JOURNAL #3462024.06.04更新日:2024.06.25
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
毎年夏になると海や川などで溺れて亡くなる事故が各地で報道されます。楽しいレジャーのなかで大切な人を急に失ってしまう悲しみは計り知れません。多くの水難事故は予防可能とされていますが、なぜ事故はなくならないのでしょうか。
本記事では、水難事故の原因と予防策について、各統計をもとに詳しく解説します。事前に家庭で確認したり、学校等で子どもたちに教えたりする際に、ぜひ本記事をご活用ください。
過去数年間の統計をもとに、水難事故の発生状況やその影響について見ていきます。統計から得られる情報は、水辺での活動におけるリスクや事故の原因を理解する上で重要です。ここでは、警察庁の統計をもとに、水難事故の発生状況について見ていきます。
警察庁生活安全局生活安全企画課が発表した「令和5年夏期における水難の概況(令和5年9月13日)」によると、令和5年夏期(7〜8月)の水難事故は以下のようになります。
中学生以下の事故については以下のとおりです。
過去5年間の夏期では水難事故の発生状況はほぼ横ばいです。発生件数や水難者が前年よりも減少していますが、死者・行方不明者が増加している点が注目に値します。
さらに、事故の特徴について以下のように示されています。
【年齢層別】
中学生以下の水難者:106人(18.7%)
【場所別(全年齢層)】
・海:314人(55.3%)
・河川:203人(35.7%)
【行為別(全年齢層)】
・水遊び:160人(28.2%)
・魚とり・釣り:78人(13.7%)
・水泳:69人(12.1%)
【死者・行方不明者の場所別データ】
・海:106人(前年対比-7人)
・河川:100人(前年対比+12人)
水難事故の半分以上は海で発生しており、河川では水難者が減少しているにもかかわらず、死者・行方不明者は増加しています。
また、行為別では魚とり・釣りが最も多く47人(19.9%)、水泳39人(16.5%)、水遊び(12.7%)の順となっています。なお、シュノーケリングやサーフィン、ボート遊びなど各場所においてレジャー中に亡くなっていることも注意しなければなりません。
【中学生以下の死者・行方不明者データ】
・場所別:河川10人(62.5%)、海3人(18.8%)
・行為別:水泳7人(43.8%)、水遊び(37.5%)
特に子どもは、大人よりも河川での事故に注意が必要です。行為別で約8割が水泳あるいは水遊びで亡くなっていることから、「河川で無理な遊び方をしていなかったどうか」「保護者がその場にいたかどうか」が事故の原因を探るうえで重要な要素になります。
ここからは水難事故が起きる場所に絞って、その原因をさらに詳しく探っていきます。
海や河川、湖など、それぞれの場所で起こりうるリスクを知り、その対策を考えることが重要です。見た目で大丈夫だと思っても、実際は「深い」「速い」といった状況に驚き、まったく対応できない状態に陥ってしまうのが水難事故の怖さです。
ここでは、各場所における危険を説明し、水難事故の特徴と原因について詳しく解説します。予期せぬ状況で命を落とす、落とさせてしまうことのないよう、しっかり確認していきましょう。
海岸で遊んでいるときに急に引き込まれるような経験したことがあるでしょうか。これは「離岸流」と呼ばれる現象であり、事故原因の一つとされます。
通常は波が沖から海岸に向かって打ち寄せられますが、打ち寄せられた波は流れやすいところから沖へ戻ろうとします。この岸から沖へ戻る強い流れが離岸流です。離岸流の速さは毎秒2メートル以上、幅は20〜30メートルにもなり、泳ぎに自信がある人でも逆らうのは非常に困難です。
離岸流は陸側から見てもどこで発生しているかわかりません。場所を特定することが難しいため、注意していても避けられない場合があります。浮き輪やボートを使用している場合でも安心はできません。知らぬ間に離岸流に流されてしまう可能性があります。
また、海での水難事故は堤防での遊びや釣りの際にも起きています。晴天でも海が荒れている場合は急に高波が押し寄せるかもしれません。服を着たまま海に投げ出されるため、身体の自由がきかず、溺死のリスクが高まります。
