JOURNAL #2312023.07.10更新日:2023.10.24

避難時、ペットはどうする?環境省ガイドライン推奨の「同行避難」について解説

獣医師:安家 望美

いつ、どこで、発生するか予想の付かない自然災害。もしも、自分が被災して自宅から避難することになったら、ペットはどうしたらいいのか考えたことはあるでしょうか?自宅に残していくのか、連れていってよいのか、なにか決まりがあるのでしょうか?実際に同行避難をしようとなったときは何を持っていくのかなど、飼い主はペット用の防災対策も考えておかなくてはいけません。

ペット避難に関するイメージ画像です。

この記事では、環境省のガイドラインで推奨されているペットの「同行避難」について解説します。日頃からの備えや、いざ同行避難する際の注意点もご紹介します。ペットの命を守るため、飼い主がすべき行動を学んでいきましょう。

ペットの「同行避難」についてご紹介している動画も以下よりぜひご覧ください。

 

同行避難とはなにか

まずは、同行避難の定義や、同行避難が推奨されるに至った経緯などを見ていきましょう。混同されやすい、同行避難と同伴避難についてもそれぞれ解説します。

同行避難の定義

ペットの同行避難とは、台風などで水害が予測されて避難勧告が出たときや、地震などで被災し自宅にとどまることが危険なとき、ペットを連れて自宅から安全が確保される場所へ移動することを指します。避難場所は、自治体が定めている避難所に限らず、高い場所にある建物や親類知人宅、ホテル、車内なども含まれています。

避難している犬のイメージ画像です。

 

同行避難が知られるようになった経緯

平成7年の阪神淡路大震災で、ペット連れで避難した被災者と他の被災者とのトラブルがきっかけとなり、全国で災害時のペットの同行避難が検討されるようになりました。

平成23年の東日本大震災発生当時、避難指示区域で飼われていた犬と猫はおよそ1万6,500匹いました。しかし、まだ同行避難の原則が広く知られていなかったこともあり、飼い主とともに同行避難したのはわずか1,670匹でした。自宅に残され、津波や家屋倒壊などで犠牲となったペットも多数報告されています。また、避難後に自宅に残したペットが心配で自宅に戻り、飼い主が津波の被害に合うという事例もありました。他にも、被災地では、飼い主からはぐれたり飼育放棄されたことで野生化したペットも問題になりました。

これらの事態を鑑み、平成25年6月に環境省より「災害時におけるペット救護対策ガイドライン」が公表され、同行避難の推奨が盛り込まれました。

平成28年の熊本地震では、同行避難したペットは多く報告されていますが、避難所がペット受け入れ不可であったため自宅に引き返したり、他の被災者とのトラブルを恐れて飼い主とペットが一緒に車中泊していた例も多く報告されています。

環境省のガイドラインには法的な強制力はなく、自治体が災害対策のマニュアルを作成する際の参考資料として位置づけられているため、避難所でのペット受け入れ方針は自治体によって様々です。まだ検討中の段階で、方針自体が決まっていない自治体もあり、同行避難の周知と実際の被災地における飼養環境の確保にはまだ課題があります。

同行避難と同伴避難の違い

同行避難と似た言葉で、同伴避難という表現があります。

  • 「同行避難」ペットを連れた避難行動
  • 「同伴避難」被災者が避難所などでペットを飼養管理する状態

同伴避難は、平成28年に内閣府が制定した「避難所運営ガイドライン」で用いられている表現です。

どちらとも、避難所ではペットと飼い主が同室で過ごせるという意味ではないことに注意が必要です。避難所において、ペットを自分の近くに持ち込みトラブルになるケースもあります。
避難所はあくまで人命優先のために設けられた場所であり、動物が苦手な人や、動物アレルギーを持っている人もいます。一緒に避難したとしても、ペット専用の部屋や、場合によっては屋外でペットを飼養することも考えておかなくてはいけません。

避難所でのペットケージ置き場の画像です。

 

まずは自分や家族の身を守る

災害時にはまず、自分や家族など人の安全を確保しましょう。自分の命を守らなくてはペットの安全を確保することはできません。被災時、ペットがパニックになって自宅から飛び出してしまい、避難しなくてはならないのに見つからない場合や、家具の隙間からどうしても出てこないといった場合も、同行避難は諦める選択をする必要もあります。

