JOURNAL #3102024.02.06更新日:2024.08.15
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
大地震や台風などが起こると、地域レベルで甚大な危害が及ぶだけでなく、人的な危害までももたらされます。ニュースを見聞きしていて、「こんな時にはどのような救助が行われているのだろうか?」「その財源はどこから出ているのだろうか?」「救助を受けられる基準はどのようにして決められているのだろうか?」と思われたこともあるでしょう。
実際にこのような状況下においては、災害救助法のもとで救助が行われています。また、災害救助法が適用されるには、定められた基準を満たす必要があります。
今回の記事では、災害救助法の概要と受けられる救助の内容、災害救助法の適用基準について解説します。
まず災害救助法とは、災害が起きた時の救助や保護のために作成された法律です。大地震や津波、台風などが発生した際に、被災地の応急救助や被災者の保護をすることにより、社会の秩序を守ることを目的としています。
実際に災害が起こると、建物や住宅はもちろん死傷者や傷病者など、衣食住や健康に関わる危害が広がります。そしてそのような状態に対応するには、避難所や応急仮設住宅、食料品や飲料品、生活必需品、医療費・埋葬関連費用の補助など、さまざまな項目における支援が求められ、原則としては災害が起こっている都道府県が負担します。その負担額は災害救助法37条で定められた災害救助基金の積み立てから支払われますが、被災地の財源だけで担うことはほとんど不可能です。
そうなった時に役立つものが災害救助法です。都道府県の知事が救助要請や指示を出して市町村長を補助し、必要と見られる費用を国が負担する流れとなります。
国としては、
・どのくらいの規模で住宅に被害が出ているのか
・どのくらいの規模で、住民の生命や身体に危険が生じているか
を目安で確かめ、被災地の財政力と照らし合わせたうえで必要な支援や財源を負担します。
つまり、「災害が起こった時には応急措置に財政的支援が必要となり、基本的には被災地の地方自治体が負担をする。被災地だけでの負担が難しく、条件を満たしている場合には、国が負担する」と考えておくと良いでしょう。
さて、次は災害救助法がどのようにして作成されたかを見ていきましょう。
災害救助法が定められた時期は、第二次世界大戦後から間もない1947年10月18日です。災害発生時に応急仮設住宅や生活必需品の提供などが必要になることから、飛車医者の保護と社会の秩序の保全にかかわる事項を定められました。
それ以降、
・1995年の阪神・淡路大震災:兵庫県内の20の市町村が災害救助法の適用を受け、国と兵庫県が救助費用を負担
・2011年3月の東日本大震災:岩手県・宮城県・福島県・青森県・茨城県・栃木県・千葉県及び東京都(帰宅困難者)に災害救助法が適用され、国が救助費用を負担
など、法に基づいた救助や支援が行われています。
また災害救助法は、2018年の熊本地震をきっかけに改正もされています。災害がいつ起こるかわからないことを踏まえ、以下の項目が新たに追加され、2019年の4月に新たに施行されました。
追加された項目 | 背景 |
---|---|
救助実施市(災害に対し円滑かつ迅速な救助が行えると、内閣総理大臣が指定する市)の長による、救助の実施 | 地域へのより迅速な支援と救助を行うため |
都道府県知事による連絡調整 | 救助実施市以外で発生した災害に対し、都道府県知事の判断で救助に必要な物資の供給または役務の提供をスムーズに行うため |
救助に要した費用の思弁区分 | 救助にかかった費用を救助実施市が支弁するため |
国庫負担 | 救助実施市が支弁した費用に応じ、国庫が一部を負担 |
災害救助基金 | 救助実施市は、救助費用の支弁のため、災害救助基金を積み立てる |
しかし、災害の規模や危害は起こってからでなくてはわからないものであり、基本的に救助や支援は過去の事例を元に改正され、実施されます。その現実を考えると、災害救助法は今後も改正が繰り返されていくでしょう。
災害救助法と名前が似ている一方、異なる役割を持っている法律が災害対策基本法です。
災害対策基本法は、1959年に起きた昭和の三大台風の一つ、伊勢湾台風によるダメージをきっかけに制定されました。災害時に国土や国民の命、身体や財産を保護するための役割を持ちます。
災害対策基本法は、以下の6つの要素から成り立ち、災害が起こる前から起こった当時、その後までの対応が細かくまとめられています。
防災基本計画や地域防災計画の基軸にもなり、それぞれの場面に対して迅速かつ適切な行動に移せるという特徴があり、災害大国・日本には欠かせない法律だと言えるでしょう。
なお災害対策基本法も毎年のように改定が行われ、災害から国や地域、人を守るために改良が続けられています。
【関連記事】災害対策基本法とは?重要性と6つの要素、改正について分かりやすく解説
災害救助法やその歴史について、イメージが湧いてきたでしょうか。次からは、実際に災害救助法のもとでどのような救助が行われるのかについてお話しします。
災害が起こった際、本法第23条、施行令第8条にて救助活動や支援が行われますが、その前に法の基本原則について説明します。
災害救助法には以下5つの原則があり、救助の際にはこれらを守らなければなりません。
平等の原則においては、救助を求めている被災者に対し、事情のイカや経済的な要件を問わず、平等に救助の手を差し伸べる必要があります。
必要即応の法則においては、「応急救助は被災者への見舞制度ではない」ことを踏まえ、画一的で機械的な救助ではなく、それぞれの被災者がどのような救助を必要とするか、見極めが不可欠です。また必要を超えた救助は行わないことも念頭に置いています。
また災害時は、物資の欠乏や調達の困難が目立ち、金銭が役に立たないケースがほとんどです。そのため、現物支給の法則では、支援は現物で行うことを原則としています
さらに現在地救助の原則では、可能な限り迅速な救助するため、被災者の現在地での実施が定められています。加えて救助の対象者は住民だけでなく、旅行者や訪問客、土地の通過者など、災害時に現地にいる人が対象です。
