JOURNAL #3202024.03.14更新日:2024.03.18
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
地震や災害、テロ事件などで奪われるものは、人命や住宅、建築物だけではありません。企業活動や資産、人材などにも悪影響が及び、今後の存続が危うくなることさえあります。そんな状況の救いになるキーポイントが、BCP対策です。BCP対策はまだ普及が浅い傾向にありますが、企業の存続を守る手段として期待が高まっています。
今回の記事では、BCP対策の概要や導入までの流れ、企業の成功事例などについて解説します。
まずBCP対策とは、企業のリスクマネジメントの一環です。自然災害(地震・台風)や事件・事故、不祥事などの人的災害に対し、企業へのダメージを最小限に抑え、復旧と事業再開・存続が可能な体制の整備を意味します。
またBCP対策は『BCM(事業継続マネジメント)』の一部です。基本的に企業活動は『計画・実行・確認・改善』のいわゆるPDCAに基づいて進められており、それらは総合してBCMと呼ばれています。今回ご紹介しているBCPは、そのうち最初の『計画』に属しています。
さらにBCPはその意味合いから防災対策と似ているように思われますが、両者は別物です。防災対策は「自然災害の発生時に際し、企業が取り組むべき対策」のことであり、あくまでも企業の不動産や従業員の命、情報など「自社を守る」ことが定義づけられています。
BCP対策の対象は防災対策よりも広く、自社だけでなく取引先・提携先企業などの他社も守り、必要に応じて連携体制で備えることもあります。
こうして見ていくと、BCP対策は企業にとって必要不可欠な対策だと言えますが、国内で重視されるようになったのは2011年からです。
BCP対策が重要であると認識され始めたきっかけは、2001年9月11日に発生したアメリカの同時多発テロです。ニューヨークの世界貿易センターが攻撃対象となったものの、周辺企業の多くがバックアップオフィスの活用やBCP対策の導入に力を入れており、事業へのダメージを極力抑えられていました。その危機管理に注目した世界中の企業も、次々とBCP対策を始めるようにまでなっています。
日本におけるBCP対策の普及は、2011年3月11日に発生した東日本大震災が大きな要因となりました。広範囲にわたる大規模なダメージが続いたことにより、2011年までのBCP対策の普及率が7.8%であったことに対し、2019年は43.5%にまで高まっています(『帝国データバンク』の調査による)。
普及率そのものはまだ高いとは言えませんが、近年の新型コロナウイルスやウクライナ侵攻による影響を考えると、BCP対策は今後も一層重要になっていくでしょう。
BCP対策には、「従業員を守る」「企業の価値を高める」という2つの大きな目的があります。
企業にとって、従業員は最大の財産であり、事業の発展や存続を支えるには欠かせない存在です。そのため、自然災害や想定外の事態が起こったとしても従業員を巻き込むことがないような状態を整えなければなりません。
また緊急事態によるダメージがあると、早期の復旧が難しくなるだけでなく、事業縮小や倒産を強いられるケースも多いです。このような事態は企業だけでなく従業員、取引先の人生を左右する結果にもなりかねません。だからこそBCP対策を徹底することで、自社も他社も守れるようになります。
BCP対策のメリットは、主に以下の3つです。
緊急事態でネックになるものは、ダメージによる従業員の減少や売上の低迷、備品の欠損などです。そこで普段からBCP対策でそれぞれのケースへの備えができていると、パニックに陥ることなく行動ができ、揺るがない経営基盤につなげられます。
次に、自社はもちろん他社を守る仕組みができていると、緊急時で取引先や提携先の事業への影響も抑えられます。結果、事業全体もスムーズに動くようになり、周囲や社会からの価値や信頼性が高くなっていくでしょう。
続いて、通常時からBCP対策をしていると、自社の強みや弱みなどの現状把握がスムーズになります。特に弱点を確認しておくことで、緊急時にダメージを受けやすいポイントが明らかになり、補うための行動指針も見えてきます。
BCP対策の導入には、要因ごとへの対策や策定方法、策定後の課題など、さまざまなポイントに対する計画が必要です。以下、それぞれのポイントについて解説します。
