JOURNAL #2792023.12.04更新日:2024.11.22

減災とは?防災との違いや重要性、個人でできる備えやARROWSの減災の取り組み事例を解説

広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部

九州豪雨での支援の様子です。

災害大国である日本は、一般家庭でも企業・法人でも防災への備えが求められています。一方、防災と同じく災害への備えとして「減災」という言葉を見聞きしたことがある方も多いかもしれません。減災は防災と同じく、自分や家族、従業員や関係者の命を災害から守るために必要な取り組みです。

今回の記事では、減災の概要、防災との違い、減災の重要性、内閣府防災担当から公表されている「減災のてびき」をもとに今日から個人でできる7つの備えを解説します。我々「空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”」の減災への取り組みも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

減災の概要

まずは減災の概要と、似ている言葉である防災との違いを解説します。

そもそも災害とは

そもそも災害と言われるものには、以下のように、ある程度未然に防げるものと、未然に防げないものがあります。

未然防止の可否災害の種類
未然に防げる・火災
・NBC災害(放射線汚染や有毒ガスの発生など、Nuclear(核・放射線)/ Biological(生物・細菌)/ Chemical(化学物質)などによって引き起こされる災害。発生可能性は低いが危険度が高い)
未然に防げない・地震、津波
・気象災害、風水害(台風、豪雨、洪水、豪雪など)
・土砂災害、火山災害

未然に防げる災害は人為災害、未然に防げない災害には自然災害が該当します。

減災とは

上記の分類の中で、地震や土砂崩れなどの自然災害は自然現象のため、人間の力で防ぐことができません。そこで生まれたのが減災という考えで、災害が発生した場合の被害を最小限にとどめるための取り組みを指します。「災害が発生することを前提として、起きた時の被害を最小限にしよう」という考え方です。
減災の考え方は、阪神・淡路大震災での教訓をもとに生まれました。また、衆議院のとりまとめている「防災・減災体制再構築推進基本法案」では災害=大規模自然災害と定義されているように、日本においては自然災害への備えが重要視されていることがわかります。

減災と防災の違い

減災に対して、防災は災害を未然に防ぐための取り組みを指します。減災は災害の発生を前提として対応策を検討しているのに対して、防災は災害そのものの発生を防ぐ考え方です。

防災と減災の考え方に違いはあっても、減災の取り組みの中には従来の防災の取り組みと重複するものもあります。たとえば防災用品や非常食の備蓄、避難所やハザードマップの確認などです。そのため、防災と減災は明確に分類されず、「防災・減災」と同列で取り扱われることが多くなっています。

減災が重要視されるおもな理由

次に、減災が必要とされている理由を解説します。

自然災害の発生は防げないため

前述通り自然災害は自然現象のため、ある程度の予測はできるものの、発生を完全に防ぐことは不可能です。特に日本は以下の国土の特徴から多くの災害が発生する「災害大国」と言われています。

発生する災害の種類災害が発生する理由となる国土の特徴
地震・日本列島周辺には、地球全体の約10分の1の地震や火山噴火のエネルギーが集中している
・日本列島が4枚のプレートがひしめく変動帯に位置している
豪雨・四季がはっきりしている
・四季の入れ替わり時期に、梅雨と秋雨が発生する
洪水・日本列島各地に横走する山脈が多いため、河川が急勾配かつ水の流路が長い
台風日本列島が太平洋高気圧の縁辺を吹く風にあたるため、台風のコースになりやすい
日本海側での豪雪日本海側は、冬のシベリアからの季節風が強い寒気をともなって吹き寄せる
近年の災害の甚大化地球温暖化の影響

国土や気候条件から、日本で発生する災害の種類も多様、かつ回数も多めということが分かります。日本を取り巻く環境と共存するために「自然災害はいつ起きてもおかしくない」という考え方を持ち、発生後の被害を最小限に食い止めるための減災の折り組みが必要と言えるでしょう。

企業や法人、組織の事業継続のため

甚大な自然災害が発生すれば、人命や物的被害といった直接的な被害のほか、インフラや物流の停止をはじめとした間接的な被害も発生します。
自然災害によって企業の事業活動が停止すると、倒産や従業員の解雇のリスク、製造業や小売業・卸売業などの特定事業の停止によるサプライチェーンの連鎖的な事業中断への波及および日本全体の経済と国力の衰退のリスクも発生するでしょう。そのため企業や法人、組織には、自然災害発生時、”生命の安全確保を目的とした防災”とともに、”重要業務の継続または目標復旧時間を目指した業務復旧”を目的に、全体的に取り組む事業継続(BC)が重要視されるようになりました。

中小企業庁でも、大企業よりも経営資源的に乏しいと言える中小企業を対象に、防災・減災力を高める取り組みとして「事業継続力強化計画認定制度」を設けています。「事業継続力強化計画認定制度」とは、中小企業が策定した防災・減災の事前対策に関する計画が、経済産業大臣に「事業継続力強化計画」として認定されると、税制措置や金融支援、補助金の加点などの支援策が受けられる制度です。

