JOURNAL #4362025.05.16更新日:2025.05.16
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
自然災害が起こった際、直後の避難や救助活動が注目されますが、被災者が日常生活に復帰するまでのプロセスもとても大事なポイントです。しかし、災害によるダメージが大きく、生活復帰が難しい場合もあります。そうしたときに助けとなるのが、「被災者生活再建支援法」です。今回の記事では、被災者生活再建支援法の目的や背景、受けられる支援、支援の申請手続きについて解説します。
「被災者生活再建支援法」とは、地震や津波などの自然災害で住宅が損壊した場合に支給される、「被災者生活再建支援金」について定めた法律のことです。
地震や津波、豪雨・洪水、暴風、豪雪、高潮、火山の噴火など甚大な自然災害が起こると、個人の力での復興や生活の再建はほとんど不可能です。例えば、住宅が全壊した場合や住宅の補修が求められる場合には、個人の経済力を越えた金額が必要になるケースが少なくありません。
このような場合、支援金を適切に活用することで、被災者の生活再建はもちろん、最終的には被災地の復興を促進することができます。
なお、後の項目で説明するように、被災者生活再建支援法の対象は、市町村を一定の基準に照らし合わせたうえで決められます。自然災害で被災したからといってすべての世帯が法の適用対象になるわけではなく、さらには手続きも必要なため、注意が必要です。
被災者生活再建支援法は、「被災者生活再建支援制度」から成り立つ法律です。被災者生活再建支援制度は、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災がきっかけとなって制定されました。
関西地方を襲った阪神・淡路大震災は直下型の地震で、住宅の倒壊や火災をはじめ大規模な損害をもたらしました。多くの被災者が住宅を損壊や火災による焼失で失い、生活の再建が困難だったと記録されています。なかには「新築の家が震災で焼失し、ローンだけが残る結果となった」という事例もありました。
こうした事態を受け、当時の義援金支援には限界があったことから、公的制度による被災者の生活再建を求める声が強まり、支援制度の制定に至りました。
また、阪神・淡路大震災と同年の9月、内閣総理大臣設置の「防災問題懇談会」により、被災地支援のための基金を検討することが提言されて国会でも被災者支援の法律についての議論が進み、1997年には全国知事会で災害相互支援基金の創設が決議されることになりました。
この流れから、1998年5月に「被災者生活再建支援法」が成立し、それ以降も数度の法改正を経て制度の拡充や手続きの見直しが行われています。
自然災害による当該市町村の被害状況が被災者生活再建支援法の適用内である場合、区分に応じて支援が行われます。おもな区分として以下があります。
【第1号】災害救助法施行令における特定の自然災害が発生した市町村
【第2号】10世帯以上の住宅全壊被害が発生した市町村
【第3号】100世帯以上の住宅全壊被害が発生した都道府県
このほかにも、同じ都道府県内にある人口10万人未満の市町村で5世帯以上の住宅全壊被害が発生した場合など、被災した世帯数や被害状況に応じて支援の対象となるかが決まります。制度が適用されるかどうかは、お住まいの都道府県のお知らせを確認しましょう。次に、主な適用条件について詳しくみていきましょう。
第1号の適用対象は、「災害救助法施行令」における第1条第1項第1号または第2号に相当する自然災害が発生した市町村です。
下のように、「市町村の人口」に対し、「住家が消失した世帯数」が基準値を超えると、第1号の適用対象となります。
また、「都道府県の人口」に対する「住家が消失した世帯数」によっては、災害救助法施行令第2号により、市町村の消失世帯数の基準値が半分になります。対象となる都道府県の被害基準は以下の通りです。
住家が消失した世帯の数の算定にあたっては、半壊の場合は2世帯、床上浸水の場合は3世帯でそれぞれ1世帯の消失と数えるなどの基準が定められています。
【関連記事】災害救助法とは?大災害で行われる救助と適用されるまでの流れ