最初に、BCP対策は「自然災害対策」「外的要因対策」「内的要因対策」の3つの要因を細分化し、対策を決めていきます。
地震や台風、大雨、河川の氾濫、火山の噴火などによるダメージを抑えるには、企業の人的リソースの確保や施設・設備、資金の維持、緊急時の責任者、データのバックアップなどが不可欠です。緊急時や復旧後に稼働できる従業員、工場や設備を含む自社エリア、損害を補う資金、緊急時に指揮を執る人材や指示系統、システム故障時のデータ復旧などが必要です。「どのようなダメージが出て、どれくらいの規模になるのか」を予想したうえで、具体的な対策が求められます。
取引先の倒産やサイバー攻撃、感染症などは、他社であっても自社の存続に大きな影響を及ぼします。ダメージを抑えるためにも、データの復旧作業やウイルス対策、セキュリティ管理などは徹底しておきましょう。感染症拡大で他社の稼働が難しくなった場合にも、想定したうえでの代替案が役立ちます。
社内におけるリスクは、情報の漏洩やSNSでの炎上・拡散、設備の故障など、人的ミスや不祥事などが多いです。従来では社内での問題解決が可能な範囲にとどまっていましたが、インターネットの普及によりダメージが広がるまでになりました。
このようなリスクを防ぐには、「現在進行中のプロジェクトで、どのようなリスクが考えられるか」「人的ミスによってデータが社外に公表されたら、どのような行動をとるか」などを想定し、謝罪の対応や従業員への処遇などのフローをマニュアルにまとめましょう。
BCP対策を落とし込むには、以下のような、さらなる細かな視点が重要です。
1.については、自社と拠点場所へのダメージを想定するため、現場の従業員にヒアリングし、リスクをリストアップします。複数の事業を運営している場合には、2.で事業ごとの優先順位を決め、社内外で対策を考えましょう。3.では人や建物、稼働できない場合の損失を算出し、また補償制度や補助金の有無も確かめます。4.で社内外での連携とBCP対策の具体的な手順が明らかになれば、いよいよ5.の段階でBCP対策が大部分で完成します。
以上、BCP対策には煩雑かつ広範囲な手順を追うことがわかってきたでしょうか。スムーズかつ理想に近い形に策定するなら、以下のポイントも意識しましょう。
BCP対策は細かな事前準備や現状の把握が求められるため、自社では難しいケースも少なくありません。そんな時には行政書士や外部のコンサルタントに依頼すると、自社の特徴や緊急時に想定されるダメージと照らし合わせ、適切なBCP対策を提案してもらえます。
自社で策定する場合には、経済産業省『事業継続計画策定ガイドライン』または中小企業庁『中小企業BCP策定運用方針』が参考になるでしょう。特に後者は『入門・基本・中級・上級』とコースが分かれており、レベルに応じて学べます。
また、新型コロナウイルスによる影響を考えると、感染症対策も今後はなくてはいけません。同じような事態が起こった場合も想定し、ガイドラインに組み込みましょう。
BCP対策は、策定後にいかに作用するかが何よりも重要なポイントです。社内または社外でどのような対応が必要か、以下で解説します。
策定したBCP対策は、企業の全社員に共有することで、緊急時にマニュアル通りの行動がとれるようになります。マニュアルの確認や研修の開催なども、落とし込みにはとても役立つ方法です。またテストや訓練を通じてBCP対策が機能するかを確かめ、PDCAでアップデートすることも忘れないようにしましょう。
取引先や提携先とBCP対策を共有する場合には、緊急時から通常時までの運用フローを決め、目標や具体的な行動を統一させます。共通の行動指針があることで不安やパニックに陥ることなく行動できるようにもなるため、細かなポイントも伝えておきましょう。
さて、これまでBCP対策の意義やメリット、具体的な策定方法について解説しました。緊急時でも企業を守ってくれる方法ではあるものの、「策定までに時間やコストがかかる」「有効なノウハウが見つからない」「機能する可能性が低い」などの不安も付きまとうことでしょう。
次からは、BCP対策の策定に成功した企業と策定の負担を軽減するツールについてご紹介します。
国内でBCP対策に成功した企業は、東京エレクトロンや本多技研工業、三菱電機などが挙げられます。
