JOURNAL #3662024.09.27更新日:2024.10.09
災害時は、骨折や出血などのケガをはじめ、命の危険に関わる体調の変化が起こり得ます。すぐにでも医療機関の力を借りることが理想ですが、有事におけるリソースには限りがあり、さらに道路状況によって到着が遅れてしまい、待つ間に症状が悪化してしまうことも考えられます。
防げるべき不幸に対応するには、医療関係者でなくとも可能な範囲で対応することが重要です。今回の記事では、災害時に一般の方でも対応可能な「一次救命処置」と「ファーストエイド」について解説します。
一次救命処置とは、心肺が停止した傷病者に対し、医療従事者に限らず誰でも行える処置のことです。具体的には、
などを指します。
事故や災害のような緊急時においては、心身共にパニック状態にあるため一次救命処置は難しく思われますが、ここでの対応には大きな意味があります。
救命の可能性を考えると、例えば通報から救急車が到着するまでには約10分かかるといわれています。総務省が発表した「令和5年版 救急・救助の現況」によると、心肺停止した傷病者に対し、救急車が到着するまでに何も処置を実施しなかった場合、1ヵ月後の生存率は6.6%、心肺蘇生の救命処置が行われた場合の生存率はおよそ2倍の12.8%にもなります。
また、心肺停止から何もしないままに10分以上が経つと、命が助かる可能性は段々と低下していきます。だからこそ、その10分の間での救命処置が重要になるのです。
さらに災害時は医療リソースが不足するため、救急車の到着により時間がかかることが十分に想定されることからも、迅速な一次救命処置が必要不可欠です。
参照:総務省|令和5年版 救急・救助の現況」
一次救命処置と似た方法に「二次救命処置」がありますが、二次救命処置は一次救命処置に続いて行われる対応のことを指します。一般人や救急隊が一次救命処置を行い、その後に医療従事者による二次救命処置に移行します。
2つの違いは特殊な器具を使うか、または使わないかという点です。一次救命処置においては、AED以外に特別な器具を使うことはありません。対して二次救命処置では、モニターや除細動器、点滴、薬剤、挿管セットなどの器具が求められ、医療従事者によって行われます。
ファーストエイドとは、心肺停止のような危険性が見られないものの、急な病気やケガ、事故によって困っている人を助けるための最初の行動です。救急隊が到着するまでの対応と位置付けられることから、「ファースト」と呼ばれることもあります。
具体的な処置としては、ケガへの応急処置や止血、体位の調整などがあります。
ファーストエイドには、
などの役割があります。
骨折をはじめとするケガや出血量が多い傷などに見舞われると、痛みや危険性は非常に深刻なものとなります。救急隊や医療従事者が早く到着し、対応するのなら問題はありませんが、それまでには時間がかかるものです。
災害時においてはことさら長い時間がかかり、状態が悪化することも避けられないでしょう。そうした環境下で適切な対応ができていると、症状の悪化防止や回復の促進、苦痛の軽減などにつながり、今後続く避難生活への負担も押さえることができます。
災害時は医療機関が機能不全に陥ったり、救急救命道具なども不足したりします。そんななかで一時救命処置を進めるには、「身の安全の確保を守る」ことを行った上で「その場でできることを尽くす」ことが重要です。
以下、災害現場において一般の方でも対応できる一次救命処置を挙げていきます。
食べ物や異物がのどに詰まったとき、呼吸の苦しさや痛みなどを感じます。その状態が続くと呼吸さえ難しくなるため、異物を除去し気道を確保することが必要です。
その手順としては、
によって方法が異なります。
声が出て咳も出ている場合には、咳をするように促し、異物を取り除きます。この場合、異物が気道から完全に出るまで強い咳をするように伝えましょう。
この場合には、「背中を叩く」または「上腹部を圧迫する」という方法があります。
背中を叩くときには、立っているまたは座った状態で胸元を支え、頭を低くさせます。そのまま肩甲骨の間を強く続けて叩きましょう。寝ている状態では横向きにさせ、同じように肩甲骨の間を叩きます。
上腹部を圧迫するときには、後ろから本人を抱く形でおへそより少し上に握りこぶしを当て、もう一方の手でも握りこぶしを上からつくり、強い力で上に押し上げます。ただし、この方法は気道へのダメージも強い方法でもあるため、慎重に行いましょう。
心肺停止が見られる場合には、何より早めの救命処置が重要なポイントです。まずはじめに
などの対応を済ませたら、心臓マッサージとAEDで救命に着手します。
胸と腹部の呼吸を確認し、10秒以内に反応が見られない場合には、心臓マッサージを始めます。
ここで使う方法は、「胸骨圧迫」です。手のひらの根本部分を重ねて両胸の間にのせ、真上から強く押します。強さは胸が5cm沈む程度、圧迫のテンポは1分間に100回のペースを意識しましょう。
強さと速さが必要になるため、複数人かつ数分ごとに交代で行うと、力を弱めずに心臓マッサージを続けられます。
心臓マッサージや本人の様子の確認をしている間、AEDの準備もしておきましょう。心臓マッサージを交代で進めることで、効率よく環境を整えることができます。
AEDは、心肺が停止している傷病者に電気ショックを与えて心肺機能を回復させる医療装置です。駅や空港、バスターミナル、商業・スポーツ施設など、比較的多くの人が集まる場所をはじめ、最近はコンビニなどにも設置されている店舗があります。
AEDのふたを開けると、自動で電源が入った状態になります。使い方やするべき対応が音声やイラストで示され、手惑うことなく処置ができるようになっています。指示に従いつつ、電極パッドを本人の胸に張り、雷マークのショックボタンを押したら手を離しましょう。
また、AEDには心臓の動きを読み取る機能があり、電気ショックの必要性を判断してくれるので、医療従事者でなくても安心して救命処置に活用できます。
