JOURNAL #4472025.06.27更新日:2025.06.27

酷暑に備える「熱中症対策」のポイント|災害時にも役立つ基礎知識・予防法・応急処置を解説

広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部

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地球温暖化の影響もあり、日本の夏はこれまでにない暑さと湿度に見舞われています。今や熱中症は誰にとっても身近で、状況によっては命に関わる深刻なリスクです。特に近年は、屋内外を問わず多くの方が救急搬送されるケースが増え続けています。

この記事では、熱中症の基礎知識から予防法、応急処置、災害時の備え、日常生活でできる対策までをわかりやすく解説します。「自分は大丈夫」と油断せず、正しい知識と備えで暑い夏を乗り切りましょう。

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【過去最多】熱中症で救急搬送された人は約10万人

まずは、昨年の熱中症による救急搬送データから現状をみていきましょう。

消防庁が発表した報道資料「令和6年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況」によると 、2024年夏に熱中症で救急搬送された人は97,578人にのぼり、2008年の統計開始以来、過去最多を記録。6月から9月にかけて搬送が相次ぎ、医療現場では対応に追われる日が続きました。

搬送者の傾向は以下のとおりです。

  • 搬送者の約57%(55,966人)は高齢者(65歳以上)
  • 全体の65%は軽症だが、3人に1人は入院が必要な中等症以上
  • 死亡者は120人にのぼり、決して軽視できないリスク
  • 発生場所は「住居内」が最多(38%)次いで道路や屋外など日常生活の場

これらのデータは、「熱中症は誰にでも起こる」という現実を示しています。屋外活動はもちろん、エアコン未使用の室内でも発症することがあり、高齢者や子ども、持病のある人などは特に注意が必要です。

次の章では、熱中症を防ぐために知っておきたい原因や仕組みなどについて解説していきます。

「熱中症」とは?

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熱中症は、ただの「暑さによる疲れ」ではありません。命にかかわることもある、明確な体の異常です。正しい理解が予防や早めの対応につながります。

熱中症の定義とメカニズム

人の体は汗をかいたり皮膚から熱を逃がしたりして、体温を調整しています。しかし、高温下で湿度が高いと汗が蒸発しにくくなって体内に熱がたまり、水分や塩分が不足すると血液循環や体温調節に支障をきたして熱中症の諸症状が現れるようになります。この状態を放置すると臓器や脳にまで悪影響を及ぼすため、非常に危険な状況に陥ります。

熱中症は、進行状況によって以下の症状が現れます。

熱疲労脱水と血流不足が原因で、頭痛や吐き気、強いだるさが出る
熱けいれん塩分不足により手足がつったり腹部がけいれんしたりする
熱失神脱水と血圧低下で脳の血流が減り、めまいや失神が起こる
熱射病体温が異常に上昇し、意識障害や臓器不全を伴う重篤な状態

熱中症の症状は軽いものから重いものまでさまざまですが、重症化すると命に関わるおそれがあるため、早期の判断と適切な対応が重要です。

起こりやすい環境・時期

熱中症は、真夏日の屋外でしか起こらないと思われがちですが、実際はそれだけではありません。以下のような環境やタイミングにも要注意です。

  • 気温が30℃以上の日(特に35℃以上の猛暑日)
  • 梅雨の晴れ間や梅雨明けの蒸し暑い日
  • 湿度が高い、風がない、日差しが強い日
  • 前日の夜が熱帯夜だった翌朝
  • エアコンを使っていない室内や車内
  • 地面の照り返しが強い場所
  • 換気が悪く、熱源の近い場所

外に出ていないのに、部屋の中で熱中症になるケースも少なくありません。「今日はそんなに暑くない」と思っても、湿度や体調によってはリスクが高まるケースがあるため注意が必要です。

注意すべき人と年齢層

体の状態や健康によってリスクは異なりますが、特に以下の人は熱中症にかかりやすいとされています。

  • 高齢者
    暑さやのどの渇きに気づきにくく、水分が不足しがち
  • 子ども
    体温調節が未熟であり、背が低いため地面からの照り返しを受けやすい
  • 体調が悪い人
    睡眠不足・下痢・疲労などで体の機能が落ちているとき
  • 肥満傾向の人
    体内の熱を逃がしにくい
  • 持病がある人
    糖尿病や心臓病などで調整機能が働きにくくなっている
  • 暑さに慣れていない人
    急激に気温が上昇したタイミングや、運動を始めたばかりの人など

普段は健康状態が良好であっても、体調不良のときは身体の防御機能が低下するためリスクが高まります。自分や周囲の体調をよく観察し、異変を感じたらすぐに対処することが命を守るポイントです。

