JOURNAL #1672022.06.20更新日:2024.01.21
医師:稲葉 基高
「3月17日に突然ロシア軍による砲撃が始まった。とにかくスタッフの家族をペットも含めて病院に集めました。病院が安全かはわからなかったが、そうしないとスタッフが安心して働けない」
「攻撃が続く中、1000人以上の患者を診ました。多くは一般市民でした。我々は21世紀の便利さに慣れすぎていて、水も電気も暖房もない状況での医療は非常に困難なものでした。」
ウクライナ北部のチェルニーヒウ第二市立病院の院長が病院内を案内しながら約3か月前の過酷な状況を細かく教えてくれた。
病院の屋根や壁には被弾の痕が数多く残されており、いくつかの壁は砲撃で壊れているので中からベニヤ板で塞いである。
話を聞きながら私が感じたのは「日本が経験してきた大災害後の病院の状況ととても似ている。」ということであった。
まだこれからロシア軍が攻めてくる可能性がある、ということを除いては。
6月9日から12日にかけてウクライナ国内のキーウとチェルニーヒウ地域を訪問し、戦時下でも我々ができ得る支援の検討のために主に病院やリハビリテーション施設からの情報収集を行った。
ウクライナ国内で感じたことは「戦争中であっても、その影響は場所によっても様々で人々は日常の生活を両立している。」ということだ。
よく考えれば、第二次世界大戦中の日本で私の曾祖父母や祖父母も大都市が空襲されたり、広島・長崎に原爆が落とされる中で苦しいながらも日常生活を営んできた。だからこそ今の自分がいる。
「戦争が終わるまではウクライナ国内への医療支援はできないだろう。」と自分も以前は考えていたが、日常生活があればそこに医療が必要なのは当然で、医療機器は破壊され、軍事費の増大からその交換のための資金も十分にない。
資金があっても、戦時下において海外からの調達の困難さがある。しかしいつ戦争が終わるか誰にも予測がつかない中、「戦争が終わったら」では遅いのだ。
視察の中でウクライナにおける医療の制度の問題や、政治の腐敗という話も耳に入ったが、住民に聞いても2016年の医療改革から状況は改善してきていたとのこと、その最中での戦争による通常医療の供給不可能には本当に気の毒としか言いようがない。
戦争状態も含めて政治的には単純な善悪でないことも理解できるが、それで犠牲になっているのは結局政治に参加していない子どもを含む社会的に弱い人々なのだ。
まず、その人々のために、すぐできることを考えて、動いていくのが我々の使命だと改めて感じた。
空飛ぶ捜索医療団を運営するピースウィンズ・ジャパンは、今後もウクライナの人々が平穏な日々を取り戻すために、支援を継続してまいります。
みなさまのあたたかいご支援をよろしくお願いいたします。
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詳細は以下のリンクから確認ください。
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WRITER
医師:
稲葉 基高
ピースウィンズ・ジャパン 空飛ぶ捜索医療団 医師 空飛ぶ捜索医療団プロジェクトリーダー 国内外で多数の災害医療支援経験を持つ。救急科専門医、外科指導医、消化器外科指導医、集中治療専門医、社会医学系指導医、統括DMAT等の資格を活かし、現場の目線を大切にした活動を心掛けている。
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