今日からできる個人での減災の取り組み

内閣府が公表している「減災のてびき」をベースに、今日から個人でできる減災の7つの取り組みを解説します。防災・減災の取り組みとして代表的なものに「防災用品や非常用持ち出し袋、非常食の備蓄」がありますが、大切なのは生き残った後の取り組みではなく、災害発生時にまずは生き残るための取り組みです。したがって今回は、備蓄以外にやっておくべき減災の取り組みを解説します。

公助を待たず、平時から自助と共助を意識する

災害発生時の支援や救助には、以下の3つがあります。

  • 自分自身の身を守る「自助
  • 自分自身や家族が無事であることを前提に、近所や周囲の人を助ける「共助
  • 自治体、消防組織、国などの公からの支援や救助である「公助

一般的に、公助は支援が行き届くまでに時間がかかります。災害発生時に被害を最小限に食い止めるためには、公助を待たず、つまり行政に頼り過ぎず、自助や共助にまず取り組むことが重要です。さらに、自助や公助には限りがありますが、共助は無限に広げることができます。

ただし、共助は自助ができていることが前提です。災害発生時には、まずは自分の命を守ることを意識しましょう。また自助や共助は日頃から準備や訓練をしなければ機能しません。「災害時自分や家族でできること」「災害時地域の人と協力してできること」「平時に備えておくこと」を日頃から考えておくことが重要です。

地域の避難場所および危険区域を確認する

大規模自然災害が発生すると、平時は安全でも災害発生時に危険となる場所があります。必要に応じてすみやかな避難ができるように、かつ危険となる地域には場所には近づかないように、以下のツールを使って平時に避難場所や危険区域を確認しておくことがおすすめです。

ツールの種類特徴
ハザードマップ(防災マップ)・居住地の避難場所、災害発生時の様子などが記載されている
・自治体ホームページでも閲覧できる
・周辺環境の変動などにより随時見直しや変更されることがあるので、定期的にチェックするのがおすすめ
ゆれやすさマップ・色付けにより地面のゆれやすさを示した地図
・内閣府の「防災情報のページ」から確認できる
気象庁ホームページ・台風や豪雨など、ある程度事前予測ができる自然災害が発生する可能性がある場合に有効なツール
・キキクル(危険度分布)や雨雲の動きを確認する

また、周辺環境を実際に足で歩き、危険箇所や避難場所を確認する「ぼうさいまち歩き」の取り組みも有効です。自分ひとりで歩く場合と、家族連れで歩く場合(小さい子どもや高齢者の方、体の不自由な方をともなう場合もある)、昼間と夜間で歩く場合で移動時間や周辺環境なども変化します。家族で歩いてみたり、時間を変えてみたりするのも良いでしょう。

マイ・タイムラインを作成しておくのもおすすめです。マイ・タイムラインとは、災害時にいつ、何をするのかを整理した一人ひとりの防災計画を指します。事前の予測が難しく、時間の経過によって災害規模や必要な行動が変動する、豪雨や台風などの自然災害に対する減災の取り組みとして有効です。

自宅の耐震設計、耐震強度を確認する

地震によるおもな災害に、建築物の被害があります。阪神・淡路大震災では約10万5,000戸が倒壊し、犠牲者の約8割が自宅の家屋倒壊による圧死または窒息死でした。さらに、阪神・淡路大震災で被害のあった家屋は新耐震基準以前に建てられた建物に集中しています。自宅が新耐震基準以降に建てられているかを確認しておきましょう。自宅の建築が昭和56年6月以前の場合、古い耐震基準のもとに建てられている可能性が高いです。耐震診断を受け、必要に応じて改修や補強を行いましょう。自治体によっては耐震診断や補強のための補助制度を設けていることがあるので、上手に活用するのもおすすめです。

また、新耐震基準によって自宅が建てられていても、経年によって家の強度や性能は劣化していきます。点検や整備を定期的に行うほか、地震保険や共済保険などの備えを行うと安心です。
これからマイホームを建てる場合は、地震に強い家づくりの知識を身に付けておくのも良いでしょう。

家具の固定や配置変更を行う

地震発生時には家屋の倒壊だけでなく、室内の家具の転倒や落下による被害も発生します。阪神・淡路大震災では、隣室から飛んできた家具により死亡した、ピアノが飛び上がって天井にぶつかった、などの事例も報告されています。日頃から家具の転倒や移動防止のために、以下の工夫を取り入れておきましょう。

  • 家具を固定しておく
  • 特に寝室、子ども部屋、高齢者の方の部屋には必ず安全対策をする
  • 家具は背の低いものを選ぶ
  • 家具の上に物を置かない
  • 照明はできれば造り付けの物を選ぶ
  • 散乱したガラス片で怪我をしないよう、スリッパやスニーカーなどを準備しておく

