JOURNAL #3692024.10.09更新日:2024.10.11

水害発生時に避難する際の注意点とは?具体的な行動と事前準備を解説

2024年9月、石川県奥能登地方を襲った記録的な豪雨によって大規模な水害が発生しました。この奥能登豪雨の被害は、水害に対する避難行動の重要性を改めて示すものとなりました。

近年、異常気象による水害のリスクが増大しており、事前の準備と発生時の迅速な避難行動が命を守る鍵となります。

この記事では、水害発生時に注意すべき具体的な行動や、シチュエーション別の避難方法を整理して解説します。自分と家族の命を守るために、ぜひご確認ください。

早めの避難行動が命を救う

2018年7月西日本豪雨。川が氾濫し家や道路が冠水する
2018年7月西日本豪雨では川が大規模に氾濫し、街は濁流に飲み込まれた

災害時の避難行動において何よりも重要なのは豪雨災害の前に「早めの避難行動」をとることです。過去の水害では、川の急激な増水や濁流、土砂災害によって多くの命が失われました。

こちらの記事では、過去において水害がどのように発生したのか、その被害状況について詳しく解説しています。

【関連記事】日本の水害|発生の原因と過去の被害

災害リスクを十分に理解し、早めに安全な場所へ避難することが、被害を最小限に抑えるための最善策です。以下に早めの避難行動の重要性について説明します。

豪雨災害から学ぶ教訓

2018年7月西日本豪雨により、浸水した真備記念病院

豪雨災害では、川の急激な増水が発生し、短時間で近隣に冠水、浸水が起こるリスクがあります。

また、山の斜面が崩れて川をせき止め、限界を超えた水や土砂が一気に下流へ押し寄せる土石流(別名:山津波)も大きなリスクです。土石流は非常に大きな力を持ち、能登豪雨でも家屋を押し流すほどの被害をもたらしました。

このように、上流での大雨が下流に影響を与えるため、雨が止んだり弱まったりした後も油断せず、早期の避難が求められます。

川の急増水と垂直避難の限界

急激な川の増水では、垂直避難(高い場所への移動)だけでは間に合わないことがあります。能登豪雨でも、2階にいた住民が家ごと濁流に飲み込まれる状況が報告されており、避難の遅れが命を危険にさらす状況が明らかとなりました。浸水が始まる前に、できるだけ早く安全な避難場所に移動することが肝心です。

水圧の恐ろしさを知る

洪水時の水圧は非常に強力です。水深が2倍になると水圧は4倍に増します。流れの速さも同様に強まり、成人男性でも水深50cmで歩行が困難になるほどです。

特に屋内や地下からの避難では、外開きのドアは水深50cmを超えると水圧で開かなくなります。人がドアを押せる力は体重の3割〜7割程度に限られるため、避難が難しくなります。こうした水害の特性を理解し、早めの避難が何よりも重要です。

浸水前に避難を

大雨警報や避難指示が出された場合、迷わず早めに避難することでリスクを回避できます。

早期避難は、山間部や河川に近い地域だけに推奨されるものではありません。特に都市部では、内水氾濫と呼ばれる排水能力を超えた浸水が発生するリスクが高まっています。これらのリスクを無視して「大丈夫だろう」と過信することは、命を危険にさらさないとも限りません。

過去の教訓から、豪雨の際には少しでも危険を感じた時点で早めに避難することが、安全を確保する最善策であると理解しましょう。

「たぶん大丈夫」といった正常性バイアスは、災害のリスクを高めます。こちらの記事では、そのリスクについて詳しく解説していますので、ご確認ください。

【関連記事】正常性バイアスが災害時に与える影響は?具体例と必要な心構えを解説

水害発生時に備えるための事前確認と準備

水害が発生した際、命を守るためには、事前に適切な備えをしておくことが不可欠です。

「もっと早く準備しておけばよかった」「避難が遅れてしまった」と後悔しないよう、日頃から確認しておくべきポイントを解説します。緊急時に冷静かつ迅速に行動できるように準備を徹底しましょう。

