JOURNAL #3342024.04.23更新日:2024.05.14
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
災害による避難生活中に亡くなる災害関連死は、過去の地震や水害でもくり返されています。災害関連死を防ぐためには、どのような対応が必要なのでしょうか。
この記事では災害関連死の背景や要因を解説し、対策を具体的に解説します。家族の命を守るために必要な公的支援や個人の備えについても紹介しますので、ぜひご確認ください。
災害関連死に関する基本的な内容を紹介します。まずは災害関連死の定義を確認しましょう。
一般に、震災による死者は以下の2つに分類されます。
・地震による津波や家屋・建造物の倒壊などの直接的な原因による犠牲者
・災害では怪我をしていないが、避難生活中に罹患したり持病が悪化したりして亡くなる方々
災害関連死は後者にあたり、災害による直接的な死ではなく、災害発生による精神的なショックや厳しい避難生活など、災害による間接的な要因による死者を指します。なお、震災の場合は「震災関連死」と呼ばれるケースもあります。
内閣府の資料「災害関連死について」によれば、災害関連死は以下のように定義づけられています。
「当該災害による負傷の悪化又は避難生活等における身体的負担による疾病により死亡し、災害弔慰金の支給等に関する法律(昭和48年法律第82号)に基づき災害が原因で死亡したものと認められたもの」
実際には災害弔慰金が支給されていないものも含まれており、当該災害が原因で所在が不明な場合は除かれています。
上記のように定義されていても、災害関連死かどうかの判断については統一的な基準はなく、自治体によってばらつきがあるのが現状です。なお、災害弔慰金の詳細については後述しています。
以下は、主要な震災・災害における災害関連死者数をまとめた表です。全ての災害関連死が把握・認定できているわけではないため、実際の数はさらに多いといわれています。
災害名 | 死者・行方不明者 | 災害関連死者数 |
---|---|---|
阪神淡路大震災 | 6,434人 | 約900人(約14%) |
東日本大震災 | 22,000人以上 | 3,802人 |
熊本地震 | 50人 | 223人 |
西日本豪雨(広島・岡山・愛媛の3県) | 死者304人、行方不明者8人 | 83人 |
令和6年能登半島地震 | 245人 | 少なくとも100人 |
災害関連死が定義づけられるきっかけとなった阪神淡路大震災では、死者数全体のうち約14%がが災害関連死として認定されました。まだまだ復興の最中である令和6年能登半島地震でも災害関連死が発生しています。また災害関連死は、西日本豪雨のように、地震だけでなく豪雨など震災以外の災害によっても生じます。
災害関連死のうち多くは高齢者であり、男女別による差はあまり見当たりません。また、発災後1週間以内に亡くなった人の割合は東日本大震災では18%、熊本地震では24%、そして災害関連死の約8割が、発災後3ヶ月以内に亡くなっています。地震や水害によるショックや不慣れな避難生活から生じるストレスは、想像以上のものであることがわかります。
災害関連死の死因には気管支炎や肺炎、心不全、脳卒中などがありますが、間接的な要因として避難生活にかかわる肉体的、精神的ストレスが大きく影響しています。以下に、災害関連死が起きる要因として考えられる4点について解説します。
原因の1つ目は、避難所の生活環境や移動中による心身の負担が大きいことです。具体的には「十分な栄養や睡眠をとれない」「トイレやシャワーなどが不十分」といった身体的な悩みや、「災害のショックが大きい」「周囲に気を遣うのに疲れる」など精神的な負担の大きさも要因として挙げられます。
実際に東日本大震災において、復興庁公表の『東日本大震災における震災関連死に関する報告(平成24年8月21日付)』では、災害関連死の原因として以下の内容が示されています。
・全体の30%: 避難所等における生活の肉体・精神的疲労
・全体の20%: 避難所等への移動中の肉体・精神的疲労
・全体の20%: 病院の機能停止による初期治療の遅れ等
東日本大震災による関連死では、既往症の方(持病があったり要介護認定を受けていたりする方、薬を飲んでいる方など)が全体の6割となりました。
特に高齢で疾病を抱えた方や家族にとって、避難生活の中で長期にわたって十分な水分と食事をとれず、睡眠もままならない環境はつらく、耐え難いものです。災害発生後は避難所間の移動や車中泊など体力を消耗する場面もあり、肉体的にも精神的にも疲労が蓄積し、既往症を悪化させてしまうと考えられます。
災害時には、我々空飛ぶ捜索医療団を含め医療団体は医療処置に最善を尽くしますが、災害発生直後の混乱のなかで十分な医療体制を築くのはまだまだ難しい現状があります。停電や断水、道路の寸断があれば、さらに治療が遅れてしまう可能性もあります。
エコノミークラス症候群は、同じ姿勢で居続けることで足や下半身に血栓ができ、急な動作によって呼吸困難や意識喪失などを引き起こす病気です。2004年の新潟県中越地震では車中泊をしていた方々4名が、その後の熊本地震では18人がエコノミークラス症候群になったとされ、中には亡くなった方々もいます。
