JOURNAL #3402024.05.10更新日:2024.10.24

【令和6年能登半島地震】未曾有の震災と被災地のこれから。珠洲市総合病院ではなにが起きていたのか

広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部

珠洲市総合病院 浜田秀剛病院長

令和6年能登半島地震の発災から3ヵ月。各家庭への通水が再開しはじめ、瓦礫の撤去や仮設住宅への入居など復旧から復興に向けた歩みを少しずつ進める石川県珠洲市。空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”の緊急支援チームは1月1日に出動し、最初に向かったのが珠洲市総合病院でした。

奥能登の地域医療を支え、珠洲市の人々の拠り所となっていた病院ではなにが起きていたのか。混乱を極めた当時の様子から珠洲のこれからについて、同病院の院長、浜田秀剛先生に伺いました。

被災者でもある職員が不眠不休で病院を支えてくれた

1月1日、地震が発生したとき、先生はどちらにいらっしゃったのでしょうか。

毎年、お正月に地域の人たちが集まる、海岸線沿いの集会所に家族といました。大きな揺れがあって津波警報が発令されたこともあり、すぐに建物から飛び出してとにかくこの場所を離れようとしました。

ただ私は病院に行かなければいけなかったので、一度急いで家に戻って車に乗り移動しようと思いましたが、道路がかなり損傷していてなかなか前に進むことができず、さらにお正月で土地勘のない方が多く帰省されていたこともあり、道路は大渋滞。私や近所の人たちで誘導して交通整理なども行いながら病院に向かいましたが、どのルートも行き止まりになって、結局、車を道の脇に停め歩いて病院まで行きました。通常は車で10分か15分くらいなのですが、その日は病院まで2時間以上かかりましたね。

病院は、どのような状況だったのでしょうか。

建物自体に大きな損傷はなかったのですが、病院も混乱していました。病院が一時的な避難所になっていたこともあり、傷病者を含めた被災者がどんどん集まってくる状況で、自転車や徒歩でなんとか病院に来てくれた少ない職員で対応しなければいけない状況でした。

具体的には避難者を誘導すると同時に、次々に来院する患者さんを診ていくために、まずはトリアージを行っていくのですが、そもそもその人員が足りていない上に、本来想定していたロビーが使えないため、そのスペースをつくりながらトリアージをしていかなければいけない。最初の48時間くらいは、多くの職員が本当に不眠不休で病院を支えてくれました。

そうした状況のところに、空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”をはじめ、DMATや日本赤十字社が駆けつけてくれて助けていただきました。

ヘリコプターによる患者搬送

発災から最初の1、2週間は、ヘリコプターによる転院搬送が続きました。

病院の状況や職員の疲弊具合なども鑑みて、転院が必要な患者をできるだけ早く搬送させることが最優先事項だと判断していました。そのなかでドクターヘリや自衛隊に加えて空飛ぶ捜索医療団のヘリチームにもご協力いただき、組織を超えて迅速に患者を転院搬送できたことは、とても大きな出来事でした。

一方で、病院の職員は限界を超えた状態が続いていました。病院で働く職員は全員、被災者でもある。本当は自分たちや家族のことで精いっぱいのはずなのですが、それでも病院に行かなければという気持ちで参集してくれて……肉体的にも精神的にも、相当、負荷は大きかったと思います。

災害時には外部支援団体との連携が必要不可欠

当初、空飛ぶ捜索医療団の医療チームは病院のサポートに入ることも想定していましたが、患者が病院に集中してしまう流れを少しでも減らすために、避難所を巡回する医療支援にまわりました。

そのことは後から知りましたが、当時はあまりに余裕がなく、自分たちにはそうした発想がなかったので大変助かりました。MRIは故障して使えなかったのですが、レントゲンやCTなどは使えたし、検査なども一部制限はありましたがなんとか対応できたので、そうした診療が必要な患者に集中できるような状況をつくっていただけたのだと思います。

医療事務を行う空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”スタッフ

また少し落ち着いてから医療事務もサポートしていただきました。1月、2月は現場対応でレセプト業務等にほとんど手がまわらず、人員不足もあって請求がまったくできていない状況だったのですが、そのことを空飛ぶ捜索医療団の方が察して手を差し伸べていただき、3月までの遅れていた分を一気に取り戻すことができました。病院の今後の再生していく時間を考えると、このことはとても大きな意味を持ちます。