夏の行楽シーズンに海に出かける人は多いと思いますが、油断は禁物です。高潮にさらわれたり、足元を強くすくわれたりする場合もあります。家族や友人と楽しく過ごしているときに、突然離岸流や波にさらわれると、人間は冷静でいられないでしょう。特に子どもはなおさらです。
海での水難事故は予測しづらい自然現象の発生、それを避けるのが難しい点が原因の一つです。また、自然の脅威を過小評価している場合も水難事故を引き起こす要因となっています。海での活動中は常に自然の力を認識し、十分な注意を払うことが重要です。
河川での水遊びや釣り、近隣でのキャンプは人気があります。しかし、毎年のように水難事故が発生しており、特にレジャーシーズンには死亡事故も多発しています。河川での水難事故については以下の原因が考えられます。
雨が降ると川の水量が増し、流れが速くなりますが、これは当日の天気だけではなく前日の天気にも影響されます。流域全体に降った雨が川に集まることで急激な増水が発生する場合があります。大量の水は途方もないエネルギーをもつため、一旦水にのまれてしまうと人間の力では対抗できません。
川には流れがあり、速い流れやその流れに当たる面積が大きくなると、特に子どもはあっという間に流されてしまいます。流れが速ければその力も増加し、膝下程度の浅いところでも流される可能性があります。
流れのスピードが2倍になると流水による力は約4倍になるため注意が必要です。浅瀬だからといって油断して子ども一人で遊ばせるのはリスクが高く、知らぬ間に流されてしまうこともあります。
さらに、流れの複雑さにも考慮しなければなりません。浅く流れの速い瀬で気をつけていても、比較的流れが緩やかな淵で遊んでいて溺れる場合があります。その理由は流れの緩やかな淵では川底が急激に深くなる傾向があるためです。足の付く箇所で遊んでいても、急に足が付かず、慌ててしまって溺れるケースもあります。
川における水難事故の原因は、天候とのかかわりや川の特性にあります。事故を防ぐためには、事前に川の特徴やその恐ろしさを知り、緩やかな場所であっても油断しないことが重要です。
水難事故は海や河川だけではありません。冒頭で紹介した警察庁の統計によれば、湖沼池における死亡・行方不明者は16人(全体の6.8%)であり、過去5年で最も多くなっています。
まず、滋賀県にある琵琶湖で起きた水難事故の原因について解説します。滋賀県警のページ「地域安全」によれば令和5年中に発生した水難事故は19件でした。内訳は以下のとおりです。
琵琶湖での水難事故については、いくつかの原因や注意すべき点が挙げられています(参考: NHK滋賀県域おうみ発630「なぜびわ湖で水難事故が多発? 気をつけるべきポイントは」)。
サイト情報によれば「岸から10m離れるだけで深さは2メートルになり、遊泳区域を外れたおよそ30メートル沖では水深10メートル」になっているそうです。
また、滋賀県警は事故が起きた時間帯にも原因があるとしています。過去5年の事故が発生した時間帯を見ると、正午から夕方の時間帯に集中しており、身体の疲れが溺れるリスクを高めることが示されました。琵琶湖では船舶事故が多発しており、令和5年中では64件(前年対比+16件)発生し、3人の方が亡くなっています。県警では「滋賀県琵琶湖等水上安全条例」を制定し、事故防止対策を強化しているところです。
「湖は海と違って安心」という思い込みは水難事故のリスクを高める要因といえます。湖で遊ぶ際は湖の地形にも配慮し、安全ルールをしっかり守ることが極めて重要です。
ため池での水難事故も後を絶ちません。農林水産省(「ため池の安全対策事例集」)によれば、毎年20件前後(平均25人程度)の水難事故がため池で発生しており、年代別死亡者の割合は70歳以上が44%、20歳未満が10%となっています。
ため池は昔から農業用水を供給しており産業の発展に寄与してきましたが、宅地化で混在が進み転落事故の危険性が増しています。
以下に、ため池の危険性と事故の原因を解説します。