エコノミークラス症候群は若者でも発症します。足に血栓ができていても自覚症状はなく、長時間座っている状態からいきなり動くことで、血流が血栓を肺まで運んでしまい、肺の血管を詰まらせてしまう危険性が高まります。特に、車中泊をされる方や、運動や歩行が困難な方は注意が必要です。
避難生活中に病気になることで亡くなる方々もいます。内閣府は『災害関連死について』の中で、以下のような事例を示しています。
避難所での生活環境の悪化や不衛生な状況、仮設住宅への移動などによる疲労やストレスは、罹患のリスクを高めます。避難所での集団生活では、インフルエンザやコロナウイルスに感染したり、厳しい天候下での体調管理がうまくいかず、風邪をこじらせて肺炎になったりするリスクがあります。また、生活再建への望みを絶たれて自死を選ぶケースも報告されています。
次に、災害に見舞われた場合の補償や公的支援について紹介します。ご家族が災害関連死で亡くなられた場合の弔慰金から、災害関連死に陥らないための補償まで様々な制度があります。詳しい制度や基準については、内閣府の運営する防災情報のページを参照してください。
災害関連死で亡くなった場合、災害弔慰金の支給等に関する法律(昭和48年法律第82号)に基づいて、その遺族に対して災害弔慰金が支給されます。内閣府の『災害関連死事例収集』によると、災害弔慰金の支給を実施する主体は市町村とされ「1市町村において住居が5世帯以上滅失した災害」や「都道府県内において住居が5世帯以上消失した市町村が3以上ある場合の災害」など対象災害が指定されています。
災害弔慰金の給付遺族や支給額は以下のとおりです。なお、費用負担については国1/2、都道府県1/4、市町村1/4と定められています。
ア.配偶者、子、父母、孫、祖父母
イ.アのいずれもが存在しない場合は、死亡した者の死亡当時における兄弟姉妹(死亡した者の死亡当時その者と同居し、又は生計を同じくしていた者に限る。)
ア.生計維持者が死亡した場合: 500万円
イ.その他の者が死亡した場合: 250万円
災害によって重傷を負った方々に対する「災害障害見舞金」も補償されています。内容は以下のとおりです。費用負担については災害弔慰金と同様です。
重度の障害(両眼失明、要常時介護、両上肢ひじ関節以上切断等)を受けた者
ア.生計維持者の場合: 250万円
イ.その他の者の場合: 125万円
災害によって住宅が倒壊するなどの被害に見舞われた世帯に対して、最大300万円の支援金が支給されます。支給額は下記のようになります。
地方公共団体によっては、住宅被害を受けた世帯に対して独自の支援制度を設けている場合があります。お住まいの自治体に確認してください。
地震や水害によって住宅が半壊し、修理代をまかなえない世帯に対して、被災住宅の居室やキッチン、トイレなど日常生活に欠かせない最小限の部分を応急的に修理する制度があります。これらは市町村が業者に委託しておこなわれ、修理限度額は1世帯(大規模半壊、中規模半壊又は半壊若しくは半焼の被害を受けた世帯)あたり595,000円以内とされています。
なお、要件としては災害救助法適用の市町村において、以下の要件を満たす世帯が対象となります。
このほかに、災害によって滅失や損傷を受けた家屋の復旧に対して、低利で融資をおこなう災害復興住宅融資制度もあります。住宅を建設する場合の基本融資額は1,650万円など、住宅の再建方法によって融資限度額や返済期間が異なるため、確認が必要です。
災害関連死には直接関連のない補償、支援制度でも、各情報を知っておくことは重要です。避難生活を続けながらも将来の見通しを立てられることで、精神的なストレスを減らし、災害関連死の予防につながると考えられます。
災害関連死は高齢者や持病のある人に起こりやすいとされますが、避難所の生活環境の悪化や移動のストレス、再建活動の疲労などは、性別や年代を問わず誰にでも起こりうることです。また、災害関連死を防ぐためには事前の対策も重要な要素です。家庭では要介護者や高齢者、子どもへのケアについてシミュレーションをするなど、尊い命を守る取り組みが欠かせません。
ここでは、災害関連死を防ぐためにできる対策や備えについて詳しく解説します。
先行事例からもわかるように、要介護度の高い高齢者や障がい者、持病を抱える方々は、通常の医療や介護を受けられなくなった場合に災害関連死に直結してしまう可能性が高いです。そのため、避難や支援の計画策定にあたっては、高齢者や持病を抱える方々を考慮することが大切です。
たとえば、次のような取り組みが挙げられます。ご家族に配慮の必要な方がいらっしゃる場合は意識しておきましょう。
災害発生後の精神的なストレスの解消は、災害関連死を防ぎ、安心して従来の生活を取り戻すうえで極めて重要です。筑波大学の高橋晶准教授は、発災後の状況に合わせて以下のポイントを守ることが重要であると示しています(NHK健康チャンネル『災害時のこころのケア』)。
状況 | 注意するポイント |
---|---|
超急性期(発災直後~数日) | 安全・安心・睡眠を確保する |
急性期(1週間~1ヶ月) | お互いに支え合う・協力する |
中期(1~3ヶ月) | 心的外傷後ストレス障害やうつ病、アルコール依存症などの病気に注意する |
復興期(3ヶ月以降) | 心理的な支援を提供しつつ、生活再建を支援する |