また、災害時は行政の対応も人命優先が基本であり、ペットへの対応は後回しとなる可能性があります。自分とペットの身は自分が守るという「自助」がペット防災でのキーワードとなります。
自宅が倒壊や浸水の恐れがなく、水や食料が十分に用意されており、日常生活がある程度送れる状態であるなら、自宅避難を選択するのも1つです。住み慣れた自宅で過ごせることで、人もペットもストレスを減らすことができます。

同行避難の持ち物

避難時の猫のイメージ画像です。

 

同行避難に最低限持っていくものとして、以下のものがあげられます。女性が一度に運び出せる重さは10㎏といわれています。自分や家族など人間用の持ち出し品もあるので、自分の体力や許容量を検討して揃えておきましょう。

  • リード、ハーネス
  • キャリーバッグ
  • ペットフード、療法食
  • 鑑札や予防接種済表
  • マイクロチップ、迷子札※事前装着
  • (ある場合)犬の健康手帳

リードやハーネスは、複数本あると安心です。また、避難先での係留に備え、ワイヤー入りやチェーンのものもあると良いです。
ケージや食器、ペットの毛布、おもちゃなどはあれば便利ですが、重くかさばるため第一に持ち出すものではありません。まずは急いで安全に避難することを優先とし、これらのものは安全が確保できたあとに必要があれば持ち出すようにしましょう。水やウエットティッシュなどは人と共用できるので、普段から備えておきましょう。

いざ、同行避難をする時

水害などが予想され避難勧告が出た際の同行避難では車での移動も可能ですが、地震など災害時の避難は道路の寸断や地割れも考えられるため、移動手段は徒歩が基本です。同行避難の方法を、ペットの大きさや飼育頭数別に示します。

猫、小型犬、ウサギなど小動物

猫や小型犬、ウサギなどの小動物はキャリーバックやキャリーリュックに入れて運びます。キャリーバッグを開けた途端脱走する危険があるため、逃げ足の速いペットであれば首輪やリードをつけてからキャリーバッグに入れるようにしましょう。

キャリーバッグは、両手を開けられるようにリュックか肩掛けができるものを選びましょう。ペットを中に入れたら、補強のためキャリーバッグをガムテープでまきます。風呂敷で包んであげると、周囲の目隠しにもなりペットも安心できます。

中型犬以上

中型犬以上はリードやハーネスを付けて一緒に歩いて避難します。ガラスなどが散乱している可能性もあるので、足を守るためにできれば靴を履かせたり、テーピングで足を保護してあげるとよいでしょう。

多頭飼育

1人で複数頭のリードを持って歩くのは、被災時には危険です。片方がキャリーバッグに入るサイズなら、1頭はキャリーバッグに入れ、リードで1頭を連れて歩くのが安心です。同行避難の際は1人1匹を連れ歩くのが基本ですが、避難が必要となった時に家族全員が家にいるとは限りません。家族の人数以上のペットを飼養する場合は、避難時のリスクも考えておきましょう。

同行避難のフローチャート

環境省から提供されている、同行避難のフロー図というものがあります。実際にペットを連れて避難する場合に、飼い主の方がどのように行動したら良いのかを記したものです。事前の備えから避難から1週間後までの動きが記載されていますので、いざという場合に備えて事前に確認しておくことをおすすめします。

同行避難時のフローチャートです。

引用:災害、あなたとペットは大丈夫?人とペットの災害対策ガイドライン<一般飼い主編>より

災害はいつ発生するかわかりません。ペットと一緒にいないときに発生する可能性もあります。事前に色々な状況をシュミレーションしておくことも大切な防災対策です。

同行避難のために平常時やっておく対策

ペットと同行避難するためには、平常時から以下の4つを実施しておくことがとても重要です。

  • ペットフードの備蓄
  • ペットの健康管理
  • しつけ
  • 避難先の確保

同行避難の時だけではなく、そのあとに続く避難生活においてもペットを健康に飼養管理する上で大切なことです。それぞれ解説します。

ペットフードの備蓄

災害時には食料品の支援も人命優先のため、ペットフードの支援は後回しになりがちです。日頃から、ペットフードや薬など、命にかかわるものの備蓄は多めに用意しておきましょう。1か月分程度のペットフードを用意しておくと安心です。
また、もしドッグフードを持って避難できなかった場合、避難先で配られたフードを選り好みしていたら生死に関わる問題になりかねません。普段からいろんな味に慣れさせ、ドライタイプ、ウエットタイプなど、様々な形のフードが食べられるようにしておくと理想的です。

