JOURNAL #3112024.02.07更新日:2024.10.26
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
2024年1月1日、午後4時10分頃、“奥能登”を中心に甚大な被害をもたらした「令和6年能登半島地震」の発災から1ヵ月。これまで幾多の災害支援に携わってきたピースウィンズ・ジャパン国内事業部次長の橋本笙子は、今回の震災を「最も困難な震災」だといいます。
橋本は、避難所支援を中心に、多くの人と会話をしながら支援活動を続けています。「誰ひとり取り残さない支援」を理念に、政府、県、市と連携し、災害支援を指揮する橋本に、発災から1ヵ月経った被災地、石川県珠洲市の現在とこれからを聞きました。
災害支援に関わって四半世紀になりますが、今回の「令和6年能登半島地震」は、東日本大震災も含めて最も困難な震災だと感じています。マグニチュード7という地震の大きさだけでなく、地理的な問題と厳しい天候等もあり、被災者にとっても、支援者にとっても大変な現場になってしまったという印象です。
これまでの災害では、被災地から車で2時間ほど離れると通常の生活圏がありました。しかし、今回の地震による被害は広範囲にわたり、2時間離れても被災地が続きます。支援者も被災地のなかで拠点を確保し、生活することも含めて支援活動を考えなければいけない困難さがあります。
そのなかでも特に水の問題が深刻です。発災から1ヵ月が経った今でも多くの地域で断水が続いています。2月末から復旧すると発表されていますが、各家庭で通常どおり水が使えるようになるには、地域によってはさらに1ヵ月以上先になる可能性があります。これは、過去にはなかった状況です。
被災者にとっては、この影響も計り知れません。能登は、さらにさかのぼれば2007年にも震度6強の地震があり、能登半島の広い範囲が被災しました。さらにこの3年は連続して震災が起きています。一昨年は珠洲市で震度6弱、昨年5月には震度6強、そして今回は震度7で、過去の震災をはるかに凌ぐ、甚大な被害をもたらしています。
またここ数年は、新型コロナウイルス感染症の影響でなかなか家族が集まれない時期が続いたなかで、昨年5月に震災に見舞われました。それからやっと家を再建して、ひと段落ついた矢先の今回の震災です。今年こそ平和な1年になることを願った1月1日にこんなに大きな災害に遭うのは余りにも残酷で、被災者の方々を思うと、本当に言葉がないくらい苦しいですね。
避難所支援とは、“生活の場をつくる”支援になります。具体的にいえば、避難所のレイアウトを組み、テントやパーテーション、ベッドなどを設営して生活空間を整え、さらに食料や簡易トイレ、そのほか生活する上で必要な物資を手配し搬入していきます。そして医療チームとも連携して定期的に臨時診療所を開設するなど避難者の健康を守り、みなさまが少しでも快適に暮らしていけるように運営面もサポートしていきます。
ただし、避難所での生活は数カ月の長期的なものになるため、避難所生活のなかで避難者自身ができることは自分たちで進めていく環境を提供することが大切です。
はい。私は、災害支援とは子育てに似ていると思っています。発災直後は本当に0から100まで面倒を見てあげなければいけない。だけど、時間の経過とともに手を離し、目を離し、場合によってはつらいかもしれないけれど、背中を押してあげなければいけない。支援も同じです。いずれは、どんなにつらい状況であっても、一人ひとりが立って歩いていただかなければならないからです。
発災から1ヵ月が経ち、本来は少しずつ手を離していかなければいけない段階ですが、うまく運営されている避難所がある一方で、支援が十分に行き届いていない避難所もあります。発災から1ヵ月が経ちましたが、まだまだ支援が必要な状態が続いているのが現状です。
人とのつながりですね。いろいろなマニュアルがあって、例えば避難所はこうあるべきだとか、被災地支援はこうあるべきだとか、定義付けしていたり、多方面で議論されていますが、どの震災も同じ震災というのはありません。場所も違えばその地に根付いた文化も異なり、そこに住まわれている方々も本当に様々です。
だからこそ、一人ひとりとのつながりを感じながら支援をしていきたいと思っています。
本当にいろいろありすぎて、すべてが印象に残っているのですが、振り返ると子どもの行動に考えさせられたことが多かったように思います。
今、市の職員であり、珠洲市で一緒に支援活動を進めている三上豊子さん(健康増進センター・所長)の小学校1年生のお孫さんが美容師を目指して髪の毛を伸ばしていたのですが、発災から2週間ぐらい経ったときに、その髪の毛をバッサリ切りました。