こうした被災地の病院の混乱は、おそらくこれまでもあり、これからも起き得ることだと想像できます。

もちろん、サポートしていただいたすべての支援団体、すべての支援に感謝しかありません。病院に来ていただいたときからすぐに状況を把握して、一緒に、同じ目線でものごとを考えていただけたことが、私たちにとって本当に心強く、支えとなりました。こうした災害に備え、これまでも行ってきた訓練の内容を少し見直す必要があるかもしれません。

しかし現実として、病院の職員も全員が被災者であり、建物や器機が問題なくても、組織や人の面でどうしても病院は機能不全に陥ってしまいます。病院は、患者や避難者の対応を当たり前のように求められますが、医療従事者も被災したら限界があり、どうすることもできない。

だからこそ、こうした大規模災害では、空飛ぶ捜索医療団やDMATのような存在は必要不可欠です。外部支援団体との連携がより多くの患者を救い、地域の医療を守ることにつながることを、今回の震災であらためて確認できたように思っています。

過疎地における地域医療という問題に向き合う

珠洲市総合病院

珠洲市内を見渡すと、4月に入っても発災当時のままの倒壊家屋がまだ多く残っていて、いまだに広い範囲で断水が続いています。発災から3ヵ月が経ったいま、病院はどのような状況なのでしょうか。

給水は病院ということで優先していただき、発災直後からほぼ毎日80トンの水を運んでもらっていましたが、雪の日は給水が間にあわず、節水しなければいけない日もありました。そのため医療面で多くの制限があり、特に透析が始められなかったことなど問題がありましたが、3月中頃にようやく病院内でも元通り水が使えるようになり、3月下旬にはなんとか透析用水も確保できるようになりました。

また震災前に比べると数は少ないですが、入院患者も40床まで回復して、医療の機能的な面は通常に戻りつつあります。しかし、状況は落ち着いてきてはいますが、今後の病院を取り巻く環境は厳しく、さまざまな課題が残っています。

病院を取り巻く厳しい環境とは、具体的にどのような点が挙げられますか。

ひとつは、人員の問題です。緊急時になんとか踏ん張ってもらっていた職員も、長引く避難生活で気持ちが維持できなくなり、さらに復旧の遅れと先行きが見えない状況から、やむを得ず病院を離れてしまった職員がいます。

病院には、医師や看護師のほかにも医療事務の担当や、食事をつくってくれる厨房の調理師などもいて、そうした職員も含めて、全体的に職員が足りていない状況です。今でも職員の多くは仮設住宅や避難所生活が続くなか、人員の確保は病院として今後の大きな課題です。

珠洲市総合病院 浜田秀剛病院長

もうひとつは、過疎化の問題です。珠洲市は震災前から半分以上が高齢者で、復興が進んでも過疎化は今後さらに深刻化していくことが予想されます。人員の課題も含め、この問題についてはこれまでも議論を重ねてきましたが、震災をきっかけに想定していた未来が、突然目の前に現実としてやってきたという印象です。

病院としては、いかに現状を維持できるか、厳密にいえば存続させるためにどうするかを考えていく必要があります。再生、復興ももちろん大切ですが、中核病院としては過疎地における地域医療という大きな問題に取り組んでいかなければなりません。

浜田先生は、ここ珠洲のご出身だとお伺いしました。

はい、2001年にこの病院に赴任して以来、珠洲の地域医療を支えることを志してきましたが、その想いはこの震災でより引き締められたと感じています。課題は山積みです。しかし、そのすべての課題に向き合いながら病院を、珠洲の地域医療を守っていきたいと思っています。

2024年4月珠洲市総合病院にて

\2分でできる被災地支援/
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空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”は、現在も珠洲市を拠点に支援活動を行っています。一部の家で通水が再開し、道路の整備や瓦礫の撤去が進むなど、少しずつ町は復旧していますが、復興までの道のりは長く、被災者の方々の避難生活は続きます。「必要な人に必要な支援」を届け続けるために、皆さまのあたたかいご支援をお願いいたします。

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