JOURNAL #3792024.12.13更新日:2024.12.13
冬や寒い時期になると流行しはじめる感染症。気温の低さによって抵抗力が弱まり、「知らないうちに感染症にかかってしまった」というケースも少なくありません。また、災害時には避難所などで感染症拡大のリスクが高まり、「密集した空間で感染をどのように防ぐか」は、災害医療支援においても大きなテーマになっています。
こうした感染症拡大のリスクは、個々人が感染症に対する予防知識を持ち、普段から対策を習慣化することである程度防ぐことができます。今回の記事では、特に冬に多い感染症の基礎知識と、災害時にも役立つ感染症対策について解説します。
感染症には、いろいろな種類がありますが、そのなかでも毎年、多くの人が感染してしまうインフルエンザと新型コロナウイルス感染症、ノロウイルス(感冒性胃腸炎)についてみていきましょう。
冬になるとニュースなどでもよく取り上げられる“感染症の代表格”ともいえる感染症です。A型とB型、C型と種類があるなか、A型とB型の流行リスクが高いとされています。
インフルエンザに感染した場合、まず1日から3日の潜伏期間を経て、頭痛や発熱、全身の倦怠感や関節痛が目立つようになります。これらの症状が出たあと、咳や鼻水のような上気道の症状が一週間ほどあらわれるケースも多いようです。
インフルエンザの症状は、一般的な風邪のように思われますが、決して楽観視はできません。風邪よりも症状が強いうえ、基礎疾患や慢性疾患がある場合、あるいは高齢者や小児の方は、命の危険に及ぶケースもめずらしくありません。
インフルエンザは、「飛沫感染」あるいは「接触感染」によって罹患します。飛沫感染は目や鼻、口にウイルスが付着することで、接触感染はウイルスが目や鼻に直接触れることで起こります。つまり、人が多く集まる場所への外出や罹患中の方との接触は、感染リスクが高いといえるでしょう。
感染拡大を防ぐために各地域では毎年予防接種が広くおこなわれますが、それでもインフルエンザにかかった場合は、医療機関で治療薬が処方されます。抗ウイルス薬によって発熱期間を短縮し、症状の軽減が可能です。
インフルエンザと同様、強い感染力で危険視されるのが新型コロナウイルス感染症です。2020年にパンデミックを発生させたCOVID-19から現在でも変異を通じた流行が繰り返されています。
新型コロナウイルス感染症にかかると、発熱や喉の痛み、咳、鼻水・鼻づまり、全身の倦怠感や関節痛、筋肉痛などの症状があらわれます。症状そのものは1週間程度で軽快しますが、風邪よりもはるかに強い症状に悩むこととなります。また慢性疾患や基礎疾患がある方、高齢者の方は重症化するリスクが非常に高く、注意が必要です。
さらに新型コロナウイルス感染症の大きな特徴として挙げられるのが、症状が軽快しても後遺症のリスクがある点です。倦怠感や喉の痛み、頭のぼんやり感などが続き、日常生活に支障が出るケースもあります。
新型コロナウイルス感染症は、飛沫感染や接触感染に加え、感染者との接触で広がる傾向がみられます。
感染者が咳やくしゃみ、あるいは会話をすると、空気中にウイルスが排出され、それが非感染者の目や鼻、口に入ることにより、感染リスクが高くなります。そのため、医療機関や高齢者施設、公共交通機関を利用するときにはマスクの使用が必須です。
新型コロナウイルス感染症の治療は、医療機関から処方される薬でおこなわれますが、一定期間の隔離が求められます。現在は、医療機関で罹患が確認されてから5日間の自宅療養、症状の軽快を確認してからの外出が推奨されています。
ノロウイルスは、冬に発生リスクが高まる食中毒です。ノロウイルスに感染すると、発熱や嘔吐・下痢などの症状があらわれます。症状は一般的に3日程度で軽快していきますが、高齢者や小さな子どもが感染すると重症化しやすくなります。また、症状が比較的軽症であるため、感染に気づかないこともあります。
ノロウイルスは、ウイルスや細菌に汚染された食べ物を食べて感染してしまう経口(けいこう)感染のほかにも、接触感染や飛沫感染、空気感染もあります。
経口感染や接触感染はあまりなじみがないように聞こえますが、たとえば経口感染においては、十分に加熱されていない食品だけでなく、感染者が調理した料理なども感染経路となり得ます。接触感染においても、トイレで十分に手を洗わずにドアノブに触れると、ドアノブも感染経路になります。
ノロウイルスの治療法は、医療機関でおこなわれます。感染中は外出を控え、また加熱されていない肉・魚などの食品を避ける、トイレに行く際には手洗いを徹底することが理想です。
通常時でも災害時のような有事であっても、感染症を予防するために特別な準備をするよりも、日常生活での衛生管理を保つことにより感染リスクを下げることができます。ここではまず、感染を引き起こす3つの要因について押さえておきましょう。
感染とは、
の3つの要因から成り立ちます。ウイルスとなる病原体が飛沫や接触、空気を経由し、人にたどり着いた結果、感染症が起こります。
つまり、感染症を予防するには、以下のようにそれぞれの要因からリスクを取り除く必要があります。
ひとつ目の要因である病原体(感染源)は、多くのケースでは罹患した方に宿っています。だからこそ、感染の可能性が見られる方にはなるべく接触しないことが大事なポイントです。流行している時期の外出は可能な限り控えたり、外出する際には人との距離を保つなど、感染源を自分に持ち込まないように注意しましょう。
