JOURNAL #3532024.07.05更新日:2024.07.10
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
台風や豪雨などによる自然災害が発生するたびに、課題として挙げられるのが避難情報の把握と実際の避難状況です。避難指示が出されているにもかかわらず、「まだ大丈夫だろう」「うちは安全だ」といった理由で避難しない方が少なくありません。
この記事では、避難情報に関する正しい知識と判断、行動のための重要なポイントについて解説します。あなたと家族の命を守るために必要な情報ですので、ぜひご確認ください。
「避難情報」とは、主に台風や豪雨などの災害時に出される避難に関する情報を指します。
避難情報といえば、「避難勧告」や「避難指示」といった言葉を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、令和3年の災害対策基本法改正により、「避難勧告」は廃止されました。これは、避難勧告と避難指示の違いが分かりにくく、混乱を招いていたためです。現在では「避難指示」に一本化され、避難指示が発令された場合は「全員避難する」ことが求められています。
避難情報には、以下の5つの警戒レベルがあります:
これらの避難情報は、市町村から防災無線や広報車などを通じて伝えられるほか、テレビ、ラジオ、インターネット、アプリなどの様々な媒体を通じて入手できます。
警戒レベル3(高齢者等避難)や警戒レベル4(避難指示)が出された場合は、家族や隣家に声をかけ、安全を確保して避難しましょう。
注意すべき点として、警戒レベルが必ずしも順番に発令されるとは限りません。状況が急変することもあるため、市町村から避難情報が発令されていない場合でも、気象庁からの情報を参考にして避難行動をとることが重要です。
命を守るためには避難情報の主旨を正しく理解して、その場に応じた適切な判断と避難行動が求められます。ここでは、内閣府(防災担当)が令和3年5月(令和4年9月更新)に提示した「避難情報に関するガイドライン」を参考に、警戒レベル別に命を守るための判断や行動についてみていきましょう。
「警戒レベル1」は、早期注意情報であり、気象庁が発表するものです。今後、気象状況が悪化するおそれがある場合に発表されます(*1)。
災害が発生する危険はまだ低いレベルですが、住民は災害への心構えを高め、防災気象情報など最新の情報を入手することに努めます。
「警戒レベル2」は、気象庁から大雨や洪水、高潮等の気象警報・注意報が発表され、災害発生の可能性が高まっている段階です(*2)。
気象状況が悪化している状態であり、特に災害の危険性がある区域の住民は避難場所や経路、避難のタイミングなどを再確認しなければなりません。最新の気象情報に留意しつつ、避難に備えて自分の避難行動を確かめることが重要です。
また、気象庁では、土砂災害、浸水害などから命を守るための危険度分布「キキクル」を提供しています。地域の詳細な状況がひと目で分かり、災害発生の危険度を確認できるため、重要な情報源として活用してください。警戒レベル2の地域は、キキクルでは黄色で示されます(*3)。
「警戒レベル3」とは、市町村長が高齢者や体の不自由な方々など、避難行動に時間を要する人々に対して発令する情報を指します。特に災害発生が想定される区域等では、各自治体からの高齢者等避難の発令に留意します。高齢者等の家族や支援者は、安全な避難場所に連れて行くなど適切なサポートを行います。
この段階では、高齢者や体の不自由な方々以外の人も通常の行動を見合わせることを意識しなければなりません。キキクル(警戒レベル3では赤)や河川の水位情報を示すサイト等を利用し、避難の準備をしたり自主的な避難を始めたりすることも考えられます(*3、*4)。
「警戒レベル4」は、速やかで安全な避難を呼びかける情報であり、災害発生によって人的被害のおそれが高まった場合に発令されます。
警戒レベル4は「避難指示=全員必ず避難」と捉える姿勢が求められます。高齢者等に限らず、危険対象地域の全員が安全な場所に避難しなければなりません。「ここは大丈夫だろう」と構えるのは危険です。遅れて避難を試みると、命を落とす危険性が高まります。
最近では、線状降水帯の発生が頻発しています。短時間の激しい雨によって危険度が一気に増し、避難指示が間に合わない場合も予想されます。万が一、避難指示が発令されない場合でも、キキクル(紫色)などの情報を確認し、自主的な避難を心がけてください(*3)。