自然災害によって10世帯以上の住宅全壊の被害が発生した市町村は、施行令第1条第2号の適用対象です。ここでは、内閣府が定める「災害の被害認定基準」に基づいた被害認定調査が行われます。
被害認定調査では、
の6段階が設けられていて、第2号では「全壊」の世帯数のみが対象となります。
施行令第1条第3号では、自然災害によって100世帯以上の住宅全壊被害が発生した都道府県が適用対象となります。
市町村単位では第1号・第2号の適用対象とならないケースでも、都道府県単位で住宅全壊被害が多数発生している場合は、第3号の適用を受けられる可能性があります。
そのほか、人口が10万人以下の市町村の場合、上記以外にも適用の対象となるケースがあります。支援が受けられるかどうかは、都道府県のお知らせなどで確認するのが確実です。
被災者生活再建支援法で支給される被災者生活再建支援金は、「基礎支援金」「加算支援金」の2種類から成り立っています。
また受け取れる金額は、住宅の被害の程度や再建方法、世帯人数などにより変わってきます。
基礎支援金は、罹災証明書(住宅の被害認定調査によって発行される書類)に記載されている被害の程度を基準に支給されることが決まっています。
基礎支援金の支給対象は、被害の程度が「全壊」「大規模半壊」とされる世帯のほか、住宅や敷地への被害でやむを得ず住宅を解体した「解体」、災害により居住できない状態が長期間継続している「長期避難」に当たる世帯です。
被害の程度が「中規模半壊」や「半壊」「準半壊」「準半壊に至らない(一部損壊)」と記載されており、「解体」や「長期避難」にも当たらない場合は、基礎支援金の支給対象になりません。
また支給額も被害の程度によって変わり、
となります。
加えて、世帯人数が1人または単身世帯では、基礎支援金の支給額は3/4となり、
となります。
加算支援金は、住宅の再建方法に応じて支給されます。適用対象となり被災者が新たに住宅を手に入れる場合には、その支援のために加算支援金の対象となります。
加算支援金の支給対象は、「全壊」「解体」「長期避難」「大規模半壊」の世帯に加えて、「中規模半壊」の世帯も含まれ、住宅の被害の程度や再建方法によって支給額が変わります。
建設または購入をする場合 | 補修をする場合 | 貸借で住宅を得る場合(公営住宅を除く) | |
「全壊」「解体」「長期避難」「大規模半壊」 | 200万 | 100万 | 50万円 |
「中規模半壊」 | 100万 | 50万円 | 25万円 |
また基礎支援金と同様に、単身世帯の場合には加算支援金の支給額は3/4になります。
基礎支援金と加算支援金はそれぞれ金額が異なりますが、両方が提示する条件に該当する場合には、どちらも支給されます。
被災者生活再建支援法の対象となり、被災者生活再建支援金を受給するには、申請や手続きが必要です。また、被害の程度から支給金額を算定するため、市町村による調査も行われます。
以下、支援申請のステップや必要な書類・手続き、申請時の注意点について解説します。
被災者生活再建支援法の支援金を受け取るには、被災者自身が行う申請を含めていくつかの手続きが発生します。
被災者生活再建支援法の適用対象になるには、
以上の6つのプロセスを終える必要があります。このうち、2、3については被災者が手続きを行います。
罹災証明書を入手するには、市町村の窓口に発行申請を行います。詳しい申請の手順については、こちらの記事で紹介していますので、参考にしてください。
【関連記事】「罹災証明書」の発行で受けられる支援と必要な手続きを解説
支援金を申請するには、罹災証明書を含む必要書類を市町村に提出します。
基礎支援金の支給を希望する場合には、
を災害発生日から13カ月以内に用意し、提出します。
加算支援金の支給を希望する場合には、
を、災害発生日から37カ月以内に用意し、提出します。
被災者生活再建支援法の適用対象になるには、上記のようなプロセスに加えて被害状況の調査も不可欠です。
調査は、第1次調査と第2次調査の2段階で行われます。第1次調査は、家の外観の損傷を目視で判断することが目的です。屋根や外壁、基礎の損傷を目視で確認する、道具を用いて家の傾斜を計測するなどの手段が選ばれます。
