JOURNAL #3232024.03.24更新日:2024.06.21
獣医師:安家 望美
内閣府は、平成28年4月に制定された避難所運営ガイドラインで、避難所運営に関する業務の1つとして”女性や子どもからのニーズに配慮すること”を挙げています。
女性は、災害発生時や避難生活の間に、女性ならではの困難や心身のストレスを感じる場面に直面することがあります。そのような場において、行政や支援団体からの援助を期待するだけではなく、女性側も日頃から自衛策を考えておかなくてはなりません。
この記事では、
という、女性視点でのからの防災対策をご紹介します。
過去の災害の教訓から、非常食や水を備蓄されている方は多いですが、生理用品や身だしなみの道具など、女性ならではの用品は用意されているでしょうか?
以下に、防災バッグに追加しておくとよい女性用のグッズをあげました。
大項目 | グッズの例 |
---|---|
生理用品 | ナプキン、パンティライナー、生理用ショーツ、携帯用ビデ、ゴミ袋 |
スキンケア用品 | 化粧水、乳液、日焼け止め、クレンジングシート、鏡 |
ヘア用 | くし、ヘアゴム |
乾燥防止 | リップクリーム、ハンドクリーム、マスク |
リラックスのためのグッズ | アロマ、ホットアイマスクなど |
非常時グッズ | 防犯ブザー |
生理については詳しくは後述しますが、生理用品は最低でもご自身が1回分の周期の中で使われる分量をリュックに入れておけると安心です。
被災時に過剰なおしゃれは不要ですが、メイクができないことが大きなストレスになる方もいます。ノーメイクが気になる方は、100円ショップのものを上手に活用するなどして、上記と合わせて最低限のメイク道具を用意しておきましょう。
ただし、過度に派手なメイクは周りの被災者や犯罪者の目につきやすく、トラブルを招くきっかけになりかねませんので気を付けてください。
また、避難所での生活ではストレスやほこり、乾燥などで肌の調子も崩れがちになります。化粧水や美容液は使い慣れたものをストックしておくか、オールワンタイプのものを準備しておくと便利です。
過去の災害でも、生理用品の配布や備蓄が話題になりました。例えば、避難所では以下のような状況が発生しうると考えられます。
これらの問題の解決策として、個人ができる備えを考えましょう。
内閣府が2022年度に全国約1,700か所の自治体を対象に実施した調査では、生理用ナプキンの備蓄がある自治体は82・5%に上っています。しかし、必要な時に必要な分が手元に回ってくる保証はありません。
防災対策として、1周期分余計に生理用品を自宅にストックしましょう。携帯用ビデやデリケートゾーン用のふき取りシートを用意しておくと下半身の蒸れや汚れが軽減し、気持ちもスッキリします。水に流せるタイプのシートもあるので、平常時に使ってみて自分の肌に合うものを防災バッグに入れておくとよいでしょう。
避難先のトイレにナプキンを廃棄できるエチケットボックスがあるとも限らず、設置されていたとしても男女共用のトイレでは廃棄がためらわれるかもしれません。使用済みナプキンなどの廃棄のために、中身の見えないビニール袋を用意しておきましょう。
思春期を迎えている女の子がいる家庭では、避難生活中に生理が始まった時のために手当の道具を用意しておきましょう。
被災時には、普段より大きなストレスがかかることで生理周期が乱れたり、経血量の変化、PMS(月経前症候群)でイライラしたり落ち込みが激しくなったりといった症状が出ることも考えられます。飲み慣れている鎮痛剤があれば持ち歩くようにするほか、アロマなどで気持ちを変えたり、散歩など軽く体を動したりすることで解消することも可能です。どのような方法があるのか事前に調べたり、ご自身にあった方法は何かを考えておくと良いと思います。
避難所運営ガイドラインでは、女性のニーズへの配慮として、男女別のトイレ、授乳室や母子(妊婦・乳児)避難スペースの設置、更⾐室、女性用物干し場などの設置を挙げています。女性用のスペースは防犯上の観点も配慮しなくてはなりません。
女性自身ができる対策には、以下のようなものがあります。
ガイドラインに記載はあるものの、どこの避難所でも授乳室が用意できているとは限りません。乳児がいる場合は授乳用のケープを持参したり、それに代わるタオルケットなどを用意しておきましょう。
おりものシートを交換しながら下着を使うことで、清潔さを保ち、膀胱炎や尿道炎などの病気にもかかりにくくなります。また冬場などであれば洗濯の回収を減らすことも可能になります。使い捨てショーツは100均のトラベルコーナーにも置いてあるので活用してください。
生理や周産期、トイレ、子育ての悩みは、女性だからこそ気づけるものもあり、気づけない男性が悪いわけではありません。女性ならではの視点を積極的に要望に出し、避難所の環境を整えていく意識を持ちましょう。その際は、運営側も被災者でありながら一生懸命働いてくれているという意識は忘れないことが大切です。
災害時、いつも以上に注意が必要な病気についてまとめました。
エコノミークラス症候群は、水分不足や長時間同じ姿勢でいることによって足に血栓ができ、その血栓が流れて肺などの血管に詰まることで発症する病気です。熊本県の調査では、熊本地震におけるエコノミークラス症候群の入院患者のうち77%が女性であったと報告されています。
女性は男性と比較して、トイレに行く回数を減らしたいという理由で水分の摂取を控える傾向にあります。また、新潟県中越沖地震や熊本地震では自宅の倒壊を恐れて車中泊を選んだ被災者が多く、長時間狭い車内で同じ姿勢でいなくてはならなかったことから、エコノミークラス症候群の発生も多かったと言われています。
対策としては、災害発生時でも水分を控えずしっかりと摂取することや、寝たきりにならず、時々体を動かすことがあげられます。