避難情報と避難指示を把握する

まず、水害発生時には正確な情報を入手することが重要です。情報が不足していると、避難のタイミングを逃してしまう恐れがあります。以下の内容を今一度チェックしましょう。

避難情報・図解

■気象情報や河川情報の確認

水害のリスクがある状況では、最新の警報や注意報を確認することが基本です。また、気象庁が提供するキキクル(危険度分布)、自治体が提供する防災マップやハザードマップ(あるいはハザードマップポータルサイト)も利用し、浸水予想や避難所の位置を確認しておきましょう。

さらに、河川情報も重要です。川の水位や雨量をリアルタイムで確認できるウェブサイト(例:国土交通省の「川の防災情報」サイト)も活用しましょう。お住まいの土地の特徴をよく知ることが防災や減災に役立ちます。

■複数の情報源を利用する

避難情報は、複数の情報源から入手することで確実性が増します。スマホアプリを使えば、リアルタイムで気象情報や避難指示を受け取り、緊急時に素早く対応できます。また、自宅にいる場合にはラジオやテレビからも情報を得られるようにしておきましょう。停電時にはラジオが有効です。

避難情報と避難指示に関する情報はこちらの記事で詳細をチェックしてください。便利なサイトやアプリも紹介しています。

【関連記事】避難情報とは?警戒レベルの概要と実際の避難につなげるポイントを解説

避難場所&ルートを確認する

水害発生時に迅速に避難するためには、避難場所と避難ルートを事前確認しておくことが大切です。発生時に慌てることなく、被害を最小限に抑えられます。

■避難所の選定

まず、自宅周辺にある指定避難所を把握しましょう。特に、浸水のリスクが低い高台や安全な場所に位置する避難所を選び、地図でその位置を確認しておきます。市町村のホームページやハザードマップを参考にするとよいでしょう。

避難場所の種類についてまとめた画像です。

■ルートの確認

避難時に浸水や道路の冠水が起こっている可能性も考慮し、複数の避難ルートを確認しておきましょう。さらに、天候や地域の状況に応じて避難ルートや場所を見直し、最新の情報を取得することが大切です。

■家族との連携

家族全員で避難場所と避難ルートを共有し、誰がどこに向かうのかを明確に決めておきましょう。災害時には混乱しやすいので、家族で事前に避難計画を立て、連絡手段を確認しておくことが重要です。

また、「マイ・タイムライン」の作成も推奨されています。マイ・タイムラインとは、個別の避難計画を時系列で整理し、実際の行動に移すための計画書です。自治体によっては、地域の特徴に合わせてマイ・タイムラインの作成シートを紹介しているところもあるので参考にしてみてください。

【参考】静岡県|マイ・タイムラインをつくってみよう!

内水氾濫と外水氾濫を理解する

「氾濫」というと、川が溢れるだけと考えがちですが、実際には都市部での内水氾濫も発生するケースがあります。これらの違いを理解し、水害のリスクに備えることが大切です。

■内水氾濫(都市型水害)

内水氾濫は、下水道や用水路の排水能力が限界を超えた際に発生します。特に都市部では、地形やインフラの特性から、雨水が排水されず浸水被害が広がることが多いため、注意が必要です。浸水のリスクがある地域に住んでいる場合、事前に避難ルートや避難所を確認しておきましょう。

■外水氾濫(河川洪水)

一方、外水氾濫は川の水位が上昇し、堤防が決壊することで発生する大規模な水害です。堤防が決壊する前に避難を開始することが重要です。特に、堤防付近や川沿いに住んでいる場合、常に水位の変動をアプリ等でチェックしましょう。直接、河川の様子を見に行くような危険をおかしてはいけません。警戒レベルに応じた、早めの避難行動が推奨されます。