「警戒レベル5」は、すでに災害が発生しているか、切迫している状況において発表されます。この段階では、災害の危険性が高まり、避難が困難な状況となります。
警戒レベル5(キキクルでは黒色)で、公共の施設やホテル、ほかの町の親戚宅へ避難することは非常に危険です。この段階で避難するのは避けましょう。可能な限り警戒レベル4の避難指示が出る前に避難することが重要です。
なお、警戒レベル5の発令は、市長村長から必ずしも発令されるわけではありません。警戒レベル4の避難指示や正確な情報を入手し、安全な避難を実施するように心がけてください。
*1)気象庁|早期注意報(警報級の可能性)
*2)気象庁|気象警報・注意報
*3)気象庁|キキクル(危険度分布)
*4)NHK|防災・減災情報
避難情報には、市町村が出す防災避難情報のほか、気象庁や内閣府、NHKなどが発表する情報があります。重要なポイントは、それらの情報が正確でリアルタイムのものであることです。また、緊急時の情報収集の手段をしっかり確認しておくことが求められます。
ここでは、避難情報の入手方法のほか、それぞれの特徴や注意点などについて詳しく解説します。
自治体による防災行政無線を通じて避難情報を入手します。各市町村には、防災無線塔が設置されています。平時の正午に鐘や音楽が鳴るところも多いと思いますが、災害など注意喚起する場合にも使われます。
ただし、移動中や生活音などで聞こえにくい場合もあるため、確実に情報を得るためには、以下に紹介する収集方法との併用をおすすめします。
テレビやラジオが視聴できる状態の場合は、NHKなど各メディアが伝える避難情報を確認しましょう。テレビの場合は、映像や動画で現状を把握しやすく、居住地近くの情報だけでなく、離れた地域の状況についても知ることが可能です。
ラジオは、非常時でも持ち運びが可能で、避難中や避難先でも使えます。また、ラジオは映像によるショックを受けにくく、冷静に情報収集する際に有効です。
インターネットが広く普及していることもあり、自治体の公式サイトのほかにX(旧Twitter)やフェイスブックなどのSNSを通じて避難情報を集めることが可能です。
たとえば、以下のような情報源を活用することが推奨されます。
各自治体は、防災情報について必ず記載しています。特に「避難指示(警戒レベル4)」が発表された場合は、避難対象地域や地区を詳しく示してくれます。
最近は、防災関連のアプリも多く存在しています。スマートフォンを持っている方は、自治体や気象庁の公式X(旧Twitter)から迅速に正しい避難情報を入手することが可能です。このほかに、以下のようなアプリも活用できます。
「特務機関NERV防災」は、緊急地震速報や土砂災害、浸水害などの防災情報を国内最速で配信するアプリです。また、色覚障害の方々にも配慮したデザインが特徴です。
「Yahoo!防災速報」は、地震や豪雨などの予報や速報のほかに、居住地区の犯罪発生情報や自治体が発する防災情報も提供しています。幅広い情報を一つのアプリで把握したい方におすすめです。
インターネット上では、多様な方法で避難情報を入手することが可能ですが、行政や報道機関のWebサイトやアプリを活用することを念頭におきましょう。特にXなどのSNSは匿名性が高く、不特定多数の人が発信するため、情報の信ぴょう性に不安が残ります。
間違った情報を入手しないよう、公的なアカウントかどうかをチェックし、普段から情報の信頼性を確認しておくことが重要です。
避難情報を入手する際は、インターネットやアプリだけでなく、近隣の方々からの声かけもいざという際に有効です。ここでは、国土交通省の『発災前の確実な避難による効果事例集~令和3年8月更新~』の資料から、過去において避難がスムーズに行われた事例を紹介します。
【岐阜県下呂市】(令和2年7月)
大垣内地区(100名)では、防災防犯隊を組織しており、近所で声をかけ合う小グループを編成していました。夜の避難は一旦取りやめましたが、水路の水があふれる状況を確認した上で、未明に再び避難を呼びかけました。高齢者や土砂災害の危険が予想される住民の方々約30人が避難し、災難を免れました。
【山口県和木町】(令和2年7月)
「土砂災害警戒情報」の発表は少ないとされていましたが、深夜に高齢者の方々が避難するのは難しいと判断され、自治体は「高齢者等避難開始」を夕方前に発令しました。その後、一旦解除しましたが、雨量のピークが深夜になること、加えて累積雨量も増えると予想されたため、再度「高齢者等避難開始」を明るい時間帯に発令し、被害を食い止めました。
