JOURNAL #3712024.10.25更新日:2024.10.25

「防災士」資格を取得するメリットと活動事例|あなたも地域を守る一員に

防災士は、災害時に地域社会や家庭、職場でリーダーシップを発揮し、人々の安全を守る役割を担う資格です。しかし、「防災士は専門職のための資格では?」「防災士はあまり役にたたないのでは?」といった疑問を持つ方もいます。

実際、防災士は一般市民でも取得可能な資格です。その知識やスキルを活かすことで身の回りの防災意識を高め、災害に強い社会づくりに貢献できます。

この記事では、防災士の意義やメリットについて詳しく解説します。防災士の活動事例や資格取得までの流れについても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

防災士とは 

防災士とは、災害への備えと対策に関する知識や技能を習得し、社会の安全を守るために活動する人を指します。この資格は、日本防災士機構によって認証され、「自助・共助・協働」の原則に基づいて災害時の対応能力を高めることを目的とし、専門職だけでなく、一般市民も取得可能です。

防災士が身につけるのは、自身や他者を守るための具体的な知識と技術です。たとえば、家庭内での防災グッズの準備や家具の固定、避難経路の確保など、自宅での減災対策が含まれます。地域での防災訓練や職場における啓発活動に参画することも、期待される役割のひとつです。

また災害時には、避難誘導や応急手当などを通じてリーダーシップを発揮するなど、その役割は多岐にわたります。

防災士認定登録者の年度別推移
【参照】日本防災士機構|防災士登録状況

防災士は増加傾向にあり、2024年9月末時点で約296,214 名が認証・登録されています。自治体全体で防災士の育成に力を入れている地域もあり、1月の能登半島地震や9月の豪雨で大きな被害を受けた石川県もそのひとつです。

現在、石川県では防災士1万2千人以上(うち女性3千人以上)の育成を目標に掲げており、このような流れは全国的に加速するものと想定されます。

防災士は役に立たない?本当のところ 

防災士の資格に対して「役に立たない」という声がありますが、一概に断定するのは適切ではありません。「転職や就職に直結しない」という意見や、「資格を取得しただけでは評価されにくい」といった指摘もありますが、防災士の資格は取得者自身の活用方法によってその価値が大きく変わります。以下に、防災士資格者の取り組みを例示します。

  • 家庭で必要な防災グッズを揃えたり、適切な避難経路を確認したりする際に防災士の知識を活かす
  • 家族や親戚、知人に防災や減災に関する情報を伝え、リーダーシップを発揮する
  • 地域の防災訓練やセミナーなどの啓発活動を主導する
  • 企業のBCP(事業継続計画)策定や社員向けの防災教育に積極的にかかわる

たとえば、介護職の方々は地域の高齢者や障がい者と密接に関わっているため、彼らの安全を守るために防災士の知識を活用することが期待されます。避難行動が困難な方へのサポートや、介護施設内での防災計画の策定に役立てるなど資格を活かす場はさまざまです。

防災士の資格を効果的に活かすためには、自ら防災活動に関わり、日常生活のなかで得た知識を周囲と共有する姿勢が不可欠です。実践と応用を通じてその価値を高められるため、資格を取得した後にその知識をどのように活かすかが重要となります。

防災士になるメリット 

実際に防災士資格を取得することでさまざまな可能性が生まれ、新たなスキルや知識を活かす機会が広がります。以下に、防災士資格取得のメリットについてご紹介しますので、資格取得後の目的や活動内容を想定してみましょう。

防災に関する正しい知識と実践力が身につく

防災士の資格を取得することで、災害発生時に役立つ幅広い知識とスキルを習得できます。特に、平常時の備えや災害時の適切な対応、地域での防災活動に関する知識は、自分や家族の命を守るうえで非常に重要です。

また、ライフラインの被害予測や災害に関する情報収集、応急処置の基本など、災害が発生した際に実践的に役立つスキルも身につけられます。このような知見をもつことで自身の安全を守りつつ、周囲の人々にも適切な指導や支援ができるようになります。