避難準備を万全に~準備しておくべきもの~

水害が発生した際に慌てて準備するのは、避難のタイミングを逃してしまいます。事前に避難グッズを用意しておくことが重要です。

■非常用持ち出し袋の準備

非常用持ち出し用リュックには、食料や水、医薬品、懐中電灯など、最低限の生活必需品を入れておきましょう。加えて、家族の人数や特別なニーズ(赤ちゃんや高齢者など)に応じた物品も準備しておきます。しかし、水害発生時の避難をスムーズに行うためには、荷物をあまり多く持たないことが肝要です。

■重要書類の整理

万が一のときに備え、保険証や免許証、通帳などの重要書類を整理しておきましょう。すぐに持ち出せる場所に保管しておくことが大切です。

■車内の備え

車で避難する場合、車内にシートベルトカッターや脱出用ハンマーなどを常備しておくと、浸水時の脱出に役立ちます。また、車中泊を想定し、ブランケットや食料、予備のバッテリーも備えておくと安心です。

これらの準備を通じて、緊急時に慌てることなく、速やかに避難行動に移ることができます。

水害発生時の避難行動

水害発生時にとるべき行動は、その状況や環境によって異なります。徒歩での避難、車での避難、家の中での避難、どの方法にも特有のリスクが存在します。ここでは、水害発生時の避難において注意すべき点を分かりやすく解説します。

徒歩での避難:冠水した道路を歩く際の注意点

水害が発生し、避難を開始する際には早めの判断が命を守る鍵です。特に徒歩で避難する場合、浸水の深さに細心の注意を払う必要があります。

冠水した道路を歩く親子

■膝まで浸水すると歩行は困難になり危険!

浸水が膝の高さ(約30〜50cm)を超えると、歩行は非常に困難になります。水流が強い場合は少しの水位でも流されるリスクが高まります。特に、足元の状況が見えにくいため、マンホールの蓋が外れている場所や、穴が開いている道路は非常に危険です。水位が浅いうちに早めの避難を心がけ、避難する際は傘や杖などで足元を確認しながら進みます。

■長靴はNG!靴や服装の選び方

水に浸かっても歩きやすい靴を選びます。長靴は浸水すると逆に動きづらくなるため、スニーカーなど滑りにくい靴を履くようにしましょう。また、頭を守るためにはヘルメットや帽子、両手を空けるためにはカッパや防水ジャケットの着用が推奨されます。さらに、万が一に備えてライフジャケットなどを着ることも考慮してください。

■川、水路、田んぼ沿いの道路は避ける!歩く場所の選び方

冠水した道路では、どこを歩くかが非常に重要です。特に、川の近く、水路、田んぼの脇道などは水位が急に増すことがあり、危険です。水流の少ない高台や、地盤がしっかりした場所を選んで移動することを心がけましょう。

■単独行動は避ける!

単独での避難は避け、複数人で行動することが推奨されます。また、冠水した場所は極力避け、できる限り安全な経路を選んで移動することが大切です。

お子さんや高齢者がいる場合は、避難移動に時間がかかります。冠水が発生する前の明るいうちに避難することを念頭におきましょう。

車での避難:車両浸水リスクを避けるために

水害発生時に車での避難を考える人も多いですが、車両での避難には高いリスクが伴います。2019年の台風19号での屋外犠牲者のうち約4割は車での被災です。特に水深が深くなると、車両は動けなくなり、最悪の場合命の危険にさらされることがあります。以下に紹介する情報をしっかり確認してください。

冠水したアンダーパス

■水深と車の関係

一般的に水深10cmで車のブレーキが効きにくくなり、30cm以上でエンジンの停止、50cmを超えると車が浮き、流される危険性が高まります。

冠水時には、水深目安をあらかじめ把握しておくことで、水害発生時の避難の判断材料になります。車止めは10〜15cm、縁石は15〜25cm、人間のひざ下は約40〜50cmです。数値が書かれている車線分離標も目安となります。

少しでも水深がある場合、車での避難は避け、徒歩や他の手段に切り替えることが賢明です。車での避難をあきらめる場合はキーを付けたままにしておきます。リモコンキーの場合はサンバイザー(日除け)などに設置しましょう。