第2次調査は、第1次調査を受けた住宅の被災者から申請がある場合に行われます。調査方法は第1次調査と変わりませんが、被災者の立ち会いのもとで家の内壁や天井、床、建具、設備などの損傷を目視で確認します。
以上の調査を踏まえ、「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」「準半壊」「準半壊に至らない(一部損壊)」の6段階の分類がなされます。
被害の程度 | 全壊 | 大規模半壊 | 中規模半壊 | 半壊 | 準半壊 | 準半壊に至らない(一部損壊) |
損害基準判定* | 50%以上 | 40%以上50%未満 | 30%以上40%未満 | 20%以上30%未満 | 10%以上20%未満 | 10%未満 |
「全壊」とは、「家の損害部分が半分(50%)以上であり、補修をしても再び住むことができない状態」です。「大規模半壊」は「家の損害部分が40%以上50%未満であり、大規模な補修を行わなければ再び住むことが難しい状態」を指します。
同様に、家の損害部分が30%以上40%未満の場合は「中規模半壊」、20%以上30%未満の場合は「半壊」、10%以上20%未満の場合は「準半壊」と判断されます。 家の損害部分が10%未満である状態では、家の損害状況も軽微と見なされ、「準半壊に至らない(一部損壊)」と分類されます。
被災者生活再建支援法は、最近の事例では2024年の能登半島地震で適用されています。2024年1月1日に発生した地震では、「100世帯以上の全壊」の適用条件を満たしたことから、石川県、富山県、新潟県が被災者生活再建支援法の対象になりました。
例えば石川県では、同年1月6日、県内全域で被災者生活再建支援法を同日付で適用することを発表しました。住宅が全壊した世帯には基礎支援金・加算支援金を合わせて最大300万円、大規模半壊した世帯には最大250万円、中規模半壊した世帯には最大100万円の支給を決定しています。能登地域では、住宅が半壊した世帯の一部にも、独自で最大200万円の給付金が支給されました。
また、2025年2月26日に岩手県大船渡市で発生し、10日間以上延焼を続けた大規模な山林火災についても、県が被災者生活再建支援法の適用を決定しています。同火災では、76棟が全壊するなど、あわせて102棟の住宅が被害を受けたとされています。
ここ数年の度重なる自然災害の前に、「もしも地震や災害で家を失ったら、生活はどうなってしまうのか……」と、不安を感じられる方は少なくありません。こうした不安や実際に被害に遭われた方々の生活再建を支えるために、被災者生活再建支援制度に基づく被災者生活再建支援法があります。被害状況が条件に当てはまれば、必要な審査や手続きを経ることで国から支援金を受け取ることができます。
基礎支援金や加算支援金の支給を受けるには、国がそれぞれ定める期間を守る必要がありますので、事前に知っておきましょう。また、万が一住宅が被害を受けた場合に備え、被害状況に応じた支給金額の規模も確認しておくとよいでしょう。
利用できる支援を事前に知っておけば、いざ災害に見舞われたときも、今後の生活再建に目を向けることができるのではないでしょうか。今回の記事が万が一の備えに役立つことを願っています。
【参照】
内閣府 防災情報のページ|被災者生活再建支援法
内閣府 防災情報のページ|災害に係る住家の被害認定基準運用指針
内閣府 防災情報のページ|災害に係る住家の被害認定
内閣府 防災情報のページ|令和6年能登半島地震に係る被災者生活再建支援法の適用団体一覧
石川県|石川県地域福祉推進支援臨時特例給付金について
新潟県|新潟県防災局
生活クラブ共済連|被災者生活再建支援法とは?適用対象・支援金支給額・主な流れを解説
公益財団法人都道府県センター|自然災害による被災者のための被災者生活再建支援制度
公益財団法人都道府県センター|被災者生活再建支援金のご案内
読売新聞|石川県内全域に生活再建支援法を適用、住宅全壊の世帯に最大300万円支給
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