JOURNAL #2302023.07.08更新日:2023.10.24

地域医療問題の解決のために必要な地域医療構想とは?解決のために私たちができること

ライター:ゆし

私たち空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”は大きく「災害支援」「地域医療」「海外支援」の3つの柱で事業を実施しています。その中でも今回は、「地域医療」について考えていきたいと思います。

2025年問題を契機に、超高齢化社会に突入し、地域医療構想の必要性が叫ばれている日本。本記事では、なぜ地域医療構想が必要なのか。そして地域医療構想を実現することでどんな未来が期待できるかを解説します。

地域医療問題とは?

地域医療問題を理解するには、地域医療について理解を深める必要があります。
地域医療とは、何を指すのでしょうか。

地域医療とは、病院やクリニックなどで行う治療にとどまらず、地域全体で住民の健康を支える医療体制を築くことを指します。地域住民の健康維持や疾病予防、高齢者や障害者への支援活動など、住民の健康のための取り組みを行うことを基本としています。

健康上の悩みは、世代ごとでさまざまです。
そして、世代ごとで生じる病気も異なるでしょう。

人は誰しも、自分や家族の健康上の悩みに対して適切な医療を望んでいます。
一方で現実では、少子高齢化の問題により、医療崩壊などの地域医療問題が叫ばれています。

では、地域医療問題とはどのようなことを指すのでしょうか。
地域医療の大きな問題として挙げられるのが「病院や診療科・医師の偏在」です。
全国では、大都市に比べて過疎地域や地方都市における医療機関の減少率が高まっています。これに伴い、医師数にも偏りが生じています。

「二次医療圏ごとに見た人口10万人対医療施設従事医師数の増減(2008年→2014年)」を見ると、医療圏ごとの医師数の偏りがはっきり現れています。注目すべきは、大都市医療圏では2%しか減少していない一方で、過疎地域医療圏では、24%も減少している点です。

▶参考:厚生労働省「二次医療圏ごとに見た人口10万人対医療施設従事医師数の増減(2008年→2014年)

また医師数の偏りは各都道府県ごとでも格差が出ており、この問題も見逃せません。
「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、医師数の偏りは各都道府県ごとで顕著に現れています。

▶参考:厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況

地域医療問題の背景に潜む2025年問題とは?

地域医療問題として挙げられる「病院や診療科・医師の偏在」は今後も加速していくことが予想されています。この背景には「2025年問題」が関係しています。

2025年問題とは、第一次ベビーブーム(1947〜1949年)の期間に生まれた団塊の世代にかかわる問題です。2025年に団塊の世代が75歳を迎えて超高齢化社会となり、適切な医療が提供できず、労働力不足の加速が懸念されています。

内閣府が発表している「令和元年版高齢社会白書」(内閣府)によると、2025年には75歳以上の高齢者の数は2,180万人。また65〜74歳の高齢者の数は1,497万人に達するとされています。これら2つを足すと、約3,600万人になり、日本の総人口である約1億2000万人の約30%を占める計算です。

全人口の大部分を高齢者で占める日本は超高齢化社会を迎え、労働力不足の問題が深刻化します。高齢者が急増していく中で0〜14歳や生産年齢である15〜64歳(生産活動に就いている年齢)の人口が減少傾向にあります。そのため、労働人口が減少し、人材不足になることが懸念されるでしょう。

▶参考:内閣府「令和元年版高齢社会白書」概要版 第1章 高齢化の状況

2025年問題の変化には地域差があり、格差の度合いはさまざまです。
高齢者が増加の一途をたどる地域がある一方で、高齢者と若年層が同時に減少する地域も出てくるでしょう。

地域医療問題の解決のために必要な地域医療構想とは?

2025年問題の影響により「病院や診療科・医師の偏在」はますます深刻になっていくことが予想されます。そこで解決の鍵となるのが「地域医療構想」です。

地域医療構想とは、地域医療の考えのもと、地域ごとに必要な医療を効率的に提供する体制を作るための構想のことを指します。医療における地域格差を解消するためには、地域ごとに必要な医療を効率的に提供する体制が必要です。

そのために必要なのが、医療機能ごとに2025年の医療需要と病床使用量を推測し、地域医療構想を作ることです。「高度急性期・急性期・回復期・慢性期」の医療機能ごとに医療需要と病床必要量を予想し、各地域における必要な医療機能や病床を確保しなければなりません。

地域医療構想区域としては、二次医療圏(一般の入院にかかわる医療を提供することが相当である単位)を設定します。その後、都道府県は各医療機関から毎年病床機能報告を受け、医療機能ごとの病床数や今後の方向性を把握します。