職権救助の原則では、都道府県知事がその職権を持って救助を行うことが認められます。仮に被災者が申請していなくても、知事が必要と判断すれば救助や支援が行われます。
次からは、災害救助法で具体的にどのような救助や支援が行われるかについて見ていきましょう。
まず、衣食住にかかわる以下のような救助や支援が行われます。
・避難所などの収容施設や仮設住宅の供与
・炊出しなどによる給食
・給水車などによる給水
・被服、寝具その他生活必需品の支給又は貸与
・学用品の給与
・災害によって住居または周辺に運ばれた土石、竹木など、日常生活に著しい障害を及ぼしている障害物(豪雪災害時の雪を含め)の除去
ほかにも、
・医療及び助産(救護班の出動など)
・被災者の救出
など災害による健康的な危害を補うもの、
・被災者住宅の応急修理
・被災者の正業に必要な金品の給与・貸与
などの住居や金銭的支援も必要です。
また災害時は人の命が失われることを考慮し、
・遺体の捜索及び処理
・埋葬
なども災害救助法に則って行われます。
こうしてみると、よくニュースやテレビで報道されている救命や炊き出し、仮設住居の設置のほかにも、幅広い範囲から救助や支援が実施されているとわかります。
しかし、災害救助法は全ての災害において適用されるわけではありません。迅速で幅広い救助と支援が行われるには、国が設定する基準を満たす必要があります。
災害救助法における基準について説明する前に、適用までの流れについてお話しします。基本的には、以下の流れにて、必要な救助・支援が行われるかが決まります。
1. 市町村単位で災害による被害状況をとりまとめる
2. 都道府県に対し、被害状況を報告する
3. 市町村により、災害救助法の適用申請が行われる
4. 都道府県により、災害救助法の適用が決定される
5. 内閣府に対し、情報提供を行う
災害救助法の適用は国が決定しているというイメージが強いですが、実際には都道府県による判断にかかっているのです。また、災害が起きてからすぐ適用が決まるのではなく、被害状況を十分に確認できてからが適用の条件となります。
災害救助法適用の基準は、住宅被害と人的被害にあります。住宅被害においては、「住宅が失われた世帯数が、市町村の人口の一定基準を超えた場合」という基準から、4つの数字的な指数を用いて判断し、基準は各都道府県によって異なります。簡単に言うと、地震による倒壊や水没などで済むに堪えないほどの状況となり、その数が多い場合には、災害救助法の対象となり得るのです。
人的被害では、災害によって「生命・身体への危害が生じた場合」と考えます。災害救助法にも、「多数のものが生命または身体に危害を受け、あるいは受ける恐れが生じた場合」と明記されています。
例えば多くの住民が避難所に避難し、市町村単位では難しいほどの支援が必要になったとしましょう。そのまま対策が進まないままでいると、被災者の健康だけでなく命も危険にさらされます。都道府県がそのような状況を危険だと判断することで、災害救助法に戻づいた救助や支援の対象になります。
このように被災地からの報告と都道府県の判断が一致し、災害救助法が適用されれば、都道府県や国庫から救助や支援に必要な支援が調達できるようになります。それぞれの費用が揃うため、より多くの被災者を救い、一人ひとりに十分な支援を届けることも可能です。
反対に災害救助法が適用されなければ、救助や支援の費用は全て市町村単位で負担しなければなりません。もちろん市町村単位で用意できる費用には限界があることから、特に大規模な災害が起こった際には救助や支援が不十分となり、救える人も少なくなります。結果、市町村の財政が脅かされることは避けられないでしょう。
仮に災害救助法の適用外となった場合でも、市町村単位で救助や支援の方針を固めているため、災害時に自治体から全く支援を受けられないわけではありません。ただ市町村で用意できる費用には限界があることから、災害救助法が適用された場合よりも規模が狭くなり、救助や支援ができたとしてもその後の財政はダメージを受けることとなります。
以上、災害救助法の概要や歴史、具体的な活動内容や適用基準について解説しました。
テレビや新聞などでニュースに触れていると、災害時の救助活動や生活支援などが報道され、災害救助法を知ることでどのような手順で進められているかが見えてきます。「この時ならこのような支援があれば、もっと多くの人を助けられるはずだった」「このような状況で、こういった救助をしてほしかった」など、その都度で不満や課題は残りますが、それぞれの対応が適切かどうかは災害が起こってからでなくてはわからないことであり、救助や支援もだんだんと改善されていっています。それでも災害救助法が適用されなければ被災地で費用を負担することとなり、ひいては市町村の存続にも関わるため、より多くの人の生活を支えるためにも基準や負担を考える必要性も出るでしょう。
特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンでは、民間企業として被災地の救助や支援を行っています。国や都道府県でも救助や支援が進められますが、被災者にとって十分であるとは言い切れません。
その事実を踏まえ、空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”をはじめ、医療行為や救助、支援などに尽くしています。災害時の救助や支援への対応には様々な自治体や団体が関わり、確固としたルールに戻づいて実践されています。
今回の記事をきっかけに、災害時でどのような活動が行われているか理解していただき、またピースウィンズや”ARROWS”について関心を寄せていただけると光栄です。
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空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
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