JOURNAL #3382024.05.01更新日:2024.10.24
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
今年4月から国立国際医療研究センター病院の研修医としてキャリアの第一歩を踏み出した伴野未沙さんは、東京慈恵会医科大学での最後の時間を利用し、医学生インターンとして空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”の活動に参画。令和6年能登半島地震の被災地に派遣されました。医学生インターンの目に、災害支援の現場はどのように映り、なにを感じたのか、聞いてみました。
高校時代にフットサル部での活動中に前十字靭帯を断裂してしまうケガに遭い、10カ月くらい運動ができず、とてもつらい時間を過ごしました。そのリハビリ中に、ケガや病気の治療も大事ですが、そもそも予防できたらもっといいのではないかという考えが芽生え始めて、「予防医学」や「公衆衛生」などに興味を持つようになったことがきっかけです。そこでまずはしっかりと医学を学ぶ必要があると思い、医学部に入りました。
大学ではもともと臨床以外の分野に興味があったこともあり、厚生労働省でインターンを経験したり、2022年にロシアのウクライナ侵攻が起きた際には、隣国のポーランドで避難者を支援するボランティア活動に参加したりしました。
そこで初めて行政ではカバーできない、ニーズに沿った支援を展開するNGOの活動をみて関心を持ち始めたところに、偶然にもその活動中に出会った医師からピースウィンズのことを教えていただいたことが縁になります。帰国後、調べてみるとタイミングよくインターンを募集されていたので、11月に急いで履歴書を送らせていただきました。
はい。インターンとしての活動期間は2月の医師国家試験が終わったあと、約1カ月と短い期間で、当初は広島県神石高原町の本部にて平時の業務に携わる予定でしたが、メンバーの多くが能登半島で活動されていたこともあって、急遽、私も支援現場に行かせていただくことになりました。珠洲市での活動は、今後の私の将来に少なからぬ影響を与えてくれた、本当に貴重な体験となりました。
医学生のインターンとして派遣されましたが、いろいろな現場に行かせていただきました。
例えば医療支援では、臨時診療所での診察や各避難所の健康相談に同行したり、避難所支援や物資配布を手伝ったり、市や県との支援・復興会議などにも出席させていただいたりしました。私としては医療だけでなく、被災地がどのように復興していくのかという点にも関心があったので、災害支援をさまざまな観点からみることができたことは、とても良い学びになりました。
ニュースや報道で映像は見ていましたが、被害の現状を目の当たりにして、本当に言葉を失いました。まだまだ多くの家屋が倒壊したままで、道路にも亀裂が入っていたりマンホールが隆起していたり。その光景は非現実的で、あらためて地震の破壊力を思い知らされたという印象です。
同時に、発災から1ヵ月以上が経っても被災地はこうした状況である現実に、深く考えさせられました。断水も続く復興以前の状況で、先行きも見えていない。この現状から珠洲市が本当の日常を取り戻すまでには、一体どれくらいの時間がかかるのだろうと。
支援の方針について、ここで適切な介入、支援をしないと5年後、さらに10年後まで影響する可能性があるという話がありました。例えば、建物などのハード面が再建されても、コミュニティなども含めたソフト面が再構築できていないことで復興が遅れてしまったという事例もある。そうした事態を招かないためには「今」だけでなく、被災地の「未来」を見据えた支援が重要になってくると教えてもらいました。
例えば、医療や物資を配布する支援などは、いつかは収束させていくことになりますが、そのタイミングの難しさを感じました。発災から1カ月以上が過ぎ、災害はちょうど超急性期から急性期、さらに慢性期に移行していく時期で、特に医療関係の各団体が撤退を決定し医療支援は縮小されていきましたが、まだまだ市内は断水状態が続いていたり、地域医療の機能が完全に復旧していなかったり、現実的に行政の力だけでは復興できる段階ではなかったように思います。
一方で地元のスーパーやお店が再開しても外部支援団体が無償の物資配布を続けていたら、地域経済の復興のさまたげになってしまいかねません。支援は必要不可欠ですが、過剰な支援は復興を遅らせてしまう危険性もはらんでいる。目の前の支援を考えるだけでなく、こうした復興も視野に入れた支援をどのように調整し、必要に応じて収束させていくのか、その計画や引き際を決めるのは、とても難しい判断であることを実感しました。
災害医療でも、状況を俯瞰的にみる、幅広い視点が重要だということを確認できました。例えば、全体的に避難者の方の血圧が高かった傾向は、もともと血圧コントロールが悪い方もいましたが、やはり食事面をはじめ生活環境が大きく変わったことが少なからず影響していることが想定されます。
災害医療というと、倒壊家屋から救出した方を助けたり、要配慮者をヘリコプターで緊急搬送したり、超急性期の医療をイメージされる方が多いと思いますが、その後の長い避難生活のなかで災害関連の疾患が出てくるフェーズのほうがはるかに長く、そこをしっかりと支えて地域の健康を守っていかなければなりません。
こうした災害関連死を防ぐためには、臨時診療などピンポイントの医療支援だけでなく、避難所の環境改善や物資支援なども有機的にからめ、さらに復興につなげる地域医療の再建まで考えていく必要があります。これらを総合的に鑑みて支援の最適解を見出すには、医療だけでなく、ロジスティックなども含めた、幅広い知識と経験が必要であることを学びました。
将来的に「公衆衛生」に携わりたいという想いに変わりはありませんが、今回の経験を通して、今後、珠洲市がどのように復旧し復興していくのか、その未来を知りたいという想いが芽生えました。今後の自分自身のキャリアを考えたとき、医師として極めていくだけではない選択肢が増えたような気がしています。
まずは、臨床の現場で知識と技術を身につけながらじっくり考えていきますが、どの道を選ぶにしても、またいつかかならず、珠洲市が復興していく姿を、自分の目で見にいきたいと思います。
あらためて感じたのは、ものごとを一番近くで見ることで学べることは多いということです。それは、現場だけに限られることではありません。
例えば、支援は現場の活動が注目されますが、神石高原町の本部で準備したものが被災地で活用されるまでその両方を体験して、準備と調整を行う後方支援の重要性なども身をもって学ぶことができました。こうした実体験によってあらたな気づきがあったり、理解もより深まったりします。ですからチャンスがあれば、学生の方は積極的にインターンシップの制度を活用してほしいと思います。
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