JOURNAL #3312024.04.11更新日:2024.04.11

垂直避難とは?もしもの時の避難方法と事前準備について解説します

広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部

地震や津波、台風などの災害時、各地域が設定した避難場所に避難する・・・というイメージが強いものです。しかし、「短期的かつ急激な豪雨では、避難所に移動する時間が足りない」「屋外に出られない」など、限界が見られるケースもあります。そのような場合には、『垂直避難』が適しています。特に近年では従来の避難方法における問題提起がなされ、注目されるようにもなってきました。
今回の記事では、垂直避難の概要と必要とされるケース、避難方法や必要な心構え、準備について解説します。

垂直避難とは?

垂直避難とは、「地震や津波、台風や豪雨などが起こった際、建物または屋内の2階以上の高さがある場所に移動すること」です。
一般的に、災害発生時には自治体指定の避難所に移動することが推奨されていますが、大規模な豪雨や浸水の被害が大きくなると、外に出ることさえ困難になります。そのような場合には、建物の倒壊や浸水のリスクが見られないことを条件に、2階以上の場所に移動する垂直避難が安全です。

西日本豪雨での水没病院に水陸両用車で向かう様子
西日本豪雨において、病院で垂直避難をされた方々を救助に向かう様子

垂直避難は、1961年に制定された災害基本法によって生み出された方法でもあります。それ以前は平屋や二階建ての木造住宅が多かったものの、水害や氾濫流などによるダメージが考慮され、鉄骨造や鉄筋コンクリート造住宅が増え、建物の構造化が進みました。このような背景から、住宅や建物自体が一時的な避難場所として通用するまでになり、災害時の避難における選択肢も増えました。
そう考えると、垂直避難は社会の変化がもたらした避難方法だと言えます。

水平避難とは?類似する避難方法

垂直避難と比較されることの多い避難方法として、水平避難があります。水平避難とは「災害時にその場から立ち退き、避難所をはじめ近隣で安全を確保できる場所に避難すること」で、立退き避難と言われることもあります。

垂直避難では2階以上の建物やある程度の高さがある場所に移動するのに対して、水平避難では、自治体が指定する避難所など自宅外の場所に移動します。例えば水害の発生時、堤防を3メートル以上越えての浸水が起こると、住居や建物が流されてしまうことがあります。そのような場合、浸水のリスクが考えられる範囲内に住んでいる方は、浸水が発生する前に避難所または危険区域外の友人宅、ホテルなどへの水平避難が必要です。

垂直避難と水平避難の違い

上記の通り垂直避難と水平避難では避難場所が異なり、それぞれが適しているシーンも異なります。

垂直避難と水平避難についてまとめた画像

◼️垂直避難が適しているケース

垂直避難は、以下のケースでの避難に適切です。浸水するリスクは高いものの、危険なエリアに近づかなければ命の危険性は極めて低いという特徴があります。

  • 短時間で局地的な豪雨があり、下水道や側溝が溢れるリスクが高い場合
  • 中小の河川の氾濫で、浸水の深さが浅い地域
  • 浸水の深さが浅い内水氾濫

このような場合は水平避難も有効ですが、災害発生までに時間がない場合や水害が発生した場合には、避難所まで行くのに間に合わないこともあります。また、夜間での移動では見通しが悪いため避難中にさらなるダメージを受けるリスクも高いほか、周辺が浸水している場合や風や雨が強い場合には、外への避難さえ危険になることもあります。このような状態では、一時的にでも垂直避難が適しています。

広島豪雨三原市沼田東地区で救助に向かうチームの様子です
広島豪雨で、住居が浸水した際の様子

◼️水平避難が適しているケース

反対に、内閣府の『避難情報に関するガイドライン』によると、水平避難が推奨されるケースには以下があります。高さがある建物でもリスクが見られる場合には、その場から離れることが求められます。

  • 比較的大きな河川が近くにあり、堤防から水があふれる、堤防が決壊するなどのリスクに対し、氾濫した水の流れが直接家屋の流失をもたらす場合
  • 山間部などの川の流れが悪いところにあり、洪水による川岸の浸食や氾濫した水による家屋の流失がもたらされる場合
  • 氾濫した水の浸水の深さがあり、平屋の床上まで浸水する、2階建て以上の建物にもリスクが及ぶ場合
  • 地下・半地下に、氾濫した水が流入する場合
  • ゼロメートル地帯のように、浸水が長期間継続する場合