災害時にリーダーシップを発揮できる

防災士は災害時にリーダーシップを発揮し、周囲の人々を適切に避難誘導したり、安全を確保するための行動を指示したりできるようになります。防災士が特別な権利や義務をもつわけではありませんが、その知識とスキルを活かして避難所開設や初期消火活動、救助活動をリードしたりサポートしたりするなど、災害時の混乱のなかでも冷静に判断し、迅速に対応する能力は多くの命を救う要因となります。防災士の存在が、コミュニティ全体の安全性を向上させる力となることが期待されているのです。

地域や職場での防災啓発活動に貢献できる

防災士は、地域の防災訓練や減災啓発に積極的に関わることで住民の防災意識を高め、地域社会をより安全にするための基盤づくりに貢献できます。

多くの自治体が防災士の養成を進めており、地域リーダーとして任命されるケースが増えていますが、防災士は地域防災に限りません。たとえば、企業や福祉施設、学校などでは防災士が避難計画を策定し、災害時の対応力を向上させる役割を担うこともあります。特に企業では、防災士の知見を基にして災害時に企業活動の継続と復旧をサポートするBCP(事業継続計画)の策定や実施を行い、組織全体の防災力を強化することも可能です。

さらに、防災士のネットワークを活用すれば、同じ目標を持つ仲間との情報交換が可能になります。最新の知識や技術を共有し、防災意識をさらに広げることができるでしょう。

防災士の資格を取得することは、家庭や地域、職場など特定の枠を超えた関係の構築につながります。結果として災害に強い社会の実現に寄与しているのです。

【関連記事】BCP対策とは?災害時に事業を守るために抑えるべきポイントを解説

防災士になった人の活動事例

ここでは、防災士資格を取得した方々の具体的な活動事例をご紹介します。防災士の価値は「資格を取得してからの取り組み」がポイントとなります。以下の事例を参考に、防災士資格を活用した自分自身の活動をイメージしてみてください。

通常の業務と関連させる

株式会社富士通エフサスの中谷明男さんは、IT分野での保守サービスやBCP(事業継続計画)の策定に従事しています。地震や水害が発生したのち、情報システムの復旧作業を指揮した経験から、地域や企業を災害に強くするために防災士としての活動を始めました。現在は、地域の防火・防災管理者として、自宅マンションの防災対策や避難訓練の指導なども担当しています。

株式会社NTTホームテクノの林山茂盛さんは、通信機器の修理やICTの推進を担当するなかで被災した経験から、防災士資格の取得を決意しました。災害時には通信復旧班を支援し、地域や企業の災害対策を強化するために尽力しています。今後は、自社や地域のBCP策定にも防災士としての知識を活かし、さらに広範に支援することをめざしています。

地域防災力の向上に活かす

長野県辰野町で防災士連絡協議会会長としてチームを率いる有賀元栄さんは、町民向けに「非常持出品セット」を監修し販売しました。町の危機管理係と協議を重ね、実際の避難所での需要を反映したセットを提供するなど地域防災の向上に貢献しています。有賀さんは会長として避難所対策の推進や防災訓練の指導に携わっており、町内に限らず長野県下で幅広く講演活動をしています。

また、福岡県で支援活動を行う天野時生さんは、九州北部豪雨の被災地である朝倉市において支援団体「防災士 朝倉災害支援ボランティア活動センター」を立ち上げました。防災士として復旧・復興活動に従事し、被災者支援を通じて地域の災害対応力を強化しています。天野さんは、被災地の復旧に尽力するだけでなく、防災士としての知見を活かして災害に備える体制づくりにも貢献しています。

若者による社会貢献

地域に根ざした防災活動を継続的に行っている団体のひとつが熊本大学の「熊助組」です。学生たちは、災害復旧支援や防災意識の向上に努め、地域全体の防災力向上をめざしています。また、首都圏でも能登半島地震の被災地支援のほか、備えを広めようとする学生の団体「防災me」が活躍しています。若者ならではの柔軟な発想を活かし、災害時だけでなく「日常的な防災」を重視する活動が特徴的です。

