JOURNAL #3142024.02.20更新日:2024.04.24
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”は、1月1日の「令和6年能登半島地震」発災から翌2日の早朝に現地入りして以降、珠洲市を拠点に現在も支援活動を続けています。この継続的な支援活動の大きなテーマとなっているのが「災害関連死」です。空飛ぶ捜索医療団は、この課題に対しどのような対策を行っているのか。これまで実施してきた避難所支援チームの取り組みについてご紹介します。
災害関連死とは、地震発生時に起きた家屋の倒壊や津波などの直接的な被害で死亡したのではなく、長引く避難生活における負担が原因で死亡に至ってしまうケースをさします。
【災害関連死の定義】当該災害による負傷の悪化又は避難生活等における身体的負担による疾病により死亡し、災害弔慰金の支給等に関する法律(昭和 48 年法律第 82 号)に基づき災害が原因で死亡したものと認められたもの(実際には災害弔慰金が支給されていないものも含めるが、当該災害が原因で所在が不明なものは除く。) |
引用:参考:内閣府 防災情報のページ「災害関連死事例集(増補版) 」
内閣府の調査によると、東日本大震災における災害関連死の死因は、「避難所等における生活の肉体的・精神的疲労」が最も多く、次に「避難所等への移動中の肉体的・精神的疲労」が続く結果となっており、避難所生活の難しさが浮き彫りになりました。
■東日本大震災における災害関連死の原因区分
岩手県および宮城県 | 福島県 | 合計 | |
1-1 病院の機能停止による初期治療の遅れ | 39 | 51 | 90 |
1-2 病院の機能停止(転院を含む)による既往症の増悪 | 97 | 186 | 283 |
1-3 交通事情等による初期治療の遅れ | 13 | 4 | 17 |
2 避難所等への移動中の肉体・精神的疲労 | 21 | 380 | 401 |
3 避難所等における生活の肉体・精神的疲労遅れ | 205 | 433 | 638 |
4-1 地震・津波のストレスによる体・精神的負担 | 112 | 38 | 150 |
4-2 原発事故のストレスによる肉体・精神的負担 | 1 | 33 | 34 |
5-1 救助・救護活動等の激務 | 1 | 1 | |
5-2 多量の塵灰の吸引 | |||
6-1 その他 | 110 | 105 | 215 |
6-2 不明 | 65 | 56 | 121 |
合計 | 664 | 1286 | 1950 |
参考:内閣府防災情報のページ「災害関連死事例集(増補版)」
こうした災害関連死を防ぐために空飛ぶ捜索医療団では、巡回診療を行う医療チームとは別に避難所支援チームを編成し、対策を行っています。
看護師を含む避難所支援チームの主な活動目的は、避難所の生活環境を整え、ストレスなども含めた疾病につながる要素をできる限りなくしていき、避難者の方々の健康を守ることにあります。そのなかで支援活動を開始してから現在まで特に注力してきたのが、トイレの衛生管理です。
被災地では、断水のためトイレで用を足しても水で流すことができないことから不衛生な状態となり、そのまま放置されれば感染拡大の温床となってしまう可能性があります。そのため各避難所では「簡易トイレ」が使用されています。
今回用意した市販の簡易トイレは、使用する度にトイレ本体に袋を設置し、その中に汚物を固める凝固剤を入れ、用を足した後に袋を専用のゴミ箱に捨てます。これにより水を使用せず、トイレに汚物が溜まることを防ぐことができます。
しかし、当初は、この簡易トイレの使い方が分からない方や、汚物を都度捨てなければならないことから「汚い」「さわりたくない」と思い、処理することをためらう方が多くみられました。
避難所支援チームは、こうした感染対策の重要な施策としてトイレ環境の改善に取り組み、清掃時に使用するエプロンと手袋を配布したり、個人の衛生も保てる簡易トイレの使い方や、殺菌効果の高い次亜塩素酸を使用したトイレ掃除の指導などを行ったりしてきました。
また、ある避難所では、使い捨てエプロンと手袋は使用されていましたが、着方と脱ぎ方、さらに捨て方にも問題があり、十分に感染リスクを抑えられていなかったことから、看護師によるPPE(個人防護具)の着脱講習を実施。合わせて正しい手指消毒の方法などもあらためて周知してきました。
このトイレ問題は、感染拡大のリスクだけでなく、健康被害につながる可能性もあるといわれています。例えば、トイレの処理が面倒だからといって水分をとらなくなり、その結果、脱水症を発症。さらにその状況が続くことで血行不良が起こり、血液が固まりやすくなることからエコノミー症候群や脳梗塞、心筋梗塞を誘発してしまうおそれがあります。
そのほかにも、被災地では災害によるショックや、長引く避難所生活で十分な栄養と睡眠がとれず、精神的・肉体的な疲労が積み重なり、高血圧になる方が増える傾向にあります。
高血圧関連の疾患は、脳卒中や心筋梗塞、心不全などの原因にもなるため、避難所支援チームは定期的に避難所を巡回し、血圧を測定するなど、避難者の健康状態を随時確認。高血圧が確認された方は医師につなぎ、診療してもらう仕組みも確立しています。
そして日常的なコミュニケーションを通して日々の不安やストレスを少しでも和らげながら、水分補給の重要性や、避難所にある食料で栄養を摂る工夫の仕方なども伝え、自身の健康管理を意識してもらう啓蒙活動なども行っています。
こうした健康を守る支援は、物資支援とも連動しています。空飛ぶ捜索医療団は、多くの企業と連携し、飲食料をはじめ、さまざまな物資支援を行っています。そのなかには、避難者の健康を守る支援物資も多く含まれています。
例えば、水分補給の不足から懸念される便秘対策として腸内環境を整える効果を持つ乳酸菌入りの飲料を配布したり、ボディクリームなどの配布は皮膚の乾燥を防ぎ、蜂窩織炎(ほうかしきえん|皮膚の感染症の一種)の予防につながります。
また、各避難所には最低限のプライバシーを確保するためにテントやパーテーションを設置し、寝床として段ボールベッドを導入しています。
床に直に寝るとほこりを吸ってしまい、呼吸器感染症を発症する可能性を高めてしまいます。段ボールベットは、少しでも快適な寝床を提供するとともに、寝床を高くすることで感染リスクを軽減する役割も果たしているのです。
衛生管理や診療、健康相談だけでは、災害関連死を効果的に防ぐことはできません。空飛ぶ捜索医療団では、医療支援、物資支援を個別に機能させるのではなく、避難所支援を軸にそれぞれの支援を有機的に連動させることで、最大限に災害関連死を防ぐ対策を行ってきました。
珠洲市では、学校や仕事をはじめ、お店なども少しずつ再開し、仮設住宅への入居もはじまりましたが、発災から1ヵ月以上が経った今でも広い範囲で断水状態が続いています。
これまでの災害では、1ヵ月が過ぎればライフラインは復旧し、復興に向けた支援活動のフェーズに入ることができましたが、生活に必要な水道が現在も断水していることから、避難所の状況は大きく変わっていないのが実情です。
避難所生活において、健康を維持することは決して容易なことではなく、感染拡大や災害関連死を防ぐためには、避難者とともにできることを一つひとつ継続して実施していくしかありません。そのためには、長期的な支援が必要です。空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”は、被災者一人ひとりに寄り添いながら、珠洲市が日常を取り戻す日まで支援活動を続けていきます。
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