ため池の斜面は多くが25度の角度で作られており、特に小さな子どもにとっては非常に滑りやすいとされます。水に落ちた人が斜面を登ろうとしても足が滑ってしまい、容易に這い上がれない状況になります。一度ため池に落ちると、再び陸に上がるのが非常に困難です。
人間は本能的に落ちた場所に戻ろうとする傾向があります。ため池に落ちた場合も同様です。落ちた際に池に浮いているものにつかまったり、視点を少し動かして階段を見つけたりできれば助かるかもしれません。しかし、パニックの状態では斜面を登ろうとして足を滑らせ、上にあがるのが難しくなります。
日頃から見慣れたため池で釣りや水遊びをする人も少なくありません。農林水産省の調査によれば、行為別で最も多いのは娯楽(釣り、水遊び等)です。油断して足を滑らせ、ため池に落ちてしまうこともあるでしょう。その際、急な出来事に気が動転し、水中から顔を出せずに溺れて命を落とす危険があります。
ため池については安全施設の設置不備が指摘されており、実際に所有者(管理者)に対する損害賠償を求める訴訟が提起されています。
水難事故の原因や背景を理解し、慣れた場所でも潜む危険を認識することが重要です。危機管理はレジャー中だけでなく日常生活の中でおこなうことが求められ、標識や安全設備が不十分な場合でも、常に注意を払う必要があります。ここでは、水難事故を防ぐために必要な対策と命を守るための行動について解説します。
海や山、川などに遊びに行く際は以下のポイントを必ずチェックしましょう。
過去のニュースや水難事故マップが手に入る場合は、遊びに行く前に確認しましょう。公益財団法人河川財団の「全国の水難事故マップ」や国土交通省の「全国の水難事故マップ モバイル」で確かめることも有効です。
遊ぶ場所の天気が良くても前日までの悪天候で海が荒れ、川の水が増水していることがあります。急な天候の変化によって水かさが増すことも考えられます。無理をしたり過信したりせず、冷静な判断が重要です。
気をつけていても波にのまれたり、深みにはまったりする可能性があります。その際に救命の役割を果たすのがライフジャケットです。ライフジャケットの着用によって顔を水面に出して呼吸することが可能になります。「息ができる」と安心感が生まれ、身体に余分な力が入るのを避けられます。身体が浮いてリラックスできる体勢をとれれば、救助を待つことが可能です。
ライフジャケットは適正サイズを選び、正しく着用しましょう。また、川底で滑らないように適切なシューズを選ぶことも重要なポイントです。これらの情報については、河川財団の「水辺の安全ハンドブック(2023年7月)」も参考にしてください。
海や川などで遊ぶときは、大人が子どもから目を離さないことが鉄則です。子どもは予測不可能な行動をするため、常に注意が必要です。特に川で遊ぶ場合、大人は子どもよりも下流側にいるようにしましょう。万が一子どもが転んで流されても、下流にいればつかまえることが可能です。
また、大人が準備や片づけの作業中に子どもの水難事故が発生するケースが少なくありません。大人は常に子どもの行動に注意を払い、見守りをしっかりおこなう必要があります。
水難事故を防ぐためには時間帯に注意して遊びましょう。河川財団のデータによれば、河川等水難事故の約半数は夏期シーズン(7〜8月)に起きており、発生時間帯は午後が多いとされています。特に14〜15時前後に注意が必要です。事故につながる原因として、暑さや疲労、昼食後の眠気、飲酒などが考えられます。子どもが「まだ遊びたい」と保護者様に訴えるかもしれませんが、事故を防ぐためには早めに切り上げることも考慮してください。
水辺での活動と飲酒は絶対に一緒にしないでください。海上保安庁「海の事故防止対策」によれば、飲酒をすると事故の死亡率が約2倍に増加するそうです。
また、海では紫外線を多く浴び、汗をかいて脱水症状になりやすくなります。そこに酒が加わるとアルコールの血中濃度が上昇して酔いやすくなり、危険に対処する能力が低下します。日本ライフセービング協会の統計では、水難事故のうち飲酒が原因のケースは全体の3割に上ります。安全な水辺の時間を過ごすために、飲酒を避けましょう。
万が一に備えて正しい対処法を知っておくのは生命を守るために重要です。以下に、水難事故に遭遇した場合の対処法を紹介します。