また、水平避難のもう一つの特徴は水害や災害までに時間的な余裕がある点です。あらかじめ緊急時まで時間が残っているなら、水平移動で安全な地域まで向かう方が適しています。

広島豪雨三原市沼田東地区の様子です
広島豪雨で河川が氾濫し、道路まで浸水している様子

垂直避難の流れ

垂直避難は、基本的には高い場所に移動する流れとなりますが、マンションにいるか、一戸建て・平屋にいるかで状況が変わることも押さえておかなければなりません。以下、それぞれの場所でどのように避難するか、また避難にかかる期間についてご説明します。

マンションでの垂直避難

マンションに住んでいる場合には、高層階か低層階かで対応が分かれます。
高層階に住んでいる場合は、すでに高い場所に位置しているため外に避難する必要はありません。しかし、当面はライフラインが止まる可能性もあることから、水や食料、ポータブルのガスコンロや簡易トイレなど、数日分の備蓄が不可欠です。
低層階に住んでいる場合は、すぐに2階以上の高層階に避難します。タイミングが少しでも遅れると水圧によってドアや窓が開かなくなり、逃げられなくなってしまう可能性があるためです。災害発生時に迅速な対応ができるよう、普段から避難訓練に参加したり、垂直避難口などの経路を確認したりしておきましょう。

一戸建て・平屋での垂直避難

2階または3階以上の一戸建てに住んでいる場合には、マンション低層階での垂直避難と同様に、2階以上に避難するようにします。
浸水が発生してから時間が経つとだんだんと水位が上がり、1階で避難することは非常に危険です。建物内への浸水が深刻化して木製家具が水に浮くなど、思わぬ事故や怪我につながることもあります。しまいには上階への移動さえできなくなり、避難が困難を極めるまでにもなるでしょう。そのようなリスクを避けるためにも、水害や災害の注意報や警報に気づいたタイミングで上階に移動しましょう。

平屋に住んでいる場合は2階以上の高さがないため、屋根に避難をするケースもありますが、屋根自体も安全とは言えません。また、高齢者の方や幼い子供の方にとっては屋根への避難は簡単ではなく、怪我や命の危険に関わることもあります。
そのため、平屋では垂直避難はできるだけ避け、早い段階で安全が確認できる避難所に水平避難をするようにしましょう。避難のための時間的な余裕を確保できるよう、事前に注意報や警報、天気予報などを把握し、早いタイミングで動き出すことが重要です。

自宅以外の垂直避難所

垂直避難が可能な場所は自宅に限らず、自治体が保有する施設や事業者の施設なども対象となります。近年、水害の規模や避難所への移動の危険性から、自治体や事業所が高層階を垂直避難場所として提供するようになりました。自宅が平屋や川沿いに位置しているなどで、垂直避難に適さないケース、水平避難までの時間がないケースに適しています。
また外出中に水害や災害が発生し、避難所に向かう時間がなく、一刻も早い非難が求められる場合にも役立ちます。普段から外に出る機会が多い場合には、近隣の垂直避難所を確認し、すぐに動けるようにしておくのも良いでしょう。

高速道路が垂直避難先に

2023年4月、高速道路各社と江東5区(墨田、江東、足立、葛飾、江戸川)は、大規模水害に際して高速道路と一般道路の間にある傾斜路を垂直避難先に利用する合意をしました。
首都圏で大規模な水害が起こった場合、最大でも250万人が被害を受けると想定され、江東5区に住む方は緊急かつ迅速な避難が必要となります。そこで、『緊急安全確保(警戒レベル5)』が発令された場合、首都高速道路と京葉道路をつなぐ傾斜路ランプの約20箇所が解放されることとなりました。水害や災害発生後、東京都は各高速道路会社に要請をし、区は住民を誘導し、各高速道路会社は通行止めを担う流れとなります。
ただし、避難できる人数には限りがあることから、以下の条件も課されています。

  • 本線は開放されない
  • 避難場所は傾斜路ランプに限定される
  • 避難後、住民は大型バスで安全な避難先に案内される

高速道路を避難所に利用するのは新しい試みとなるものの、位置を考えると有効な手段であり、今後は全国的に広がっていくでしょう。

垂直避難に対応するための、予備知識と事前準備

以上、平屋とマンションにおける垂直避難、新たな選択肢についてまとめました。
垂直避難は水平避難をするだけの余裕がない場合にとても役立ちますが、避難にかかる日数やその間の生活についても考えなければいけません。以下、その期間とライフラインの問題、必要な準備について説明します。