どうして切ったの?と聞いたら、いつも「自分にできることは何だろう」と考えていたなかで、ある日自衛隊が支援するお風呂に入ったときに、たくさんの人が並んでいるのをみて、「少しでも自分が早く出たら待っている人が早く入れる」と考え、長い髪を切ったそうです。
被災者でもある小学校1年生の子が一生懸命自分にできることはなんだろうと、つねに考えていることが、すごく心に染みました。
ほかにも、今、避難所でもある正院小学校の玄関や通路には、子どもたちがつくった避難所新聞というものが貼られています。この手づくりの新聞は、発災後まもない頃から始まったもので、子どもたちが避難所で気づいたことや、みなさんに知ってもらいたいことが書かれています。これも子どもたちが「自分たちができることは何だろう」と考えて始めた行動で、本当にすごいなと思いました。
同時にこうした子どもたちを守っていくのは、私たち大人の責任だと感じています。
そうですね、たしかに心のケアはとても大切です。けれど、それは特別なことではないと私は思っています。必ずしも専門家がやらなければいけないというものではなく、例えば話をゆっくり聞いてあげたり、一緒に遊んであげたり、その子たちが人とつながっていると思えるように支えてあげることが重要です。
この人とのつながりを示してあげることは、子どもたちだけでなく、すべての被災者に届けなければいけない、災害支援の核となる部分だと私は思っています。
また、今回の震災は、高齢者が多い地域で起きたことも大きな特徴です。このコミュニティのなかで周りの人に守られながら生活できていた人たちが、震災によってそのつながりがなくなったがゆえに、生活が立ち行かなくなるという問題が出てきています。
例えば、介護はひとりでやろうとすると本当に大変です。だけど、いろいろな人たちとのつながりがあれば乗り越えていけるものです。そのつながりがなくなってしまうと、介護する側も大変ですし、今まで介護されない状態で生活できた人たちが介護を必要となってしまったときにどうするか、という問題も生じてきます。
人とのつながりという点では、こうした離れかけているつながりを、どのように再構築させていくかも考えていかなければと思っています。
今、大切なのは、長い目で見ていく支援を考えていかなくてはいけないと思っています。これまでの1ヵ月の支援は、言葉を選ばずに言えば絆創膏を貼っていくような応急処置的なもの。問題が出てきたら絆創膏を貼っていく、その繰り返しでした。
それに対して、学校や仕事をはじめ、市内には再開し始めたお店もでてきています。ようやく日常や経済が少しずつ動き始めていますが、避難生活はこれからも続くことから、今後はその先の避難生活を見据えた支援が必要になってきます。
例えば、過去の災害支援のなかで支援が行き過ぎたことで復興が立ち行かなくなったり、本来であれば再開できたお店や事業体が倒産してしまったりしたことも見てきました。過度の支援により、支援に依存してしまう状態をつくってしまったことが原因のひとつで、これは支援者側の責任でもあります。
そのため、時には厳しい選択をしなければいけないときもあるかもしれません。でもその時は厳しいものでも、将来につながる選択肢であれば、私たちはその選択を選ぶこともしなければなりません。
はい、今回の1ヵ月の支援活動を通じてあらためて感じたのは、支援に正解はないということ。それは言い換えれば、もしかしたらある人を助けられる選択が別の人にとっては厳しい選択になるかもしれないということです。災害ごとにそれぞれに課題があり、被災者一人ひとりに悩みがあります。
だからこそ支援には正しい、間違い、という是非はなく、常に模索していかなくてはならないですし、自分が正解を持っていると考えてもいけないのだと思っています。
1月1日の発災から1ヵ月が経ち、いくつかの会議で「もう3週間以上たったのだから、もうそろそろ」という言葉が聞かれます。そうではなく、3週間以上経ったのにまだこの状態なのかと私はとらえています。ライフラインの復旧の目途がたたず、まったく先が見えない状態です。
避難所にいるみなさんはもちろん、被災者だけど支援する側に立って働いている方々も、もう本当に頑張ってきて疲弊しています。ここでさらに頑張れというのは本当に酷すぎる。この絶望感のなかからもうちょっとやっていけると思えるぐらい引き上げてあげないと、この先長い避難生活を送れないと思っています。
そうした被災者の方々を、この先も長く続く避難所生活に向けてどのように支えていくか。今こそしっかりと支えてあげることが、自分たちでこれからやっていく力を蓄えることにつながるのだと信じています。
子どもたちも高齢者の方々も、ペットも含めたすべての被災者を救いたい。とても難しいことですが、ピースウィンズの理念として、誰ひとり取り残さず支援を届けることをあきらめずに、続けていきたいと思っています。
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