上記を経て、医療従事者や施設設備の確保などに関する施策を設定。都道府県ごとに地域医療構想が作られます。また病床数の機能分化と連携は、各医療機関どうしで行う地域医療構想調整会議によって協議します。

良質な医療提供を行うためには、医療機能に見合った資源を地域ごとに配置し、医療サービスを供給する体制が必要です。医療サービスの供給体制を万全にするために、地域医療構想は必要不可欠になります。

地域医療構想を実現するために必要な課題

地域医療構想を実現するためには課題の抽出が必要不可欠です。
そこで、地域医療構想を実現するための課題には、どのようなものが含まれるかまとめました。主に解決すべき課題は次の3つです。

医療従事者を確保する

医療従事者の不足に対応するために、医療従事者の働き方や医療機関の集約化、効率的な連携方法について議論しなければなりません。たとえば、根本的な人手不足が問題であれば、ボランティアや非医療従事者の活用によって業務効率化を図る必要があるでしょう。

必要な環境を整備する

効率的な医療の供給のためには、環境整備に配慮しなければなりません。
高速道路を整備したり、ドクターカーやドクターヘリなどの活用を検討する必要があります。合わせて救急搬送システムの整備も行わければなりません。

診療科や主要な疾患に対する医療提供体制の偏りをなくす

医療機関へのアクセス状況や医療従事者の供給体制、医療機関の配置状況に偏りが見られる場合は、今後のあり方を慎重に検討しなければなりません。特定地域の医療機能が偏在化し、医療提供体制の確保に支障が出ている場合、他医療圏と連携強化する必要があるでしょう。

地域医療構想実現のために必要な病床機能報告

病床機能報告とは、医療機関側が持つ病床がどのような機能を担うのか報告し、今後の指針を選択して報告する制度です。

地域医療構想では、2025年に必要とされる病床数を4つの医療機能ごとに推計。
地域の医療関係者との協議を経て、病床の機能分化と連携を進め、効率的な医療提供体制の実現を図ります。

具体的な4つの医療機能は以下の通りです。

医療機能の種類 医療機能内容
高度急性期機能 急性期の患者さんに対し、早期安定化に向けて診療密度が高い医療を提供する機能
急性期機能 急性期の患者さんに対し、状態の早期安定化に向けて医療を提供する機能
回復期機能 急性期を経過した患者さんに対する、在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能。(特に急性期を経過した脳血管疾患や大腿骨頸部骨折などの患者に対し、ADLの向上や在宅復帰を目的としたリハビリテーションを集中的に提供する機能。回復期リハビリテーション)
慢性期機能 長期にわたって療養が必要な患者さんを入院させる機能。(長期にわたり、療養が必要な重度の障害者、筋ジストロフィー患者もしくは難病患者などを入院させる機能)

▶参考:公益社団法人 全日本病院協会「地域医療構想

地域医療構想では、全体として医療資源の最適な配分を図ります。
必要な場所に必要な資源を配らなければなりません。
そのために、地域ごとに不足すると思われる機能の病床を増やしたり、過剰とされる病床機能を減らしたりしなければなりません。

地域医療構想を実現するために必要な地域医療構想調整会議

地域医療構想調整会議とは、地域医療構想を実行に移すために必要な土台となる会議のことです。医療関係者や医療保険者、診療に精通する学識経験者などと将来的に必要な病床数の必要量などについて協議を行います。地域医療構想調整会議では、医療機関の役割を明確にしながら、将来的に医療提供体制をどう構築していくかを話し合わなければなりません。

まずは会議内で行われる病床機能報告によって医療機関が目指すべき方向性を見定めます。その上で、病床機能転換を計画している医療機関について、地域医療構想の観点から逸脱していないかをチェックしなければなりません。

地域医療構想実現に向けて活用すべきもの

地域医療構想を実現するためにはデータの抽出や費用の捻出など、さまざまな問題に向き合わなければなりません。
問題解決のために、次のことを取り入れて地域医療構想の実現を目指しましょう。

年齢調整標準化レセプト出現比(SCR)を活用する

医療体制がどの程度整っているかを判断するために、年齢調整標準化レセプト出現比(SCR)を活用することをおすすめします。SCRを活用することで、疾患ごとのレセプトの発生状況が確認できます。これにより、必要な症例における医療提供体制がどの程度整備されているかを把握可能です。必要な場所に対して、医療提供ができているかを可視化するためには必要不可欠なデータと言えるでしょう。