特に中期は人によって生活環境が変化し始めるころです。避難生活が長期化する中で喪失感や絶望感といった心的負荷がかかることで、自死の傾向も高まると指摘されています。また復興期では、住居の用意や就労などの経済的不安が心に重くのしかかり、心身ともに大きなストレスを抱え込む人もいます。
相手や家族の置かれている状況を判断し、精神的にサポートすることが大切です。
また、子どもや女性などに対するケアも必要です。子どものなかには親に心配かけないよう過度に我慢を重ねている場合があります。女性は避難所での暮らしの中で生理的な悩みを抱えやすいため、寄り添い、適切な支援をおこなうよう心がけましょう。
避難所や車中泊などの災害時の生活では、体を動かすことが大切です。運動不足によって血流が滞るとエコノミークラス症候群のリスクが高まるためです。
避難生活中でも、可能な範囲で散歩をしたり、こまめに身体を動かすようにしましょう。歩くことが難しい場合は、座ったままできる運動やふくらはぎのマッサージなどをおこないます。また、車中泊の場合は血栓ができないよう衣服をゆるめに着用し、1時間に1度は車外に出てストレッチをするなど、こまめに身体を動かすよう意識してください。
災害関連死を防ぐためには個人や家庭での備えも重要な要素です。たとえば、以下は基本的な準備の例です。
備蓄品については3日分を必要最低限とし、余裕を持って1週間分の備えをしておくことが推奨されます。保険や共済加入については、補償内容や対象は保険や共済によって異なるため、しっかりと確認しておきましょう。
本メディア内に、家庭での備蓄に役立つローリングストックやフェーズフリーについて解説している記事、備蓄、ペット防災についての記事もありますので、参考にしてみてください。
ここまでは個人で取り組めることを中心にご紹介しましたが、以下は、避難所運営などを行う自治体や、民間団体などが注意している事柄です。ご自身も過ごす可能性のある避難所は何を意識して運営されているのか、どうあるべきなのか、事前に知っておくための参考にしてください。
災害関連死を防ぐためには、避難生活の環境改善が重要なポイントです。水分や栄養の補給のほか、災害関連死の防止策として専門家や医師が指摘しているのが「TKB」という考え方です。TKBはトイレ・キッチン・ベッドの頭文字をとったもので、以下の内容を指します。
断水によって簡易トイレが使われる場合、避難者のなかには不衛生さを理由に水分摂取を控える方々も増えてきます。その結果、脱水症や便秘を引き起こし、災害関連死のリスク増加につながります。また、十分な水分と栄養をとれなければ脳卒中や心筋梗塞などの疾患を招いたり、床での睡眠は不眠や疲労、ストレスを引き起こし、呼吸器系疾患を誘発したりする可能性があります。
災害関連死を防ぐため、自治体は生活の中心となる避難所においてTKBの環境改善を図っていくことが求められます。
令和6年能登半島地震でも、トイレの利用についての問題が生じていました。被災地でのトイレ問題について記載している記事の中で実態をご紹介していますので、参考としてぜひご一読ください。
災害関連死を防ぐためには、医療や介護をいかに継続させるかも肝要です。服薬の継続や定期的な診療、介護のサポートを行うほか、そもそもケアが必要な方を把握しておくことも大切になります。
緊急時における医療支援は、人手不足やキャパシティなどの問題から自治体だけではなかなかカバーしきれない部分があるため、我々のような民間団体が介入する必要性が高まります。
令和6年能登半島地震においても空飛ぶ捜索医療団は、主に石川県珠洲市と協力しながら各地の避難所を訪問し、被災者の方々の診療や薬の処方を行いました。
保険証を紛失したり、資金がなかったりする場合でも、災害救助法によって適切な医療や投薬を受けることが補償されています。今後の災害においても、災害関連死を一人でも多く防ぐために、市区町村と連携しながら医療の充実に向けて取り組んでいきます。
令和6年能登半島地震において、能登半島では高齢化率が約50%と高く、地震発生当初は極寒での避難生活が災害関連死の増加につながると予想されたため、国や石川県は被災地外への2次避難を推進しました。キッチンカーを手配したり、企業も物資提供を行ったりと、避難所運営は改善されているのは事実です。
しかし、TKBの観点を含め未だ課題が多い状態です。過去には避難所での性的被害も問題となっているほか、子どもの通園・通学支援も重要なテーマです。個々のご家庭でもできる範囲で備えていただきつつ、引き続き、国や自治体と我々民間団体が一体となって災害対策に取り組んでいくことが重要であると認識しています。
今後も日本では地震や洪水など様々な災害の発生が見込まれています。国や自治体、企業、病院などは迅速な支援体制を整え、個人や家庭は避難のための準備をおこなう必要があります。災害時における命の救援活動は、「官」「民」そして「私」が一体となることで、より効果的におこなわれると期待されます。また、避難所での情報共有や声をあげることも重要です。共に助け合い、命を守るための準備を惜しまず、災害時の実践に活かしていきましょう。
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空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
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