https://www.tel.co.jp/
半導体やFPD製造装置を手掛ける東京エレクトロンは2016年4月の熊本地震により、九州の主力工場が被災することとなりました。しかし、事前に取引先企業各社と連携を維持していたため、比較的効率よく復旧作業に着手できています。結果、震災から10日後の4月25日に段階的な生産再開に成功しました。
https://www.honda.co.jp/
国内大手自動車メーカー・本多技研工業は、東日本大震災をきっかけに、元々策定していたBCP対策を大幅に改善しました。2013年3月に『BCPポリシー』を策定し、熊本地震で2輪車製造拠点が被災したものの、耐震工事や食料・水の備蓄、従業員の避難訓練などが共有されていたため、ダメージを最小限に回避できました。BCP対策は機能しないリスクも考えられますが、何度も見直して変更を加えることで、緊急時での有効性が増します。
https://www.mitsubishielectric.co.jp/
国内最大手総合電機メーカーの三菱電機は、県外関連工場の増産をBCP対策としています。震災や外的・内的要因で稼働ができなくなっても、ほかの拠点の生産量を増やし、全体的なダメージを抑える仕組みです。これにより、熊本地震で生産拠点が壊滅的な被害を受けても別の拠点に作業を移すことで、生産の遅れを阻止することができました。加えて被災地に応援要員としてエンジニアを派遣し、現地の再稼働にも貢献できたことがわかっています。
緊急時でもデータを安全に維持するには、以下のようなITツールが適しています。
サービスサイト: https://office.cybozu.co.jp/
従業員の安否確認や情報共有、ファイルやデータの管理など、リモート業務を行えるクラウド型のサービスです。1997年からの発売で歴史があるうえに、日本人の生活や働き方に合わせているため、企業からの人気も高いです。
サービスサイト: https://smartdrive.co.jp/fleet/
『SmartDrive Fleet』とは、クラウド上で車両管理ができるシステムです。車両を多く持つ企業の場合、突然の自然災害が起こると車とドライバーの安否確認が必要となります。SmartDrive Fleeで位置情報の共有や連絡ができていれば、管理者が状態を確認でき、適切な指示を送れるようになります。
サービスサイト: https://saas.gmocloud.com/service/backup/
GMOインターネット『torocca!』は、月額550円から容量25GB分のデータの復元やセキュリティ管理などが可能です。企業としての規模がそれほど大きくなく、なるべくコストを抑えてBCP対策をしたい場合には、使ってみると良いでしょう。
サービスサイト: https://biz.teachme.jp/
『Teachme Biz』は、人手による作業マニュアルを動画やテキストで残しておくことのできるサービスです。ご紹介しているようなツールの利用方法も含め、日頃から作業手順を蓄積しておくことで、緊急時や復旧時に担当メンバーが不在となった場合でも、誰にでも対応が可能になります。
自然災害や外部からの危険、社内での不祥事は防ぎにくいものですが、企業の存続に関わるのなら事前の対応が何よりも大事なポイントです。そのような事態にも十分に対応するためにも、BCP対策は多くの企業に浸透していくでしょう。BCP対策は時間的コストが大きくかかりますが、ガイドラインやプロのサポートを確認することで、格段にスムーズになります。また安否確認や遠隔での業務、データ復元を専門とするクラウドツールも発売されているので、ぜひ活用してみましょう。
自社を守ることはもちろん、同時に取引先や提携先も支えるためにも、BCP対策を検討してみたらいかがでしょうか。
また、空飛ぶ捜索医療団では企業様からの支援も受け付けています。ご興味をお持ちいただけましたら、以下より詳細をご覧ください。
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空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
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