家族に感染者が出てしまった場合は、寝室や行動するスペースを分ける、タオルやハンカチを共有しないなど、生活は一緒でもできる限り隔離する意識を持ちましょう。
また、感染した場合は医療機関からの指示に従い、一定期間の外出は避けましょう。「罹患から5日から一週間はウイルスの排出量が多い」ことを忘れず、周囲に感染させない努力も不可欠です。
第二の要因である感染経路は、接触感染と飛沫感染から防ぐことができます。
感染を防ぐためには、「感染症は手や指から体内に侵入するリスクが高い」と意識しましょう。ウイルスは目や鼻、口や手から持ち込まれることから、外出後の手洗いやうがい、マスクは欠かせません。外出する際でも、ドアノブや電車の吊革、階段の手すりなどにウイルスが付着しているケースも多いため、触れたままにしないよう帰宅後には必ず手を洗いましょう。
ノロウイルスにおいても、加熱が不十分な食べ物を摂らない、感染者の嘔吐物や排泄物の処理をするときにはかならずゴム手袋などを着けるなど、口や接触からの経路を断つことが大切です。
最後に、感染症を防ぐには、宿主の健康状態が最も重要なポイントです。
ウイルスが体内に侵入した場合、感染するかしないかは私たち宿主の状態にかかっています。私たちがウイルスに対抗できるほどに健康であれば、感染するリスクは下げられ、仮に感染しても重症化を防ぐことができます。しかし、体力低下や持病によって抵抗力が弱まっていると、ウイルスと戦えず、体内への侵入を促進してしまいます。
このようなリスクを避けるには、日ごろからの健康管理が欠かせません。規則正しい生活習慣と食生活、適度な運動をすることで、免疫力が高まります。さらにワクチンを接種することも、大きな予防になるでしょう。
感染症予防の三原則は、感染源と感染経路、宿主に焦点を当てた予防法です。これらの三原則をもとにより確実に予防するには、手洗いやうがい、手指消毒、咳のエチケットなどの衛生管理が大切です。
日常生活ではもちろん、災害時は避難所での生活で感染症が拡大しやすくなるため、可能な限り病原菌の侵入を避けるためにも覚えておきましょう。
感染症を防ぐには、入念な手洗いが欠かせません。
ただ手を洗うのではなく、
以上の洗い方を意識しましょう。普段手洗いをしていても洗い残しがあるケースが多いので、しっかりと丁寧におこなうことが大切です。
自宅や公共機関にあるエタノール消毒液も、手洗いと同様に丁寧におこないましょう。消毒液を手に取ったら、手の甲や手のひら、指先、爪の間、手首にもなじませます。
なじませた後に乾燥すれば、手指消毒はできたことになります。
外出先からの感染を避けるには、帰宅時のうがいが有効です。
以上の流れを守りましょう。市販や医療機関処方のうがい薬でも、確実な感染症予防につながります。
最後に、感染しない努力に合わせて「周囲に感染させない努力」も必要です。特に咳は、飛沫感染の原因となるため、
ことを守りましょう。ティッシュで手を拭いた場合には、速やかにごみを捨てるのが適切です。
新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなど、気温が低い時期は感染症への心配も強くなるものです。呼吸器系の感染症だけでなく、感染症胃腸炎(ノロウイルス)のような懸念も高まり、多方面からの不安が増えることもあります。
しかし、感染源への意識や感染経路の遮断、健康管理の3つの要因から予防をすることが可能です。さらに手洗いやうがい、咳などに気遣うと、より予防効果が高くなります。
こうした予防策は、災害などの有事の際にもとても役立ちます。通常時でも有事でもつねに感染症にかからない状態を整えるためにも、ぜひ今回の記事を家族で共有してください。
災害医療支援において、避難所における感染拡大を最小限に抑えることは、重要なミッションになります。今年1月1日に発災した、令和6年能登半島地震の支援活動でも、空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”の医療チームは、避難所支援チームと連携して感染拡大防止に努めました。
感染症対策として特に力を入れたのが、不特定多数の方が使用するトイレの衛生管理です。能登半島地震では断水によりトイレで用を足しても水は流せず、被災者は簡易トイレを使用せざるを得ない状況が長く続いていました。
簡易トイレは、使用する度にトイレ本体に袋を設置し、その中に汚物を固める凝固剤を入れ、用を足した後に袋をゴミ箱に捨てなければなりません。
当初は使い方がわからず、汚物がそのまま放置されたり、処理することをためらう方もいましたが、空飛ぶ捜索医療団のスタッフが清掃時に使用するエプロンと手袋を配布したり、簡易トイレの使い方や殺菌効果の高い次亜塩素酸を使用したトイレ掃除の指導などをおこなったりしました。
また、ある避難所では、使い捨てエプロンと手袋は使用されていましたが、着方と脱ぎ方、さらに捨て方にも問題があり、十分に感染リスクを抑えられていなかったことから、看護師によるPPE(個人防護具)の着脱の仕方や捨て方、正しい手指消毒の方法などをあらためて周知する講習もおこないました。
感染症対策は、みんなで取り組むことが重要です。災害時にも個々の行動が感染拡大を防ぐ大きな力となるため、日頃から対策と予防を意識しましょう。
空飛ぶ捜索医療団”ARROWS” HP:https://arrows.peace-winds.org/
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