JOURNAL #4462025.06.18更新日:2025.08.04
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
2025年5月28日、参議院本会議にて『災害対策基本法等の一部を改正する法律』が可決され、『改正災害対策基本法・改正災害救助法』が成立しました。災害が起こるたびに新たな課題が生まれ、解決するべく対策や法は改正されます。今回の記事では、大規模災害に備えるそれぞれの法律について、改正に至った背景や、具体的な変更点について解説します。
『災害対策基本法』とは、災害時に国土や国民の命と体や財産を保護できるように制定された法律です。社会の秩序を維持し、公共の福祉確保につなげることを目的に、災害発生時や平常時の防災について細やかな行動指針を示しています。
災害対策基本法が制定されたきっかけは、1959年に発生した伊勢湾台風です。紀伊半島先端に上陸した伊勢湾台風による被害は、三重県や愛知県に及び、名古屋市や弥富町にまで暴風雨や高潮による浸水をもたらしました。結果、全体として5,000人を超える死者・行方不明者を出し、「史上最悪の台風」として知られています。
伊勢湾台風の被害を受け、例え大規模な災害が起きても少しでも被害が少なくなるよう、「総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図る」ことが今後の課題とされ、政府は1961年に『災害対策基本法』を制定。災害時の対応を形式化し、その後も災害が起きるたびに改定されながら、より迅速で適切な対応を促せるように変化を続けています。
災害対策基本法は、
などの項目から成り立っています。
詳しくはこちらの記事もご覧ください。
【関連記事】災害対策基本法とは?重要性と6つの要素、改正について分かりやすく解説
一方『災害救助法』とは、災害が起きたときの救助や保護のために作成された法律です。大地震や津波、台風などが発生した際に、被災地の応急救助や被災者の保護をすることにより、社会の秩序を守ることを目的としています。1959年の伊勢湾台風によるダメージをきっかけに制定されました。
実際に災害が起こると、建物や住宅はもちろん死傷者や傷病者など、衣食住や健康に関わる危害が広がります。そのような状態に対応するには、避難所や応急仮設住宅、食料品や飲料品、生活必需品、医療費・埋葬関連費用の補助など、さまざまな支援が求められます。
これらの支援は、原則としては災害が起こっている都道府県が負担しますが、被災地の財源だけで担うことはほとんど不可能です。そうなった時に、災害救助法が適用されると、都道府県の知事が救助要請や指示を出して市町村長を補助し、必要とみられる費用を国が負担する流れとなります。
災害救助法は、
の5つの原則のもと、
などが行われます。
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【関連記事】災害救助法とは?大災害で行われる救助と適用されるまでの流れ
災害対策基本法と災害救助法が改正されたきっかけは、2024年1月1日に発生した能登半島地震です。直接の死者は228名、災害関連死364名(令和7年5月時点)、全半壊住家約3万棟と、甚大な被害をもたらしました(*)。
また同年9月20日、奥能登豪雨も発生しています。この豪雨では16人が犠牲者となったほか、土砂災害による山間部の被災も深刻視されました。同年1月の地震による復旧のさなかで、さらなる被害が生まれたのです。
能登半島地震による被害の大きさと復旧の難しさは、“半島の先端”という地理的な理由もあります。山がちな半島という地形条件では陸路での支援ルートが限定され、震災によってインフラや道路の断絶が起こると、復旧活動や支援活動に大きな影響があらわれてしまいます。このため物資の支給や被災者の把握、現地での避難生活は非常に難しくなり、医療・福祉サービスの継続や孤立防止・見守り支援など、多くの支援に課題が生じました。
こうした事態を受け、2024年11月に内閣府は中央防災会議を開催。「令和6年能登半島地震を踏まえた災害対応の在り方について」と題した報告書がまとめられ、災害対策基本法と災害救助法が改正される流れとなりました。
*参照)内閣府 防災情報のページ|令和6年能登半島地震に係る被害状況等について
改正災害対策基本法・改正災害救助法のおもな変更点と、注目すべきポイントについてみていきましょう。
1) 国による地方公共団体に対する支援体制の強化
2)内閣府に司令塔として「防災監」を設置
1) 被災者に対する福祉的支援等の充実
2) 広域避難の円滑化
3) 「被災者援護協力団体」の登録制度の創設
4) 防災DX・備蓄の推進
1) 水道復旧の迅速化
2) 宅地の耐震化(液状化対策) の推進
3) まちの復興拠点整備のための都市計画の特例
改正災害対策基本法、改正災害救助法の注目すべき内容に、「場所の支援」から「人の支援」への転換があります。
従来の被災者支援では、避難所など“場所”を基準にした支援が行われてきました。しかし、実際には在宅で非難している人や車中泊をしている人、避難所以外に身を寄せている被災者も多く、避難所に対する支援だけでは取り残されてしまう被災者が大勢います。
このような問題点は、東日本大震災や熊本地震などの過去の災害が起こるたびに指摘されていました。能登半島地震でも例外ではなく、被災した自治体は避難所や2次避難などの対応に追われ、在宅で避難する“人への支援”が課題として挙げられたのです。
石川県も国家予算でNPOや介護支援専門員団体を在宅避難の高齢者に派遣したものの、発生から1ヵ月後に始まったとあって、遅れが出たことが課題として挙げられました。
そこで改正災害対策基本法では、被災者に対する福祉的支援等の充実や福祉サービスの提供、「被災者援護協力団体」の登録制度の創設などが定められ、場所を問わずに被災者個々人の生活をさらに強く支える環境が整う見通しとなりました。
また、改正災害救助法では、国が費用負担をする「救助」の種類に「福祉サービスの提供」が加わりました。福祉サービスの提供とは、高齢者や障害を持つ人、乳幼児など、配慮を必要とする全ての“人”に
などが行なわれるという意味です。在宅避難や車中泊など、避難所に行くことのできない被災者も、生活上で必要な支援を受けることができます。
また、これまでは避難所に限られていたDWAT(災害派遣福祉チーム)の派遣も範囲が広げられ、より多くの人が助けられるように変更されました。
災害対策基本法と災害救助法は、大規模な災害が起きるたびに課題や問題点が指摘され、その都度議論が進められてきました。今回の改正では、被災者の生活に目を向けた支援の拡大を目指し、個々人の生活の立て直しをより早く、強固に支えることにポイントがおかれています。被災者の健康状態や生活環境を少しでも改善し迅速に支援することで、災害関連死の防止などにもつながることが期待されています。
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