ペットの健康管理

避難先では不特定多数のペットと一緒に過ごすことになります。そのため、狂犬病や各種混合ワクチンが未接種の場合、感染症の流行を防ぐため避難所やペットホテルなどの利用を断られる事もあります。義務化されている狂犬病ワクチンや、混合ワクチンは動物病院で接種し、接種証明も手元に残しておきましょう。また、ノミやダニなど寄生虫の駆除も行っておきましょう。

東日本大震災では、飼い主とはぐれ野生化した動物たちの間で繁殖がみられた例もあり、妊娠出産を望まないペットには早めに去勢や避妊手術を行いましょう。

しつけ

トイレトレーニングや、「待て」・「おいで」・「ハウス」といった基本的な指示に従うしつけは災害時にも役立ちます。子犬や子猫がしつけに適齢といわれる8週齢に差し掛かってきたら、しつけを始めましょう。

また、災害時にはキャリーバッグで運んだり、ケージの中で過ごしたりすることになるため、これらの中で過ごすことにも慣れておく必要があります。キャリーケースは普段からドアを開けた状態で部屋の中に置いておき、ペットが自由に入れるようにしましょう。中に入るのを嫌がるペットには、おやつやフードをキャリーケースの中で食べさせる方法もあります。
キャリーケースはペットを病院に連れていくときなどにしか使わない家庭では、いざという時壊れているという事もあるかもしれません。定期的に、正しく使えるか点検しましょう。

避難先の確保

環境省は同行避難を推奨していますが、避難所などの実際の運営は各自治体に任されています。大規模災害時に避難所でのペットの受け入れがスムーズに進むよう、環境省は令和3年に公表された「人とペットの災害対策ガイドライン 災害への備えチェックリスト」のなかで、各自治体の避難所におけるペット受け入れの可否を公表する方針を決めています。

自分の住んでいる自治体のホームページなどで、避難所の状況を確認しましょう。受け入れ可の避難所がない場合、自分で知人宅など避難先を確保しなければなりません。

同行避難ができないとき

避難時のペットと飼い主のイメージ画像です。

避難所がペット不可だった場合や、自分がけがをして世話ができないなどの理由で、ペットと別々の場所で避難生活を送らなくてはならないこともあるかもしれません。大きな災害の場合、預け先も被災している可能性もあるため、断られることも考えて、複数の避難先を検討しておきましょう。

預け先の例としては以下のような所が挙げられます。

被災地から離れた親類知人宅

災害時に支えとなるのは、人との繋がりです。平時より何かあった時の預け先として約束をしておくとよいでしょう。すでにペットがいるお宅に預けるときは、感染症やストレス予防のため、できれば部屋を別にしてもらうのが望ましいです。飼育にかかる費用はもちろんこちらが負担し、十分にお礼を伝えましょう。

ペットシェルター

自治体、獣医師会などが被災したペットの救護や一時保護を行います。民間団体やボランティアが預かってくれることもあります。東日本大震災や熊本地震でも、現地に複数個所のペットシェルターや一時預かり所が設置されました。

避難勧告の発令が予想されるとき

台風などによる水害はある程度予想がつくため、避難勧告が出たら同行避難できるように準備をします。ペット受け入れ可の避難所が見つからない場合は被害が少ないと思われる地域のペットホテルなどにペットを預け自分はホテルに宿泊したり、ペット同伴可のホテルに一緒に泊まるといった避難方法もあります。

同行避難について詳しく知りたいとき

同行避難についての詳細を知りたい場合は、以下も参考にしてみてください。

災害、あなたとペットは大丈夫?人とペットの災害対策ガイドライン<一般飼い主編>
決定版 犬と一緒に生き残る防災BOOK(株式会社日東書院本社 発行)

 

まとめ

環境省が推奨する同行避難について、定義や実際に同行避難するときの注意、日頃の防災対策などをお伝えしました。災害の瞬間、ペットに対してしてあげられることはありません。まずは自分の身を守り、落ち着いたらペットの命を守りましょう。災害が起こってから必要なものや情報を集めるのはかなり困難であり、日頃からの防災対策が特に重要となります。飼い主の責任としてペットの命を災害時にも守るため、防災対策を見直してみませんか。

WRITER

獣医師:
安家 望美

大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。

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