JOURNAL #3732024.11.01更新日:2024.11.08
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
ここ数年、ニュースや新聞などで『激甚災害(げきじんさいがい)』という言葉を見たり聞いたりしたことがある方は多いのではないでしょうか。しかし、激甚災害は新しいものではなく、昔から存在し、それに対する支援や制度は長い年月をかけて整えられてきました。今回の記事では、激甚災害とはなにか、概要と認定された場合に受けられる支援などについて詳しく解説します。
激甚災害とは、地震や豪雨、洪水、竜巻、津波、噴火、地滑りなどが発生し、
と判断された災害を意味します。被害が大きく、国から資金援助を受けなければ復旧・復興が難しい大規模災害です。
激甚災害として指定される場合、人的被害よりも主に経済的被害が重要視される傾向にあります。支援を受けるには、まず災害発生後、内閣府の中央防災会議の答申を受け、内閣総理大臣が激甚災害に該当するかを決定。その後、後述する『本激』と『局激』に分けられ、具体的な支援が決められていきます。
激甚災害は、1962年に創設された『激甚災害制度』に基づいて決められます。これまで、以下の被害規模の大きい災害が、激甚災害として指定されてきました。
なお、2024年1月の能登半島地震に加え、2024年9月に発生した奥能登豪雨も、激甚災害に指定されることになっています。
激甚災害と似た災害に「特定非常災害」があります。特定非常災害は、法律で「著しく異常かつ激甚な非常災害」と定められ、主に以下の4つの条件を総合的に判断したうえで、被災者の生活再建を目的とした特例措置が適用されます。
具体的には、
などの猶予が与えられます。阪神淡路大震災をはじめ、これまで8つの大規模災害が特定非常災害として認められました。
なお、猶予が与えられる期間は、警察庁や厚生労働省の決定によって異なるため、それぞれ確認が必要になります。
発生した災害が激甚災害に指定されると、被害や状況に応じて必要な施策を受けることができます。その基準となるものが、『災害対策基本法』です。
災害対策基本法では、以下のように定められています。
政府は、著しく激甚である災害(以下「激甚災害」という。)が発生したときは、別に法律で定めるところにより、応急措置及び災害復旧が迅速かつ適切に行なわれるよう措置するとともに、激甚災害を受けた地方公共団体等の経費の負担の適正を図るため、 又は被災者の災害復興の意欲を振作するため、必要な施策を講ずるものとする。
引用:総務省|e-Gov|災害対策基本法 第九十七条
また、『激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律』も災害対策基本法が元となっており、災害復旧に向けた地方財政の負担緩和や被災者への特別な助成措置について規定しています。
【関連記事】災害対策基本法とは?重要性と6つの要素、改正について分かりやすく解説
『激甚災害制度』は災害基本法を基とし、「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」に基づく制度を指します。この激甚災害制度も、元をたどると長い歴史を持つ制度で、多くの災害や議論を経て現行の形式に定着してきました。
1950年 | 農地・農業用施設の災害復旧制度 | 農林水産業施設災害復旧事業費国庫補助の暫定措置に関する法律(暫定法) |
1951年 | 公共土木施設等の災害復旧制度 | 公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(負担法) |
1961年 | 災害対策基本法 激甚災害制度の創設を規定(第97条) | |
1962年 | 激甚災害制度の創設 | 激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律(激甚災害法) |
1968年 | 局地激甚災害制度の創設 | |
2007年 | 早期局激制度の創設 |
通常、災害が起こると、『災害復旧補助国庫』において、
などの支援が受けられることになっています。
しかし、中央防災会議により、補助なくしては復興が不可能と判断され、激甚災害に指定されるとこの割合が2割程度にまで増えます。つまり、激甚災害である場合には、復旧・復興までの費用の援助が受けられるようになるのです。
激甚災害により受けられる支援には、非常に細かな種類があります。
たとえば、
などの補助が主な実例として挙げられます。
そのほかにも、
など、住民の生活や復興、土地の損壊への補償、企業への補償など、さまざまな角度から支援が行われます。
激甚災害による支援は、基本的に経済的被害への対策として捉えられていますが、人的な救済としても大きな意味があります。
たとえば、災害によって起こり得る、道路の寸断や住居の損壊、水道管の破裂などの復旧が遅れれば遅れるほど、避難生活を強いられる被災者は疲弊し、災害関連死など生命の危機に関わることさえ避けられません。そこで激甚災害制度の支援によりインフラの復旧が促進されれば、人的救助にもつながることが考えられます。
また、災害によるダメージから復興するには財源が不可欠となりますが、激甚災害のように大規模である場合、復旧や復興にかかる費用を地方自治体の財源から確保することは難しい状況です。被災者の方々が1日でも早く元の生活に戻れるように、激甚災害として指定され国からの補助が受けられることにより、生活再建に向けた復興と自立が支援されることになるのです。