このほかにも、近所住民や自主防災組織、地区役員、民生委員からの声かけが避難情報として有効に働き、人的被害を避けた事例が『発災前の確実な避難による効果事例集~令和3年8月更新~』には提示されています。日頃の避難訓練や近隣住民どうしの円滑な人間関係も、いざというときに大きな助けとなっていることが伺えます。
避難がスムーズに行われた事例がある一方で、逃げ遅れが発生することも事実です。この場合、最悪の事態では命を落としてしまうこともあります。逃げ遅れが発生する理由としては、以下の点が挙げられます。
災害心理学の専門家である広瀬弘忠氏は「人間はなかなか動こうとしない動物である」としています。異常事態を「いつもと変わらない」と認識したり、「近所の人は誰も避難していないから」と安心したりする心理(正常性バイアス)は、誰にでも起こり得ることです。
実際に、平成30年西日本豪雨では「自分は大丈夫だ」「家のほうが安全だ」といった理由で避難しない人が多く、実際に避難した人は16%に過ぎませんでした(*5)。また、首都圏を中心に浸水被害をもたらした2019年の台風19号では、避難すべきだった方々の7割以上が避難しなかったという事例があります(*6)。
実際に避難した人々のなかには、自治体が発令する避難指示で判断した人もいれば、自主的に避難した人もいます。その割合は、ほぼ半々といわれています(*5)。
いずれにしても、正しい判断をするためには「自分は大丈夫」「まだ大丈夫」という固定観念を捨て、「もしかしたら」という認識を持つことが重要です。
*5)ウェザーニュース|【減災調査2018】西日本豪雨、「自分は大丈夫」など…84%が避難せず
*6)JBpress|豪雨災害時の逃げ遅れは、なぜ繰り返されるのか?
以下の記事では、災害時に「まだ大丈夫だろう」と安心感を保とうとする正常性バイアスについて詳しく説明していますので参考にしてみてください。
【関連記事】災害時に与える影響は?具体例と必要な心構えを解説
人的被害を最小限に抑えて実際の避難行動に移すためには、普段から準備と心構えが必要です。ここからは、今後起こりうる災害発生に対して、私たちがどのような準備と行動をとるべきかを解説します。
「ハザードマップ」とは、自然災害が発生した場合の被害を予想し、被災する可能性の高い地域やその範囲、避難場所、避難経路などが表示された地図で、各地域ごとに作成されます。
しかし、ハザードマップで浸水想定区域とされる住民であっても、過去の災害において避難指示(警戒レベル4)で避難しなかった人々が多くいました。これを解決するためには、ハザードマップと合わせて「避難行動判定フロー(内閣府)」を活用することが有効です。
避難行動判定フローは、非常時にとるべき行動について理解するための指針です。ハザードマップを元にどのタイミングでどのような行動をとればよいかが分かる流れとなっています。避難行動判定フローは、台風や豪雨などに備えて一人ひとりが責任をもち、普段から災害リスクを想定した行動がとれるかどうかを確認する上で有効です。
避難情報を待つだけでは被災してしまう可能性があります。ハザードマップや避難行動判定フローを参考にして、避難すべきタイミングを正しく判断することが重要です。
実際に災害が予想される段階では、正しい判断をより迅速に行うことが命を守る方法です。しかし、非常時は不安と恐怖が先行して、冷静な判断ができないことが少なくありません。いざというときに避難情報を参考にして、迅速に避難行動に移すためには、普段から避難場所を確認しておくことが推奨されます。
避難場所には、以下のような場所が挙げられます。
過去の災害において被害を免れた人々は、近所で互いに声をかけ合い、早めに避難場所に移動していました。近隣住民の声かけは、特に一人暮らしの高齢者にとって大きな助けとなります。
親戚や知人宅へ避難する場合は、普段から災害時の対応について相談しておくとよいでしょう。ホテルや旅館への避難は、通常の宿泊料が必要であることを考慮してください。
また、避難する際のルートについても注意が必要です。川の氾濫や土砂崩れのリスクが予想されるルートは避け、より安全な避難を考慮しなければなりません。
ただし、状況が一変してすでに避難できないことも考えられます。その場合は、少しでも命が助かる可能性の高い避難行動をとりましょう。
【関連記事】避難所と避難場所の違いと種類別の特徴、災害時にどちらに逃げるべきかを解説!