平時より備蓄や常備品を準備しておく

災害がいつ起きてもおかしくない、と考え、日頃から以下の備蓄や常備品を準備しておきましょう。

備蓄する場所やシーン備蓄する防災用品使用シーンや注意点
外出先で常に携帯したい物現金連絡、避難、帰宅に使用する
身元や連絡先を記したカード自分の身に万が一のことが起きた場合に
かかりつけの病院の診察券病名、処方薬を書いたメモ持病のある方に
・LEDランプ付キーホルダー
・笛
・口を覆うハンカチ
・ペットボトルの水やチョコなど
屋内に閉じ込められた場合に
・ポケットラジオ
・メモ帳
・筆記具
災害時の情報収集と整理
家庭や職場に常備するもの・常備薬
・入れ歯や補聴器
・スペアのメガネ
・通帳や証券類の控え番号を記したメモ帳など
なければ困るものは身近に置いておく
・履きやすく脱げにくい紐無しの靴
・雨や寒い時の上着代わりのレインウエア
・ガラスやガレキをかき分ける革手袋
・両手の空くLEDのヘッドライトなど
すみやかな避難、移動に必要
家庭に備蓄しておくもの・最低3日間(できれば1週間)の水や食料
・生活用品
・携帯トイレ
在宅避難時に

外出時に常に携帯したいものは、無意識に持って歩ける小ささ・軽さを重視しましょう。サイフに入れる、キーホルダーに付ける、バッグや衣服のポケットに入れっぱなしにする、などで準備するのがおすすめです。
家庭や職場に常備するものは、「あれば便利なもの」より先に「無ければ困るもの」を常にまとめて身近に置きましょう。

また防災のために特別なものを用意するのではなく、食料や日用品はローリングストックを活用するのがおすすめです。ローリングストックとは、ある程度ストックを作って、順々に古い方から使い、日常生活のなかで買い足ししながら備蓄する備蓄方法です。備蓄品の期限切れを防ぎ、ストックの場所も少なくて済みます。職場のロッカーや引き出しなどにも、個人で使用するものを備えておくと安心です。

家族間での防災会議を行う

家族がばらばらの場所で被災したときを踏まえて、以下を家族で話し合う「防災会議」をしておきましょう。

  • 災害が発生したときの家族の安否確認方法
  • 非常時の集合場所
  • 子どもの引き取り方法
  • 学校や職場の避難場所
  • 連絡すべき親戚や知人への連絡方法
  • 安否確認、無事を知らせる方法(災害用伝言ダイヤル171などのサービス)

これらの情報を話し合い、家族間で共有しておくことで災害時に家族の命を守ることができます。

ふだんから周囲の人や地域とのつながりを大切にする

共助は日頃の近所付き合いがないと効果を発揮できません。日頃から周辺の人と声をかけあい、いざというときに助け合える関係を築いておきましょう。町内会や自治会で行われる防災訓練や炊き出し、救護訓練などに参加し、防災意識を高めておくのもおすすめです。

フェーズフリーを導入する

また、減災のための取り組みとして有効な考え方として「フェーズフリー」があります。

フェーズフリーについて説明しているイメージ画像です。

フェーズフリーとは、平常時と災害時というフェーズ(段階や状況)の区分けをなくし、日常的に利用している商品やサービスを、そのまま災害時にも利用できるようにするという考え方です。備蓄品にスペースをとりたくない場合、非常時に在宅避難をする可能性が高い場合などに有効です。フェーズフリーについて解説している記事もありますので、参考にしてみてください。

「空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”」の減災への取り組み

実例として、我々空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”が今までに行ってきた減災への取り組みを紹介します。

減災に関する講演会の開催

防災(USAID)事業の一環として「みんなの減災」というテーマで講演会を実施しました。減災・防災の幅広い啓蒙を目指しています。

安全性の高い拠点を確立

「空飛ぶ捜索医療団ARROWS」の現在の本部事務所は、広島県神石高原町にあります。地震の発生頻度が比較的低い場所を事務所の場所として選びました。

神石高原シェルターの画像です。
神石高原町周辺の様子

本部事務所の設立時、東日本大震災の教訓から、「地震の発生頻度が高く被害を受けやすい場所への本拠地の設置」や「首都圏に拠点を一点集中することでの機能停止」を避けたかったという狙いがありました。そこで、中国山地プレートの固く安定した地盤があり、被災の可能性が比較的少ないと考えられる場所として、広島県神石高原町に本部事務所を設置しました。空飛ぶ捜索医療団では、今後発生が予測される首都直下地震や南海トラフ地震などの大規模災害発生時にも、迅速な行動と安定的な支援につなげるための拠点を確立しています。

減災とは災害大国だからこそ生まれた考え方

減災の概要や防災との違い、個人でできる減災への取り組み方法について解説しました。減災の取り組みはさまざまなものがあり、今日からはじめられるものも多くあります。いざというときに備えて、自分や家族の命を守るための取り組みをはじめてみませんか。

WRITER

広報:
空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部

空飛ぶ捜索医療団"ARROWS"ジャーナル編集部です。災害に関する最新情報と、災害支援・防災に関わるお役立ち情報をお伝えしています。

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