熱中症の予防と日常対策

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2025年夏、「日本気象協会発表!2025年の気温傾向と熱中症傾向」によると、6〜8月は全国的に気温が高く、特に7月は関東〜沖縄、8月は東北南部〜沖縄や内陸部で「厳重警戒」「危険」ランクが予測されています。

蒸し暑い日が続くことが見込まれ、屋外だけでなく室内でも熱中症のリスクが非常に高くなります。だからこそ、日常的な備えが欠かせません。ここでは、今日から実践できる熱中症予防と対策をご紹介します。

暑熱順化(体を暑さに慣らす)

急に暑くなると、体がまだ暑さに慣れていない状態では熱中症のリスクが一気に高まります。これを防ぐには、暑さに慣れる「暑熱順化(しょねつじゅんか)」が重要です。暑くなる前の数日〜2週間前から、軽めの運動や入浴で「汗をかく習慣」をつけましょう。

例えば以下のような取り組みが挙げられます。

  • 通勤・買い物の際はひと駅歩く、階段を使う
  • 室内でのストレッチや筋トレ(1回30分、週5回~毎日)
  • シャワーで済まさず湯船につかる(2日に1回程度)など

上記については無理のない範囲で取り組むことがポイントです。高齢者や子どもも日常生活の中で自然に体を動かす機会をつくりましょう。

効果的な水分と塩分の補給

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「のどが渇いてから」では遅いのが熱中症の恐ろしいところです。特に大量に汗をかく場合は、水分とともに塩分の補給も欠かさないようにしましょう。以下におすすめの補給方法を紹介します。

  • 経口補水液やスポーツドリンク
  • 塩飴、梅干し、塩こんぶ、塩タブレットなどの食品で塩分補給
  • 1日を通してこまめに飲む習慣をつける

長時間の外出や運動時は、携帯ボトルでこまめに水分補給できるようにしておきましょう。市販の飲料が手に入らないときは、水1リットルに食塩1〜2gを加えた食塩水でも代用できます。吸収を高めたいときは、砂糖入りのスポーツドリンクを選ぶのも効果的です。

環境の工夫

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暑さは、環境づくりでやわらげることが可能です。

【室内】
・エアコンや扇風機を上手に使い、室温は28℃以下を目安に
・睡眠環境にも気を配り、通気性のよい寝具や快適な室温で質のよい睡眠を確保

【外出時】
・帽子や日傘、クールタオルで直射日光を避ける
・通気性や吸汗性の高い素材の服を選ぶ
・ネッククーラーや冷感スプレーなど、冷却グッズも有効活用

最近ではおしゃれな冷感アイテムも増えていますので、自分のライフスタイルに合ったものを選びましょう。

暑さ指数(WBGT)に注目

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熱中症対策として環境省が発表する「暑さ指数(WBGT)」を参考にすることも有効的です。これは気温・湿度・輻射熱(地面や建物からの照り返し)をもとに算出され、気温だけでは見えにくい熱中症リスクを的確に示します。指標は「注意」から「危険」までの4段階に分かれ、目安として指数が28以上(31~35℃)で「厳重警戒」、31以上(35℃以上)で「危険」とされています。

暑さ指数が33以上で「熱中症警戒アラート」が、2024年からは35以上で「熱中症特別警戒アラート」も発表されるようになりました。対象地域では学校や企業、イベント主催者に活動中止やリモート対応の判断が求められます。

また、個人でも環境省の「熱中症予防情報サイト」やメール配信、LINEアカウントサービス、NHK特設ページなどで手軽に確認できるので、猛暑に備えて毎日のチェックを習慣にしましょう。特に地面に近い位置にいる子どもやペット、そして高齢者などへの配慮も忘れずに行なってください。

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引用:環境省 熱中症予防サイト|熱中症特別警戒アラート・熱中症警戒アラートの発表状況

障がいのある方への配慮

障がいのある方にとっては、熱中症対策においても周囲のサポートが不可欠です。視覚や知的、身体など障がいの特性に応じて、涼しいルートを選んだり移動支援を行うことが求められます。

厚生労働省の「熱中症予防のための情報・資料サイト」では、障がい特性別にわかりやすくまとめられたリーフレットが提供されており、これらを活用することで具体的な対策を進めやすくなります。介助者や周囲の人も配慮を深めることが必要です。

指定避難施設(クーリングシェルター)の利用

全国の多くの市区町村では、暑さや熱中症対策として指定避難施設、いわゆるクーリングシェルターが設けられています(令和7年6月現在で約972市区町村)。公共施設や商業施設、ドラッグストアなどが一時的な避難場所として指定されている場合も多いため、日頃から自分の住む地域の指定避難施設を確認しておくと安心です。

