生した東日本大震災はマグニチュード8.0の大地震となり、最大深度は7、加えて大津波や原子力発電所の事故が起こるほどの大災害にまで広がりました。同年5月31日まで余震が続く、東北地方から関東地方、中部地方にまで被害が及び、長期かつ広範囲での災害となったことが記録されています。
東日本大震災の被害に対し、現地には全国から約340隊、約1,500人のDMAT隊員が集結し、同年3月11日から3月22日に対して活動を行いました。
想定とは異なり、外傷が目立つ患者数が多くなかったことから、患者の域内搬送や広域医療搬送、病院入院患者避難搬送、病院支援が主な活動となりました。毎年の訓練や災害を想定した意識が活かされ、比較的スムーズな医療や支援が行われたことが評価され、今後の昇順モデルに採用された体制もあったほどでした。
しかし、地域によっては初動が遅れたチームも見られたため、次の活動に向けた課題も多数残りました。
2016年4月14日、16日に発生した熊本地震は、最大マグニチュード7.3、最大深度は7、熊本城の損壊が見られるほどの被害をもたらしました。熊本地震では外傷の患者は多くありませんでしたが、車中での避難による静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)が多数発生し、直接の被害でなくとも災害医療が求められる結果となりました。
熊本地震に際し、全国から約200名のDMAT隊員が集まり、現地の状況確認や疲弊していた地域医療センターへの支援、負傷者の救命救急活動、患者避難などに携わりました。4月26日には撤退したものの、医療救護班は6月まで現地での活動を続けたことも報告されています。
東日本大震災から学んだ円滑な引継ぎ体制が活かされたものの、指揮系統の強化や連携団体との関係性構築などの課題も残りました。
2020年の新型コロナウイルス感染を受け、当時横浜に停泊していたダイヤモンドプリンセス号はパニック状況に陥りました。これに対し、厚生労働省からの要請により、合計472名のDMAT隊員が現地に派遣されています。
DMAT隊員は2020年2月20日から3月1日まで、船内での医療行為、感染者の指定医療機関への搬送、家族対応などを行いました。災害時とは異なる状況下で関連死を防げたことは評価されたものの、症状の重症化を防げなかったこと、物資や支援の遅れが目立ったことなどから、ウイルスへの理解や人員・物資の補強が課題となりました。
DMATは、私たちのような民間団体と連携を取りながら活動をしています。例えば2023年9月に国が主催した大規模地震時医療活動訓練では、DMATと空飛ぶ捜索医療団を含む複数の団体が、南海トラフ巨大地震を想定して訓練を行いました。(参考: NHK – 被災後の医療提供体制の確保 高知県などで対応訓練)
DMATが活動するような医療が逼迫した緊急事態においては、官民一体となって取り組むことが不可欠です。一人でも多くの命を助けることができるよう、今後も災害医療支援活動に当たっていきます。
以上、DMATの定義や活動内容、災害時の具体的事例について解説しました。
このようにしてDMATになる条件や有事・有事以外での活動内容、過去の事例からの活動や課題などについて知っておくと、DMATがいかにレベルの高い医療を求められるかがわかってくるでしょう。今後の有事に対しての心構えができると同時に、DMAT隊員への感謝の気持ちも芽生えてくるかと思われます。また過去の事例を重ねて活動の精度が向上されていることから、DMATの活動は今後も大いに期待される分野です。
私たち空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”も、DMATと同じく医師や看護師、医療従事者を含むチームを構成し、必要に応じてヘリコプターや専用車を駆使し、災害時に一人でも多くの方を救えるように努めております。DMATの方々と協働しながら災害医療に貢献できるよう尽力しますので、ぜひこの機会に空飛ぶ捜索医療団についても理解を深めていただければ幸いです。
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空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
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