助けてサインは「助けて」と声に出さず、片手を左右に大きく振る動作です。特にライフセーバーがいる海岸での水難事故では、助けてのサインを覚えておくと判断がつきやすく、早めの救助につながります。また、家族や友人で訪れたときは事前に共有しておきましょう。
ライフジャケットや浮き輪もなく溺れてしまった場合は、片手で振るのは難しくなるため、危険を感じたらすぐにサインを出すことが重要です。
ライフジャケットを着用して救助を待つ場合は、ヘルプ姿勢(足を抱えて身体を丸くする体勢)で待つことが推奨されます。ヘルプ姿勢をとることで「顔が水面の上に出せる」「体温低下を防ぐ」といった効果が期待できます。
ライフジャケットなしで水に落ちた場合は「背浮き」で救助を待ちましょう。ただし、あごを引いたり腰を曲げたりすると沈むため「あおむけのまま力を抜いて浮く」ようにします。また、服や靴は浮力を得るため、脱がずに浮いて待つようにしましょう。
川で溺れてしまった場合は、特に障害物が多いため、流れていく方向に足を向けます。流されていく間に流れのゆるやかな岩の陰に入るなどして救助を待ちます。
まず、決して自分で助けようとしないでください。二次的な事故につながる可能性が高まります。溺れた人を見たときは、以下に紹介する行動を優先しましょう。
「ういてまて」と声をかけたりジェスチャーしたりして身体の力を抜いて背浮きの姿勢になることを伝えます。背浮きによって呼吸ができ、救助を待つことが可能になります。万が一に備えて、背浮きができるかどうかを確認しておきましょう。海や川での背浮きは難しい場合もありますが、プールなどで身体の力を抜いて浮く練習をすることは役立ちます。
水難者を見つけた場合、すぐに119番通報して救助を要請します。救急車が到着するまでの時間は全国平均で約10.3分(令和5年現況/消防庁)です。10分間浮いていられれば命が助かる確率が高まります。救助要請する際は、以下の内容を落ち着いて伝えましょう。
近くに人がいる場合はすぐに協力を求め、溺れた人が見失わないようにすることが肝要です。焦る気持ちはあっても、この状況ではいかに冷静に対処できるかが重要となります。
溺れた人を救助する際、浮力を確保するために水に浮くものや器具を投げることが有効です。浮き輪やボディボード、ビート板などのほかに、ペットボトルも利用できます。ペットボトルを使う際は少し水や砂を入れてキャップを閉め、投げやすくしましょう。投げた後は引っ張る必要はなく、流れに任せて岸に寄せます。
レジャーの際には、浮力を確保できる道具を準備し、正しい蘇生法を身につけておくことも重要です。水や自然に対する過信を避け、正しい行動をとっていきましょう。
なお、以上については海や川、湖だけでなくため池での水難事故にも役立つ要素が多くあります。事故に遭ったときに冷静さを保つのは難しいのですが、知っておくことで大切な命を守る一助となります。
我々空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”は水害発生時にも活動を行なっており、西日本豪雨などでは実際にボートを利用して病院や避難所からの救助活動を行いました。
また今後の水害に備え、毎年川での救助訓練も行っています。訓練の様子をまとめた動画がありますので、どのような活動を行なっているのか、ぜひ参考としてご覧ください!
水難事故は減少しているものの、死者・行方不明者の数は増加しています。海、河川、湖、ため池など、さまざまな場所で事故が発生しますが、ライフジャケットの着用と正しい知識により、溺れるリスクを低減することができます。
特に子どもたちの安全を考える上で、事前の安全知識や経験が重要です。この記事を家庭で参考にし、自然の危険性を理解して命を守る行動について考える機会をつくりましょう。
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空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
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