特に猛暑日にはこれらの施設を活用し、エアコンの効いた安全な環境で体を冷やすことが推奨されます。詳細は環境省「指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)・リンク集」で都道府県ごとの情報を確認しましょう。

もしものときの応急処置

熱中症は、初期対応が命を守るポイントです。迷わず行動できるよう、基本的な応急処置と救急車を呼ぶ目安を知っておきましょう。

応急処置の3原則

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熱中症が疑われたときは、迅速かつ的確な対応が重症化を防ぐカギです。まずは落ち着いて、次の3つの基本を実践しましょう。

■涼しい場所へ移動する

冷房の効いた室内や車内、風通しのよい日陰などへ避難させ、安静にさせます。

■衣服を緩めて体を冷やす

首、わきの下、足のつけ根を集中的に冷やしましょう。水をかけて扇ぐ、保冷剤や冷えたペットボトルを使うのも効果的です。

■水分・塩分を補給する

意識がある場合は、経口補水液やスポーツドリンクでこまめに水分・塩分を補給します。意識がもうろうとしている場合や嘔吐があるときは、無理に飲ませないよう注意しましょう。

「このくらいなら大丈夫」と判断せず、早めの対応が命を守ります。なお、熱中症の症状をもつ人を見かけた場合の対応については、こちらの厚生労働省「熱中症予防のための情報・資料サイト」を参考にしてください。

呼びかけに反応がない場合は救急車を

応急処置をしても症状が改善しない場合や、以下の異常が見られた際は、速やかに医療機関へ連絡するか救急車を呼ぶなど迅速な対応が必要です。

  • 呼びかけに応じない、意識がない
  • 自力で水分がとれない
  • 嘔吐・けいれん・体温が高いまま下がらない

救急車を待つ間も、涼しい場所への移動や身体の冷却など、応急処置を続けてください。

「このくらい大丈夫」と判断するのはとても危険です。特に呼びかけに反応がない場合は緊急事態です。熱中症の症状を事前に知っておくことが、いざというときの冷静で正しい判断につながります。

災害時の熱中症対策

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災害時は、冷房や給水といったライフラインが制限されることにより、熱中症のリスクが著しく高まります。避難所や自宅での在宅避難、復旧作業の場面など、あらゆる状況での備えと意識が命を守るカギとなります。

なぜ災害時は危険なのか?

災害時は、ライフラインの停止や不慣れな環境により、熱中症のリスクが通常時よりも高まります。次のような要因に特に注意が必要です。

冷房や給水が困難に
停電や断水により室温調整ができず、水分・塩分補給も難しくなる

避難所・車中泊のストレス
睡眠不足や生活リズムの乱れで体調を崩しやすく、熱中症の引き金になる

重労働や高温下での作業
復旧作業や片付けは体力を消耗し、脱水や体温上昇によって危険性が増す

特に夏季の災害では、誰でも熱中症になる可能性があります。過信せず、早めの対策が重症化を防ぐポイントとなります。

災害時の予防ポイント

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災害時の熱中症対策でも、備えと行動が重要です。まず、日常的な熱中症対策同様、経口補水液や塩分タブレット、冷却グッズの準備、そして家族との連絡方法を事前に確認しておくことが大切です。

被災後の避難生活では、のどが渇いていなくてもこまめに水分と塩分を補給し、保冷剤やうちわなどで体を冷やしましょう。温湿度計がなくてもスマホアプリなどで暑さを把握し、無理せず休憩をとることが重要です。

また軽い運動やストレッチを行なう習慣を続け、暑さに強い体づくりを心がけることも役立ちます。いずれの場合も無理のない範囲で備えと対策を進め、周囲と声を掛け合いながら安全を守りましょう。

感染症対策との両立も

夏場でも感染症が流行する場合もあります。ただし、屋外では熱中症のリスクを避けるため、気温や状況に応じてマスクを適宜外すことが推奨されます。特に運動時や暑い日の屋外活動では、無理にマスクを着用し続けることは避けましょう。

一方で避難所など屋内では、換気を十分に行い、大声での会話を控えるなど感染症予防に努めつつ、こまめな水分補給や体調管理も欠かさず行うことが重要です。

おわりに:大切なのは「備え」と「気づき」

熱中症は誰にでも起こりうる危険な症状です。高齢者や子ども、障がいのある方への配慮や災害時の対応も含め、早めの対策と周囲の気づきが命を守ります。健康だからと慢心せず、正しい知識を持ち、日頃から備えを整えることが大切です。自分や家族の体調変化に敏感になり、いざというとき慌てず対応できるよう、この記事を時折確認して安全な夏を過ごしましょう。

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空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部

空飛ぶ捜索医療団"ARROWS"ジャーナル編集部です。災害に関する最新情報と、災害支援・防災に関わるお役立ち情報をお伝えしています。

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