その後はAEDの指示のもと心臓マッサージを続け、救急車や救助隊を待ちましょう。
これまでお伝えした気道異物除去法や心臓マッサージ、AEDの使用には、特別な資格は必要ありません。基本的には医療従事者でなくても対応可能な方法と捉えられていますが、適切な方法や適度な圧や強さ、速さなどを考えると、実際の場面で迷うこともあります。
そのような不安を解消するためにも、事前に準備をしておきましょう。各自治体の消防署では、救命方法の講習会が開催されており、心臓マッサージやAEDを実践で学ぶことができます。
消防庁のホームページでは応急処置の手順が動画で確認できるため、いざというときのために知識を押さえておくとよいでしょう。
ファーストエイドも、一次救命処置と同じようにケガなどのダメージを避けるためには重要な手段です。以下、代表的な処置について説明します。
被覆(ひふく)とは、包帯やガーゼなどを用いて傷口の感染から患部を守ることです。苦痛の緩和や精神的な安心感にも役立つため、危険性が高くなくても早めの対応が理想です。
被覆の際には、まず手を徹底的に洗い、なるべく使い捨ての手袋を使います。その後、流水で傷口を洗い流せば、被覆までの準備が整います。
滅菌ガーゼを使い、傷口を十分に覆うほどの大きさを確保します。出血部分にはガーゼを厚めに覆い、血がにじんできたらさらにガーゼを重ねましょう。
傷口を固定し、動かさないように気をつけます。本人に横になってもらう場合には、腰や足首などと地面との隙間に包帯を通し、患部までずらすようにして傷口を覆います。
結び目は傷口の上を避け、寝かせたときに下にならないように気をつけると、寝た状態での圧迫を防げます。また包帯での被覆をする場合には、血流を常に確かめ、必要に応じて緩めに巻きなおしましょう。
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ケガなどで大量に出血が続くと最悪の場合、命の危険に直結します。ダメージを最小限に食い止めるには、早い段階での止血が必要です。
直接圧迫止血法は、止血で最も一般的な方法です。
まず、清潔なガーゼやハンカチなど、傷口よりも大きな布を用意します。これらを傷口に当てて手で圧迫し、出血を抑えます。力が弱いと出血が止まらなくなるため、力を込めて押すようにしましょう。
なお、止血中に血液感染が起こるリスクも高いことから、救助者が止血を行う際にはビニール手袋かビニールを使うことをおすすめします。
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骨折への対応が遅れると、移動や本人の動揺によって二次的損傷が起こりやすくなり、骨が血管と神経を圧迫するリスクが高まります。ファーストエイドを行うことにより、医療機関や救助隊が到着するまでそのリスクが抑えられ、本人の苦痛の緩和にもつながります。
骨折への対応での重要なポイントは、状況への適切な判断です。極度に痛みを訴えている場合には、患部を動かさないようにしましょう。骨折の可能性が考えられる場合のみ、骨折と見なして対応しましょう。
副子や添え木などを太ももの中央部から足先までの内・外両側に位置し、三角巾や布で固定します。患部を無理に動かすと、出血や循環障害、神経障害などになりかねないため、本人の楽な姿勢を優先して対応しましょう。
副子または添え木などを用意し、肘を曲げて固定します。腕から肘、手首や手までを包帯で覆い、曲げた状態を維持しましょう。用意できれば三角巾で吊るように固定すると、安定性が増します。
腕の骨折はデリケートであり、無理な対応や誤った固定ではかえって本人へのダメージが大きくなります。安定性を高めるためにも、その場に複数人が揃う場合には協力者を得るようにしましょう。
呼吸や循環機能を保持し、症状の悪化を防ぐためには、本人の症状や状態に合わせた姿勢をとらせることも大事なポイントです。
体位には、仰向けとうつ伏せ、膝を曲げた状態、回復体位、座位などがあります。救急隊が到着するまで、状況に合わせた体位を確保しましょう。
いわゆる仰向け、背中を下にした体位です。全身の筋肉に無理な緊張をもたらさず、自然な体位でもあります。
腹部を下にした、うつ伏せの状態です。意識が失われている場合や嘔吐がある場合、また背中にケガが見られる場合に適しています。呼吸が苦しくならないよう、顔は横に向けましょう。
仰向けで膝を曲げた状態で、腹部の傷や腹痛がある場合に適しています。頭部や膝に枕や毛布を敷くと、よりリラックスができます。
横向きの状態で寝て、顎を腕の上に載せる体位です。
この体位は本人の意識がない場合、嘔吐がある場合などに向いています。横向きかつ顎を腕に載せることで、気道の確保や嘔吐による窒息の防止に役立ちます。
仰向けに寝たまま、上半身を少し起こした体位です。呼吸をスムーズにするため、心疾患やぜんそくなどで呼吸が困難である場合に適しています。
また、布団や毛布を何層に重ね、寄りかかるように座る座位も有効です。この体位は、呼吸困難が見られる場合に適しています。前から寄りかかることで、呼吸の辛さを和らげることができます。
「ショック体位」とも呼ばれる状態です。この体位では、枕やクッションを厚めに重ねて足を置きます。足を心臓よりも高い位置に載せることで、脳や心臓に血液が送られ、貧血やショック症状の緩和が促されます。
一次救命処置やファーストエイドは、事故や突然のトラブルの対応に大きな意味を持ちますが、災害時の対応としてもとても大切です。また災害の現場では多くの場合、パニックに陥りやすいため、冷静に動けるように事前の知識や経験が求められます。
いざというときに一人でも多くの人を救えるよう、講習会や動画、専門の資料などで一次救命処置やファーストエイドについて学んでおきましょう。
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