激甚災害として指定を受け、復興のための支援を受けるには、その災害状況が定められた基準を上回ることが条件となります。
指定までには一定の流れをたどり、道路や河川堤防をはじめとする公共土木施設、農地や中小企業などの被害状況が調査され、復興費用の算定などが行われます。
その後、『本激』か『局激』かに分けられ、指定された支援が受けられることになります。
激甚災害は、「本激」(正式には「激甚災害指定基準による指定」)と「局激」(正式には「局地激甚災害指定基準による指定」)の2種類に分けられます。
本激とは、地域が特定されず、日本列島を縦断した台風や大震災など、発生した「災害そのもの」として指定する災害を指します。一方、局激は、災害によってダメージを受けた「市町村」を指定するという特徴があります。ではなぜ、本激と局激に分けられるようになったのでしょうか。
1962年に「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律(激甚災害法)」が制定されて以降、大規模な災害が発生するたびに政府による特別措置が適用されるようになりました。
しかし、判断軸となる被害状況が全国規模を単位とした基準で判断されたため、局所的な災害は対象とされず、「大きな被害を受けているけれど、激甚災害として指定されず、支援が得られない」といったケースがありました。
この状況を変えたのが、1968年に宮崎県を襲ったえびの地震です。わずか1ヵ月の間に、震度5以上の地震が5回発生。死者3名、負傷者44名、5,175世帯20,242人が罹災し、498戸が全壊する、甚大な被害が生じましたが、当時の制度では激甚災害の基準を満たしていないことから、被災地は支援を受けることができなかったのです。
このえびの地震の被害状況を踏まえ、市町村単位の被害額を基準とする『局地激甚災害指定基準』『局地激甚災害制度』が創設され、特定地域における災害に対しても、局激として特別措置が適用されるようになりました。
【参照】国土交通省 九州地方整備局|防災の取り組みと過去の災害
本激も局激も激甚災害法に基づいた特別措置の適用内となるため、必要な支援が行われることには変わりません。
しかし、
ことを考慮すると、受けられる特別措置の範囲に相違があらわれます(本激のほうが局激よりも特別措置の数が多い)。また、発生した災害が本激として指定されなかった場合、局激として指定されるかの判断がなされるケースもあります。
災害発生から激甚災害に指定され、本激あるいは局激として判定されるには、以下のような手続きがおこなわれます。
・災害の発生
⇩
・市町村、都道府県による被害状況の調査
⇩
・激甚災害(本激)指定基準
被害状況を調査した結果、復興までの査定基準額等が激甚災害の基準を満たす場合には、本激として認められ、政府指定の前に「指定見込み」として公表されます。
本激として指定されない場合には、以下のような流れがあります。
・局地激甚災害指定基準に合わせ、『早期局激』あるいは引き続き査定額の算定
⇩
・引き続き算定された場合、再度局地激甚災害指定基準の判定
⇩
・被災地の各市町村が都道府県経由で各災害復旧事業等にかかる査定事業費を提出
⇩
・年度末に局激に指定
本激と局激の指定基準は異なることから、同じ災害で両方として適用されることはありません。たとえば、本激として指定された災害が、別の基準での特別措置が局激に指定された場合には、その特別措置は局激として分類されます。
災害発生後に激甚災害として認められるには、本激では年度内、局激では年度末と決められています。被害状況の把握や被害額の算定などに一定の時間を要するため、特に本激の場合、1~2ヵ月かかるケースが少なくありません。ただし特例として、2011年の東日本大震災では翌日、2016年の熊本地震では約2週間後など、早い段階で指定されるケースもあります。
また、早期局激の場合には、「災害の規模は本激としての基準を満たさないにもかかわらず、復興までの査定額が2倍以上となる見込みがある」と判断されると、本激と同様に年度内に指定されます。従来、本激と局激の区別は明確になっていましたが、2007年の能登半島地震をきっかけに、早期局激としての選択肢が増えました。
令和6年能登半島地震の発生以降、比較的頻繁に私たちの耳に入るようになった激甚災害ですが、実は1962年に創設された長い歴史があり、多くの災害を乗り越えるたびに整備されてきました。
言葉や制度に目を向けると難しくも感じられますが、直接的な人的救済ではないものの、経済的支援を通じて生活が支えられ、命が守られることがわかります。また局激は、本激よりも支援の種類も範囲も変わりますが、生活や復興には欠かせない支援が得られます。
災害に注意が必要な日本に住んでいるからこそ、こうした激甚災害や激甚災害制度など、災害時に受けられる支援の制度や仕組みについて知っておいていただければと思います。
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空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
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