アクセスマップ・人口カバー率を活用する

必要な環境整備の内容は、医療圏によってさまざまであり、判断が難しい場合があります。そこで有効なのが、アクセスマップや人口カバー率を利用することです。これを利用することで疾病分類ごとに患者さんが医療機関までアクセスするのに要した時間を確認できます。自医療圏だけでなく、県をまたいだ医療機関への移動時間も把握できるのが特徴です。これらを把握することで、自医療圏に必要な環境が可視化でき、必要な場所に対して必要な分の設備投資がしやすくなります。

NDBデータを活用する

NDBデータとは、医療行為別に患者の増減を把握できるデータです。医療圏における医療行為が自己完結しているかを見極められます。自己完結していれば、医療機能に不足がないと判断可能です。一方で、他の医療圏で医療行為が実施されている場合、医療機能を見直すきっかけになるでしょう。

DPCデータを活用する

DPCデータとは、各医療機関がもつ医療機能の内容が把握できたり、不足する医療機能内容が把握できたりするデータのことです。都道府県の医療計画と市町村の事業計画の整合性を図る際に有効なデータになります。
バランスの取れた企画立案を行うためにも、今後DPCデータの活用が必要とされています。

地域医療介護総合確保基金を活用する

地域医療構想の実現のためには、病床機能転換に伴う整備費用や病院再編統合などに必要な費用が発生します。これらの費用は、病院の規模にもよりますが、莫大な金額になる可能性があるでしょう。そこで役に立つのが地域医療介護総合確保基金です。地域医療介護総合確保基金とは、消費税増収分を活用して作られた財政支援制度です。

県や市町村に対して都道府県計画や市町村計画を提出することで、国から交付されます。
特に建築費などの設備投資費用などで活用することで、大幅な費用負担が図れるでしょう。

再編計画などに伴う不動産取得税の軽減制度を活用する

地域医療構想を実現するために、病院の統合や再編で建物を取得する場合、不動産取得税を軽減する制度も準備されています。適用条件の期間としては、2022年4月〜2024年3月までです。

この期間に病床機能分化や連携推進のために2施設以上の医療機関を再編統合する場合、適用されます。適用される場合、不動産取得税の計算対象から取得不動産価格の2分の1に相当する額が控除されます。そのため、再編統合を検討する医療機関側で発生する費用負担が大幅に軽減できるでしょう。

まとめ

地域医療とは、病院やクリニックなどで行う治療にとどまらず、地域全体で住民の健康を支える医療体制を築くことを指します。地域医療の大きな問題として挙げられるのが「病院や診療科・医師の偏在」です。この問題の背景にあるのが「2025年問題」です。2025年問題が起こることで、医療供給体制のバランスが崩壊する可能性があります。

急性期から回復期、慢性期まで患者が状態に見合った病床で、より良質な医療サービスが受けられなくなる可能性があるのです。この問題を解決するための構想が、地域医療構想です。

地域医療構想とは、2025年に必要とされる医療需要・病床必要量を医療機能ごとに推定して取り決めたものです。この地域医療構想の策定に必要なのが、病床機能報告です。病床機能報告とは、医療機関側が持つ病床がどのような機能を担うのか報告し、今後の指針を選択して報告する制度です。

「高度急性期・急性期・回復期・慢性期」の4つにおいて、病床の機能分化と連携を進め、効率的な医療提供体制の実現を図ります。地域医療構想実現のためには、関係者間で情報共有しながら、病院ごとが担うべき病床機能や都道府県計画に盛り込む事業を議論しなければなりません。この議論の場が地域医療構想調整会議です。この会議では主に以下の課題に沿って議論を行い、全体として医療資源の最適な配分を検討します。

  • 医療従事者を確保する
  • 必要な環境を整備する
  • 診療科や主要な疾患に対する医療提供体制の偏りをなくす

地域医療構想の実現のためには、病床機能転換に伴う整備費用や病院再編統合などが必要になり、莫大な費用が発生する可能性があるでしょう。そこで地域医療介護総合確保基金や不動産取得税の軽減制度などが活用できます。また各種データを活用することで、地域医療構想の施策の成果・進捗確認が可能です。

良質な医療提供を行うためには、医療機能に見合った資源を地域ごとに配置し、医療サービスを供給する体制が必要です。地域に合った医療提供体制を構築するためにも、医療関係者や医療保険者、診療に精通する学識経験者などがスクラムを組み、チーム一丸となって地域医療構想の実現を目指していきましょう。

WRITER

ライター:
ゆし

医療機器メーカー(東証プライム市場上場)の営業職に約10年間従事。 日々、多くの医師やコメディカルと関わり合いながら、ライターとして多くの医療記事を執筆している。

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