垂直避難にかかる日数

災害対策基本法における『中央防災会議』の『大規模水害対策に関する専門調査会』では、首都圏の水害を一例に、避難日数を想定しています。
実際に、以下の予測がされています。

  • 利根川で排水施設が稼働しない場合、約120万平方キロメートルの範囲で、2週間以上の浸水となる
  • 野田貯留型氾濫、渡良瀬貯留型氾濫、古賀・坂東沿川氾濫では、多くの地域で2週間以上の浸水となる
  • 利根川氾濫による首都圏で残り湯者は、決壊2日後で最大約110万人になる

こうして考えると、水害や災害発生時は数日から数週間までの浸水が継続することは明らかです。仮に家や居住空間で避難ができたとしても、電力や上下水道が遮断され、3日以上は不便な生活を強いられることになります。その間に生活環境が悪化するリスクも視野に入れると、健康的な生活も危ぶまれるでしょう。

備えるべき生活必需品

水害や災害によるダメージ、垂直避難による生活の変化は、以下のような問題も引き起こします。

  • 水洗トイレ、風呂、洗濯などで水が使えない
  • 冷蔵庫が使えず、生鮮食品の保存が難しい
  • 食料の調達が難しくなる
  • 電気が使えず、冷暖房、空調設備が止まる
  • テレビやインターネットからの情報収集が滞る
  • 携帯電話の充電ができない
  • ごみの処理が難しい

このような状態が2週間以上も続くと、精神的・健康的なダメージも強くなるため、新たなダメージを増やさないように事前準備が欠かせません。
そこで、問題点に応じた以下のような備蓄をしておきましょう。

  • 水(飲料水):1人当たり1日3リットルが目安
  • 非常食:乾パン、缶詰、レトルト食品、専門の非常食、栄養補助食品
  • 燃料:卓上・携帯コンロ、固形燃料
  • 生活用品:生活用水、寝具、トイレットペーパー、使い捨てカイロ、ドライシャンプー、なべ、やかん、ペットフードなど

非常時に備えた備蓄の方法であるローリングストックを取り入れることで、簡単に対応することができます。ローリングストックについて解説している記事も参考にしながら、備蓄を進めてみてください。

また、自治体やマンションのコミュニティにおいては、救命ボートや簡易ボートの用意も検討すると良いでしょう。近年の水害で外への非難が難しくなった時、小型の救命ボートが役立ったことがわかっています。個人あるいはコミュニティで所有しておくと、避難が難しい場合にも対応できるようになります。

ペットと一緒に垂直避難をするための準備

ご家庭にペットがいる場合は、当然のことながらペットも一緒に垂直避難をする必要があります。いざというときにペットだけ置き去りになってしまったり、外に逃げてしまったりしないよう、ペットと一緒に垂直避難をする方法もあらかじめ考えておきましょう。
例えば犬の場合は、リードをいつでもつけられるよう玄関・リビング・階段付近など複数の場所にリードを置いておく、家の中でも首輪をつけておく、「ハウス」など合図をしたらすぐケージに入れるように日頃からケージに慣れさせておく、などです。
ハムスターやカメなど、日常的にケージの中で生活している生き物の場合は、持ち運びができる軽いタイプのケージにしておく、などの工夫も可能です。

まとめ

垂直避難は、「水害や災害の発生時、自治体が指定した避難場所に移動するには、時間的な限界がある」という問題点を埋めてくれる方法です。安全性の高い避難所に向かう水平避難は確かに望ましい方法ですが、水害や災害が目前まで迫っているタイミングではかえって危険です。
そこで垂直避難に切り替え、一時的であっても高さがある場所に避難することで、新たなダメージを避けることにも繋がります。このようなメリットから、マンションや一戸建て・平屋だけでなく、自治体や事業所の施設や高速道路など、垂直避難先の選択肢も多くなっています。

ただし、垂直避難では備蓄の量に限りがあるため、数日間や数週間単位で避難生活を続けることは困難です。また、避難生活による健康被害や感染症拡大に対しても、十分な準備と対策が欠かせないことには変わりません。日ごろから数日分の備蓄をしておく、垂直避難が可能な場所を把握するなど、通常時から災害への意識を高めておきましょう。
今回の記事が垂直避難への理解度を深め、水害や災害へ備えに貢献できることを願っています。

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