このように、防災士の方々は自身の経験やアイデアを活かし、地域全体や職場での防災対策に貢献しています。防災活動は自主性や実践力に加え、他者とつながる力が必要不可欠です。これらの力を活かして地域社会全体で災害に備えることが、より強い防災体制を築く鍵となります。

【参照】
日本防災士機構|防災士の活動事例
防災士研修センター|防災士インタビュー
NHK|#大学生×防災 ~私たちにできる支援・備えは 能登半島地震から考える~

防災士になるには? 資格取得に要する費用と流れ

ここでは、防災士の資格取得に関する費用と流れをご紹介します。

防災士資格取得にかかる費用

防災士研修センターの公式サイトでは、防災士資格取得までの費用について詳しく紹介しています。

費用総額63,800円
(内訳)
研修講座受講料50,728円
資格取得試験受験料3,000円
資格認証登録料5,000円
消費税 5,072円
【参照】防災士研修センター|資格取得費用について

防災士資格取得試験にかかる受験料や資格認証登録料などは、防災士研修センターを通じて日本防災士機構へ納付するシステムとなっています。

自治体によっては費用の一部あるいは全額を補助するところがあります。助成内容については、お住まいの自治体にお問い合わせください。なお、日本防災士機構公式サイトには「助成を実施している自治体」が掲載されていますので参考にしてください。

防災士資格取得までのステップ

続いて資格を取得するまでの流れについて解説します。

1.防災士養成研修講座を受講し「研修履修証明」を取得する

防災士資格取得の最初のステップは、日本防災士機構が認めた研修機関が行う「防災士養成研修講座(集合研修)」を受け、「研修履修証明」を取得することです。集合研修では、災害対策や防災に関する基本的な知識や技能が学べるカリキュラムが提供され、全21講目のうち最低12講目以上履修しなければなりません。そのため、最低でも2日間の講座が必要です。未履修の講目については、受講後にレポート提出が義務付けられます。

2.防災士資格取得試験を受験し合格する

講座を修了した後は、日本防災士機構が実施する「防災士資格取得試験」に挑戦します。試験は、合格後に資格が認定されるまでの重要なステップです。研修最終日に実施され、3択問題形式(50分)で30問中80%以上の正答で合格となります。なお、試験の合格率は比較的高く、教本を熟読し、かつ講義をしっかり聞くことで比較的合格しやすい資格といわれています。

3.救急救命講習を受け修了証を取得する

防災士としての認証を受けるためには、救急救命講習の修了証も必要です。この講習では、心肺蘇生法やAEDの使い方を含む実践的な救急救命技術を学びます。なお、次に紹介する「防災士認証登録申請」時には、こちらの救急救命講習修了書(5年以内に発行されたもの)が必要です。

防災士養成研修の受講前に救急救命講習を受けている場合、5年以内であれば申請できます。

4.防災士認証登録申請を行う

防災士資格を得るための3つの要件(研修修了、試験合格、救急救命講習修了)を満たした後は、日本防災士機構に「防災士認証登録申請」を行います。申請の翌月末までに防災士登録台帳に登録されます。

5.「防災士認証状」が交付される

上記の手続きが行われたのち、防災士の証明として日本防災士機構から「防災士認証状」と「防災士証」が交付されます。

まとめ

防災士は、取得までの過程で身につける知識や技能が、日々の生活や地域の安全にも直接役立ち、家庭や地域、職場で防災・減災に貢献できる資格です。災害時には避難誘導や救援活動、避難所開設などで重要な役割を担い、全国でその活動が広がっています。防災への取り組みを始める第一歩として、あるいはリスキリング(学び直し)の一環として防災士の資格取得をめざす方も少なくありません。

防災士になることで何が得られるかといった視点は必要ですが、特に重要なのは取得後の活かし方を想定し、「自分だったら何ができるか」といった姿勢です。ぜひこの記事を参考に、できることから始めてみましょう。

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【参照】
認定特定非営利活動法人 日本防災士機構
防災士研修センター
石川県|自主防災組織リーダー(防災士)育成講座のご案内
讀賣新聞|防災ニッポン
東北福祉大学|防災士について
Jackery|防災士の資格を取得する3つのメリット!取り方・費用や就職先も解説

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