膀胱炎や尿道炎、膣炎といった下半身の病気も防災時に多くなります。女性は男性に比べて尿道の長さが短いこと、肛門・尿道・膣の出口がそれぞれ近いこと、冷えの影響も受けやすいことから、震災時お風呂に入れないことによる不衛生さも合わさってこれらの病気にかかりやすいです。水分を控えて排尿回数が減ると、尿道に侵入した細菌を尿で洗い流すことができず、膀胱まで感染が広がることになります。
症状としては、膀胱炎や尿道炎では発熱・頻尿・排尿痛、膣炎ではおりものや匂いの変化、痛みやかゆみなどがあるとされています。対策としては、こちらも水分を控えないことや、おりものシートや使い捨てショーツを使用して清潔さを保つことが重要です。
災害時には、ストレスのはけ口としてDV(配偶者や交際相手といった親しい相手からの暴力)や犯罪の発生率が増加する傾向があります。ここでいう暴力は、殴る、蹴るといった身体的暴力だけではありません。以下のような行動もDVに当たります。
また、残念なことですが、避難生活の中では性犯罪も増えやすい傾向にあります。
東日本大震災をはじめ過去の災害でも「布団に男の人が入ってきた」「授乳を凝視された」「トイレまでついてこられた」といった、女性が巻き込まれた性犯罪の報告があります。(東日本大震災女性支援ネットワーク東日本大震災 「災害・復興時における女性と子どもへの暴力」に関する調査報告書より)
また、令和6年1月1日に発生した能登半島地震でも、車内避難していた女性の体を触ったとして同乗者の男が逮捕され、石川県内の被災地で性犯罪による初めての逮捕者が出る事態となりました。
避難所には不特定多数の人が混ざっており、もし不審者がまぎれていても見分けることはほとんど不可能に近いです。そのため、女性側の自衛策を紹介します。
服装は派手なものや目立つ色のもの、体のラインが出るものは避け、動きやすいようスカートよりもパンツスタイルを選ぶと安心です。また、女性用の下着は避難所では干しにくいこともあるので、暗い色のボクサータイプの下着や、カップ付きタンクトップなどを用意しておくこともおすすめです。
可能であれば、女性であると認識されないようにすることも一つのポイントです。例えば、髪の毛はまとめて帽子の中に入れる、寝るときはマスクや帽子で顔を隠すなどです。その上で、いざというときのために防犯ブザーや笛を常に持ち歩く・寝るときもそばにおいておくと良いです。
避難所で人目の少ない場所に行く必要があるときは、必ず周りに声を掛け合い、単独で動かないようにしてください。特にトイレは男性と共同のところもあり、男性が中に入っていってもおかしくないため、犯罪に気づかれにくい場所でもあります。特に夜間は、必ず複数人で行きましょう。
子どもを狙う犯罪者もいることを覚えておかなくてはいけません。避難生活のストレスのはけ口が自分より小さな弱い子どもに向かうこともあり、「怒鳴られた」、「殴られた」などの暴力を受ける可能性があります。
また、子どもを狙った性犯罪は子どもの性別には関係なく「男の子だから大丈夫」ということではないので注意してください。服装は、犯罪者が目をつけにくいような暗めなもので、パンツスタイルを選ぶようにしてください。避難所生活では子どもたちだけで行動することのないよう、必ず大人が付き添うようにしましょう。男の子のトイレの場合も、父親か信頼できる知り合いの大人に付き添いを頼むか、入口までお母さんがついていき中に声をかけ続けるといった対策を取りましょう。
対策が必要なのは、避難所内だけではありません。被災地では住民が避難することで人目が減るため、空き巣や窃盗といった犯罪が起きやすくなります。令和6年能登半島地震では自衛官を装う人物が町内をうろついているとの目撃情報があり、石川県穴水町は公式X(旧ツイッター)で注意喚起を行いました。修理業者や市役所の職員などを装って家を訪問し、ドアを開けさせるというケースもあります。
災害発生時でも在宅の場合はドアは施錠し、訪問者はインターホンで確認してからドアを開けるようにしましょう。また、洗濯物を干すときには男性のものを混ぜるようにしましょう。
過去の災害では、避難所の運営は男性が中心となって行うことが多く、女性は生理やプライバシーに関する要望を伝えにくいということがありました。しかし、このような声を汲み取り”避難所の運営に女性が関わるべき”という声が上がっており、国も防災計画の中に女性リーダーの育成、男女のニーズの違いに対する配慮といった男女共同参画、障害者・高齢者・女性等への多様性への配慮を加えています。
とはいえ、女性は子どもや高齢者のケアなどに回ることが多く、地域の中心となって働く仕事には関わりにくいという現状があります。避難生活を送るうえで女性が抱える問題は、声をあげなければ運営側は気づいていないことかもしれません。ぜひ、周りの女性たちとも協力して、要望を伝えていきましょう。
もし、性犯罪や暴力、窃盗などの犯罪に合った、耳にしたといった場合は、見て見ぬふりをせず、警察や相談機関に通報しましょう。以下のような、用途に合わせた専用の窓口もあります。
#8103(性犯罪被害相談電話全国共通番号)
#8008(DV相談ナビ)
避難所で女性が直面しやすい問題として、プライバシー、生理に関する問題、医療に関する問題、DVや性犯罪の4つの項目について、現状や対応策をまとめました。
現在、国では防災面での男女共同参画を目指し、女性リーダーの育成等の計画を進めていますが、実際の避難所の運営は市町村やNPOなどの団体側に任されています。避難している女性たちが積極的に声をあげて、自分たちでグループを作り避難所の運営にかかわっていくことによって、避難所の女性が置かれる状況は改善していくものと考えられます。自分を守るための対策も忘れずに行いましょう。
WRITER
獣医師:
安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。
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