■走行は低速度で

やむを得ず冠水した道路を通行する際は、速度を落として十分な車間距離を確保しましょう。前の車の水しぶきで視界が完全に遮られることがあり、突然の停止によって追突の危険が生じます。また、速度が速いと水を大量に巻き上げ、エンジン内部に水が侵入して故障のリスクが高まります。

■避けるべき場所

車で移動する際には、川沿いや田んぼのある場所、アンダーパスなどの低地は絶対に避けるべきです。これらの場所では水位が急上昇しやすく、短時間で車が動けなくなる可能性があります。使い慣れている道であっても過信せず、慎重に走行してください。

■脱出方法の準備

万が一、車が水に浸かって動けなくなった場合、すぐに脱出する必要があります。水圧でドアが開かない場合もあるため、車内に窓を割るための道具(シートベルトカッターや窓割りハンマーなど)を常備しておくことが重要です。道具は手の届く範囲に置いておくことが推奨されます。

窓割りハンマー

また、道具がない場合は、ヘッドレストの金属部分を使ってガラスを割ることが可能です。2本の金属部分のうち1本をドアとガラスの隙間に差し込み、力を入れて手前に引くことでガラスを割ります。

最悪のケースでは車内に水が大量に入りますが、外との水位差がなくなり、ドアを開けられる可能性があるため、この方法も頭に入れておきましょう。

家の中での避難:2階以上に避難する場合

水害が急速に進行する地域では、外に避難することが危険な場合があります。その際、自宅内での「垂直避難」が求められます。

垂直避難と水平避難についてまとめた画像

■2階以上に避難

浸水が進んでいる場合、自宅の2階以上、あるいはマンションの場合は上層階に避難することが必要です。垂直避難を選択する際は、重要書類や非常食、懐中電灯、携帯電話などの緊急物資を持って移動しましょう。

また、電気設備が水没すると家全体の電気が止まる可能性があるため、戸建ての場合は1階や外回りのブレーカーを切り、2階では電気を使えるようにしておくとよいでしょう。

■緊急時は屋上に避難

浸水が急速に進行し、2階でも安全が確保できない場合は、屋上に避難することも検討しましょう。ただし、その際には強風や飛来物にも注意が必要です。このような状況に備え、家族全員が緊急時の行動計画を共有しておくことが大切です。

■垂直避難の限界を理解することが大切

垂直避難は一時的な対策であり、必ずしも安全が保証されるわけではありません。大規模な氾濫や濁流が発生した場合、建物ごと流されるリスクもあるため、可能であれば外に安全に避難できるうちに、早めの避難行動をとることが最善です。

以下は垂直避難に関する情報記事ですのでご確認ください。

【関連記事】垂直避難とは?もしもの時の避難方法と事前準備について解説します

まとめ:適切な避難行動で命を守る

過去の災害の教訓から、何よりも避難情報に基づいた早めの避難が最も重要です。この記事で紹介したように、水害のリスクをしっかりと理解し、リスクを最小限に抑えるための事前準備を怠らないことが大切です。

水害発生時には、冷静かつ迅速に避難行動をとれることが求められます。「たぶん大丈夫」といった思い込みは避け、家族や周囲と協力しながら、早めの対応を心がけましょう。

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【参照】
NHK|災害列島 命を守る情報サイト|大雨・浸水への備え ~水の怖さを知ろう~
NHK|災害列島 命を守る情報サイト|避難するとき 徒歩や車…ここに注意!
国土交通省| 関東地方整備局|水害発生時の避難行動について
国土交通省|水管理・国土保全 マイ・タイムライン
国土交通省|近年の降雨及び内水被害の状況、下水道整備の現状について
国土交通省|自動車が冠水した道路を走行する場合に発生する不具合について
大阪市|避難の方法(河川氾濫・内水氾濫)
JAF|[Q]自動車が冠水路や高潮で浸水してしまったら?YAHOO!防災手帳|水害の発生と注意点

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