避難指示が出た際、あるいは危険を予測して早めに避難行動をとる際に、避難用の持ち物を準備しておけば慌てることがありません。特に高齢者が避難する場合は、必要最小限の持ち物を用意し、荷物が重くなりすぎないことも考慮してください。
たとえば、一人暮らしの高齢者の場合は、以下のような持ち物が考えられます。
これらはあくまでも参考例(必要量として約1日分の備え)です。個人の体力や年齢によって必要なものが異なることが想定されます。事前に家族や親戚、知人の方々と相談し、持ち運べる準備物を整えておきましょう。
首相官邸のホームページでは、一般的な非常用持ち出し袋の中身について「災害の備えチェックリスト」を提示していますので、ぜひご確認ください。
実際に避難行動を起こすためには、事前に「災害時の行動手順」を明確にしておくことが重要です。学校や企業での避難訓練と同様に、家庭内でも避難シミュレーションを行いましょう。地域防災訓練の際に以下のポイントを参考にして、防災意識を高めていくことが推奨されます。
高齢者が一人暮らしをしており、家族と離れている場合はその連絡方法について必ず確認しておきましょう。場合によっては、高齢者宅のご近所と話し合っておくことも必要です。
要配慮者利用施設で「警戒レベル3で避難する」というルールに基づき、早期避難を行ったことで被災を免れた事例があります。家庭でもこのようなルールを設け、早めに避難する意識を持つことが命を守る要因となります。
以下の記事では、避難情報をしっかり理解しておくことの重要性や避難行動の目安となる気象情報や降水量についても紹介しています。本記事と合わせてご確認ください。
【関連記事】日本の水害|発生の原因と過去の被害
避難情報は、災害時に安全を確保するための重要な手段です。具体的な避難情報の入手方法には、地域の防災無線や公式Webサイト、防災アプリなどがあります。また、避難のタイミングを逃さないためには、警報や注意報の種類とその意味を把握しておくことが重要です。
災害は予測不能であり、迅速な対応が求められます。普段から避難情報を積極的に収集し、正確な行動をとることが、自分と家族の命を守る鍵となります。避難情報の理解を深め実際の判断&行動につなげましょう。
【参照】
内閣府(防災担当)|避難情報等について
内閣府|防災情報のページ|避難情報に関するガイドラインの改定(令和3年5月)
首相官邸|避難はいつ、どこに?
政府広報オンライン|「警戒レベル4」で危険な場所から全員避難!5段階の「警戒レベル」を確認しましょう
気象庁|防災気象情報と警戒レベルとの対応について
内閣府(防災担当)|避難情報に関するガイドライン
国土交通省|発災前の確実な避難による効果事例集
ウェザーニュース|【減災調査2018】西日本豪雨、「自分は大丈夫」など…84%が避難せず
JBpress|豪雨災害時の逃げ遅れは、なぜ繰り返されるのか?
東洋経済ONLINE|避難指示が出ても逃げ遅れてしまう人の心理
国土交通省|ハザードマップポータルサイト
内閣府 防災情報のページ|避難行動判定フロー
防災生活|高齢者が備える防災グッズのリスト一覧!防災セットに入れる避難時の持ち物を徹底解説
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空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
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